リーンシックスシグマ雑感

数年前から、リーンシックスシグマという言葉をよく聞きます。リーンとシックスシグマの組み合わせであることはすぐに分かります。TQC、TQM、シックスシグマと発展してきた品質管理の手法とトヨタ生産方式から一般化した生産手法、リーンとの融合となれば、ちょっと、興味がそそられますね。

何気なく“リーンシックスシグマ”で検索してみました。あるWebsiteで「適正在庫と、適正発注量の計算の方法」という項目がありました。興味があったのは、在庫管理がシックスシグマと融合するとどうなるか、でした。「おっ!」と思ったことがひとつ。それは、消費した分だけ補充発注すること、です。一般の在庫管理とちょっとだけ、違う。

一般の在庫管理でよく行われる定期発注方式での発注量は、

(発注サイクル+リードタイム)間の予測需要量+安全在庫―在庫―発注残

となっています。毎回、需要予測をするんですね。これに対して、リーンシックスシグマでの発注量は発注サイクル間に消費(出荷)した分だけ。で、これって、かんばん方式と同じ方法ですよね。

なるほど、リーンシックスシグマでの在庫管理はかんばん方式か。伊達に“リーン”ではないんだ。もちろん、これで“ガッテン”とこぶしを打つわけではありません。本題はこれから、、。

一般の在庫管理で発注毎に需要予測を行うのはなぜか。需要が変動するからですよね。一方、かんばん方式は、需要予測はしません。生産計画が固定されますので消費量(需要)は一定で変わらないからです。ですから、かんばん方式を一般の在庫管理に使うとき、需要変動にどのように対処するかが課題となります。それを探るために、「安全在庫はどのようにして決めますか?」と、Websiteの発行者に聞いてみました。次のような返事が返ってきました

  • 経験的には「リードタイム+発注頻度よりちょっと少なめ」みたいな感じです。もし会社の業績が去年よりも良かったら安全在庫がゼロになります。また、この量はおそらく「リードタイム+発注頻度よりちょっと少なめ」の量よりずっと少ないと思います。
  • 安全在庫は統計的に求める事も出来ますが、最初は多めにとって、だんだん減らして決めると良いでしょう。

リーンシックスシグマですから、「論理的で定量的な説明」を期待したんですが、いやはや、、なんだかよくわかりません。ちょっと、ガッカリでした。

実は、私は、シックスシグマに対して、あまりいい印象を持っていないんです。ソニー在籍中の話です。ソニーは1997年にシックスシグマを導入したことになっているんですが、本格的に動き出したのが2000年2月から。全社で事業所長、部門長、統括部長の研修が始まりました。私も受けさせられました。よくあるセミナー、という印象でした。

シックスシグマがソニーの業績にどのような影響を及ぼしたかについては、専門家の分析に譲りますが、ザックリとしたイメージをつかむために、同時期のソニーの株価の動きをみてみたいと思います。

シックスシグマを導入した1997年ごろのソニーの株価は、12,000円前後でした。本格的に動き出した2000年2月には33,250円の最高値を付けているんですね。ところが、それから3年後、2003年4月の株価は3,000円を割り込んでしまいます。その後長期にわたりソニーの業績は低迷するわけですが、シックスシグマ導入の努力と株価は逆比例しているようにみえるわけです。

東芝も日本ではいち早くシックスシグマを導入しました。東芝といえば、社長3代にわたる粉飾決算事件が記憶に新しいですよね。企業存亡の危機に瀕し、手足を切断し、かろうじて一命をとりとめました。シックスシグマの効能書きをみる限りありえない事件が、シックスシグマをいち早く導入した東芝で起きたことに衝撃を受けました。実はわたくし、東芝にも在籍していたことがあるんです。当時の東芝の社長は“メザシの土光さん”で知られる土光敏夫氏。そのころを知る者にとって、今回の不祥事、地に落ちた東芝のみじめな姿を見るに、慙愧に堪えません。

在庫管理の質問に対するリーンシックスシグマの応え、ソニーのシックスシグマと株価急降下後の長期低迷、東芝のシックスシグマと粉飾決算、、シックスシグマに対するイメージが悪い理由をおわかりいただけると思います。念のためお断りしておきますが、シックスシグマやリーンシックスシグマがダメだ、というつもりはありません。私が受けたイメージがそうだ、という話です。

シックスシグマが進化し、リーンと組み合わされると、リーンシックスシグマは品質管理と生産・在庫管理をカバーすることになります。企業にとっては、強力な手法になりそうで、なかなか良さそうな組み合わせかもしれません。しかし、です、ちょっと、ズーム・アウトしてみましょう。

品質管理は業種、業態、生産方式に関係なくほぼ大部分の企業で利用することができます。その理由は、誤解を恐れずに言えば、統計理論をベースにしているからだ、と思います。一方、トヨタ生産方式は、見込生産で生産計画固定可能な生産環境でしか再現できません。なぜか。バラツキを認めていないからです。バラツキはありませんので、統計理論は不要です。

ところが、生産計画を固定できる企業はごくわずか。大部分の企業はそうはいきません。「トヨタ生産方式が再現できた企業は皆無だ」という話は、多少誇張されているとしても、あながち嘘ではないと思います。

トヨタ生産方式を再現できない理由は、バラツキをなくせないから。で、そういう企業が大部分。とすると、リーンシックスシグマがうまくいく企業は、トヨタ生産方式が再現できるごく少数の企業に限られる、、ということなんでしょうかね。

だとしたら、リーンとシックスシグマの融合の意味はあまりないんじゃないでしょうか。

バラツキをなくせない多くの企業にとって、有効な手法じゃないといけないんじゃないでしょうかね、、。

シックスシグマって、統計理論をベースにしたバラツキ管理手法だ、とみたらどうでしょう。バラツキをなくせない多くの企業が困っているのは、生産管理・在庫管理の領域でのバラツキです。シックスシグマのバラツキ管理手法は品質問題だけではなく、生産管理・在庫管理の領域でも利用できる汎用性があると思いますよ。

例えば、生産計画を固定できない企業では、需要の変動を何らかの方法で捉える必要がありますが、XバーR管理図を利用することができるのではないでしょうか。抜取データを5とすれば、直近の5日分の需要量(受注量、出荷量、消費量、、)が抜取データ。軽くシミュレーションしてみましたが、行けそうですよ。

ですから、リーンシックスシグマの適用対象企業を“リーンがうまくいかない(トヨタ生産方式が再現できない)企業”にすると、いいんじゃないでしょうか。名称も変えた方がいいかも、ね。

“生産・在庫管理 powered by Six Sigma”

なんてね。どなたか、本気になって考えてみませんか?

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サービス率が変わっても安全在庫は変わらず

生産管理についての根本的な問題について愚見を述べてきましたが、在庫管理に関しても負けず劣らず、レベルの低さを感じざるを得ません。“ものづくり徒然集”の[書評]No.71~No.76まで、物流業界では名うてのコンサルタントが著した“A書”の中のいくつかの誤謬を指摘しました。考えてみれば、物流業界は物流量が多い方が、ちょっと言い方を換えれば、在庫が多い方が儲かるんじゃないのかな。在庫管理はサービス率を維持しつつ、在庫を減らすことが狙いですので、物流業界では在庫管理を行うインセンティブは働かないのでは、と。だから、物流業界の在庫管理のレベルは低いのかなぁ。

物流業界だけではありません。他にも、仮説、奇説、怪説、愚説、珍説、、いろいろありますよ。今回は、間欠需要での安全在庫、適正在庫の求め方に関する珍説を眺めてみましょう。

間欠需要というのは、注文のない日(週、月、、)もある需要パターンです。一般の需要では毎日注文があることを前提にしていて、その場合、需要分布はおおむね正規分布に近似します。が、間欠需要では、受注ゼロの確率が高くなり、左右対称な分布ではなくなります。そうすると、左右対称の正規分布を前提にした安全在庫や適正在庫の算出方法では誤差が多いくなる。で、何か工夫がいるわけです、、。

Websiteを閲覧していたら、対数正規分布を仮定して間欠需要での安全在庫を計算するソフトがみつかりました。そこに安全在庫の計算式があります。

 

 

ここで:
Φ^(-1) (∙)- は、標準正規分布の分位。
SL – 与えられたサービス率
(Dev) ̂- O.O.Mで表現された対数正規分布の偏差の推定値。これは間欠需要モデルの偏差パラメータ。
(Med) ̂- 対数正規分布の中央値の推定値。これは間欠需要モデルの中央値 パラメータ。

よくわからないので、聞いてみました。「データを送ってもらえば計算結果を知らせる」とのことなので、早速、送りました。平均値、バラツキを変えて5種類。おもしろい計算結果が返ってきました。表1をご覧ください。

表1 安全在庫の計算結果

 

 

 

サービス率が変わっても、安全在庫はほとんど同じ。こんなことってあるんでしょうか? 何かの間違いかと思って再度、質問してみました。少し間がありましたが、計算式の詳しい説明が追加されただけで、結果は変わらず。

この数値をみただけで、実際の在庫管理には使いものにならないのは一目瞭然。在庫管理の初心者でもわかると思うんですが、2度も同じ答えが返ってくるとは、びっくり仰天。

びっくりした、だけではあまりインフォ-マティブではありませんので、対数正規分布で近似する場合の安全在庫や適正在庫はどうなるのか、についてもコメントしておきたいと思います。

先ず、対数正規分布は、あまりなじみがありませんので、分布形状の例を図1と図2に示します。対数正規分布ではμが平均、σが標準偏差ということではないことに留意ください。対数正規分布の期待値をE、分散をVとしますと、次のようになります。

 

 

結構ややこしいですね。

図1   μ=2でσが0.25、0.5、1、2

 

 

 

 

図2   σ=1でμが0.5、1、2、3

 

 

 

 

対数正規分布と普通の正規分布を比較しみます。図3~図5に例示します。バラツキが大きくなると違いがはっきりしてきます。

図3 正規分布と対数正規分布の比較①

 

 

 

 

