Flexscheの解説;チコちゃんの反応は?

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「Asprova解体新書」をきっかけに、生産スケジューラの機能などについて調べてきました。ザックリと言えば、「固定時間しか扱えない生産スケジューラでは、バラツキを避けられない現実の環境で、実行可能なスケジュールを生成することはほぼ不可能である」、となります。もちろん限定的な条件では使えるケースもあると思いますが、、。

Asprovaだけか? という疑問が湧いてきます。「生産スケジューラー 製品ランキング」をみますと、生産スケジューラ・ヴェンダーって、いっぱいあるんですね。他の生産スケジューラって、どうなってんだろう、、。
生産スケジューラのWebsiteをググっていると
「多様な製造業のニーズに適応するための柔軟性」
「時間軸を重視した工場運営」
「鍵は生産リードタイム短縮」
なんていう文面でひっかかりました。Flexscheという会社です。私が気にしている生産スケジュールの柔軟性とは、主に、時間軸上の柔軟性ですから、もしかしたら、秘策があるのでは、、。ということで、FlexscheのWebsiteを覗いてみることに、、。「解説記事」にいろいろ書いてありそうです。

「Asprova解体新書」で得られた知見をベースに、キーワードを挙げると、生産リードタイム、作業時間、待ち時間、、、そして変動、ゆらぎ、バラツキ。マスタデータのフォーマットも重要ですね。

(1)生産リードタイムと待ち時間

解説記事 生産スケジューラ導入の秘訣
第2回:生産リードタイムを短縮せよ(Website リンク)
に次のような説明があります。(引用部分は文字色を変えてあります。引用元全文のコピーを文末に掲載し、引用部分は赤字で表示しております。)

生産リードタイムには、正味の作業時間と待ち時間とが含まれます。このうち、通常は、待ち時間の方が圧倒的に長く、また、短縮もしやすいものです。待ち時間は様々な原因によって発生します。それらを明らかにして、影響や効果の大きいものから改善していくべきです。

なお、どこでどのような待ちが発生しているかも、生産スケジューラであぶり出すことができます。 さらに、どのような改善を行えばどのような効果が得られるかも、生産スケジューラを活用すれば定量的にシミュレーションすることができます。


「生産リードタイムは作業時間と待ち時間が含まれ、待ち時間の方が圧倒的に長い」
同感ですね。そして、
「どこでどのような待ちが発生しているか、生産スケジューラであぶり出すことができ、改善効果も定量的にシミュレーションできる」
と。待ち時間を定量的にシミュレーションできるとありますが、、、本当なんでしょうか?
メールしてみました。

「生産スケジューラで、待ち行列現象による待ち時間を分析できますか?」

こんな返事が来ました。

「質問内容の抽象度が高いため、メールにて弊社見解をお伝えすることは難しいと考えております。」

字面はともかく、背後の意味は「できません」。って、すぐわかりますよね。苦し紛れの典型みたいな回答でした。

(2)変動、ゆらぎ、バラツキ

待ち時間の発生に関係する要因として、バラツキがあります。変動が大きいと、特に稼働率が高い領域では、待ち時間は急激に長くなります。サイト内の検索機能がありましたので、変動、ゆらぎ、バラツキなどをキーワードにして、検索してみました

解説記事 時間と闘う製造業の生産スケジューリング
第2回 生産スケジューリングで製造業を変える(Websiteリンク)
に次のような説明があります。(引用部分は文字色を変えてあります。引用元全文のコピーを文末に掲載し、引用部分は赤字で表示しております。)

現実の世界ではさまざまな変動要因や「ゆらぎ」が不可避なものとして存在するので、生産スケジューラがはじき出した「理論上の納期」をそのまま顧客に伝えるのではなく、安全のためにバッファ時間を加算して回答しましょう。

突発的に発生する変動要因には以下のようなものがあります。発生時に速やかに計画を更新するとともに、「ありうべきこと」としてあらかじめある程度計画に余裕を持たせておくことも必要です。

 機械の故障
 作業員の欠勤
 緊急の飛び込み受注
 資材入荷の遅れ
 外注先からの納品の遅れ

一方、確率的に常に発生するゆらぎの要因には以下のようなものがあります。計画段階で時間的なバッファをある程度持たせることによって、これらを織り込んでおく必要があります。

 気温や湿度による作業時間の変化
 調達した原料の品質のばらつき
 不良品の発生
 人手による不定な作業時間


変動、ゆらぎ、バラツキなどを不可避なものと捉えていることには同意します。主な対応策はバッファー時間、余裕時間を入れること、という説明です。

しかし、やっぱり、待ち行列現象による待ち時間はどこにも見当たりません。待ち行列現象による待ち時間って、そこに挙げてある時間変動よりはるかに大きいんですがねぇ~。

(3)どのようなデータを扱うことができるか

マスタデータのフォーマットをみてみましょう。時間値は、他の生産スケジューラと同じで、固定値です。確率変数や確率分布で入れられるようにはなっていません。だとすれば、待ち行列現象による待ち時間は計算できません。

(4)「待ち時間」に関する記述

サイト内の検索機能で、すべての「待ち時間」を検索して、待ち行列現象による待ち時間の説明があるかどうか、調べてみました。残念ながら、そのような説明は見つかりません。

[結論]

Flexscheは、オーダ(ワーク)投入時間間隔や作業時間(処理時間)の変動(ゆらぎ、バラツキ)がある環境で、実行可能な作業開始・終了時刻を指定するスケジュールの生成は、ほぼ、不可能である。

第3回:生産スケジューラの活用方法のバリエーション(Websiteリンク) に活用方法が紹介されています
(引用部分は文字色を変えてあります。引用元全文のコピーを文末に掲載し、引用部分は赤字で表示しております。)
活用方法1 シミュレータとして
活用方法2 スケジューラとして
  活用方法2-1 中央集権型
  活用方法2-2 分権型


実行可能なスケジュールの生成ができないとなれば、このような活用方法は、“絵にかいた餅”、、じゃないでしょうか。他の使い方は、、あるかもしれませんが、、。

(5)チコちゃんに叱られないようにしましょう!

解説記事 時間と闘う製造業の生産スケジューリング
第2回 生産スケジューリングで製造業を変える(Websiteリンク)
に次の記述があります。(引用部分は文字色を変えてあります。引用元全文のコピーを文末に掲載し、引用部分は赤字で表示しております。)

1990年代には米国でも数多の生産スケジューラのパッケージソフトウェアが販売されていましたが、ほとんどはERPヴェンダーに買収されてしまい、MRPの下位モジュールと位置付けられました。そのため単体製品としての生産スケジューラはあまり出回っていないようです。

一方、日本ではなぜかしらそのような経緯が無かったため、日本の生産スケジューラは独自の進化を続けており、機能的には世界でもトップレベルにあるはずです。それはたぶんおそらくそれは、卓越した日本の製造業のハイレベルなニーズに日々応え続けているからでしょう。


米国で生産スケジューラが出回っていない、というのは同感です。2000年中~後半にかけて、ほとんどなくなったのではないでしょうか。なぜか? 「Asprova解体新書」にその手掛かりが書いてあります。

米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。(13ページ)

背景を簡単にまとめますと、1990年、米国Northwestern UniversityでMaster of Management in Manufacturing programが始まりました。教科書として用いられたのが、Factory Physics; Hopp、Spearman著、Waveland Press発行。

Factory Physicsでは書名が示すように、生産ラインのメカニズムを物理的・工学的に解析、分析しています。その中で、変動、ゆらぎ、バラツキがある一般的な生産環境では、作業開始・終了時刻を指定する実行可能な生産スケジュールの生成は不可能である、と説明しています。この考え方が定着してきて、生産スケジューラ・ヴェンダーは撤退していったとみるのが妥当だろうと思います。

それも知らずに「世界のトップレベルにある」とは、、。こんなふうに書き換えればいいんじゃないでしょうか。

;一方、日本ではなぜかしらそのような経緯が無 を知らなかったため、日本の生産スケジューラは独自の進化 退化を続けており、機能的には世界でもトップレベル 最低レベルにあるはずです。それはたぶんおそらくそれは、卓越した日本の製造業のハイレベルなニーズに日々応え レベルを劣化させ続けているから ことでしょう。;



チコちゃんに叱られないようにしましょう!

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株式会社フレクシェ 代表取締役 浦野 幹夫様より、本Blog掲載に際して、以下のメールをいただきました。Web会議の要望がありましたが、「会話の内容を公にしない」という条件付きでしたので、それには同意しませんでした。2番目の要望は、引用元全文(メールも含めて)を示せ、とのことでしたので、こちらの要望に応じることにしました。

以下、メールのコピー
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株式会社フレクシェの浦野と申します。
弊社の望月とのやりとりを引き継がせていただきます。

貴殿のブログの草稿を拝見しました。

当方からはWeb会議であれば応じさせていただく旨をお伝えしたにもかかわらず、その事実を伏せた上、文面を部分的に引用して「苦し紛れの典型みたいな回答でした」と言われるのは私としては甚だ不本意です。

貴殿の質問に回答するにはそれなりの工数・コストを要します。存じ上げもせず自己紹介すら無い方からの不躾な質問に、手間をかけて回答文面を作文する必要はないと判断しましたが、短時間のWeb会議であれば時間を割くことには吝かではありません。知らない方から唐突に攻められる理由が分からず当惑しているのですが、それを明らかにするためにも、ぜひともWeb会議でお話をさせていただく存じます。

それでもなお貴殿がWeb会議を避け、ブログ掲載だけを強行されるというのであれば、やむをえません。ただし「恣意的な抜粋」ではなく(当メールも含めて)文面全体を漏れなく改変なく引用してください。「恣意的な抜粋」をされるのであれば、しかるべき対応を検討せざるをえません。

生産スケジューリングに関して貴殿個人の意見・評論を表明することはもちろん自由ですし、生産スケジューリングの議論の活性化につながるのであれば好ましいことですが、そのために弊社を一方的に踏み台にして巻き込まないでいただきたいです。

よろしくお願いします。
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以下は、引用元全文のコピーです。引用部分は赤字で示しております。
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第2回:生産リードタイムを短縮せよ
2011.11.30

