生産ラインの基本特性;投入負荷と処理能力

生産ラインは 投入負荷<処理能力(生産能力) のときと、投入負荷>処理能力 のときでは、まったく異なる特性を示すことを前回、申し上げました。言い方を換えれば、投入負荷=処理能力 を境に生産ラインの特性はガラリと変わります。生産管理上、最も重要な特性ではないかと思うのですが、現在の生産管理では、このようなことに関する記述はあまりありません。この特性が変化する点を屈曲点と呼ぶことにして、投入負荷と処理能力にまつわる生産ラインの基本特性についてさらに詳細に調べていきたいと思います。

前回、重要な特性項目として以下の項目を挙げました。それに屈曲点を加えます。

 生産率(生産性);単位時間での完成数
 フロータイム;投入から完成までの時間
 WIP(Work In Process;工程仕掛)
 稼働率;各工程の稼働時間/総時間
 投入負荷率;ライン投入負荷/生産能力
 屈曲点

これらの特性項目がどのような関係にあるかを理解することが生産ラインの特性を理解することに繋がります。とは言っても、合計6項目間の関係を記述することは、そんなに簡単なことではありません。条件を限定して動きを単純にしてみます。図1に示す10工程直列生産ラインを事例に分析してみます。

production_line

図1 10工程直列生産ライン

P1~P10の各工程の処理時間はすべて10分で、一定としましょう。投入から完成までワークは生産工程流動原理で流れます。今、投入時間間隔を50分とか100分とかにして、投入負荷率と稼働率を一定としてみます。投入時間間隔が100分なら投入負荷率は10%、稼働率も10%。投入時間間隔が10分なら投入負荷率は100%、稼働率も100%となります。補足しておきますが、投入から完成まで生産ラインを通過するのに100分かかりますので、条件変更して100 分以上経過後の状態を観察することにします。

これで生産率、フロータイム、WIPの3項目の関係をみてみます。WIPを基準に生産率とフロータイムをみるのが一番わかりやすいと思います。一例を図2に示します。

FIT_basic

図2 10工程直列生産ラインの基本特性;フロータイム-WIP-生産率チャート

図中、フロータイム、WIP、生産率、それと屈曲点はありますが、稼働率と投入負荷率はありません。どこに行ったんでしょう?

ワークの投入時間間隔を20分としてみましょうか。そうしますと、生産率は、単位時間を100分とすると、5個/100分となります。投入負荷は、処理時間10分に対して20分の時間がありますから50%。稼働率も50%となります。つまり、この場合、投入負荷率も稼働率も生産率と1:1の関係になりますので、投入負荷率も稼働率も生産率をみれば分かる、ということになります。

ワークの投入時間間隔が10分のとき、生産率は10個/100分、投入負荷と稼働率は100%となります。それ以上投入時間間隔が短くなると、生産率は10個/100分、稼働率は100%のままで頭打ちになりますが、投入負荷は100%を超え、フロータイムが長くなりはじめます。

WIPの動きをみてみましょう。ワークの投入時間間隔が20分のとき、工程内には5個のWIPがあります。5個のWIPはすべて工程で処理中です。1個完成しラインアウトすると同時に1個投入されますので、WIPの数は5個、一定となります。

少々分かりづらいのは投入負荷が100%を超える領域でのWIPとフロータイム。例えば、ワークの投入時間間隔を5分としてみます。工程の処理時間は10分ですので、ライン投入口にWIPが滞留するようになります。フロータイムを計測するためには時間がかかりますので、一旦(100分間以上)、投入時間間隔を10分に戻してWIPの増加を止めてフロータイムを計測していることにご留意ください。

図から分かりますように、生産率とフロータイムが屈曲するWIP数は同じです。このWIP数をC-WIP(Critical WIP)と呼ぶことにします。この図ではC-WIPは10個です。

図2には、生産管理で有効と思われるヒントがいくつか隠されています。生産管理で常に重要なのは生産性。生産性の指標は、ここでは生産率。生産率は屈曲点から右側の範囲で最大で一定になります。生産性を安定的に維持しようとすれば、投入負荷率を100%未満にならないように(100%以上になるように)すればいいことになります。わかりやすく言えば、工程が手空きにならないように常に投入を多めにすればいいことになります。

ところがこの領域では、フロータイムが長くなってしまいます。短納期の生産を行っているときは問題になります。納期を重視するときは投入負荷率を100%以下の領域で動かさなければなりませんん。