図4 正規分布と対数正規分布の比較②

 

 

 

 

図5 正規分布と対数正規分布の比較③

 

 

 

 

下準備はこのぐらいにして、試算用サンプルデータと対数正規分布を重ねてみます。品目Aを使います。受注数量平均は10、分散は9.2。図6にデータは棒グラフ、対数正規分布は線グラフで示してあります。

図6 品目Aのデータ分布と対数正規分布

図6では両者のサービス率がそれぞれ95%、98%、99%の受注数量の位置を示しています。安全在庫は、平均10を引いて、表2のようになります。対数正規分布はサービス率が高くなると安全在庫は多くなるようです。サービス率が変わっても安全在庫は同じなんていうことはありませんね。

表2 データ分布と対数正規分布で求めたサービス率と安全在庫

 

 

ついでに、他の分布形状で近似した場合も調べてみたいと思います。取り上げる分布は、先ずは正規分布。但し、受注数量がマイナスはありませんので、マイナス側はゼロの確率に集めてあります。切断正規分布と呼んでおきます。もうひとつは、間欠需要特有のズレを補正した切断正規分布です。補正の方法については「STIC発注方式」を参照ください。ガンマ分布も加えてみました。一例を図7に示します。

図7 データ分布と各分布の比較

図8、図9は、データ分布を基準としてサービス率がどの程度ズレるかを示しています。受注数量が少なくなるに従い、データ分布との差が大きくなることは、分布形状からも理解できると思います。サービス率が90%~95%以上では差は2%~3%以内に収まるようです。このデータだけで結論を導くことはできませんが、対数正規分布より、ガンマ分布の方が近似性がいいように感じます。

 

 

 

 

 

 

図8 データ分布との差

 

 

 

 

 

 

図9 データ分布との差(拡大)

今回は、間欠需要での安全在庫を計算するソフトに触発されて、対数正規分布の近似性、ついでに切断正規分布(補正あり、なし)、ガンマ分布を加えて、調べてみました。いずれの分布もデータ分布とは大きく異なりますが、サービス率が90%以上の裾野領域では使えるのではないでしょうか。どの分布がいいのか、それぞれ一長一短がありますので、今後の検討課題としたいと思います。

生産管理、在庫管理関連のソフトウエアの説明には、美辞麗句満載、時には“うそ”が紛れ込んでいます。今回の事例は氷山の一角。くれぐれも、お気を付けください。

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“異業種にトヨタを導入”;NPSの挑戦と禍根

前回、前々回と最近のメディアの記事を取り上げ、私見を述べさせていただきました。 “工場管理の8月号特集記事”は、生産ラインの最も基本的な特性を完全に無視して生産管理システム論を展開していることが根本的な問題ではないか、と。生産ラインの最も特徴的な特性は“待ち時間の跳ね上り”ですが、この特性が世の中で知られていないのかといえば、そうではありません。待ち行列理論ではお馴染みです。理論だけではなく、昼休みにできるATMの列、スーパーのレジの行列、デズィニーのアトラクションで並ぶ列、、など、日常生活でも、稼働率(負荷率)が高くなると行列が急激に長くなることはよく経験することです。行列が長くなれば待ち時間も長くなります。

もうひとつの記事、“トヨタ生産方式をマネしても成功しない”と題する記事です。トヨタ生産方式の導入に成功するかしないかは、“「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかだ”、と。これまでも似たような俗説は繰り返されていますので、「またか」という感じなんですが、大学の教授の主張だったので、学生を通して定着することに危惧するわけです。実は、この主張も生産ラインの基本的な特性、繰返しになりますが、“待ち時間の跳ね上り”を理解してないために起きる間違いなんです。トヨタ生産方式成立の条件は、この“待ち時間の跳ね上り”が起きない、起きても生産ラインに混乱を起こさない程度に抑える、“物理的”方策が組み込まれていることであって、“「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかだ”、なんていうのは、的外れ。

注文がいっぱい来たら待ち行列が長くなり、納期が長くなる。誰でもわかる話なんですが、生産管理システムの解説で、この現象に言及されることはありません。トヨタ生産方式成立の条件に精神論的な理由が頻繁に取り上げられますが、生産ラインは物理現象ですよ。それがベースにあることに言及するコンサルタントは、ほぼ皆無。不思議ですね。どうしてなんでしょう。

、、と思っていたら、最近のスポーツ界で散発するパワハラ問題、、。これと共通するところがあるように感じます。大相撲、アメフト、レスリング、ボクシングに体操、、次はどこなんでしょうね。団体固有の問題もありますが、共通する部分も多いんじゃないかと思います。

共通部分は、自己周辺の利益防衛のための権力乱用・執着、というんでしょうか。こんな表現をすると、スポーツ界だけではなく、程度の差はあれ、どこにでもありそうな話になってきます。あまり間口を広げすぎると、焦点がボケてきますので、ほどほどにしながら、生産管理、在庫管理の周辺にアングルを向けて綴ってて行きたいと思います。

経験談をお話ししましょう。1990年代中頃だったでしょうか、バブルが崩壊し停滞の時代に突入した頃です。電機業界も不況の波に洗われ、生産を中国や東南アジアに移したり、それでも間に合わないと、いくつかの工場を閉鎖したり。ソニーも例外ではありません。“自由な発想”と“理”を重んじる社風に逆らって、PEC産業教育センター(現株式会社ペック協会)指導の生産革新が全社的に導入されました。生産革新は、トヨタ生産方式をベースにした改善活動ですから、“自由な発想”と“理”を重んじる社風に逆らって、という表現は分かりにくいかもしれません。トヨタとソニー。戦後日本の製造業の発展を牽引した企業の代表。違いよりも共通点の方が多い、という印象が強いんじゃないでしょうか。でも、トヨタ生産方式の導入となると、話がちょっと、違ってくるんです。

生産革新の改善日。山田先生(山田日登志氏)のお迎えです。工場の玄関前で工場幹部他課長、係長、班長、、らが長い列をつくり、大声で「よろしくお願しまーす」。ソニーの社長が工場訪問するときでも、そんなことはしたことありません。

改善活動が始まる前には、儀式があります。次の3つのことばを、あらん限りの声を出して叫ぶんです。

「今日こそ俺はやるぞー」

「やるぞー、やるぞー、やるぞー」

「やってみてから考えろ」

声が小さいと、「もういっか~い」。それでもだめだと、「声が小さ~い。もういっか~い」と、続く、、、。今では、ブラック企業と見間違えられそうですが、当時は世の中がみんな暗かったので、企業が少々暗くても目立たなかったのかな。ソニーも“ブラック”ぽかったんですね、当時は。かつての輝きは完全に失っていました。

トヨタで、こんなふうにやっているなんて聞いたことがありません。山田流トヨタ生産方式は、トヨタのトヨタ生産方式とは違うのか、、、ずーっと、疑問でした。山田日登志氏の座学講座も何回か聴講しました。トヨタ生産方式でおなじみの“単語”に交じって、 “レイゾウコ”とか“カイモノ”とか、“人をつくる”とか“やる気”とか、山田流が混じりますが、この辺りまでは、まぁ、いいでしょう。が、生産管理の話になると、“生産計画に縛られるな”とか“コンピュータは取っ払え”とか、ちょっと過激になってきます。で、生産ラインの基本特性に関しては、“皆無”。

右肩上がりの時代の惰性で生産していましたので、どの工場も仕掛・在庫の山。声を大きく張り上げただけで、仕掛・在庫は瞬く間に減るんです。が、すぐに頭打ち。しばらくすると増加に転じます。計画と実際の生産との乖離問題は一向に改善されませんでした。今考えてみますと、山田流PECのトヨタ生産方式とトヨタのトヨタ生産方式とは、まるで別もの、だったんだなぁ~、、。

山田流PECの指導方法のルーツは、NPS(ニュー・プロダクション・システム)あたりにあるんじゃないかと思います。

「電気製品や蒲鉾も自動車と同じ生産方式(トヨタ生産方式)で行えば、合理化が出来る」

という考えのもとに、ウシオ電機、オイレス工業、紀文食品、、、などが中心となって、1980代初めに発足したようです。 “異業種にトヨタを導入する”。支援したのが、元トヨタの鈴村喜久男らトヨタ出身者。NPSの企業集団は、日立、松下、トヨタなどの企業集団を追い越すのではないか、という期待があったようです。

NPSの指導の一端を「NPSの奇跡」(篠原薫著、東洋経済新報社、1985年10月発行)から引用してみたいと思います。

[210ページ]
社長すら面罵されるぐらいだから、NPS指導員の現場での指導は厳しい。たとえば、日本軽金属の蒲原工場を何度目かに訪れた鈴村実践委員長は、その巨体を揺るがして、真っ赤になって工場長はじめ現場の幹部を大声で怒鳴りつけた。「何だこれは。この仕掛の山は。この前来た時に、整理するようにいったのにどういうことだ!」というと同時に、仕掛の山を足で蹴飛ばした。蹴飛ばされた仕掛の山は音を立てて崩れ、床に散乱。しかも、鈴村はやにわにかぶっていたヘルメットを脱ぎ、これも力いっぱい床に叩きつけたのであった。工場長はじめ、幹部が真っ青になったのはいうまでもない。鈴村も、しばらく仁王立ちになったまま動かない。

鈴村喜久男はトヨタ在任中、このような指導をトヨタでもしてたのでしょうか。いやいや、トヨタの従業員は生産の何たるかを理解しているんで、大声を上げなくてもいい、のかな。トヨタでできていることが、なぜ他社ではできないのだ、と、鈴村の怒りはわからないでもありませんが、、。

NPSは“異業種にトヨタを導入する”過程で、トヨタ生産方式の方法をほとんどそのまま導入しようとしたのではないでしょうか。特急注文が頻繁に舞い込み、生産計画は変更に変更が繰り返される。そんな環境で、かんばんだ、JITだ、、、というトヨタの方法が機能するはずがありません。そのギャップを乗り越えようとしてとったトヨタ出身者の指導方法は、