キーワードは「多品種少量・短寿命・短納期」

造業を取り巻く環境は大きく変化しています。
かつて日本が貧しかった頃は、欲しい物は皆同じでした。たとえば「テレビ・洗濯機・冷蔵庫」が「三種の神器」と呼ばれました。その後、高度成長期に入ると、今度は「カラーテレビ・クーラー・自動車」が「3C」または「新・三種の神器」と呼ばれるようになりました。
その後も、色々な「三種の神器」が提案されたのですが、これらの名称はほとんど浸透しませんでした。その理由は、名称が定着する前に商品自体が普及してしまったからだろうと思います。例えば「デジタルカメラ・DVDレコーダー・薄型テレビ」が「デジタル三種の神器」と呼ばれたそうですし、2003年にも小泉首相が「食器洗い乾燥機・薄型テレビ・カメラ付携帯電話」を「新三種の神器」と命名したそうです。「カメラ付携帯電話」とは、今にして思えば「普通のケータイ」のことです。「神器」というほどの希少性はもはやありません。今の神器は「3Dテレビ・乾燥機付き洗濯機・スマートフォン」というところでしょうか。ただしこれらも数年のうちに一般家庭に普及することでしょう。
市場で認識されてから普及するまでの期間がこれほどまでに短くなると、「神器」も大変です。あっという間に世代交代を余儀なくされます。
日本の製造業が努力を続けて品質を向上させ、輸出を拡大した結果、皮肉なことに円高が進み、現在では安価な輸入品があふれるようになりました。それに対抗するために日本製品の価格も下がり、さらに少子化も加わって、日本は深刻なデフレに長く苦しんでします。価格競争を続けるのは苦しいので、付加価値で差をつけようと、各社が激しい製品開発競争を繰り広げています。そのスピードは非常に速く、正に日進月歩です。
その結果、長期にわたる大ヒット商品は影を潜め、多様な商品が登場しては消えていくようになりました。つまり「多品種少量」かつ「短寿命」です。短寿命となると、販売店は必然的に「売れ筋の商品を早く持ってこい」と要求します。つまり「短納期」です。
こうして、多くの製造業が「多品種少量・短寿命・短納期」への対応を迫られるようになりました。

「製造業のジレンマ」

この「多品種少量・短寿命・短納期」という要求は、実はかなりの難題です。
まず「多品種少量」、すなわち、多くの種類の製品を少しずつ生産すると、段取り替えが増え、生産性が低下します。また他の製品が生産されている間、待たされることになります。さらに、どの製品の生産を優先するかの判断が難しくなります。その結果、通常は、生産リードタイムが長くなります。
でありながら「短納期」です。もしも納入に許されるリードタイムが生産リードタイムよりも短いのなら、注文を受けてから作り始めたのでは納期に間に合いませんから、あらかじめ作りだめしておくしかありません。生産リードタイムが長くなるほど、その間の機会損失を減らすためには多くの在庫を確保しておくことが必要になります。たとえば、生産リードタイムが1年で要求が即納の場合は、1年分の需要を予測し、その分の在庫を抱えておくことになります。生産リードタイムが1カ月なら1カ月分、1日なら1日分で済みます。さらに「多品種」の場合には、在庫を確保しておくべき品種数も多くなります。在庫切れを防ぐための安全在庫を一品毎に確保しようとすると、少品種多量生産に比べてトータルの在庫量も多くなってしまいます。
これに「短寿命」が追い打ちをかけます。貯め込んでおいた在庫品も、そのうち消費者の関心を失い、売れなくなってしまうのです。いわゆる「不良在庫」です。特に完成品の不良在庫は最悪の無駄です。材料を使って人手と時間をかけて生産して、さらに場所を取って保管して、その挙句に捨ててしまうのですから。
つまり、「在庫を持たなければ納期遅れor機会損失」「在庫を持てば不良在庫」というわけです。今、多くの製造業が、このジレンマに苦しんでいるはずです。
ではどうすればよいのでしょうか?

鍵は「生産リードタイム短縮」

この難題を解決するための鍵は、「なんとかして生産リードタイムを短縮すること」です。
生産リードタイムを短縮して、要求リードタイムよりも短くできれば、受注してから生産すればよく、在庫が不要になります。こうなれば理想的ですが、そこまで短縮できなくても、生産リードタイムが短いほど機会損失を防ぐための在庫量が少なくて済みます。また生産リードタイムを短縮することで、半製品や共通部品を在庫として蓄えておき、受注してから生産に着手しても間に合うようになれば、完成品在庫を保持するのに比べて不良在庫化リスクを減らすことができます。また生産リードタイムが短いほど、需要予測の期間が短くなり、したがって予測の精度も上がります。
このように、生産リードタイムを短縮すればするほど、在庫を減らすことができ、キャッシュフローを改善できるだけではなく、不良在庫の危険も小さくなります。

生産リードタイムを短縮するには

ではどうすれば生産リードタイムを短縮できるのでしょうか。

生産リードタイムには、正味の作業時間と待ち時間とが含まれます。このうち、通常は、待ち時間の方が圧倒的に長く、また、短縮もしやすいものです。待ち時間は様々な原因によって発生します。それらを明らかにして、影響や効果の大きいものから改善していくべきです。
なお、どこでどのような待ちが発生しているかも、生産スケジューラであぶり出すことができます。 さらに、どのような改善を行えばどのような効果が得られるかも、生産スケジューラを活用すれば定量的にシミュレーションすることができます。


生産スケジューラを上手に活用することで、短期的なものから長期的なものまで、様々な意思決定のための判断材料が得られます。

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第2回:生産スケジューリングで製造業を変える

生産スケジューリングとは何か

前回は製造現場の計画立案全般についてお話ししましたが、今回は生産スケジューリングおよび生産スケジューラについて詳しくご紹介します。
前回の記事で紹介したように、多くの計画手法では概(おおむ)ね「今日はこれとこれをやって、明日はあれとあれをやる」というように、ある一定の時間枠(1週間、1日、1時間などのタイムバケット)の中で行うべき仕事を積み上げていきます(負荷山積み計画)。それに対して生産スケジューリングは「何時何分から何時何分の間にこれをやって、その後何時何分まであれをやる」というように、1つのリソース(機械や人など)で同時に実行できる作業の数や量の範囲内で時間軸上に並べていく方法です。生産スケジューリングが有限能力スケジューリングともいわれる所以です。
また負荷山積み計画では、一連のいくつかの作業を便宜的に1つの工程とみなすことが多いようです。1つの工程が1つのタイムバケットの最初から最後までを占めるため、工程を細分化すると全体のリードタイムが極端に長くなり使い物にならないでしょう。それに対して生産スケジューリングでは、基本的には利用するリソースが変わる都度、独立した工程であるとみなします。


図1 負荷山積み計画と生産スケジューリング

各リソース上において異なるロットの作業同士の相互干渉を解決しつつ、連続した時間軸上で各工程の作業時間と時間帯を緻密に(秒単位まで!)計算することで、工程間の無駄な待ち時間を削り落としてリードタイムを短縮すること。これが生産スケジューリングの本質であるといえます。工場内の各リソース上での作業を時間軸上でシミュレーションするわけです。
ところで、場合によっては広義に「生産スケジューリング」という用語が負荷山積み的手法まで含むものとして使われることもありますが、本稿での「生産スケジューリング」はあくまで狭義に時間軸上に作業を並べていく手法だけを指しているものとしてご理解ください。

リソースガントチャート

生産スケジューリングの中心的な表現手段はガントチャートです。
ガントチャートとは、20世紀初期に米国のHenry L. Ganttがプロジェクト進捗管理の手段として考案した視覚化ツールであり、横軸を連続した時間軸とし、作業の開始日時と終了日時を横棒(バー)で表現した図表です。
ガントチャートの縦軸は目的によりさまざまです。多くの場合、縦軸は工程(作業)であり、1つの行には1本のバーが描かれます。一方、生産スケジューリングで主に利用するガントチャートは「リソースガントチャート」と呼ばれるもので、工程ではなく機械や人などのリソースが縦軸となります。工場では1つのリソースを多くのロットが順番に利用していくわけですから、リソースガントチャートの1行には多くのバーが時間軸方向に並んで描画されるのが特徴的です。これにより、有限能力ならではのロット同士の排他的な関係(山積みされないこと)が表現されるのです。


図2 生産スケジューラのリソースガントチャート

「モデリング」と「ルール」が肝

生産スケジューリングにおいて、現実の工場での作業の流れを適切に表現するために、どのようにリソースや工程を表すべきかを決めるプロセスを「モデリング」と呼びます。モデリングとはガントチャート上で最終的にどのような絵が描かれるべきかを考えることである、と捉えることもできます。例えば、人が事前に準備(段取り)しておくだけで製造は自動実行されるということであれば、下図のようにモデリングします。


図3 自動製造のモデリング

モデリングの結果、各ロットの個々の工程のための「作業(operation)」が無数に出来上がります。リソースガントチャートの各リソース上に作業を割り付ける処理が「スケジューリング」というわけです。
無数にある作業をリソースガントチャート上にどのようにどのような順番で並べていくか決めるための手順は「ルール」「ロジック」などと呼ばれます。工場によって事情は異なるので、現場とニーズをしっかり分析して適切にルールを組み立てることが重要です。例えばある工程において作業順序が切り替えコストやスループットを左右するのであれば、単に実行可能なだけでは不十分で、作業の並び順を適正にコントロールしなくてはなりません。従来は計画担当者の頭の中にあったノウハウをルールとして客観化して実行するのです。
具体的なモデリングの方法とルールについては回を改めて紹介しますが、ひとまずここでは、生産スケジューリングの肝は「モデリング」と「ルール(ロジック)」である、とだけ理解していただければ十分でしょう。

それって、やり過ぎではない?

「何時何分何秒まで計算するだって? それはやり過ぎでしょ。そんな計画を立てても、現場で実行できるわけないじゃない!」
直感的にそう思われたとしても仕方ないでしょう。実際、計画と実行は一致しないことを前提として運用するべきです(そのために生産スケジューラには実績情報も入力するのですが、それについては別の回で)。重要なのは、できるだけ計画に沿って作業する努力をすること、そして少なくとも「この計画どおりに作業をすれば、回答した納期どおりに完成させられる」という確信を持てるということです。
目標とすべき計画が存在しなければ製造現場は五里霧中で不安となり、各工程の前に仕掛かり品(中間在庫)の山を積み上げてでも前倒しで作業を進めたくなります。あるいは優先すべき作業を気付かずに後回しにしてしまうかもしれません。
「理想」の近似としての計画があれば、たとえその通りに実行できなかったとしても現状を「理想」からの差異として客観的に把握できます。だからこそ、製造現場は整然と機能するのです。そして計画の精度が高ければ高いほど、現場のレベルも引き上げられることになります。計画と実績の差を縮めるべく頑張ることが明確な目標となるのです。「どうせ実行できないのだから、精度の高い計画は要らない」と言い訳すべきではありません。
計画とはそういうものなのです。


図4 計画のレベルが現場のレベルを制限する

「データの設定が大変でとても使えない!」という声もあるでしょう。もちろん、生産スケジューリングに最高の成果を求めるのであれば、かなり詳細にモデリングし、大量のデータを用意することは避けられません。とはいえ、まずはシンプルなモデリングで限定的に運用し、スキルの向上に伴って次第にデータを詳細化していく、あるいは対象工程を広げるといった進め方をすれば、無理なく導入できるでしょう。
そこそこの運用でもそれなりのメリットは引き出せますが、生産スケジューリングの真価を発揮するためには気概と不断の努力が求められます。モノづくりとは、本来そういうものではないでしょうか。

変動要因とゆらぎ

現実の世界ではさまざまな変動要因や「ゆらぎ」が不可避なものとして存在するので、生産スケジューラがはじき出した「理論上の納期」をそのまま顧客に伝えるのではなく、安全のためにバッファ時間を加算して回答しましょう。
突発的に発生する変動要因には以下のようなものがあります。発生時に速やかに計画を更新するとともに、「ありうべきこと」としてあらかじめある程度計画に余裕を持たせておくことも必要です。
• 機械の故障
• 作業員の欠勤
• 緊急の飛び込み受注
• 資材入荷の遅れ
• 外注先からの納品の遅れ
一方、確率的に常に発生するゆらぎの要因には以下のようなものがあります。計画段階で時間的なバッファをある程度持たせることによって、これらを織り込んでおく必要があります。
• 気温や湿度による作業時間の変化
• 調達した原料の品質のばらつき
• 不良品の発生
• 人手による不定な作業時間