生産ラインを管理するうえで最も理想的な位置は、といえば、生産率が最大でフロータイムが最短になるところ、つまり屈曲点ということになります。

屈曲点を超えないようにしながらもできるだけ屈曲点に近いポイントで生産ラインを動かすため、生産能力を準備し、生産計画をつくり、生産は生産計画に従って行う。生産計画は生産管理の基本である、とする理由は説得性があります。

トヨタ生産方式もこのような基本特性をベースにしております。トヨタ生産方式が成立する条件は?、と聞くと、平準化、同期生産、かんばん方式、ムダの排除、、、と出てきます。ところが最も重要な条件は、なかなか出てきません。これがないと平準化も同期生産もできないんですがね~。

トヨタ生産方式成立で最も重要な条件は、、生産計画の固定、です。トヨタの場合、ローリングしながら直近の月次生産計画を固定します。3%程度の変動は許しているようですが、、。トヨタ生産方式がうまくいかない、という話をよく聞きますが、私の経験では、うまくいかない原因は、90%以上、生産計画を固定できていないためじゃないかな、、。

JITのコンサルタントなどは、トヨタ生産方式がうまくいかない会社は能力が低い、とか言っていますが、あるコンサルタントにトヨタ生産方式の成立条件はなんですか、と聞くと、しどろもどろの返事しか返ってきませんでした。トヨタ出身のコンサルタントなら大丈夫、かというと、そうでもありません。トヨタの生産管理環境での経験は、生産計画を固定できない環境では、ほとんど、役に立ちません。強権を発動したり、顧客企業の能力不足に転嫁したり、トヨタ出身だからといって“できる”コンサルタントだとは言えないようです。

「理想的な在庫量はゼロである」
「在庫ゼロを目指す」
なんていう言葉が氾濫してます。在庫管理の話ではありますが、在庫管理と生産管理は、サプライチェーンを構成するリンクとして直結し、両者の管理領域はオーバーラップします。生産ラインで在庫といえば、工程仕掛ですね。工程仕掛に2つの状態があります。ひとつは工程で処理中の状態。もうひとつは工程の前で処理を持っている状態。今回検討している条件では、屈曲点以下では待ち状態の仕掛はゼロ、すべてが処理中の仕掛となります。屈曲点を超えると投入口に待ち状態の仕掛が発生します。

図2をみれば分かるように、工程内仕掛(在庫)の理想量は10個。「理想的な在庫量はゼロである」というのは正しくありませんし、「在庫ゼロを目指し」てもいけないわけです。

生産ラインの基本的な特性を基準に現在の生産管理を眺めてみるといろいろなことがみえてきます。もっと、もっと、おもしろいことがでてきますよ。生産管理のパラダイムにも屈曲点(面)があるかもしれません。

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不確定要素を扱える生産理論はあるか

DBR(ドラム・バッファー・ロープ)を支える理論はありませんでした。というと、TPS(トヨタ生産方式)には理論はあるのか、と聞かれそうです。実は、TPSにはきちんとした理論があるんです。

1をみてください。P1~P1010工程直列ラインを例に、TPSの生産理論についておはなしします。TPSはバランスラインを目指します。理想的にはラインバランス100%。なので、P1P10の各工程の処理時間は全部同じ。生産ラインは各工程の処理時間(PT)と工程数(Np)で定義できるんです。

1  10工程直列生産ライン

PTNpで定義された生産ラインで重要な特性は何か? と聞くと、、。生産能力に工数、治工具、部品に工程仕掛、生産リードタイム、それから、、歩留まりに機械の故障、生産計画の変更、特急オーダーの飛び込み、、いやいやまだまだある、、。つぎからつぎと出てきます。が、本当に必要な特性項目は次の3つ。

①フロータイム(FT);投入から完成までの時間

②生産率(TH):単位時間当りの完成数

③工程仕掛(WIP

FTは次の式で求められます。 FT=PT x Np

THは次の式で求められます。 TH=1/PT

FTTHWIPの関係は次のようになります。 WIP=TH x FT

これだけ。簡単でしょ。ほんとかな、って疑ってますか? 数値を入れて確かめてみましょうか。

1工程の処理時間PT=10分、工程数Np=10 としてみます。投入はPTに合わせて10分ごとに1個投入することにします。FTTHWIPを計算してみます。

FT=10() x 10 = 100()

TH=1/10()

WIP=100() x 1/10()10()