「指導者の言うことは絶対」、「一方的な命令」、「軍隊式」、、、。

その流れを、山田流PECも受け継いでいるんだと思います。玄関のお出迎え。天皇陛下じゃあるまいし。「今日こそ俺はやるぞー」「やるぞー、やるぞー、やるぞー」「やってみてから考えろ」。竹槍もって、第4次生産革命を迎えろというのでしょうか。

で、この“異業種にトヨタを導入する”試みはうまくいったんでしょうか。「トヨタ式最強の経営」(金田秀治、柴田昌治共著、日本経済新聞社、2001年6月発行)にこんなことが書いてあります

[31ページ]
トヨタ生産方式を教えるコンサルティング会社もあまたある。その改善方法の多くはパッケージ化されている。しかし、いくら出来合いのトヨタ生産方式を導入しても、本当に成功する企業はほとんど出てこない。現状のひどい生産システムを改善することにより、一時的に大きな効果を出すことはそれほど難しくないが、それ以上はよくならず、システムは古びていくばかりなのに、社員による自主的な改善活動は根づかずに終わってしまうことのほうがはるかに多い。

トヨタ生産方式が世界中でどのように導入されたかについて、ハーバード・ビジネス・スクールが四年間にわたって行った調査研究の結果が、1999年秋、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表された。

題名は「トヨタ生産方式の遺伝子を探る」(H.ケント・ボウエン/スティーブン・スピア執筆、坂本義実訳『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』2000年3月号)である。この論文の中で、「トヨタは驚くほどオープンにそのノーハウを披露してきた。しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無である。数千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場(もちろんアメリカも)を訪問したが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできなかった」と述べている。

つまり、“異業種にトヨタを導入する”狙いをもって、1980年初めに立ち上げられたNPS、当初は大企業集団に発展するのでは、との期待はあったが、20年後の結果は上記の通り。

で、この書のメッセージで見落としてはいけない部分は、“異業種にトヨタを導入”できないの理由。筆者曰く、「トヨタ生産方式の真髄とは、システムを刻々と変化させ続けることにある」と。書の中には次のような言葉が繰り返されます。

「自主的な常識はずれの改善活動」
「日本的イノベーション方式」
「変化し続けるトヨタのDNA」
「キーワードは経営マインド」
「進化する組織と変革型人材」
「本気でやる気のある前向きな集団をつくる」
、、、、

筆者の一人、金田秀治はトヨタ出身。トヨタ出身者がトヨタ生産方式をこのように語れば、トヨタの外の人間が異議を唱える余地はありません。トヨタ生産方式とは、経営論であり、人材育成論であり、精神論であり、、、という流れが定着していったのだと思います。

前回取り上げた「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」(筆者;菅野 寛)という記事、トヨタ生産方式が機能する前提条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していること、だと。学生に教える大学教授もこの流れを定着させる役割を演じているわけです。

NPSの最大の功績は“異業種にトヨタを導入”できないことを証明したことではないかと思います。20年かかりました。大事なのは、その理由を正しく理解して、次のステップに繋げていくことです。ところが、そこで、致命的な間違いが起こりました。その間違いを起こしたのが、トヨタ出身の指導者(コンサルタント)。トヨタ生産方式を導入できないのは“経営”の問題だ、とぶち上げました。トヨタ生産方式に関して、トヨタ出身者の声に異論を発する御仁はおりません。そしてその後20年、トヨタ生産方式はトヨタの経営と不可分である、という風潮が定着したまま、今日に至っております。

前出の「トヨタ式最強の経営」にこんなことが書いてあります。

『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』2000年3月号から引用
さらに、「トヨタ生産方式の分析は、なぜこうも難しいのだろうか。それは訪問者たちが工場でみたトヨタ生産方式の本質を、そこで用いられているツールや手法と取り違えてしまうからだ」「トヨタ生産方式・・・・は過去50年にわたる努力によって自然と生まれてきた賜物と言える。それゆえ一度として文書化されたことはなく、トヨタの従業員ですら理路整然と説明できる人はいない。トヨタの従業員以外の人に、トヨタ生産方式がきわめて理解しにくいのはこのためである」と指摘している。

なるほど。トヨタ出身者がトヨタ生産方式を語るとき、“経営”というあいまいな、しかし、関心をひくキーワードに関連付けて、“ノンフィクション・ストーリー”を仕立て上げる、そんな姿が浮かび上がってきます。“トヨタの経営は特別なんだよ”というメッセージは、ブランドイメージを高める。トヨタの意図した戦略だとは思いませんが、こんな成り行きに異を唱える必要はありません。黙認し、ほくそ笑んでいるのではないでしょうか。

NPSが始めた“異業種にトヨタを導入する”挑戦は、生産ラインの物理特性を無視したことが失敗の要因であった、ことにも気づかず、その後、PECをはじめとして、“地獄のxx訓練”など、精神論面が強調されて、今尚、続いております。いや、しっかりと定着しているのかもしれません。もう、“生産ラインの基本特性”なんて話をはさむ隙間も見当たりません。

オリンピックを目前に控え、スポーツ業界は、旧体制の刷新の動きが活発になってきました。生産管理、在庫管理、サプライチェーンの領域ではどうでしょうか。第4次産業革命がすでに始まっています。にもかかわらず、問題の本質に目を向けようとする気配は感じられません。日本、危うし!

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「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」;ありえない理由

トヨタ生産方式をまねしても成功しない」(執筆;菅野 寛)という記事を目にしました。
(Websiteは https://president.jp/articles/-/25566 コピーはこちら
トヨタ生産方式といえば、世界中に知れ渡った、最も有名な生産方式です。ですから、まねをする企業も多く、関連する書物、セミナーもたくさんあり、コンサルタントも多数おります。

トヨタ生産方式がブームになったのは1980年頃からでしょうか。猫も杓子もJITだ、カンバンだ、と。1990年代に入ると病院や郵便事業、官公庁までもがトヨタ生産方式だ、と騒ぎたてていました。

ところが、ブームが落ち着きかけると、導入しても失敗に終わる企業の方が圧倒的に多い、ということが分かってきました。で、出てきたのが、
「トヨタ生産方式導入失敗の原因」
「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由」
「トヨタ生産方式の成否の違いと成功のポイント」
「トヨタ方式に挑む 導入に成功する組織・失敗する組織」
「トヨタ生産方式導入の失敗事例から学ぶ」
、、、、
というような失敗をテーマにした記事。2000年以降多くなってきて、その後下火になり、最近ではあまり見かけなくなったなぁー、と思っていたら「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」という記事に遭遇。

初めに、本文をお読みいただくと話の流れはつかみやすくなると思いますが、そんな暇のない方にも、ポイントだけはわかるようにしようと思います。

先ず初めに、「トヨタ生産方式はなぜ、他社では機能しないか」について、それは事情(コンテクスト)が異なるからだ、と執筆者は言います。例として、(トヨタ生産方式の)アンドンが出てきて、それが機能する前提条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していること、だと。ところが、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない、と断じ、だから、他社では、トヨタ生産方式は機能しない、のだと断じています。

「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかでトヨタ生産方式が機能するか、しないかが決まる。これが執筆者の主張です。

この説を検証してみましょう。自動車産業のコンテクストを外観しながら、、。

トヨタは世界中に工場を持っています。海外のトヨタの工場の生産方式は、当然トヨタ生産方式。ただ、日本の工場と比べるとレベルは落ちる、ということは聞いたことがあります。とは言っても、トヨタ生産方式の基本をはずしているとも思えません。どの工場でも、レベルの差はあれ、トヨタ生産方式で生産されていると考えられます。だとすれば、世界に散らばるトヨタの工場の従業員だけは、どの国にあっても、「いい仕事をしたい」という価値観を持っている、ということになります。

一方、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいないのであれば、海外のトヨタの工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいないのではないでしょうか。海外でも、トヨタの工場だけは別で、このような価値観を持った従業員がいるとしたら、、なんで? その理由の方に興味が惹かれますね。

日本国内のコンテクストに目を向けてみます。「世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない」、から連想されることは、国内の工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員がいる、ということでしょうか。だとしたら、日本国内のどのような工場でも、トヨタ生産方式が機能する、ことになります。これは「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」企業の方が圧倒的に多いという現実と矛盾します。

国内の自動車産業に目を向けてみましょう。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、、ほとんどすべての自動車メーカが国内に工場を持っています。その工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいるのかどうか。トヨタの国内工場すべてにそのような従業員がいなければなりませんね。では、日産やホンダの工場はどうでしょうか。そのような従業員がいるのかどうか。

自動車メーカの従業員がどのような価値観を持っているのか、手元にデータがあるわけではありません。しかし、同窓、同郷、そして親戚同士が、そして世界でも類をみない同質性を共有する日本人がたまたま選んだ勤務先が、トヨタ、日産、ホンダ、、。それぞれの従業員の価値観に顕著な差がでるとは想像しがたいことです。つまり、トヨタだけに「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員が偏って多いことは考えにくいことです。

トヨタ生産方式導入失敗の原因については、多くの人が、いろいろの立場から語ってきました。経営理念、経営戦略、企業文化、従業員の価値観・意欲、改善魂、5S、、、などなど。

トヨタ生産方式成立の条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していることだとする主張は、これまでの諸説と比べてみれば、食傷気味の“俗説”に類し、屁ごときたわごと。屁なら、ちょっと我慢すれば、間もなく霧散し消えますが、この稚拙な主張の発信者が某大学院経営管理研究科の教授であることは、忌々しき事ですね。学生を通してこのような俗説が次世代に引き継がれ、失われた30年がそのまま40年、50年、、となりはしないか。日本経済停滞の一因は大学の知的・教育レベルの低下なのかもしれません。

表題の下に「教科書理論をすぐ使うという地雷」という副題があります。教科書に書いてあることをコンテクストも吟味せず、うのみにするな、というメッセージだと思うんですが、この教授、自ら地雷を踏んで見せるとは、度胸がいいというか、救いようがないといううか、いずれにしても教育レベルが低下していることだけは確かでしょう。