一般に完成までの工程数が多いほどゆらぎの影響を受けやすく、バッファも余分に必要となります。変動やゆらぎの程度はまちまちなので、工場によっては多くのバッファを必要とするかもしれません。そこで「結局バッファが必要になるのならば、精度の高い計画は要らないじゃないか」という意見もありそうです。しかしこれは、計画自体の精度の低さを補うためのバッファと、変動・ゆらぎを吸収するために論理的に不可欠なバッファを混同するために起こる誤りであり、精度の高い計画立案の意義を損なうものではありません。精度が高いからこそ、バッファを最低限で済ませられるのです。
変動やゆらぎを過度に意識して悲観的になる必要はありません。主に人的要因による変動やゆらぎが極端に多い分野を扱う「プロジェクト管理」では、一連の工程の各段階にある程度大きなバッファ時間を持たせなくては達成可能な計画が成立しませんが、各工程の作業時間を比較的安定して見積もれる製造業において事情は遥かにましです。各工程間のバッファは少なく抑えて、生産スケジューラを利用して総リードタイムが短いタイトな計画を立て、回答納期にある程度の余裕を持たせるといった使い方が通用するからです。当然ながら、どの程度計画をタイトにできるかは工場によって異なります。
製造業でも、ボトルネック工程の前には計画段階で十分なバッファを持たせなくてはならない場合がありますが、これについては次回以降で述べます。また変動・ゆらぎの多い分野(造船、大型装置製造など)での生産スケジューラの活用についても次回以降で。

生産スケジューラ

その処理量の膨大さと複雑さのため、通常は生産スケジューリングを手作業で行うことはありません。「生産スケジューラ(Production scheduler)」と呼ばれるコンピュータソフトウェアを利用します。
ちなみに、近ごろは”APS(Advanced Planning and Scheduling)”という米国製3文字語が出回っているようです。本来の言葉のニュアンスとしては生産計画(Planning)と製造計画(Scheduling)が組み合わさった高度なものを指しており、さらには製造業の遠大な理想とその実現を目指す意思を表す観念たり得るものだと思います。しかし現実には生産スケジューラと呼ばれているものをマーケティング用語として単に言い換えているに過ぎない場合がほとんどであり、理想が 矮小化されてしまっているのが実に残念です(世の中で多々見受けられる現象ですが)。また個人的には、”Advanced”という漠然とした言葉で意図的に煙に巻こうとする感じがどうも好きになれないので、本稿では敢えて「生産スケジューラ」と呼ぶことにします。
また、米国で”APS”というと、MRP計算の結果を基に山崩しをして実行可能解を導出するモジュールを指す場合が多く、はじめから有限能力で計算をする日本の「生産スケジューラ」とは隔たりがあると考えた方が良いでしょう。1990年代には米国でも数多の生産スケジューラのパッケージソフトウェアが販売されていましたが、ほとんどはERPベンダに買収されてしまい、MRPの下位モジュールと位置付けられました。そのため単体製品としての生産スケジューラはあまり出回っていないようです。
一方、日本ではなぜかしらそのような経緯が無かったため、日本の生産スケジューラは独自の進化を続けており、機能的には世界でもトップレベルにあるはずです。それはたぶんおそらくそれは、卓越した日本の製造業のハイレベルなニーズに日々応え続けているからでしょう。


日本製の生産スケジューラは単に自動スケジューリングするだけでなく、人が操作して手修正をするための機能(ユーザーインターフェイス)が充実していることも大きな特徴です。かつて文章を書くための紙とペンからワープロへ移行したのと同様に、日本においては手書きしていたガントチャートをコンピュータで描けるようにし、さらにそれを自動化していったという、実務者由来のボトムアップ的な発想が色濃く表れています。つまり「計画担当者の道具」として発展してきたのです。米国では上位システム(たいていはMRP)で“決めた”計画に一方的に従うトップダウン式であるのに対して、現場レベルでの自律的な改善努力を重視する日本の製造業の文化が端的に反映されており、興味深いところです。

繁なリスケジュール

生産スケジューラを利用するメリットの1つが、頻繁に「リスケジュール(再スケジュール)」できるということです。新たな情報を追加・変更して何度でも繰り返し短時間で計画を更新できるのです。
手作業で計画を立案する場合は、情報量・処理量が膨大過ぎて、先に挙げたさまざまな変動要因が発生したときに即座に適切に対応することは到底無理です。たいていは製造現場での対応に任せることになるために計画と現場が一致しなくなり、計画が軽視されるようになります。そうなると計画の価値は失われ、単なる「目安」に成り下がってしまいかねません。回答した納期も裏づけを失い、混沌(こんとん)に逆戻りしてしまうでしょう。
変動に応じてリスケジュールして実行可能な新たな計画を速やかに現場へ提供することで、製造現場と計画担当者の間の信頼に基づく好循環が得られるようになれば、混乱に振り回されることなく本来のモノづくりに専念できる工場を実現できるはずです。

生産スケジューラで何を目指すか

そもそも生産スケジューラを使って目指すものは何なのでしょうか。単に計画担当者の業務を軽減することでしょうか? 確かに余裕ができれば、現場、資材調達、営業などの各部門との間の人的な調整作業など、本来行うべき高度な仕事に専念できるようになりますが、それでも投資対効果は不十分と評価されるかもしれません。実用レベルの生産スケジューラ(パッケージソフト)であれば数百万円はしますし、効果的に運用するためのシステムとして構築するには1000万円を超えるからです。また、データを整備するために要する労力も決して小さいものではないでしょう。
生産スケジューラの直接的な効果は、資材調達から出荷に至るまでのリードタイム(総時間)をできるだけ切り詰めて工場内での滞在時間を短くすることです。リードタイム短縮は多くの製造業にとっては大きな目標であり、特に多品種少量生産の製造業にとっては、重要ではあるが達成困難な「悲願」といっても良いでしょう。
• 無駄な滞留在庫がなくなる
納期に間に合わせるために前倒しで作る必要もなくなるので、資材、仕掛かり品、製品の在庫を減らせます。無駄な資産が減ることでキャッシュフローが大幅に改善されます。
• 顧客の短納期要求に応じられる
業種によってはコアコンピタンスになり得るほど、受注リードタイムの短縮は競合他社と競争する上で重要な要因でしょう。
• 論理的裏づけのある納期回答ができる
生産スケジューラの回答納期はシミュレーションの結果なので、計画に従って作業をすれば納期達成できるのだという確信を持てます。工場内の秩序の確立に寄与するという副次的効用もあります。多くの工場にとって、これも実に価値ある効果とみなされ得るでしょう。
• 視覚化される
ガントチャートを見れば、工場の中で何がどうなっているのかが一目瞭然です。
• 製造現場任せにならない
製造現場での局所的な判断が、全体にとって良いとは限りません。何でもかでも「現場判断」にむやみに頼るのではなく、正しい棲(す)み分けが大切です。
• 整然とした製造現場
前述のように滞留在庫が減るので、各工程前に積み上がっている雑然とした仕掛かり品の山が小さくなります。
• ノウハウの脱属人化
計画担当者のノウハウがモデリングおよびルールとして客観化されます。担当者の配置換え、急病、退職の際にも慌てることもありません。
ノウハウをルール化して詰め込むことで、“コマンド一発”で何度でも速やかに質の高い計画を得られることも、生産スケジューラを使うメリットです。例えば、ボトルネック工程の切り替えを極力減らして最大限に休まず活用する計画を立てることで、工場全体のスループット(=生産量)を向上させることもできます(「TOCスケジューリング」などと呼ばれます)。手作業による計画立案では、変動要因発生時には過剰な仕掛かり在庫や納期遅れなどの代償無しには対応できないでしょう。
当然ですが、これらのことが生産スケジューラを導入するだけで実現するわけではありません。全体システムの適切な構想・実装のみならず、関係者全員の弛まぬ努力も必要です。しかしこれらは少なくとも、生産スケジューラがまさに狙(ねら)っている効果であり、生産スケジューラを利用せずに達成するのは非常に困難でしょう。生産スケジューラの「運用サイクル」が本格的に回り出したとき、そのインパクトに目を見張るに違いありません。
生産スケジューラの「運用サイクル」については、次々回以降であらためて言及します。
◇◇◇
ここまで理屈ばかりを並べてきた感がありますが、それだけではなかなか理解が進まないでしょう。そこで次回は簡単な生産スケジューリングのためのデータを作成して計画を立案するまでの流れを具体的に示すことで、実際の生産スケジューラがどのようなものであるかを感じ取っていただこうと思います。

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第3回:生産スケジューラの活用方法のバリエーション
2013.02.25

生産スケジューラの活用方法のバリエーション

生産スケジューラの導入を成功させるためには、そもそもどのような活用方法があるのか、そしてそれらにはどのような特徴があるのかを理解しておくことが重要です。
生産スケジューラの活用方法には、大きく分けると2通りあります。
1つは、納期予測や材料手配、要員計画等のために、シミュレータとして活用するもの、もう1つは、作業指示のために文字通りスケジューラとして活用するものです。