生産率は10分間に1個、生産リードタイム100分、その時抱える工程仕掛は10個、ということになりますね。10分間に1個投入するということは、生産能力に対しては100%の負荷をかけている、ということになります。 

投入負荷率をρとすると、FTTHWIPは次のようになります。

FT=PT x Npt

TH=(1/PT) x ρ

WIP=TH x FT

ρ=50%とすると、次のようになります。

FT=10() x 10 = 100()

TH=1/10() x 50(%)=1/20()

WIP=100() x 1/20()5()

ρが100%以上ではどうでしょうか。この場合、投入口で待ち行列ができるだけで、これをWIPの増加ともみれますが、工程には入っていきませんので、投入が制限されるとみることもできます。ここでは後者の視点で捉え、上記の適用範囲をρ100% としておきます。

これって、理論というほどのものじゃありませんね。ちょっと考えればわかる、常識の範囲。これに、かんばん方式のかんばん枚数を計算する式を加えれば、TPSの理論武装は、まぁ充分でしょう。

平準化、バランスライン、ムダの排除、一個流し、標準作業、サイクルタイム、、、TPSで出てくる格言めいた言葉の数々は、どれも、この簡単な生産ラインの原理が働くようにしているのだ、とみると、TPSの理解も進むのではないかと思います。

現実には、変動がまったくない、なんていうことはありえません。TPSでは実用的な許容変動幅は3%以内、なんて言ってますが。それが5%になったからって、急にTPSが成り立たなくなるわけではありませんが、変動をありのまま受け入れるとなったら、それはダメ。変動が大きくなると、前記の簡単な生産ラインの基本式が成り立たなくなるんです。

一般の生産環境は、TPSが成り立つ場合よりも、成り立たないほど変動が大きい場合が圧倒的に多いんです。そのような環境にTPSを導入すると、全然ダメかというとそうでもなく、めちゃくちゃな生産ラインが多少はましになったり、の効果はあるわけです。が、トヨタを再現するほどうまくはいかないんですね。

変動を受け入れた生産理論を探し求めた背景は、TPSの限界に気付いたことでした。で、TOCDBR(ドラム・バッファー・ロープ)に興味を惹かれたわけです。約10年、TOCを研究してきましたが、生産理論らしきものは何も見つからなかったというわけです。

DBRだけじゃなくて、他の生産方式も調べてみました。一気通貫生産方式っていうの、ありますね。説明は次のようになっています。

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一気通貫生産方式とは、多品種少量生産の進展や商品ライフサイクルの短期化に伴い、短納期化のニーズが高まっている時代背景の中から生まれた生産方式である。初工程から最終工程まで停滞を排除し一気に生産を進めることから一気通貫生産方式と命名された。

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「多品種少量生産の進展や商品ライフサイクルの短期化」はさまざまな変動を伴います。一方、「初工程から最終工程まで停滞を排除し一気に生産を進める」ためには変動を排除しなければなりません。この矛盾をどのように解消しているのか。背後に、変動を許容する生産理論があるのかな、という淡い期待をもって調べてみました。

やっぱ、何もありませんでした。当該会社にも問い合わせてみましたが、的外れな回答だけ。一気通貫生産とは、フィクションによってカモフラージュされた幻想である、と言ったらいいすぎかな。

生産スケジューラー。使っている方も多いんじゃないかと思います。効能書きをみますと、多品種少量生産に対応し、日程計画等の変更に柔軟に対応、、、といった説明が、どのソフトにもあります。不確定要素をどのように取り入れているのか、興味がありますよね。こちらの方は、論理ロジックを使ったコンピュータソフトですから、一気通貫生産のようなフィクションとは違って、ちゃんとした理論や方法があるんじゃないかな、と。

何社か、スケジューラーのメーカに聞いてみました。こんな質問で。

「納期を確率でだせますか?」

例えば、105日の納期なら70%の確率、107日なら95%の確率、というような。できる、と答えたところはどこもありませんでした。OKかダメかの答えしか出せないとのこと。

変動分を見込んで、加算する程度のことならどのスケジューラーもやっているようですが、不確定要素を入れたスケジューラーというのは、まだ世の中にはないようです。人工知能がもっと発達したら、出てくるのかなー。いやいや、その前に生産理論みたいなものがないと、プログラムの組みようがない、、のかも、、。

変動(不確定要素)を排除したTPSの生産理論は、常識で考えてもわかるほど、簡単ですが、不確定要素が入ってくると途端にむずかしくなる。コンピュータをもってしても、うまくいかない。まだ、発展途上にあるんですかね。

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