では、「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」本当の理由は何なんでしょう。生産方式そのものを注意深くみてみましょう。日産自動車の生産方式は、日産生産方式(NPW)と呼ばれているようですが、中身はトヨタ生産方式とほぼ同じ。違いを見つけるのに苦労するぐらいです。サラっと調べてみた限りでは、ホンダやマツダ、そしてGM(一時トヨタと合弁工場を運営)やフォードも、小異はあっても、ほぼ同じではないかと思います。つまり、トヨタ生産方式は、企業、国を超えて世界中で機能していると考えられます。

「全部、自動車会社じゃないですか、、」
「そうですよ。だから、、」
「市場も同じ、つくっている車も似たり寄ったり、、、トヨタ生産方式も導入しやすいんじゃないですか」
「そのとおり」
「自動車会社以外にありますか?」
「もちろん、あります」
「例えば、どんな会社ですか、、、」

トヨタ生産方式成立の条件は、こんな会話の中に隠れているのかもしれません。

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生産管理システムの弱点がズバリ…工場管理8月号[特集1]

先だって、近くの本屋さんで、“工場管理2018年8月号の[特集1]“をパラパラと立ち読みしました。「おー、これは、、」と思い、家でじっくり読むことに、、。

“[特集1]なぜ納期遅れが起きるのか 生産管理システム活用の盲点“ 解説1~6

この記事、変に、おもしろい。日本の生産管理システムの弱点がズバリ、わかります。ただ読んだだけではわかりません。生産ラインの基本特性についての予備知識が必要です。具体的な事例で、先ずは、予習兼準備体操から、、。

[事例]
ある受注生産をしている企業がある。受注が確定したら生産開始。生産リードタイムは10日。どんな注文でも10日、ピッタシ。この工場は同時に1台しか製造できない。1台完成したら次の注文に取り掛かかる。注文はランダムに舞い込む。注文が多くなると投入口で待つことになる。製造は受注順に行う。

投入待ちの注文がない時は、納期は10日。納期遵守率100%です。注文が増え、投入待ちの注文がある時はどうなるか。とりあえず知りたいのは受注してから完成するまでの時間です。注文が増えれば納期も延びるんじゃないか、ということは経験的に分かりますが、ではどのくらい?

実は、この問題を解くのにちょうどよい計算式があります。待ち行列理論にM/D/1モデルというのがあります。Mは注文の到着時間間隔の分布が指数分布、Dは処理時間が一定、1は処理工程がひとつ、という意味です。受注してから完成までの平均時間は次のようになります。

受注~完成までの平均時間=製造時間+待ち時間

製造時間は10日で一定ですので、待ち時間に注目します。待ち時間の計算式は次のようになっています。
平均待ち時間=ρ/2μ(1-ρ)
λ;平均到着率(受注件数/単位時間)
μ;平均サービス率(処理数/単位時間)
ρ=λ/μ(稼働率)

事例の数値;μ=1台/10日 で、注文の到着率を振って稼働率を変えたとき、平均待ち時間がどうなるか、計算した結果の一例を図1に示します。

図1 待ち時間の一例

製造時間は稼働率に関係なく10日で、一定ですので、受注~完成までの平均時間はほとんど、待ち時間によって特徴づけられます。図1をみてわかるように、稼働率が80%を超えるあたりから急激に待ち時間が長くなります。この現象を“待ち時間の跳ね上り”と呼んでおきます。

こうなる原因は何か。製造工程ではきちんと10日で生産しています。にもかかわらず、稼働率が高くなると、受注~完成の平均時間は、100日を超えてしまいます。この原因は、需要の変動です。需要の変動は生産工程の外、工場内ではどうすることもできません。

待ち行列理論の数式では平均値しか計算できません。どんな分布で、最大値はどのぐらいなんでしょうね。計算式では求められませんので、シミュレーションで確かめてみます。

シミュレーション結果の一例を図2に示します。稼働率95%では最大の待ち時間は300日を超えてしまいます。

 

図2 待ち時間のシミュレーション結果の一例(生産台数5,000台)

稼働率95%のときの待ち時間の分布の一例を図3にし召します。ダラダラとすそ野を引いていることが分かります。赤棒は待ち時間ゼロの確率(約6%)です。

 

図3 稼働率95%のときの待ち時間の分布の一例

図4は待ち時間の時系列変動(生産台数1000台まで)を示したものです。待ち時間は0日~200日の範囲で不規則に変動しています。

 

図4 待ち時間の時系列変動

事例の工場はひとつの工程とみることができます。複数の工程が直列、並列に連なって生産ラインとなり、生産ラインが連なって工場となり、サプライチェーンを形成します。事例は、生産ラインの最少構成単位がどのような特性を持っているかを示しています。

1工程で起きる待ち時間の跳ね上りは、程度の差はあっても、どの工程でも起きます。1工程の完成時間間隔は次工程の投入時間間隔となり、処理能力との関係で待ち時間はバラツキます。生産ラインの投入から完成までの各工程の待ち時間がバラツけば、工程を通過する時間もバラツクことはお分かりいただけると思います。

生産ラインのこのような特性は、不特定多数の変動要因によって引き起こされます。外部の変動要因もあれば企業内の変動要因もあります。この事例では、企業内の変動はなし、変動要因は注文到着時間間隔のバラツキだけですが、このような企業外(市場)の変動は企業側ではどうすることもできず、受け入れるしかありません。

実際の生産ラインは複数の工程の連鎖からなります。さらに様々な企業内の変動要因が加わりますので特性はもっと複雑に、待ち時間の跳ね上がりもさらに激しくなると考えられます。

生産ラインの基本特性をまとめてみますと、
*待ち時間は、稼働率(負荷率)が80%ぐらいから急激に長くなる(待ち時間の跳ね上り)
*企業内の変動がゼロでも、需要の変動(受注の時間間隔の変動)だけで待ち時間の跳ね上りが起きる
*待ち時間の分布は滑り台状に時間の長い方向にすそ野を引く
*時系列でみると、待ち時間は不規則にバラツク
*待ち時間の跳ね上りは、複数の工程が連鎖する離散型生産ライン、さらにはサプライチェーンを構成するあらゆる基本ユニットで起きる。
*生産ラインへの投入から完成までの経過時間を定めることは、極めて困難である。
*指定された時刻で生産することは、ほぼ不可能である。

この知見を頭に入れておいて、件(くだん)の特集記事の解説に目を通してみます。気にとまった文章を抜き出してみます。(記事からの引用部分は色を変えてあります

① “人手不足により納期遅れ対策が重要になってきた
解説では、実需増や能力不足によって納期遅れが起きる、と説明しています。経験的、直観的に、ひっかかりなくスーッと受け入れる方が大部分だと思いますが、少々鋭く穿ってみましょう。予習した生産ラインの基本特性、図1をご覧ください。負荷率が80%以上の領域では、負荷率がちょっと上がっただけで、待ち時間はグーンと長くなります。待ち時間は、バラツキが大きく且つ不規則に変動します。生産完成の時期を予測することは極めて困難となります。だから、納期遅れが激しくなる、というわけですね。実需増に対して先行手配をするとか、内示数を積み上げるから納期が読めなくなる、とか、残業規制の強化、パート賃金上限問題による人手不足が要因だ、などの説明がありますが、なくてもいいとは言いませんが、本質ではないと思います。

② “製造指示にはどう対応しているのか、製造指示通りのリードタイムで製造できているのか
解説によると、製造開始時刻と製造所要時間が指示され、その通りに製造を行うことが生産管理の基本だ、と。しかし、実態は、緻密な生産計画をつくっても計画通り生産できない、とか、進捗情報があっても納期通りできるかどうかわからない、といった状況だ、と。その根本原因には触れられないまま、解決策は、生産スケジューラーの導入と流動数曲線の利用だ、と説明しているんですが、、。

先ず、緻密な計画をつくることができるのかどうか、を検証してみましょう。待ち時間の跳ね上り現象をもう一度、ご覧ください。事例では1工程、処理時間一定の条件ですが、実際は、処理時間も変動しますし、生産ラインは直列、並列に複数の工程がつながります。1工程で起きる待ち時間の跳ね上りは、程度の差はあっても、どの工程でも起きます。1工程の完成時間間隔は次工程の投入時間間隔となり、処理能力との関係で待ち時間はバラツキます。つまり、生産ラインの投入から完成までの各工程の通過時間は大きくバラツクことがお分かりいただけると思います。このよう特性を持つ生産ラインで、工程ごとの通過時間を緻密に、正確に決めることはできるでしょうか。「えいっ、やっ」、と決めたとしても、その通り生産をすることはできるでしょうか。管理レベルを上げたらできるでしょうか? 生産スケジューラーを導入したらできるでしょうか? 流動数曲線を利用したらできるでしょうか?