活用方法1 シミュレータとして

この活用方法では、作業指示を出すことよりも、未来にどうなるかを可視化し、事前に対策を講ずることに重点を置きます。
例えば、以下のような使い方です。
• 仮オーダーに対して、納期を予測し、回答する。
• 受注済みオーダーに対して、完成予定日時を予測する。納期に対する余裕度合いを日々確認し、余裕が小さくなってきているものについてはそれ以上遅れないように重点的に管理する。
• 設備や機械、作業者の負荷を確認し、問題があれば、残業や休日出勤、外注手配、さらには要員配置の見直しや多能工化の推進、設備投資などを検討する。
• 各資材が将来どのように推移していくかの予定を確認し、タイムリーに入荷されるように資材の調達を手配する。
いわゆる「見える化」に似ています。ただし、通常の見える化は「今どうなっているか」を見えるようにしますが、この場合は「将来どうなるか」を見えるようにします。これにより、問題が発生するまでまだ時間的な余裕がある間に、つまり、様々な手段を選ぶ自由度が残っている間に、しっかりとした措置を講ずることができます。いわゆる「泥縄」で後追いで対策するのに比べて、効率的に対処できます。
シミュレーションの精度
生産スケジューラを使うと、精度の高いシミュレーションが実現できます。例えば、ExcelやMRPで無限能力で山積みする方法では、製造量が多い時と少ない時との違いをシミュレーションできませんが、生産スケジューラで有限能力でシミュレーションすれば、設備や作業者の負荷を考慮した上で完成予定日時を算出することができます。有限能力かどうかだけでなく、他にも、段取り替えや作業者の負荷や、作業の優先順など、実際にモノを製造していく上での様々な操業ルールや制約条件を課してシミュレーションすることによって、より精度を高めることができます。
シミュレーションと実際の製造とがかけ離れていると、色々と問題が出てくる可能性があります。例えば、シミュレーションで当初予測した完成時期が実際とはズレていると、納期直前になって残業や外注などで対応することになるかもしれません。また、材料の実際の消費のタイミングがシミュレーションよりも早くなると、材料不足のために作業ができなくなるかもしれません。
また、シミュレーション上は特定の機械や作業者の負荷が高いように見えても、実際の製造では作業の順番を調整することで段取り替え(切り替え)を短縮しており、実際の負荷はそれほど高くないかもしれません。また逆に、シミュレーションでは負荷が低くても、実際には多品種少量生産による段取り替えが頻発しているかもしれません。段取り替えも考慮して正確にシミュレーションすることができれば、無駄な設備投資や要員増強を避けることができます。ただしそのためには、実際に各資源でどのような作業順序で製造するかまでシミュレーションする必要があります。
なお、精度が低くても、運用を工夫することである程度カバーできますが、無駄は増えます。
例えば、納期回答では、精度が多少低くてもその分安全率を大きめにして余裕を持たせた納期を設定すれば、最終的な納期遅れの確率を小さくすることはできます。しかし、その分、顧客に対して確約できるリードタイムが長くなるので、受注できず機会損失が発生するかもしれません。
材料の調達も同様で、余裕を持って早めに手配すれば安全ですが、その分在庫が増えることになります。
ただし、精度の高いシミュレーションを実現するためには、精度の高いデータが必要になります。それらのデータを継続的にメンテナンスしていくことも当然必要です。また、必要な制約条件を生産スケジューラが表現できない場合、何とかして近似しようとすると大変に苦労することになります。
まとめると、シミュレータとして活用する場合、精度がそれなりでも効果もそれなりに得られますが、頑張って精度を上げればその分効果が大きくなります。ただし、精度を高めるには、それに応じた労力や眼力が必要です。したがって、適切な折り合い点を見出すことが大切です。
ともあれ、「成功か失敗か?」という二者択一に直面するわけではないので、リスクの低い活用方法だと言えるでしょう。

活用方法2 スケジューラとして

この活用方法は、上で述べたシミュレータとしての活用に加えて、日程計画を立案し製造部門に作業指示を出すものです。
この方法は、さらに2通りに分けることができます。
1つは、現場裁量を認めず、指示の通りに製造させる「中央集権型」、もう1つは、一定の基準を設けて現場の裁量を認める「分権型」です。

活用方法2-1 中央集権型

この方法では、生産管理部門が実行可能な日程計画を立案し、それに基づき製造部門に作業指示を出します。製造部門は原則として作業指示の通りに製造します。
長所および短所としては、以下が挙げられます。
◆長所
• 計画と実際の製造との乖離が小さくなるので、予定と実績の乖離も小さくなる
• 生産リードタイムを極限にまで短縮できる可能性がある
• 製造部門にとっては無理な指示を出されないので責任が明確になる
• 工場全体さらにはサプライチェーン全体を通した最適な生産が可能になる(かもしれない)
◆短所
• 現場の納得する計画を立案できないと稼動できない
• 製造部門からの抵抗、反発にあう可能性がある
• マスターデータの精度と適切なスケジューリングロジックが必要
• 製造や運搬、調達の実行における緻密な統制が必要
簡単に言えば「成功すれば絶大な効果が得られるものの、逆に失敗のリスクも高い」という「ハイリスク・ハイリターン」な方法です。
一般に、生産スケジューラの導入では、本稼働直前になって問題が多発するという「実稼働直前の壁」に直面することがありがちですが、この方法の場合は特にその可能性が高くなります。
この壁を突破するには、「的確なパッケージ選定」「高度なパッケージ利用技術」「しっかりした導入体制」が必要です。

活用方法2-2 分権型

この方法では、製造部門は、生産管理部門からの作業指示にある程度従いますが、一定の裁量権を持ちます。
たとえば、「1日の中で作業の順番を入れ替えてもよい」という具合です。
長所および短所は以下の通りです。
◆長所
• 計画と実際の製造との乖離が(そこそこ)小さくなるので、予定と実績の乖離も(そこそこ)小さくなる
• 生産リードタイムを(そこそこ)短縮できる可能性がある
• 製造部門にとっては、無理な指示を出されるケースが減り、また一定の自由度も確保できるので、抵抗、反発が比較的少ない
◆短所
• マスターデータの精度やスケジューリングロジックのチューニングはそれなりに必要
• いったん「そこそこ」で満足してしまうと更に上を目指しにくい(?)
つまり、「完全に自由にしてしまうと日程計画の意味が無くなってしまうが、かといってがんじがらめにするのも非現実的」という場合のための、「理想と現実の間の折衷案」ともいえます。

どの活用方法を選ぶべきか?

これらの活用方法の特徴を踏まえた上で、自社にはどの方法が適しているかを見極め、選択しましょう。
「スケジューラの導入は難しい」という場合、上の中央集権型を指していることが多いのではないでしょうか? この方法は確かに非常に難しく、導入を成功させるには、高度な組織マネジメント、適切なパッケージ選択、およびその利用技術の確保、マスターデータの精度、継続的なメンテナンス、等が必要です。どれか1つでも欠けると、失敗確率が高くなります。特に、不適切なパッケージを選んでしまうと、まず間違いなく失敗します。導入プロジェクトを慎重に進める必要があり、稼動までの期間も長くなります。また、そもそも製造自体に不確定要素が多く、予定通りに製造できないことが多い場合には、中央集権型の運用はまさに「労多く益少なし」です。
ただし、完全に統制できる職場で、かつ、揺らぎが少ない(あるいは小さくできる)のなら、究極的にリードタイムを短縮できる可能性があります。
分権型の場合も、やはりそれなりの手間や労力は必要です。そもそも生産スケジューリングシステムの導入は、関与部門が多岐にわたり関係者の利害が複雑に絡むため、マネジメントの難しいプロジェクトです。導入を成功させるには中央集権型と同様の項目が必要です。そこまで究極的ではありませんが、油断は禁物です。現場に裁量を持たせるとしても、そもそも計画がデタラメなら作業指示を出す意味がありません。それなりの精度が必要です。
まとめると、無難なのは「シミュレータ」、頑張ってやるなら「分権型」、究極的には「中央集権型」、というところです。

導入効果を大きくするには

いずれの活用方法でも、生産スケジューリングシステムはあくまでもツールに過ぎません。生産スケジューラの導入効果は、生産スケジューラが立案したスケジュールを基に、人間がどのような活動を行うかによって変わってきます。
たとえば、特定のスキルの作業者が不足しているとわかっても、あからさまにすると角が立つからと情報をオープンにせず、多能工化を進めなければ、得られるはずの効果が得られなくなります。
また、立派な計画を立案していても、製造や搬送がそれに従わなければ意味がありません。とはいえ、きめ細かで膨大な指示に忠実に従うのは、現実的にはなかなか大変です。実行系における何らかの仕組みが必要なケースもあります。
どんなパッケージを選ぶべきか
これまで述べてきたように、スケジュールの精度が高い方が効果も高くなります。したがって、工場の様々な制約・制限を緻密に表現できるパッケージの方が良いということになります。特に、中央集権型を目指すのなら、相当なフィット性が必要です。
その見極めのためには、プロトタイプを作成し、実際にパッケージを評価することが大切です。ガントチャートだけを見ればどれも同じ、と思われるかもしれませんが、実際には各パッケージにはそれぞれの特徴があり、向き・不向きがあります。単に「安いから」「実績No1だから」「画面がきれいだから」という理由で選ぶのは非常に危険です。
しかしながら、どんな機能が必要なのかは、事前にはなかなかわかりにくいものです。システム構築を進めて本稼働直前に計画結果を確認した時に、「このパッケージではダメだ」ということが判明することも、決して珍しくありません。また、運用中に様々な変更があり、新たな要求が発生することもあります。というよりむしろそれが普通です。
したがって、当初は想定していなかった事態にも対応できるような「懐の広さ」「柔軟性」がパッケージには必要です。
• 今後、この工場にどんな変化が起こりうるだろうか?
• それに対応するためには、システムにはどんな仕組みが必要になるだろうか?
• その場合、このパッケージだと、どうなるだろうか?
そのような想像を働かせて、慎重にパッケージを選定すべきです。

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日本の生産管理のレベル;広島大学の研究成果報告書にみる

米国の大学では、工場経営や生産管理に関係する学生はFactory Physicsを教科書として使っているようです。残念ながら日本語訳本は出ていません。これに類するものとしては、生産工学、生産システム工学、生産マネジメント、生産技術、工場管理、、などなどあります。これらの書とFactory Physicsの違いは、Factory Physicsは自然を対象とした物理学的アプローチで生産ラインのメカニズムを分析している点にあります。

Webをググっていたらこんな論文を見つけました。
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/ja/00021482

「インタビュー調査に基づく製造企業のスケジューラの思考パターンの解明」
平成17年度~平成18年度 科学研究費補助金(基盤研究(C))
研究成果報告書 研究代表者 森川 克己

執筆者の肩書、研究分野等は次のようになっています。(広島大学Website)

広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授
博士(工学) (広島大学)
研究分野;複合領域 / 社会・安全システム
研究キーワード;生産管理、生産計画


この論文、少々長ったらしいタイトルが付いていますが、“はしがき”に概要が書いてあります。以下に引用します。

<iページ>はしがき
中国地域の製造企業10社の生産スケジューリング担当者(以下、スケジューラ)に対し、実務で使用されている生産管理システム、計画作成手順、スケジュールの評価尺度、スケジューラの抱えている問題点、スケジューリング・システムへの要望、スケジューリングの難しさ、研究者への要望などについてインタビュー調査を実施した。その目的は、企業の抱えている実際の問題を把握し、論理的研究との橋渡しを行うことにあった。調査企業の業種や規模は異なったが、多くの企業が、需要変動のもとで、製品品質を保ちつつ納期遵守と仕掛削減を重要な目標としており、その実現のためにスケジューラが営業部門や製造現場と密な連絡をとって、工場全体の生産性を高めるために協働的な生産計画を行っていることが明らかとなった。その際、スケジューラは、情報収集、計画作成、評価を何度か繰り返してから計画を確定させており、この思考・行動のフローに必要とされる代表的な情報との対応付けを行ったものをスケジューラの基本的な思考パターンとして提案した。最後に、協働的生産計画におけるスケジューラの役割の重要性を定量的に把握する試みとして、システムダイナミックスを用いたモデル化とシミュレーション実験を行い、スケジューラが現場との情報交換を行う重要性を数値的に示した。

ポイントは、
 [目的];企業のスケジューラが抱えている実際の問題を把握し、論理的研究との橋渡しを行う

 [現状調査/問題・課題の把握];製造企業10社の訪問・インタビュー

 [スケジューラの思考パターンの解析];情報収集➔計画作成➔評価を何度か繰り返して計画

 [パターンのモデル化とシミュレーション];システムダイナミックスを利用


この論文の狙いをまとめると、
実務でのスケジューラの思考パターンを解析し、生産スケジューリングの実務と理論的研究の橋渡しを行う
とでもなるのでしょうか。

「第3章 企業研究者との意見交換」と「第4章 インタビュー調査」に現状調査の詳細があります。生産スケジューリングの現状・実態を知るうえで大いに参考になると思われます。関心のある方は本文をご参照ください。

ここでは、論文の狙いである“スケジューラの思考パターンの解析”に注目して、“実務と理論的研究の橋渡し”とはどのような事なのか、に焦点を合わせてまとめてみたいと思います。解析は40ページ辺りから始まります。

<40ページ>
図5.4は、この仮想的な製造企業における協働的生産計画の因果ループ図を示している。スケジューラは、営業部門から届けられる受注情報に基づき、生産現場に流す仕事の量を決定する。この際、多くの注文があれば流す量も多めに、受注が少なめであれば流す量も少なめにと、受注量のある一定割合となるようにする。ただし、あまりに多くの量を流すと残業生産を強いることが多くなり、品質問題が生じる恐れもあるため、上限を設けている。この部分は図5.4で“流す割合”から“注文のループ”への実線の有向枝で示されている。矢の終端に書かれた“-”(マイナス)の記号の意味は、流す割合を増やすと注文の量が減ることを意味している。一方、“注文のループ”から“流す割合” への破線の有向枝は、流す割合の決定に際し、“注文のループ”にある量を参考にしていることを意味する。この、“流す割合”の決定に際して参考にしている値Lhは、受けた注文を現場に流すまでの平均リードタイムである。

生産現場では、計画リードタイム(図中のLm)に基づき日々の処理要求量が与えられるが、生産能力に対して処理要求量が少なければ、将来の残業を避けるために、追加で処理を行うことを要求する。この際、スケジューラは過去の実績等から予想作業負荷を計算するが、過去の実績がほとんどない製品については、精度の良い負荷計算は困難であると仮定する。また、実際の製造現場の状態は、仕掛状態や機械・作業者のコンデションなどによって変化し、予定した時間にすべての作業を完了できるとは限らないと仮定する。

協働的生産計画の環境のもとでは、スケジューラが現場に出向いて様々な情報を収集し、現場と意見交換を行うと同時に現場の協力を最大限得るように活動することで、作業負荷の見積りの精度が向上し、また現場の作業効率も高まると仮定する。シミュレーションによってそのレベルをいくつか設定して検討したところ、協働的活動を行わなかった場合(すなわち、スケジューラが単独で計画した場合)、作業負荷がほぼ正確に事前にわかるという場合に比べて総残業時間が約2倍となった。しかしながら、見積精度が向上すると、総残業時間が約30%減少し、さらに現場の生産性が3%向上すれば、作業負荷がほぼ正確に事前にわかる場合とほぼ同じ総残業時間となった。この結果より、スケジューラを中心とする協働的生産計画の効果を総残業時間の削減という結果で評価することができた。


図5.4が思考パターンのモデルのようです。この図とその説明を読んで、、、「うーん」としばらく思考停止状態になってしまいました。つまり、何を言っているのか、、、わからないんです。いくつか挙げますと、、

① 多くの注文があれば流す量も多めに、受注が少なめであれば流す量も少なめにと、受注量のある一定割合となるようにする。

疑問;注文の多いときは投入を遅らせ(納期調整などして)、少なければ早めに投入して生産量をできるだけ一定になるようにするのが一般的。「受注量のある一定割合」という投入量は生産ラインの特性を考えれば不合理。

② あまりに多くの量を流すと残業生産を強いることが多くなり、品質問題が生じる恐れもあるため、上限を設けている

疑問;「上限を設ける」ことは正しいが、「残業生産を強いることが多くなり、品質問題が生じる恐れある」という理由は副次的。投入量を増やすと、待ち時間が急激に長くなり、且つコントロールが利かないため、納期が守れなくなることが最も重要ではないか。

 “注文のループ”から“流す割合” への破線の有向枝は、流す割合の決定に際し、“注文のループ”にある量を参考にしていることを意味する。

疑問;①で指摘したように“流す割合”で投入量を決めることは不合理。

④ 生産現場では、計画リードタイム(図中のLm)に基づき日々の処理要求量が与えられるが、生産能力に対して処理要求量が少なければ、将来の残業を避けるために、追加で処理を行うことを要求する。

疑問;生産能力に対して処理要求量が少なければ、追加で処理を要求するのは“稼働率を上げるため”とか“手空きを防ぐため”とかが一般的。「将来の残業を避けるため」という理由は末節的で副次的。

⑤ スケジューラは過去の実績等から予想作業負荷を計算するが、過去の実績がほとんどない製品については、精度の良い負荷計算は困難であると仮定する。

疑問;では、負荷計算はどのように計算したのか。しなかったのか。実態を反映した“仮定”なのか。

⑥ 実際の製造現場の状態は、仕掛状態や機械・作業者のコンデションなどによって変化し、予定した時間にすべての作業を完了できるとは限らないと仮定する。

疑問;作業完了時間をどのように計算(見積り)したのか。実態を反映した“仮定”なのか。

⑦ 協働的生産計画の環境のもとでは、スケジューラが現場に出向いて様々な情報を収集し、現場と意見交換を行うと同時に現場の協力を最大限得るように活動することで、作業負荷の見積りの精度が向上し、また現場の作業効率も高まると仮定する。

疑問;「現場の協力を最大限得る」、「見積りの精度が向上」、「作業効率も高まる」間の因果関係をどのようにして確認したか。実態を反映した“仮定”なのか。


結論部分に注目してみます。

 作業負荷がほぼ正確に事前にわかる場合に対し、協働的活動を行わなかった場合➡総残業時間が約2倍となった

 *見積精度が向上すると➡総残業時間が約30%減少

 *さらに現場の生産性が3%向上➡作業負荷がほぼ正確に事前にわかる場合とほぼ同じ総残業時間となった
    
結論;スケジューラを中心とする協働的生産計画の効果を総残業時間の削減という結果で評価することができた。

「実務でのスケジューラの思考パターンを解析し、生産スケジューリングの実務と理論的研究の橋渡しを行う」ことを目指してたどり着いたのが上記の結論。生産ラインの物理特性、管理の経験則を無視した疑問だらけの協働的生産計画のロジックでたどり着いた結論は、やっぱり、支離滅裂。「実務と理論的研究の橋渡し」を目指したのはいいんですが、箸にも棒にもかからない、、内容に、、「うーん」と、、。

国立大学の大学院准教授がまとめ、世に公表する論文としてはお粗末の限り。ここで学ぶ学生のレベルも押して知るべし。日本の競争力低下の一要因、といったら言いすぎでしょうか、、。

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生産スケジューラを支える専門家たち

米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。

「Asprova解体新書」のプロローグ(13ページ)にある記述です。「教科書的な本」とはFactory Physicsではないかと思います。読んでみると、

生産スケジューラ(by computer)が「処理時間固定(or決定)」「処理ジョッブ固定(or決定)」を条件にしているのに対して、「処理時間のバラツキ」や「ランダムなジョブの投入」が不可避な現実の生産ラインでは、この物理的条件の違いを解消する策は存在せず、従って、

「生産スケジューラは実行可能なスケジュールを生成できない」

と説明されています。「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」の裏付けは取れました。わざわざネガティブな説明を最初に出したからには、この問題に対する“答え”みたいなものが「Asprova解体新書」に書いてあるのでは、、と微かに期待しました。

Factory Physicsが指摘する問題がどのように取り上げられているのか、それに対する対策らしきものがあるかどうか、「Asprova解体新書」のすみずみまでみてみました。が、、、何もありませんでした、、。・・・いやいや、ありましたよ。びっくりするようなことが、、。

巻末(230ページ)に、
「査読を快く引き受けてくれました佐藤知一氏、本間峰一氏、勝呂隆男氏に感謝いたします」
と。「Asprova解体新書」の内容に同意してバックアップしている専門家がいるんです。

実は、ちょっと古い話ですが、こんなことがありました。

きっかけは2冊の本。一冊目は、
「革新的生産スケジューリング入門」佐藤知一氏著、2000年4月15日発行
読んだのは、2000年中頃だったでしょうか。APS(Advanced Planning & Scheduling)で盛り上がっていた頃です。APSは“(オーダがランダムに次々に飛び込んでくる)動的問題”と“(作業時間等が変動する)確率的問題”に対応するスケジューリング方法だ、というあたりに興味を持ちました。興味を持ったといっても、疑いの目でですが、、。

もう一冊は、
「“JIT生産”を卒業するための本」生産革新フォーラム編著(メンバー;佐藤知一氏、本間峰一氏他5名)、2011年12月30日発行

JITに関する本は、それまでに数え切れないほど出版されています。様々、読みました。理論に重点を置いたもの、現場のやる気を主題にしたもの、導入成功事例集的なもの、、などなど。「“JIT生産”を卒業するための本」の中身は、正直に言えば、何を言いたいのかよくわからない、という感じでした。

その頃はTOCにどっぷり、でした。TOCも突き詰めていくと、つじつまの合わないところが目立つようになってきました。

*ボトルネックだけをスケジューリングすればよいというOPTというソフトの販売をすぐにやめたのはなぜか。
*DBR(Drum Buffer Rope)からスケジューリングをしないS-DBR(Simplified-DBR)にグレードダウンしたのはなぜか。

ゴールドラット、エリーシュラーゲンハイム(S-DBRの提唱者)、オーデットコーエン(ゴールドラットスクール校長)らと話しているうちに、だんだんわかってきました。

そして、Factory Physicsを一通り読んで、“生産スケジューラ(APS)で動的問題も確率的問題も原理的に解けない”ということがわかってきました。

生産革新フォーラムというグループがあります。代表幹事が本間峰一氏、メンバーに佐藤知一氏他「“JIT生産”を卒業するための本」の共同著者がおります。その会合で、2014年7月16日、講演を行い、次のような話をしました。

*稼働率を高くすると急激に待ち時間が長くなること
*その待ち時間を挽回することはできず、工程を経るごとに累積され生産リードタイムは長くなっていくこと

固定時間で作成したスケジューリングでは、この待ち時間は計算されませんので、生産スケジューラから出力されたスケジュールと待ち時間を含むスケジュールとはかなりの差が出てきて、ほとんどの場合、“実行不可能”となる、、というような話を交えて、、。

本間峰一氏の反応は、“ほとんど理解できていない”という感じでした。しかし、佐藤知一氏の反応には手ごたえを感じました。後日、彼のBlogでも紹介しています。
https://brevis.exblog.jp/22236990/
内容に違和感はありません。“待ち行列現象”はご理解いただけたと感じました。

あれから6年ほどたちました。“待ち行列現象”を生産スケジューリングではどのように捉えているのか、佐藤知一氏にメールしてみました(2020年1月)。

私が知りたかったのは、生産スケジューラで実行可能なスケジュールを生成する条件は何か、ということでした。どのようなやり取りがあったのか、彼の説明を引用(水色部分)しながらその要点を列記してみます。先ずは、こんな説明から、、

① 標準作業時間の概念も存在せず、作業時間の実績値をとる仕組みもないような管理レベルの現場に、生産スケジューラを入れる価値がないことは、ほとんど自明だと思います。