生産管理システムのスタンスは、生産ラインの基本特性からみれば、物理的に不可能なことを前提にしていることになりませんか。

③ “納期遅れ問題を解消するための基本は、現在の生産が正しい納期設定通りに生産されているかどうかの進捗監視である
②で述べましたように、各工程の通過時間を予め決めることは不可能に近いことです。ですから「正しい納期設定」もできません。というと、異論が聞こえてきそうなので、コメントしておきます。「正しい納期設定」が可能な条件があります。生産計画固定、変動が極小(3%以下)、同期生産、、、このような生産環境では、生産ラインの特性は、すごく単純になります。詳細は前回のBlog“生産ラインの基本特性;投入負荷と処理能力”をご覧ください。生産計画固定ということは、事例でみた需要の変動を遮断することを意味します。あとは工程内のバラツキを小さくすれば、生産ラインの特性はすごくシンプルになります。この状態であれば、実用的な範囲で、正しい納期設定もできますし、進捗監視もできます。卑近な例はトヨタ生産方式ですね。

ところが、需要変動を受け入れざるを得ない生産環境では、事例で示した生産ラインの基本特性を無視することはできません。生産管理システムには、納期設定と進捗監視が必要だ、というのはその通りです。しかし、生産ラインの基本特性を無視した納期設定、進捗監視は物理的に成り立たない、ということを申し上げたいわけです。

④ “生産理論を知らない生産管理担当者;生産管理の活用目的や生産管理理論を勉強せずに、コンピュータや製造現場に振り回されている生産管理担当者が増えている
現在の生産理論は、生産計画を固定し、需要変動を遮断することを条件に成り立っている、と考えられます。そのような条件の生産管理であれば、現行の生産管理理論を勉強する意味はあると思います。しかし、そうでない業種、企業の方が圧倒的に多いわけです。生産管理の問題の多くは、生産計画を固定できない企業や業種で起きているのではないでしょうか。

生産ラインの基本特性を無視した現行の生産管理論は破綻している、といっても過言ではありません。機能しない生産管理論を学んでも、コンピュータや製造現場に振り回されている状況が改善されることもなく、悶々とした日々が続くだけではないか、と危惧するわけです。

⑤ “生産管理システムは、使う人がマスタに魂を入れないと役に立たない
あれもダメ、これもダメ。八方ふさがりで、今度は「魂」ですか。精神論に逃げ込んでも救われないと思いますが、、。

⑥ “滞留時間を短くする
待ち時間の主なものは①正味製造時間、②ワーク待ち時間、③工程待ち時間、④運搬時間、⑤段取り時間、⑥バッファー時間。発生原因は、購入品の調達が間に合わない、部品合流が同期化していない、製造設備の能力不足、設備の固定化・偏在化、設備故障、オペレータや治具の不足、、、。
これらの大部分は企業内で観察される事象。だから企業で対策できるかというとそうではありません。これらの滞留時間の根本原因は需要のバラツキです。需要の変動がある限りこれらの待ち時間を無くすことはできません。ここでも生産ラインの基本特性が無視されています。

その他にも取り上げたいところはたくさんありますが、まぁ、こんなところにしておきます。

この特集記事、

“[特集1]なぜ納期遅れが起きるのか 生産管理システム活用の盲点“ 解説1~6

興味のある方は、工場管理の原文をお読みください。ザックリとまとめると、“生産ラインの基本特性を無視した生産管理システム活用の解説”。“生産ラインの基本特性;待ち時間の跳ね上り”は執筆者の目には入っていないようで、解説の中にはまったく出てきません。“群盲象を評す”かな。群盲の日常会話を多少わかりやすく羅列しただけ。でも、「盲点」に触れずに「盲点」を描きたかったのだとしたら、、絶妙な表題ですね。

中身はどうでしょう。お粗末そのものです。MRPもダメ、CRPもダメ。生産スケジューラーが解決策の一つだ、といいながらAPSの本格活用はまだ、、の原因も言い訳的なものばかりでうにゃむにゃ。的をはずしたこの特集の解説、解決の方向性を示すことがないばかりでなく、生産管理システム関連に携わる方々へ間違ったメッセージを発信しているのではないでしょうか。そして、この記事が日本の生産管理システムを支える専門家、専門誌のレベルを示していると考えると、底知れぬ寒気を感じてしまいます。

記録的な猛暑が続く今夏に合わせて組んだのだとすれば、時宜を得た特集記事であった、、のかもしれませんが、、。

-暑中および残暑見舞いに代えて-

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生産ラインの基本特性;投入負荷と処理能力

生産ラインは 投入負荷<処理能力(生産能力) のときと、投入負荷>処理能力 のときでは、まったく異なる特性を示すことを前回、申し上げました。言い方を換えれば、投入負荷=処理能力 を境に生産ラインの特性はガラリと変わります。生産管理上、最も重要な特性ではないかと思うのですが、現在の生産管理では、このようなことに関する記述はあまりありません。この特性が変化する点を屈曲点と呼ぶことにして、投入負荷と処理能力にまつわる生産ラインの基本特性についてさらに詳細に調べていきたいと思います。

前回、重要な特性項目として以下の項目を挙げました。それに屈曲点を加えます。

 生産率(生産性);単位時間での完成数
 フロータイム;投入から完成までの時間
 WIP(Work In Process;工程仕掛)
 稼働率;各工程の稼働時間/総時間
 投入負荷率;ライン投入負荷/生産能力
 屈曲点

これらの特性項目がどのような関係にあるかを理解することが生産ラインの特性を理解することに繋がります。とは言っても、合計6項目間の関係を記述することは、そんなに簡単なことではありません。条件を限定して動きを単純にしてみます。図1に示す10工程直列生産ラインを事例に分析してみます。

production_line

図1 10工程直列生産ライン

P1~P10の各工程の処理時間はすべて10分で、一定としましょう。投入から完成までワークは生産工程流動原理で流れます。今、投入時間間隔を50分とか100分とかにして、投入負荷率と稼働率を一定としてみます。投入時間間隔が100分なら投入負荷率は10%、稼働率も10%。投入時間間隔が10分なら投入負荷率は100%、稼働率も100%となります。補足しておきますが、投入から完成まで生産ラインを通過するのに100分かかりますので、条件変更して100 分以上経過後の状態を観察することにします。

これで生産率、フロータイム、WIPの3項目の関係をみてみます。WIPを基準に生産率とフロータイムをみるのが一番わかりやすいと思います。一例を図2に示します。

FIT_basic

図2 10工程直列生産ラインの基本特性;フロータイム-WIP-生産率チャート

図中、フロータイム、WIP、生産率、それと屈曲点はありますが、稼働率と投入負荷率はありません。どこに行ったんでしょう?

ワークの投入時間間隔を20分としてみましょうか。そうしますと、生産率は、単位時間を100分とすると、5個/100分となります。投入負荷は、処理時間10分に対して20分の時間がありますから50%。稼働率も50%となります。つまり、この場合、投入負荷率も稼働率も生産率と1:1の関係になりますので、投入負荷率も稼働率も生産率をみれば分かる、ということになります。

ワークの投入時間間隔が10分のとき、生産率は10個/100分、投入負荷と稼働率は100%となります。それ以上投入時間間隔が短くなると、生産率は10個/100分、稼働率は100%のままで頭打ちになりますが、投入負荷は100%を超え、フロータイムが長くなりはじめます。

WIPの動きをみてみましょう。ワークの投入時間間隔が20分のとき、工程内には5個のWIPがあります。5個のWIPはすべて工程で処理中です。1個完成しラインアウトすると同時に1個投入されますので、WIPの数は5個、一定となります。

少々分かりづらいのは投入負荷が100%を超える領域でのWIPとフロータイム。例えば、ワークの投入時間間隔を5分としてみます。工程の処理時間は10分ですので、ライン投入口にWIPが滞留するようになります。フロータイムを計測するためには時間がかかりますので、一旦(100分間以上)、投入時間間隔を10分に戻してWIPの増加を止めてフロータイムを計測していることにご留意ください。

図から分かりますように、生産率とフロータイムが屈曲するWIP数は同じです。このWIP数をC-WIP(Critical WIP)と呼ぶことにします。この図ではC-WIPは10個です。

図2には、生産管理で有効と思われるヒントがいくつか隠されています。生産管理で常に重要なのは生産性。生産性の指標は、ここでは生産率。生産率は屈曲点から右側の範囲で最大で一定になります。生産性を安定的に維持しようとすれば、投入負荷率を100%未満にならないように(100%以上になるように)すればいいことになります。わかりやすく言えば、工程が手空きにならないように常に投入を多めにすればいいことになります。

ところがこの領域では、フロータイムが長くなってしまいます。短納期の生産を行っているときは問題になります。納期を重視するときは投入負荷率を100%以下の領域で動かさなければなりませんん。

生産ラインを管理するうえで最も理想的な位置は、といえば、生産率が最大でフロータイムが最短になるところ、つまり屈曲点ということになります。

屈曲点を超えないようにしながらもできるだけ屈曲点に近いポイントで生産ラインを動かすため、生産能力を準備し、生産計画をつくり、生産は生産計画に従って行う。生産計画は生産管理の基本である、とする理由は説得性があります。

トヨタ生産方式もこのような基本特性をベースにしております。トヨタ生産方式が成立する条件は?、と聞くと、平準化、同期生産、かんばん方式、ムダの排除、、、と出てきます。ところが最も重要な条件は、なかなか出てきません。これがないと平準化も同期生産もできないんですがね~。

トヨタ生産方式成立で最も重要な条件は、、生産計画の固定、です。トヨタの場合、ローリングしながら直近の月次生産計画を固定します。3%程度の変動は許しているようですが、、。トヨタ生産方式がうまくいかない、という話をよく聞きますが、私の経験では、うまくいかない原因は、90%以上、生産計画を固定できていないためじゃないかな、、。

JITのコンサルタントなどは、トヨタ生産方式がうまくいかない会社は能力が低い、とか言っていますが、あるコンサルタントにトヨタ生産方式の成立条件はなんですか、と聞くと、しどろもどろの返事しか返ってきませんでした。トヨタ出身のコンサルタントなら大丈夫、かというと、そうでもありません。トヨタの生産管理環境での経験は、生産計画を固定できない環境では、ほとんど、役に立ちません。強権を発動したり、顧客企業の能力不足に転嫁したり、トヨタ出身だからといって“できる”コンサルタントだとは言えないようです。

「理想的な在庫量はゼロである」
「在庫ゼロを目指す」
なんていう言葉が氾濫してます。在庫管理の話ではありますが、在庫管理と生産管理は、サプライチェーンを構成するリンクとして直結し、両者の管理領域はオーバーラップします。生産ラインで在庫といえば、工程仕掛ですね。工程仕掛に2つの状態があります。ひとつは工程で処理中の状態。もうひとつは工程の前で処理を持っている状態。今回検討している条件では、屈曲点以下では待ち状態の仕掛はゼロ、すべてが処理中の仕掛となります。屈曲点を超えると投入口に待ち状態の仕掛が発生します。

図2をみれば分かるように、工程内仕掛(在庫)の理想量は10個。「理想的な在庫量はゼロである」というのは正しくありませんし、「在庫ゼロを目指し」てもいけないわけです。