管理レベルが低い現場では生産スケジューラを入れる価値なしとのこと。管理レベルについてもう少し具体的に知りたかったので、生産スケジューラが実行可能なスケジュールを生成する“実用的な条件”は何か、と尋ねました。次のような説明です。

② 主要な工程における実作業時間と品質(不良率)が、工場の管理目的から見て受容可能な範囲の精度で、推算できること

具体性はないので、工学的な表現でお応えいただけないかと再三お願いしました。が、残念ながら、“文学的”な説明しかいただけませんでした。待ち時間を計算できるかどうかについては、次のような説明がありました。

③ 固定リードタイムで無限負荷計画のMRPは、たしかに使えませんが、現在の生産スケジューラは実作業時間のみ固定で、待ち時間は自分で計算します。

条件付きではありますが、待ち時間は計算できるとの説明です。彼の実務の説明もありました。

④ わたしの業界では、計画策定時に、作業期間が確率的に変動するようなスケジューラを、必要に応じて各社で使っています。それにより、作業のクリティカリティを評価してモニタリングの方法を決めたり、フロート(TOC風に言えばタイム・バッファー)の配置を決めたりするのです。

作業時間が変動してもスケジューラは使えますよ、という説明です。そして、

⑤ 生産スケジューラは一種のシミュレータです。

と、生産スケジューラはシミュレータとしても使えると主張しています。こんな説明もありました。

⑥ 生産スケジューラは、マネジメントのためのツールです。管理目的も受容可能性の判断も、いずれも価値判断を含むマネジメントの問題であって、純粋な技術論ではありません。

他にも、おもしろい説明がいくつかあるんですが、今回の意見交換を通して感じたことをとりあえず、私なりにまとめると次のようになります。

~~まとめ~~

「マネジメント」を“生産管理”と置き換えて、生産スケジューラと生産管理の関係について考えてみたいと思います。生産管理と言えば初めに出てくる言葉は“生産計画”。生産計画の出来不出来が生産管理のレベルを決めるとよく言われます。もっと一般的に言っても、マネジメント・サイクルの基本はPDCA。その最初がPlan、計画です。ですから、生産管理の一丁目一番地が生産計画だ、というのが現在の主流の考え方ではないかと思います。

生産計画が現場に降りてくると生産スケジュールになります。詳細な生産スケジュールを作るのが生産スケジューラ。きめ細かな生産管理をするためには生産スケジューラはなくてはならない“ツール”である、と。

「生産スケジューラは、マネジメントのためのツールです」

これは、大量生産が始まって以来発展してきた生産管理の本流の中に定着している伝統的な考え方ではないかと思います。


では、生産スケジューラとはどんな効用のあるツールなのか。生産スケジューラ・ベンダーのサイトを覗いてみると、生産リードタイム短縮、在庫削減、納期遵守率向上、、、見込生産にも受注生産にも対応、柔軟・迅速な計画変更、、、と万能。生産スケジューラは生産管理ではなくてはならないツールと映ります。

ところが、実際現場に導入して、うまく動かせない企業をたくさんみてきました。うまくいったという企業はわずかで、しかも部分的な導入にとどまっている例が多いように思われます。

そんな企業に対して、「管理レベルの低い企業は生産スケジューラを入れる価値がない」と斬り捨てます。「生産スケジューラをうまく使いこなせない企業は、管理レベルが低い」とも聞こえます。

ではどの程度の管理レベルであれば生産スケジューラを入れる価値がるのか、その判断基準はあいまい。行間から忖度すれば、これで判断できないのは、マネジメントのレベルが低いからだ、と言っているようです。マネジメントのレベルが充分に高ければ、

*待ち時間も計算できる
*生産スケジューラをシミュレータとして使い、最適条件で生産を管理することもできる。
*バラツキがある場合は必要なところにタイム・バッファーを入れておけばよい。

となります。まとめますと


「ジョブの投入時間間隔がランダムで、処理時間が変動しても、マネジメントのレベルが高ければ、それらのバラツキを生産スケジューラが機能する程度に管理することができ、生産スケジューラを重要なマネジメントツールとして使うことができる。」