生産ラインの基本的な特性を基準に現在の生産管理を眺めてみるといろいろなことがみえてきます。もっと、もっと、おもしろいことがでてきますよ。生産管理のパラダイムにも屈曲点(面)があるかもしれません。

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生産ライン;異質な特性の共存

「生産計画通りに生産を行う」
これが生産管理の基本中の基本。ではありますが、生産管理問題が一向に改善されない遠因でもあります。なんでだろう? 理由はいたってシンプル。計画の実行可能性が低いからです。言い方を換えると、生産計画(日程計画)が生産現場で、作業指示の機能を果たせなくなっているからです。では、いっそのこと、日程計画によらない作業指示のやり方はないものか、そんな目で生産管理問題を考えながら、さまよっている道中で行き当たったのが「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」です。

日程計画以外の作業指示の方法を探っているうちに、生産ラインは何に基づいて動かせばいいのか、という根本的な問いにぶつかりました。それに対して、思いついたのが生産工程流動原理です。

[生産工程流動原理]
*処理可能なワークがあれば指定された作業を行い、終了後速やかに次工程に送る
*ワークがなければ何もしないで待つ

大上段に“生産工程流動原理”なんて、仰々しい限りですが、各工程の作業はこの原理で動くのではないか、と考えました。実に、当り前のこと。水が高所から低所へ流れ下るように、ワークは上流工程から下流工程へと流れる。この原理を使うと生産管理の問題を日程計画から切り離すことができるかもしれない、と。

しかし、ワークが生産ラインを流れる様は、水が流れ落ちる物理現象と類似してはいますが、それに比し、はるかに複雑です。

複雑になる要因は、つくる製品の多様化、製品サイクルの短縮、生産技術の高度化、などなど、いろいろあると思いますが、人間の介在で巻き起こる非論理的なノイズもその一つではないか。非論理的な人間の思考・挙動を排除して、生産ラインの純粋な、基本的物理特性を理解することが、複雑な生産ラインのメカニズムを理解する近道ではないか、という思いに至るわけです。

生産ラインの特性を理解するためには、生産ラインの基本要素と基本特性を把握する必要があります。「ものづくり徒然草 No.6 生産ラインの基本要素と基本特性」及びその前後に関連事項の説明がありますので、ご参照ください。

生産ラインの特性を理解するうえで、重要な特性項目を挙げてみましょう。
 *生産性;単位時間での完成数
 *フロータイム;投入から完成までの時間
 *WIP(Work In Process;工程仕掛)
 *稼働率;各工程の稼働時間/総時間
 *投入負荷率;ライン投入負荷/生産能力

その他にも、例えば、ラインバランス、段取り時間、タクトタイム、生産ロットサイズ、歩留まり、直行率、、、などなど、まだまだありますが、もし必要なら後から追加したいと思いますので、とりあえずこの5項目をまな板の上にのせて話を進めます。

生産性はできるだけ高く、フロータイムはできるだけ短く、WIPはできるだけ少なく、稼働率はできるだけ高く、、これが生産管理の狙い。なんですが、そう簡単ではありません。相反する特性もあります。例えば、生産性を挙げようとするとフロータイムが長くなるとか、稼働率を上げるとWIPが増えるとか、、一筋縄ではいきません。

おっとっと、、。重要なことを忘れていました。変動です。バラツキです。上記の5項目は変動、バラツキの影響を強く受けます。なんの、どんな変動か、と言いますと、これもいっぱいありますが、思いつくまま挙げてみますと、
 ワークの投入時間間隔
 生産品種
 工程の処理時間
 作業者ごとの作業時間
 仕様変更
 計画・予定変更
 部品不足
 機械故障
 品質不良の発生
 工程切り替え
 段取り時間
 、、、

挙げたらきりがありません。生産ラインの基本特性はこれらの変動の影響を受けます。どのように、どの程度影響を受けるかは、それぞれ異なり、また変動要素間の相互作用もあり、その因果関係を解析するのは至難の業です。

逆にみれば、これらの変動、バラツキがないと、生産性、フロータイム、WIP、稼働率の関係がすごくわかりやすくなります。それが生産ラインの基本特性ではないか、と。複雑な生産ラインの特性を理解する前に、バラツキのない静的な生産ラインの基本特性を調べてみましょう。

生産ラインの静的な特性といっても、環境条件によって全くといっていいくらい異なった特性を示します。投入負荷と処理能力との関係で、
① 投入負荷<処理能力(投入負荷率100%未満)
のときと、
② 投入負荷>処理能力(投入負荷率100%以上)
のときで、先に挙げた特性項目間の関係が大きく異なります。

話を簡単にするため、ラインバランスは100%とします。投入負荷<処理能力では、
 *生産率は負荷率に等しい(フロータイム分の遅れはある)
 *フロータイムは各工程の処理時間の合計で一定
 *待ち時間はゼロ
 *待ち状態のWIPはゼロ(すべてのWIPは処理中)

投入負荷>処理能力では、
 *生産率は100%で一定
 *フロータイムは時間経過とともに長くなり続ける
 *待ち時間は時間経過とともに長くなり続ける
 *待ち状態のWIPは時間経過とともに増え続ける

“投入負荷<処理能力”のときと、“投入負荷>処理能力”のときでは、生産ラインの性質がまったく異なることにご注目ください。

処理能力以上の負荷をかけ続けると、待ち状態のWIPが増え続け、待ち時間そしてフロータイムが長くなり続けますので、WIPであふれ返り、納期遵守率が低下するという状態になりそうです。一方、処理能力以下の負荷では、最短のフロータイムで流れますが、待ち状態のWIPはありませんので、ラインは手空きが目立ち、生産性は低くなります。

このような生産ラインの基本特性を生産管理の視点からみますと、“投入負荷<処理能力”でもダメ、“投入負荷>処理能力”でもダメ。“投入負荷=処理能力”がベスト、ということになります。生産能力に合わせた生産計画をつくり、生産計画に合わせた生産能力を準備する。生販在会議等で生産能力と生産計画のすり合わせ行う光景はお馴染みです。

生産計画が目指す “投入負荷=処理能力”では、
 *生産率は100%
 *フロータイムは各工程の処理時間の合計で一定
 *待ち時間はゼロ
 *待ち状態のWIPはゼロ(すべてのWIPは処理中)

これが、理想的な狙いです。

現実はどうか、といいますと、生産能力と生産計画がドンピシャリと一致することはありません。必ずといっていいぐらい、ズレます。最初からズレているときもありますし、途中でズレてくることもあるでしょう。ということは、“投入負荷<処理能力”と“投入負荷>処理能力”の状態を行ったり来たりするということになります。生産ラインの特性がガラリと変わる境界線をまたいで、行ったり来たり、、。これが生産管理の宿命なんです。

さらに深刻なのは、生産ラインの特性が変わることはなんとなく認識されていても、両領域でどのように変わるのか、などについては、まったく認識されていないことです。“投入負荷<処理能力”のときと、“投入負荷>処理能力”ときでは、真逆の手を打たなければならないかもしれないのに、、。

生産現場では、納期を守れ、生産性を上げろ、仕掛・在庫を減らせ、、と日夜奮闘しているわけですが、投入負荷と処理能力との関係に気を配る方はあまりいないようです。有効な手を打てないまま停滞する現場では、「生産管理とはそんなもんだ」、と高をくくる声さえ聞こえます。

投入負荷と処理能力の関係を常に把握する。これが生産管理で最も基本的なことではないか、という視点でみると、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」解決の手がかりがつかめるかもしれません。続く、、、

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見込生産・受注生産の識別と生産ラインの特性

「生産管理の基本は実行可能な生産計画に基づいて生産が行われること」が現行生産管理論の前提条件になっています。生産計画というと大・中日程計画、工程計画などいろいろあり、その目的も多岐にわたりますが、その中でも最も基本的な役割は、工程ごとに、いつ、何をつくるか、の作業指示ではないでしょうか。限られた生産能力で、いつ、何を何個作るか、これはまさに生産管理の最も重要な機能です。

このような現在の生産管理論の大前提をベースにして、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」をどのようにして解けばいいのか、、。これまでも、問題解決への努力は、いっぱいありました。一気通貫生産方式やAPS(先進的スケジューリング)も、その努力の一環。どれもパットしませんが、、。

でも、成功例もあるんです。トヨタ生産方式です。成功の要因は“変動の極小化”。具体的には、生産計画の固定、平準化、サイクルタイムでの同期生産、、などなど、、。「受注順生産問題」では“生産順を固定”し、「処理時間変動問題」では“処理時間を固定”して解決した、と考えていいと思います。

ところが、“生産順の固定”や“処理時間の固定”は、見込生産環境でないとできません。注文を受けてから生産活動を始める受注生産環境では、トヨタ生産方式は使えないんです。世の中では、どのような生産環境でも使えるといった風潮があるようですね。一時は、病院でも、郵便事業でも、官公業務でもあらゆるところで使える、仕事の流れ管理の基本理論だ、なんて喧伝された時期もありました。そんなこともあってか、トヨタ生産方式は見込生産、受注生産の区別なく、使えると思っている方が圧倒的多いのではないでしょうか。

受注生産と見込生産。定義を確認してみましょう。
受注生産;注文が確定してから生産活動を始める。
見込生産;注文確定前に生産活動を始める。

世の生産工場では、この二つの生産方式の定義は意外に曖昧なんです。「我が社は受注生産をしてます」っていう工場に行ってみると、部品や中間組立品が工場狭し、と置かれています。こんな質問をしてみました。

問;「受注から納品まで、顧客の要求納期はどのぐらいですか」
答;「製品にもよりますが、1週間から2週間ぐらいです」
問;「部品をつくるのにどのぐらいかかりますか」
答;「1カ月から2カ月程度。月次生産で回しています」