というのが彼の主張のようです
~~~~~~

「生産スケジューラは実行可能なスケジュールを生成できない」
とするFactory Physicsに対して
「マネジメントレベルが高ければ、投入時間間隔や処理時間の変動があっても、生産スケジューラをマネジメントツールとして使うことができる」
とする佐藤知一氏の主張。さて、どちらに軍配が上がるのでしょうか。

「生産スケジューラは実行可能なスケジュールを生成できない」最も大きな理由は何でしょうか。もう少し詳しくみてみましょう。「処理時間のバラツキ」や「ランダムなジョブの投入」があるとどのような物理現象が起きるか。このBlogでは再三取り上げておりますのでお分りだと思います。“待ち行列現象”です。待ち行列理論で詳しく論じられています。

待ち行列理論でその現象がわかっているのなら、投入時間間隔や処理時間のバラツキから待ち時間の長さを求めることができないのか。もちろんできます。しかし、簡単に求められるのは待ち時間の平均で、その分散は簡単には求められないんです。様々な近似式が提案されていますが、どれも難解で、限定的で、誰でもどこでも簡単に使える式ではありません。分散の特性は、バラツキが大きくなり、稼働率が高くなると、平均と同じように急激に大きくなります。また、待ち時間の確率分布形状は釣鐘状からは程遠く、片側に山のすそ野のように、ダラダラと広がります。ですから、持ち時間を点推定することは、ほとんど、不可能となります。

しかし、佐藤知一氏は実際、スケジューラを使っていると言ってます。
「わたしの業界では、計画策定時に、作業期間が確率的に変動するようなスケジューラを、必要に応じて各社で使っています」
これはどういうことなんでしょうか。彼が使っているのはプロジェクト管理です。生産管理ではありません。プロジェクト管理と生産管理で何が違うのか。生産ラインでは待ち行列現象が必ず、強烈に起きるのに対して、プロジェクトのスケジュールでは、部分的、限定的にしか起きません。プロジェクト管理では、タスクの平均時間や分散は加法性が成り立ち、統計理論を利用して、必要なタイムバッファーなども計算できます。

詳しくは、こちらのBlog をご覧ください。

生産スケジューラとプロジェクト管理スケジューラは何が違うのか;2020年4月
待ち行列現象の待ち時間の特徴;2020年5月

お分かりいただけたでしょうか。佐藤知一氏はプロジェクト管理のスケジューリングと生産ラインのスケジューリングの根本的な違いをご存知ないようです。。

こんな話もあります。2年ほど前、このBlogに“生産管理システム活用の盲点…工場管理8月号[特集1]”を投稿しました。工場管理2018年8月号の特集記事「生産管理システム活用の盲点」の中身の貧弱さに驚き、私見を綴ったものです。

この記事の執筆者は生産管理のコンサルタントです。プロジェクト管理だという逃げ道はありません。生産ラインの物理的特性、工学的特性を理解しないまま、つまりそれらが”盲点“に入ってみえないから、こんな的外れな記事になるのかな、と思います。記事そのものが「生産管理システム活用の盲点」を具現化している、とみると、おもしろい記事です。ちなみに、この記事を書いたのは本間峰一氏です。興味のある方はBlogを覗いてみてください。

「Asprova解体新書」を解体してみました。生産スケジューラがいかに有用か、もりたくさんの機能がわかりやすく説明されています。生産スケジューラから出力されたスケジュールを本来の目的通り現場では使われていないことや、実際は2カ月かかっているものが生産スケジューラだと2週間でできることになるとか、正直ベースで書かれていることにも好感が持てます。

しかし、
米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。
という情報をどのように理解したのでしょうか。

教科書的な本」を調べてみたんでしょうか? 

「Asprova解体新書」では、生産ラインの物理特性や工学的特性についてはまったく触れられておりません。物理学、工学を無視した生産スケジューラがツールとして機能する根拠はどこにあるのでしょうか。まったく使いものにならない、とは申しません。“おにぎり大の石ころ” も “かなづち”  の代わりになる程度の、あるいはそれよりは多少マシな使い方はあるかもしれません。

「Asprova解体新書」をお読みになる方々の参考にでもなれば幸いです。

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“米国の大学生向けの教科書”に書いてあること

「Asprova解体新書」から見えてきたAsprovaの致命的欠陥。それは、一般的な生産ラインでは、必ず起きる“待ち行列現象”を考慮に入れていないことではないか。と言いながらも、ちょっと、ひっかかるものがあります。13ページにある記述です。

米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。

著者は、米国では「生産スケジューラは絶対に無理」だと言われていることをご存知だったんですね。そして、さらに、

米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない。しかし、現在のテクノロジーなら可能なのかもしれない。

と。

現在のテクノロジーなら可能なのかもしれない

著者はどんな可能性を思い浮かべているのでしょうか。この文脈から推察すると「米国の大学生向けの教科書的な本」に手がかりみたいなものが書いてあるのでは? どんなことが書いてあるのか、気になりだしました。実はこの本、心当たりがあるんです。たぶん、これしかないかな、と思う本が。

書名;FACTORY PHYSICS
著者;Wallace J. Hopp、Mark L. Spearman
出版社;Waveland Press,Inc.
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B5サイズで700ページ。ぎっしり書いてあります。1990年、Northwestern大学のMaster of Management in Manufacturingで本格的に使い始めたようです。今回は、第15章 Production Scheduling(516p~552p)辺りにどんなことが書いてあるか、覗いてみましょう。

はじめに、少し、補足しておきます。第15章では、生産スケジューリングを生産方式、ジョブの流し方、人間の経験則などなど、様々な角度から多面的に捉えています。ここでは、コンピュータによる生産スケジューリングに的を絞って考察してみたいと思います。そのために、初めに、生産スケジューラ(コンピュータ)の機能、役割を確認しておきます。

生産スケジューラに期待される機能としては、
① 工場(企業)の利益向上のため、生産リードタイム、工程仕掛、稼働率などの最適なバランスを提示する →目標を達成する最適スケジュールの生成
② それを実現するための具体的なスケジュール(作業者・機械などの開始・完了時刻)を生成する →実行可能なスケジュールの生成

とします。


第15章の初めで、スケジューリング研究の歴史を振り返っています。本書から引用します(要約)。

実務としてのスケジューリングは生産と同じぐらい古いが、研究としては1900年代初めの科学的管理法の動きまでさかのぼる。しかしスケジューリング問題に本格的に取り組み始めたのは1950~1960年代にコンピュータが現れてからである。

MRP,MRPII,and ERPについての記述があります。

コンピュータが使われ始めたのはMRPあたりから。MRPの特徴は、

 1、リードタイムは部材に結び付けられ、生産現場の状態には無関係。生産能力は無限。
 2、過剰在庫より仕事遅れの防止を重視し、リードタイムはひとつ。そのため、リードタイムが長くなりやすい。投入を早めて、待ち行列が長くなり、サイクルタイムが長くなる。

MRPの単純なモデルでは有効な結果は出せないことがわかると、スケジューリングの研究者や実務者はMRPIIそしてさらにERPを志向するようになる。JITに傾く者もいた。しかしながら大部分のスケジューリング研究者は、オペレーションリサーチの領域で数理的体系化を目指した。

スケジューリングの数理問題を解く条件を次のように単純化しています。

1、すべてのジョブは問題の初めに準備ができている(すなわち、処理が始まる前にジョブは到着している)。
2、処理時間は決定している
3、処理時間はスケジュールの影響は受けない(つまり、段取りはない)
4、機械は絶対に故障しない
5、優先使用はなし(すなわち、一旦、ジョブ処理が始まったら、中断なく終わらなければならない)
6、ジョブのキャンセルはなし


現実は次のようになっています。

1、常に2台以上の機械がある。従って、生産リードタイムを最短にするジョンソンのアルゴリズムやその他の派生アルゴリズムは直接役に立たない。
2、処理時間や需要はバラツク。ランダムなバラツキは生産システムに多大な渋滞を生じさせる。これを無視すれば、スケジューリング理論は非現実的な動きをベースにすることになる。
3、課題の前提条件となるジョブの準備が整っていない。工場が稼働している間、新しいジョブは入り続ける。工場を“からっぽ”にしてから新しいジョブを始める、という条件などは現実的ではない。
4、処理時間は時には順序依存性がある。段取り回数はジョブの順序に依存する。似たような部分のあるジョブは段取りを共通にできるが似ていないジョブはできない。これはボトルネック工程のスケジューリングでは重要。


つまり、生産スケジューリングを生成する数理モデルの条件と現実の生産ラインの状態には、根本的な違いがある、ということです。最も重要な違いを2つ挙げておきます。

*処理時間のバラツキ
様々な要因で処理時間はバラツキます。ところが、生産スケジューラの条件では、「処理時間は決定」していますので、矛盾します。

*需要発生のバラツキ
工場には常に新しいオーダー(ジョブ)が入り続けます。予めどのようなジョブが来るかきめられませんが、生産スケジューラでは、「処理が始まる前にどのようなジョブを処理するかわかっている」という条件です。これも矛盾します。

この違いが生産スケジューリングの機能にどのような影響を与えるのか、考えてみます。

ひとつ目の「目標を達成する最適スケジュール」を生成することはできるかをみてみます。
数理的条件で考えてみます。機械1台で25種類のジョブを処理するとします。組み合わせは、25!。25の階乗です。エクセルで計算したら、
15,511,210,043,331,000,000,000,000
と出ました。すごい数ですね。ビックリマーク(!)の意味がわかります。スーパーコンピュータ富岳の計算スピードが41.5京回/秒 だそうです。チェックするプログラムってどんなのかわかりませんが、単純に割り算すると、433日かかることに、、。現実の工場には、機械は数台、数十台ありますので、数理モデルで最適解をもとめるのは、“不可能”ですね。(NP困難問題)

実際はさらに、“処理時間のバラツキ”と“需要発生のバラツキ”があります。仮に上記の計算が数日で済んだとしても、処理を実行するときは、条件が変わっていて、最適解の意味はまったくなくなってしまいます。

結論は次のようになります。
「生産スケジューラが目標達成のための最適スケジュールを生成することは“不可能”である」

次に、二つ目の機能について検討します。

実行可能なスケジュール

ひとつ目の「目標を達成する最適スケジュール」を生成することは不可能ですが、“まぁまぁ”のスケジュールを生成することはできます(後述)。問題は、それに従って実行できるかどうか。

ある時、工場で処理する「オーダー(ジョッブ)」とそれらの処理時間を決めます。その決められた数値でスケジュールが生成されます。現実は、新しいオーダーがランダムに入り続け、処理時間もバラツキます。“まぁまぁ”のスケジュールでも、できるだけ高い稼働率を狙います。すると、その工程では、処理時間の数倍の待ち時間が生じてしまいます。この待ち時間を挽回することはできません。累積され、後ろの工程になればなるほど、処理開始時刻がどんどん遅れることになります。

「スケジュールでは昨日の午前9:00から始めることになっていたジョブが今日の午後3:00にやっと着いた」、なんていうことが頻発することになります。

結論は次のようになります。
「実行可能なスケジュールを生成することはできない」
あるいは、
「生産スケジューラから出力されるスケジュールに従って作業を行うことはできない」

このような結論となるわけですが、Factory Physicsでは、これに対する解決策も提案しています。どんなものか、みてみます。

先ず、生産方式の改善で対処するアプローチはお馴染みです。例えば、「フォード生産方式」。コンベヤーに台車を等間隔に投入することで「需要発生のバラツキ」をなくします。生産車種はT型1車種、作業を分業してコンベヤーに沿って人を配置して「処理時間のバラツキ」をなくします。この考えを多車種生産に広げたのがトヨタ生産方式。ただ、トヨタ生産方式のようにバラツキがなくなると(小さくなると)、ジョブは等間隔(サイクルタイム)で流れてきますので、生産スケジューラが出力するような細かなスケジュールは不要になります。

その他、小さな改善も含めれば数え切れないほどの方式が提案されています。

では、「処理時間のバラツキ」も「需要発生のバラツキ」も扱えない生産スケジューラではどのような改善策があるのでしょうか。大きく2つあるようです。

ひとつ目は、「処理時間のバラツキ」や「需要発生のバラツキ」の少ない生産方式と生産スケジューラの組み合わせです。バラツキを扱えない生産スケジューラでもバラツキが小さくなれば、使える可能性は出てきます。第15章では“動的管理”としてCONWIPと生産スケジューラの組み合わせが紹介されています。

動的管理:システムの物理的特性を利用することで、リスケジューリングすることなく、需要や生産能力のランダムな変化に対応できる動的管理ができる。動的管理の一例は統計的スループット管理(STC)とフレキシブルなキャパシティバッファー(例えばシフトの追加)のあるCONWIPである。生産ラインの長期的生産量に影響のない小さなランダムなゆらぎがあっても一切、調整はしない。さらに、このようなシステムは、予定よりも生産能力が大きいときは“前倒し生産”となる。これを詳細なスケジュールで行うことは難しい。

もうひとつは、“ヒューリスティック(Heuristic)”。発見的という意味だそうですが、分かりにくいですね。試行錯誤とか経験則と言った方がわかりやすい。論理的ではなく、必ずしも“最適解”ではないが、まぁまぁの答えとなる、ということのようです。

実際、生産スケジューラがHeuristicを使っているのは“NP困難問題”に対しです。AsprovaではGreedy AlgorithmというHeuristicを使っているようです。

実行不可能なスケジュールでも現場作業監督者は作業者に指示を出さなければなりません。新参者にはできません。試行錯誤の経験則(Heuristic)が物言うところです。

しかし、問題としている「処理時間のバラツキ」と「需要発生のバラツキ」を固定値しか扱えない生産スケジューラで処理しなければならないという矛盾をHeuristicなアプローチで改善できるか、というと、答えは、明らかに“否”。

ということで、Factory Physicsが示す、スケジューリング問題に対する解決策は、すべて周辺(生産方式とか)の条件を変えるもので、2点の対立を解消するものではありません。

従って、Factory Physicsが示す生産スケジューラの機能についての結論は次のようになります。

「生産スケジューラが目標達成のための最適スケジュールを生成することは“不可能”である」
「実行可能なスケジュールを生成することはできない」


著者は「生産スケジューラは絶対に無理」の意味を理解しているのでしょうか、、。それは失礼ですね。ちゃんと理解してますよね。

と、すると、「現在のテクノロジーなら可能なのかもしれない」と宣う著者は、Factory Physicsも気が付いていない「生産スケジューラ・起死回生の秘策」を持っているのではないか。「Asprova解体新書」をもう一度、見直してみたいと思います。