つまりこの工場は、部品は見込生産、最終製品の組み立ては受注生産と、二つの生産方式をとっているんです。不思議なことに、受注生産ですから、最終製品在庫は基本的にはないはずですが、工場倉庫にはそれが山積みになっているんです。質問をすると、
「営業からの受注見込情報で、生産しています。注文が来てから生産するものもありますが、大部分は製品倉庫から出荷しています」

受注生産を標ぼうする企業はあまたありますが、見込生産と受注生産が混在している企業がほとんどではないでしょうか。受注生産と見込生産の区別は曖昧模糊としている現状をお察しいただければ幸いです。

このような生産環境でトヨタ生産方式を導入しようとするとどうなるか。見込生産ににしか使えないトヨタ生産方式を受注生産で使うとどうなるか。トヨタを再現できない企業が大部分である、という話が思い浮かぶわけです。

受注生産環境でトヨタ生産方式が役に立たない、ということではありません。バラツキ・変動の縮小、ムダの排除、5S、多能工、標準化、、等々、、トヨタ生産方式語録は受注生産環境でも有効なものが多数あります。しかしこれらは、トヨタ生産方式を特徴づけているわけではありません。これらの語録は見込生産でも受注生産でも、工場でのものづくりに共通するものです。

トヨタ生産方式の特徴は、ザックリと言えば、
*固定された生産計画による統制
*平準化
*サイクルタイムによる同期生産

これらの条件は、見込生産環境でないと、満たすことはできません。受注生産環境で上記の3つを実現することは不可能です。「固定された生産計画による統制」はトヨタ生産方式に限らず、現在の生産管理論の基本的前提となっております。となると、トヨタ生産方式も、さらには、一般的な現行の生産管理方式も、受注環境では使いものにならないということになります。

だとすれば、現行の生産管理の前提条件を根本的に見直さなければならなくなります。かなり、思い切った発想の転換が必要なのではないか。で、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」は、受注生産環境でも適用可能な生産管理論構築の手がかり的問題提起なんです。

ある工程では何時から何時まで、どのような作業をするか、日程計画に基づいて行います。これが、現行生産管理の基本。受注生産環境では、このような日程計画がありません(つくることができません)。で、どうするか?

日程計画以外の作業指示の方法はあるのでしょうか。もちろん、有りますよね。現場を見ればわかります。日程計画通りものが流れないことは日常茶飯。ですから、日程計画の指示通りできないことが頻発するわけです。でも、生産活動は続行しています。このとき、作業指示はどうなっているのか。様々です。生産ラインのリーダーが指示を出す場合もあるでしょう。とりあえず、目の前にある(工程の前にある)仕掛品の処理を行っているかもしれません。あるいは、営業から現場に直接催促の電話があり、それに従うこともあります。ベテランの作業員であれば、何の指示がなくても、どの作業をすればいいか自分で判断できるでしょう。

生産現場の実態をみれば、生産管理の大前提が崩れていることに気が付きます。スケジューリング(日程計画)の問題は生産管理ソフトで解決できる、とベンダーは誇大な喧伝文句をまき散らします。コンサルタントは企業の管理レベルの低さを嘆き、現行生産管理論をベースにした自説の正当性を強調します。しかし、生産管理の大前提が崩れていることの問題提起もなければ、解決への提言もありません。

このような問題の解決策は、別の言い方をしますと、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」の解決策はあるのでしょうか。難題であることは確かですが、どちらに向かえばいいのか、いきなり問題の根幹を突こうとするよりも、生産現場の現状を眺めればヒントが見つかるかもしれません。

日程計画通り生産活動が行われない現状を、反面からみれば、曲がりなりにも生産は行われているではないか、と捉えられないでしょうか。納期遵守率は低い、稼働率は低い、工程仕掛は多い、生産リードタイムは長すぎる、、などなど、不満だらけかもしれませんが、、。ときどき赤字に転落しながらも、数十年、企業は存続しているわけですし、、。事実を肯定的な視点でみるのも、発想の転換に資するのではないか、、と思うわけです。

「日程計画などなくても、ものは流れる」
無用な、いや、それ以上に混乱の根源だと疑われる日程計画があっても、ものは流れるのであれば、そんな日程計画はない方がスムーズに流れるのではないか。破れかぶれで、皮肉れた見方でしょうか。いや、案外、そんな見方が解決策に向かう方向を示しているのかもしれません。

生産ラインを流れる基本原理とは。これを確かめておく必要があります。

目的はものをつくること。これに異論はないでしょう。主要な要素は非処理物(以下、ワーク)と工程(機械設備、作業員など)。各工程は与えられた処理を行います。ワークがあれば処理を行う。なければワークが来るまで待つ。日程計画での作業開始指示とワークの有り無しでの作業開始、との違い。この違いはありますが、どちらも連鎖する工程の中をワークは流れます。これを生産工程流動原理として認識しておきます。

生産工程流動原理
*ワークあれば指定された作業を行い、終了後速やかに次工程に送る
*ワークがなければ何もしないで待つ

これは、当り前と言えば、当り前です。しかし、各工程の開始時刻を指示していなくてもワークが工程順に流れる基本原理として認識することが重要だと思います。

日程計画では投入時刻、各工程の開始・終了時刻、ラインアウトする完成時刻が指定されていますので、この通りに実行されれば、生産管理の精度はこの上ないものになります。一方、生産工程流動原理だけでものを流せば、時間の管理精度はいいかげんなものになるでしょうね。これでは、納期管理なんてできません。どうするか。

いや、ちょっと待ってください。生産ラインが空っぽの状態、つまり工程仕掛がゼロの状態で投入したワークならどうでしょう。どの工程もワークの待ち時間はゼロ、生産リードタイムは最短で完成します。日程計画では多少のバラツキや待ち時間を加味しますので、それよりは短い生産リードタイムで完成することになります。工程仕掛がいっぱいあったら、そうはなりません。生産リードタイムはグーンと長くなるでしょうね。

となると、生産工程流動原理でものを流した時の生産ラインの振る舞いがどうなるのか、これを理解することが必要になります。

複数の工程からなる生産ラインを生産工程流動原理で動かすときの生産ラインの特性、これが「生産ラインの基本特性」ということになります。

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管理方法の最適化という課題

“ものづくり徒然草”のNo.70で、これから解決しなければならない生産管理の問題は、 “「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」”ではないか、と申し上げました。

「受注順生産問題」。これは、注文が来てから生産を始める受注生産環境で起きます。何を何個、いつまでにつくればいいか、注文が来るまではわかりませんので、予め生産スケジュールをつくることはできません。注文が来てからスケジューリングするのも困難です。となると、舞い込む注文を舞い込む順に生産ラインに投入しながら、生産管理を行う、という状況が想定されます。注文ごとに仕様は異なり、数量も納期も異なる。生産ラインを流すスケジュールもない。そんな状態で、生産性、品質、納期などをどうやって管理すればいいのか、このような問題認識が「受注順生産問題」です。

「処理時間変動問題」は「受注順生産問題」と互いに密接な関係があり、重なり合っています。現在の生産スケジュール法では、最適なスケジュールを立てるためには、処理時間は固定されていなければなりません。固定されていても、“最適組合せ問題”をみてわかるように、簡単な場合以外コンピュータの計算速度をもってしても最適解は得られず、様々な妥協的方法でしのいでいるのが現実です。ましてや、処理時間が変動したのでは、スケジューリングは不可能だ、と言い切っていい。で、どうするか。これが「処理時間変動問題」です。

この二つの問題、これまで様々な方がチャレンジしてきました。というと、「そんな問題、聞いたことないよ」と言われそうですが、先に取り上げた“一気通貫生産方式”もAPS(先進的スケジューリング)も、実は、この二つの課題に取り組んだ事例だとみることができます。

“一気通貫生産方式”の方は、ずぶの素人が竹槍を持ち突っ込み、五里霧中の中でもがいている、といった感じ。APSは大学教授やシステムエンジニアたちが、IT技術でなんとかなるんじゃないか、という軽いノリで始めてみたが、壁にぶつかり頓挫、というところでしょうか。

その他にも、挙げればきりがないくらいあるんじゃないでしょうか。ある大学教授に聞いたところ、「そのような研究課題に取り上げようと調べてみたが、多忙になりあきらめた」「海外では、それに関する論文がたくさん出ている」というようなことを教えていただきました。ボードに張り出した生産予定表上にタスクのカードを貼って、ある時間ごとに進捗状況に合わせてカードを動かす、といった努力賞的アイディアもあります。

この二つの課題、生産管理が抱える中心的問題領域に位置するわけで、未だこれといった有効な解決策には至っていない、という難しい問題なんです。で、どうゆうふうに解けばいいか。そんなに簡単に解ける問題ではないことだけは確かです。浅学菲才な頭を絞っても、何も出てきそうにありませんので、先人の知恵に頼るしかありません。使えそうな理論、法則、考え方など、探してみましょう。

生産管理の問題を論理的に解く試みはOR(オペレーションズ・リサーチ)で行われています。中でも待ち行列理論。この理論を応用して生産管理や在庫管理の問題にチャレンジしています。待ち行列理論というのは、例えば、ATMが5台あって、××時間に平均○○人が来るときの待ち時間や待ち行列は何人になるか、といった問題で知られています。生産ラインでは、人を非加工物、ATMを処理工程と置き換えれば、工程間の待ち時間、工程仕掛数、生産リードタイムなどが計算できます。今の生産管理では、待ち時間を論理的に算出する、なんていうことにはあまり関心がありませんが、生産リードタイムを議論するときには、重要な要素です。

生産リードタイムは各工程の処理時間と工程間で待つ待ち時間で構成されます。生産ラインの総処理時間は各工程の処理時間を合計して求められますが、待ち時間はそう単純ではありません。稼働率が70%~80%ぐらいからスキージャンプ台を見上げるようなカーブで待ち時間、待ち行列が長くなります。スーパーの買い物ラッシュアワーに、レジの行列が急に長くなる、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

各工程の処理時間が分かり、稼働率が分かれば生産リードタイムや工程仕掛数が計算できる、となると、生産管理の理論も一気にレベルが上がるんじゃないか、って、思いませんか。待ち行列理論は使えそうですね。

統計理論も必要でしょうね。受注の間隔はランダム、生産品種は多様化しその処理時間のバラツキは大きく、納期はますます短くなる。どうしても変動要素を考慮しないと現実的、実用的な解決策には結びつかないのではないか。なので、統計理論は必須。

ちょっと戻って、ORについて、再確認しておきたいことがあります。

“ORとは、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法である。また、複雑なシステムの分析などにおける意思決定のための数学的技術でもある。ORの研究では、線形計画法(linear programing)、動的計画法、順列組み合わせ、確率、最適化および待ち行列理論、微分方程式、線形代数学などの数学的研究を踏まえて、現実の問題を数理モデルに置き換えることで、合理化された意思決定が可能となり、定量的な問題についても最適化を行うことができる。”

複雑な生産システムを分析し数理モデルに置き換え、最も効率的な計画を立案し、定量的に最適で、合理的な意思決定をベースにした生産管理ができる。統計理論を含めて、ORに対する期待が膨らみます。

FACTORY PHYSICSというものもあります。ご存じでしょうか。ミシガン大学のWallace J. Hoppが著し、提唱しているものです。生産システムに関する基本を理論的にまとめたものです。生産管理、サプライチェーンマネジメント、生産技術などを学ぶ学生の教科書として使われています。

教科書っていうのは、これまでに知られた知識をできるだけ公平なポジションで記述しているのが一般的です。FACTORY PHYSICSもそのたぐいの書で、内容はいたって“コンサーバティブ”ですが、信頼性も高いように思われます。

もちろん、「処理時間変動問題」とか「受注順生産問題」などに関連することがらは含まれているようですが、答えが記載されているわけではありません。参考になる記述は結構あるようです。ただ、物理学の本を読んでいるようで、難解なんです。

少し斜め上から俯瞰してみましょう。実は、OR、待ち行列理論、統計理論、FACTORY PHYSICSのなかで取り上げられる生産管理の問題と「受注順生産問題」「処理時間変動問題」との間に、視点のズレがあるように感じられるのです。前者は生産性とか、生産リードタイムとか、より良い解や最適解を求めることを主眼にしています。が、後者は生産システムの管理をどのように行うのがいいのか、に重きを置いています。

前者は、例えば、生産リードタイムを最短にするとか、単位時間当たりの生産数量を最大にするとか、設備の稼働率を最大にするとか、、、それぞれの問に対しての答えを出します。しかし、その答えが、企業として最適かどうかとは必ずしも一致しません。顧客の納期に間に合わせなければならないという状況であれば最短の生産リードタイムが優先されますし、生産数量を確保しなければならないのであれば単位時間当たりの生産数量を最大にすることが優先されることになります。環境によって、最適項目が変わるんですね。

つまり、前者は個別の問題に対しての最適解を求めるのに対して、後者は経営の視点から生産管理の最適な管理方法は何か、という課題にチャレンジしている、という違いがあることに留意しておきたいと思います。

個別課題の最適化ではなく、時々刻々と変化する環境条件に合わせた管理の最適化法を模索する、つまりその時々で、何を優先するのかを判断し、策を講じるということですので、かなり高度になるかもしれません。数式だけでは手に負えません。多面的、複眼的、実用的視点からより立体的にみる必要がありそうです。こんなときに役に立ちそうなのが、待ち行列理論をベースとしたシミュレーション・ソフトではないか、と考え、これも道具箱に加えました。

IoTに代表される第4次生産革命はすでに始まっています。様々な情報がリアルタイムで取り込めるようになり、コンピュータの処理能力もさらに向上するでしょう。しかし、今のままの生産管理の在り方では、そのような変化を有効に取り込むことはできません。生産管理の在り方を根本的に変えなければなりません。「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」は、第4次生産革命で顕在化する問題だ、とも言えます。生産管理の在り方を根本的に変革するきっかけになれば、と考えているところです。

今回は、“雑談・放談”にしては、ちょっと、堅い話になってしまいました。ただ、このような話題を追いかけていくと、魑魅魍魎の世界に入って行きそうで、根拠のない怪しげなはなしにならないように、アンカーを下しておいた方がいいかな、と思った次第です。

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統計学不在の在庫管理論の危うさ

ここ数カ月、ある在庫管理の書の著者と意見交換をしておりました。書に記述されている事柄について、私の方から質問したのがきっかけでした。結構、丁寧にお応え頂きました。その中でわかったことは、、うーん、、これって、意外に深刻な問題かもしれない、、ということでした。

この書の主張は、特に“初心者”向けに、“在庫管理をより簡単に”、というねらいで、一般的な在庫管理では在庫量を“実数”(SKU、商品単位、ケース単位、、、)で管理するところを “実数”ではなく“日数”で管理するところにあるようです。具体的には、
*1日あたり平均出荷量
*出荷対応日数
*リードタイム日数
*在庫日数
*安全在庫日数
*発注点は「〇日分」
*発注量=1日あたり平均出荷量×在庫日数

とことごとく“日数”でいうんです。
「“実数”で管理するより“日数”で管理する方がわかりやすい」
確かに、そのような“感じ”がします。初心者にとっては受け入れやすい説明なんでしょう。この考え方を“日数基準”と仮称しておきます。

しかし、書を読んでみると、「なんか、変だな?」と思うところがところどころに出てくるんです。例えば、
倉庫を集約しても在庫は減らない
リードタイムと在庫量は無関係
「1日あたり平均出荷量」で売れ行きの変化をつかむ
出荷がない日は「平均出荷量」の計算対象から除く
など、ですが、その他にも、たくさんとは言わないまでも、結構ありますね。

項目ごとに質問いたしました。私が知りたかったポイントは、「“バラツキ”をどのように捉えているのか」、でした。で、わかったことは、著者は“バラツキ”に対しての関心はあまりない、ということです。本書全体をみても“バラツキ”に関する説明はほとんどありません。

“バラツキ”の性質は統計学で議論されています。本書には統計学をベースにした説明がないんです。私が聞きたかったのは統計理論に基づいた説明だったんですが、、。

実は、こう言う私も、統計学はずぶの素人。統計学をきちんと勉強したことはありません。といっても、統計学と全く縁がなかったかといえば、そうではありません。

私は長い間、工場でものづくりを担当していました。ある時、品質管理グループに配属されました。そこでは、出荷品の品質保証のため、抜き取り検査をしていました。抜き取り検査の方法はJISで設定されていて、検査表の使い方がわかれば、AQL(合格品質水準)が何%なら抜き取り数は○○とすぐわかります。統計学の知識は不要です。

そのうち、生産工程の品質管理体制の構築にチャレンジしました。工程品質を管理するため x ̅-R管理図 を用いることにしました。マニュアルに従って、データを集め、UCL(上方管理限界線)、CL(中心線)、LCL(下方管理限界線)を設定し、、、というあたりから、統計学に接するようになりました。データの分析にヒストグラムをつくり、平均、分散、標準偏差という言葉を使うようになりました。さらに、相関図、実験計画なども試してみました。

しかし、統計学そのものを勉強したわけではありません。実務に必要な部分から統計学に接しただけです。ですから、統計学については素人の域を出ません。

そんな私の統計学のレベルからみて、本書の著者の統計学のレベルはさらに低く見えるわけです。ほとんど、統計学には接してこなかったのではないか、と思われます。著者はどうやら“物流業界”の方のようで、物流業と製造業との違いがあるのかもしれません。

戦後の日本の製造業の復興に品質管理が果たした役割は大きかったのではないかと思います。QC活動、TQM、最近ではシックスシグマと名称は変われど、背後には統計学がありました。品質管理の本をみても違和感を感ずることはほとんどないのは、それを支える理論があり、衆知されているからなのではないか、と思っております。

在庫管理に目を向けると、どうでしょうか。在庫管理も、“バラツキ”がなければ四則演算で事足ります。しかし、“バラツキ”のない在庫管理の環境って、あるでしょうか。実際の在庫管理では“バラツキ”を避けて通ることはできません。“バラツキ”を扱う統計学の基礎知識なしに在庫管理論を宣(のたま)うことはできないんだと思います。

在庫管理になぜ、統計学が無視され続けているのか、不思議なぐらいです。工場では、品質管理も在庫管理もオーバーラップする領域で行われています。品質管理では統計学をベースにした議論が行われているのに、隣の在庫管理者は統計学の話はあまりしない。

今回取り上げた在庫管理の本以外にも在庫管理の書はたくさんあります。Websiteもたくさんあります。そちらに視野を広げてみますと、中には、統計学をベースにした在庫管理論を展開している本もあります。待ち行列理論やOR(オペレーションズ・リサーチ)の応用領域として在庫管理に言及している書もあります。ですが、それらは少数。多くの書は論理的正確さに欠けるものが多いように思います。

取り上げた書はその典型ではないでしょうか。“日数基準”は一見、日常の管理に沿ったわかりやすい在庫管理の方法だと思われるようですが、統計学からみれば何のメリットもありません。オペレーションを煩雑にして余分な在庫を増やすだけです。この“日数基準”をベースとした在庫補充法を本書では“不定期不定量発注法”と呼んでいます。そしてこれが「最も変化対応力の強い“不定期不定量発注法”」だ、と。まったくの虚偽です。

さらに問題だなと思うことは、“日数基準”なる錯覚的誤認が長いこと(20年ぐらい?)世に受け入れられてきたことです。この考え方は好意的に受け止められ、他の在庫管理コンサルタントや教育機関でも採用されています。統計学にちょっと接した私でも見抜ける誤認を、在庫管理を専門とする御仁が見過ごす。見過ごすどころか、好意的に受け取る現状をどうみればいいのか。失われた10年が20年になり、30年を超える製造業の停滞。その一因となっているとしたら、忌々しき問題ではないでしょうか。

尚、この書に対する解説を当Website
“ものづくり徒然草” https://www.tocken.com/kandan.html
で順次、公開してまいりたいと思います。統計学不在の在庫管理論の危うさを感じ取っていただければ幸いです。

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