DPM研究舎

「Asprova解体新書」から見えてくる致命的欠陥

生産スケジューラでスケジューリングしたらリードタイムが1/4になったという話
生産スケジュール本来の機能は使わずに、生産の準備とか、原材料の所要量計算とか、だけに使うという話

なんで、そういうことになっちゃうのか、納得できる説明はありません。生産スケジューラの機能の中に隠れているのかもしれません。どのようなデータを入れて、どのような結果が出るのか、基本的なところを確認しておきます。

登録しておく製造BOMなどの「マスタデータ」は次のような事項です。
*品目(コード、種別)
*製造BOM(品目、工程番号、工程コード、指図コード、品目/資源、前段取り、製造時間)
*資源(機械、人員など)
*シフト(稼働時間のパターン)
*カレンダ

オーダに関連するオーダーコード、品目、納期、数量、優先度など入力します。

出力される項目は次のような内容です。
*作業テーブル(コード、品目、数量、資源、製造開始日時、終了日時、製造時間)
*資源ガントチャート
*オーダガントチャート

マスタデータに登録するコードとか工程番号などのデータはすべて確定値というか、固定値というか、そういうものです。現実と合わなければ修正しなければなりません。マスタデータが間違っていれば、結果も間違いを含んだものになります。当たり前の話なんですが、、。

ここで注目しておきたいのは製造BOMの中の“製造時間”です。製造時間って、バラツキますよね。まったく同じ品目でも、ある時は50分、別のときは65分とか、、。マスタには一つの固定値しか入れられませんので、“平均+バラツキ分” で設定するんでしょうか。固定値は固定値ですがね、、。

現実は、“製造時間”はバラツキます。製造時間がバラツクとどうなるんでしょうね。

このBlogでは、何度か、取り上げているテーマなので、繰返しになる部分もあると思いますが、生産スケジュールとの関係を気にしながら、簡単にレビューしておきます。

生産工程に影響を及ぼすバラツキは、大きく分けて、2種類あります。
①オーダの到着時間間隔(投入時間間隔)
②工程での処理時間(製造時間、作業時間、、)

わかりやすいように、ひとつの工程に注目します。注文はランダムに来ます。工程の処理能力には限界があります。例えば、工程の平均処理能力は1時間に6個としましょうか。平均の処理時間は10分ですが、オーダごとにはバラバラです。あるものは6分、別のオーダは13分というように。1時間に平均6個の処理能力があるところに、1時間に5個のオーダがあったとすれば、工程の稼働率は5÷6=0.83 で83%ということになります。

オーダはランダムに来ますので、その時、工程がビジーであれば、その処理が終わってから、新しいオーダの処理をすることになります。その時、そのオーダは待つことになります。どのぐらいの時間、待たなければならないのかの計算式があります。但し、これは、オーダ到着時間間隔も処理時間も指数分布に従うときです。

平均待ち時間=(平均処理時間)∙(稼働率/(1-稼働率))

平均処理時間;10分、稼働率;0.83で計算しますと、平均待ち時間は50分となります。オーダ到着時間間隔も処理時間も指数分布というのは、めいっぱいバラツク状態ですので、実際は、そんなにバラツキは大きくはないと思いますが、決して、無視できないことだけは確かです。

この待ち行列現象の厄介なところは、稼働率が高くなると急激に待ち時間が長くなるという特性です。生産スケジューラでは稼働率はできるだけ高くなるようスケジューリングしますので、考慮しなければならない重要な現象です。

Asprovaに戻ります。BOMの“製造時間”に入れることができるのは、“固定値”だけです。“確率変数”を入力することはできません。スケジューリングのロジックも固定値しか扱えないようになっています。

つまり、Asprovaは“待ち行列現象”による待ち時間をまったく考慮に入れていないことになります。

生産スケジューラでスケジューリングしたらリードタイムが1/4になったという話
を振り返ってみましょう。数値を入れて、ザックリと計算してみましょうか。40工程で生産リードタイムを40日(2カ月)としてみましょう。生産スケジューラでスケジュールすると、リードタイムは10日(2週間)になる、ということですね。

計算を簡単にするため、工程の作業時間をすべて同じとします。40工程で40日かかりますので、1工程は1日。1日は8時間とします。一方、生産スケジュールの結果は、40工程で10日ですので、1日に4工程、1工程は2時間、となります。生産スケジューラは待ち行列現象による待ち時間を無視していますので、それを加えたらどうなるか、大雑把な計算をしてみます。

各工程の稼働率を75%としてみます。前記の式に代入して計算してみます。平均待ち時間は次のようになります。

平均待ち時間=2(時間)×(0.75/(1-0.75))=6(時間)

処理時間;2時間に待ち時間;6時間を加えると8時間。現状に合いますね。

実際そうなるかどうかはわかりませんが、待ち行列現象の影響をザックリと感じることはできるかと思います。

生産スケジュール本来の機能は使わずに、生産の準備とか、原材料の所要量計算とか、だけに使うという話
はどうでしょうか。

生産スケジューラでスケジュールすると、投入時間間隔と製造時間のバラツキによる待ち時間が考慮されていませんので、作業開始時刻は早めにセッティングされてしまいます。早めにセッティングされた時刻に間に合うように原材料や生産の準備をしますので、問題は生じないでしょうね。さらに、製造時間の時間単位と原材料や生産準備の時間単位の違いもあると思います。多いのは、前者は“分”、後者は“日”。“日”は安全側にまるめられますので、さらに早くなります。

作業指示には使わないで、原材料や生産準備の予定にだけ使うのであれば、生産スケジューラなんて、使わなくてもいいんじゃないのかな。あれもできます、これもできますって、機能満載の生産スケジューラ。秒単位で作業指示が出せます、と言っていますが、“そんなの、かんけいねぇ”となりませんか。

「Asprova解体新書」から、Asprovaが抱える致命的欠陥がみえてきました。これはAsprovaだけの問題なのか、どの生産スケジューラにも共通して言えることなのか、、。

DPM研究舎

「Asprova解体新書」の【コラム】で気になるところ

「Asprova解体新書」を読み始めると、
生産スケジューラは絶対に無理
その理由は、
マスタデータの作成と維持が困難である
米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない
という記述で立ち止まってしまいました。ネガティブな位置からはじめる方が説明がしやすいのかもしれません。この本には、これらに対する反論というか、Asprovaは違うよ、ということが書いてあるはず。そんな期待を持ってしまいます。

本の内容は、大部分はAsprovaの取説。ところどころに生産管理や在庫管理の説明があり、そして【コラム】として、顧客企業への訪問記や自慢話が挿入されています。その中から、気になるところを抜き出してみます。

27ページ
~~~~~~~~~~~
【コラム】自動車部品工場の生産スケジューリング・・・生産準備
・・・数年前に生産スケジューラを導入し、うまく稼働しているということで今回訪問することになった。・・・
 この工場では生産スケジューラは使用しているが、まだフル活用はできていないと話している。すなわち、生産スケジューラのスケジュール結果を用いた生産指示が出せていないということだ。
 ・・・何に役立てているかというと、生産準備である。・・・生産準備の主な仕事は、①内示情報から所要量を計算して原材料、外注の手配をする、②内示情報から工場の負荷状況をチェックする、ことである。

~~~~~~~~~~~

似ている記述が、、、

36ページ
~~~~~~~~~~
【コラム】かんばん方式を導入した工場でも、生産スケジューラによる所要量計算が必要
・・・トヨタ生産方式によるカイゼンでも、・・・原材料の購買の計算をMRPで行っていると、原材料の在庫削減には限界がある。そこで生産スケジューラを導入して原材料の所要量、タイミングを最適化するのである。この場合、生産スケジューラが作成した作業指示の詳細データは、使われないかもしれない。・・・

~~~~~~~~~~

またまた、同じようなことが、、、

56ページ
~~~~~~~~~
【コラム】金型工場の生産スケジューリング・・・BOMに誤差はあるが、生産の「見える化」が進んだ
 生産スケジューラの導入が完了し、成功裡に稼働している工場を訪問した。・・・工場見学すると、工場には生産スケジューラで立案した結果が印刷して貼られていた。生産スケジューラは、細かい作業指示を出すのが本来の機能であるが、この工場では、細かな生産指示を現場には出していない。各マシンへの作業の割付けと負荷量のグラフを表示していた。後は状況に応じて実際の作業を行うということである。

~~~~~~~~~

3つのコラム。いずれも、生産スケジュール本来の機能(細かい作業指示を出す)は使わずに、生産の準備とか、原材料の所要量計算とか、マシン作業の割付け表示とかに使っているっていうことのようです。実際の作業の進め方は現場に任せてあるとのこと。

似たような話、前にもありました。2019年12月のBlog「生産スケジューラ;ベンダーの宣伝に踊らされるな!」でも、生産スケジューラを導入して、かえって混乱したという事例を紹介しました。解決策は、「ネック工程は人間が手作業できめ細かく管理し、前後の非ネック工程はスケジューラで計画作成」。肝心のネック工程は人間の手作業、余裕がある工程はスケジューラを使用、ということです。

なんか、変だと思いませんか。逆ですよね。きめ細かな作業指示こそ生産スケジューラを使うと思ってましたが。現実は、逆。

コラムに3回も出てくるということは、そして、他の事例でも似たようなものがあるということは、生産スケジューラの機能と何等かの関係がありそうですね。

もうひとつ、【コラム】から抜粋。
51ページ
~~~~~~~~~
【コラム】ショックアブソーバ工場の生産スケジューリング・・・生産リードタイムを劇的に短縮した
 ・・・ショックアブソーバの生産工程は金属加工など40から50と長く、生産リードタイムも2カ月かかっていた。生産スケジューラで実データを登録してスケジュールしてみた。・・・
 そして、結果を見て驚いた。生産スケジューラのガントチャート上で、生産リードタイムが2週間となっている。「えっ、そんなバカな?」と担当者。でも、ガントチャートをしばらく詳細に眺めていると「やはりこれは本当だ。2週間でつくれる!」とつぶやいた。生産リードタイムが1/4になった。私も驚いた。「でも、工場長には言えないなあ。だって今まで何をやっていたんだ、と叱られちゃう」とのことだ。

~~~~~~~~~~

生産スケジューラの最も代表的な改善項目は生産リードタイムの短縮。リーダタイムが1/4になるなら、前の【コラム】ではなぜ、生産スケジュール本来の機能は使わずに、生産の準備とか、原材料の所要量計算とか、だけに使うのか。穿った見方をすれば、生産スケジューラから出る作業指示通りには作業ができないのではないか。とすると、問題は、リードタイムが1/4となったスケジューリングの実現性というか、実行可能性というか、、はどうなのか。リードタイム2カ月と2週間の差は何なのか、、。

出口はまだ、見えません。

DPM研究舎

「Asprova解体新書」を拝読

生産スケジューラについての愚見をみてか、ある筋から「こんな本があるよ」という連絡がありました。

「Asprova解体新書 生産スケジューラ使いこなし再入門」
著者;高橋邦芳、出版社;日刊工業新聞社 2019年6月27日 初版発行

プロパガンダ的な本であることは、すぐにわかります。著者はAsprovaの代表取締役会長だそうで。どこの生産スケジューラベンダーのWebsiteをみてもそうなんですが、AsprovaのWebsiteをみても、“なんでもできます”的な万能ぶりを、あらん限りの美辞麗句をちりばめて、これでもか、これでもか、、という感じ。思わず、“誇大広告じゃないの?”と。

この本も、その延長線上の本だろうな、と思いながら、、。“まえがき”は飛ばして、“プロローグ”。新入社員が生産管理セミナーに参加するという物語で始まります。著者の工夫の跡が感じられます。

12ページ辺りから“生産スケジューラ”のにおいがしてきます。Asprovaの導入検討や導入プロジェクトで「困ったことベスト10」として、こんなことが書いてあります。
~~~~~~~~~~~
困ったことベスト10
1 費用対効果(ROI)を示すのが難しかった
2 Asprovaを何に活用したらよいか迷った
3 現状業務をどこまで変えたらよいか迷った
4 機能が多過ぎて、何ができて、何ができないのかわかりにくかった
5 希望しているスケジュール結果が出なかった
6 マスタ構築、マスタメインテナンス、データ連携が難しかった
7 作業指示をどのように出して、作業実績をどのように取るのかを迷った
8 必須で難しい要件が後回しになって、最後になって困った事態になった
9 社内に抵抗勢力や反対派がいた
10 担当者が交代したら、Asprovaを使わず、Excel管理に戻ってしまった

~~~~~~~~~~~~~~~~~

“誇大広告”というイメージはありません。意外と、まじめな本なんだ、という感じです。

続いて、次のようなことが書いてあります。

13ページ
~~~~~~~~~~~~~
生産スケジューラの歴史
▶1982年頃、エリヤフ・ゴールドラットの挫折
 入社直後、上司である清水部長から、エリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」という本を読むようにと言われ読んだ。ザ・ゴールのあとがき(日本語版P521)には、氏が生産スケジューラを開発し、米国で販売を好調に行うが長続きせず、挫折する。その代りに、ザ・ゴールという世界的ベストセラー小説を書いた。上村講師に聞くと、そのソフトウエアはボトルネックに着目したものだそうだ。しかし、何の理由かはよくわからないが、ゴールドラットはそのソフトウエアの開発を放棄し、ザ・ゴールを執筆したのだ。
 米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。その理由として、マスタデータの作成と維持が困難であることを挙げている。ゴールドラットが挫折したのも、マスタデータが理由だったのだろうか。マスタデータとは、そんなに怖いものなのか。米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない。しかし、現在のテクノロジーなら可能かもしれない。さらに話は続いた。

~~~~~~~~~~~~

いやいや、これはこれは、、生産スケジューラの否定から入っているじゃないですか。

生産スケジューラは絶対に無理

会長さん、こんなこと書いて大丈夫ですか。

マスタデータの作成と維持が困難である

という理由も現実味を帯びています。

米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない

そうなんですよ。一時は、結構な数の米国拠点の生産スケジューラベンダーがおりましたが、今はほとんどいなくなりました。日本には、まだまだ、たくさんの生産スケジューラベンダーがおりますが、、。

米国で見捨てられ生産スケジューラの実態をよくご存知のようです。そして、それを背景にこの書を著したのだとしたら、、

「生産スケジューラって、もしかすると、、もしかするかもしれない」

生産スケジューラの欠陥を知って書いたのであれば、その欠陥を埋める方策なり、解決策なりがかかれているのではないか。米国の生産スケジューラベンダーが解決できなかったことをAsprovaは解決したのではないか。

これが、本当なら、、

「美辞麗句だらけの、誇大広告、、」

などと揶揄したことを、ひれ伏して取り下げ、最大の“称賛”の言葉を贈らなければなりません。

この本に、どんなことが書いてあるのでしょうか。次回、報告します。

DPM研究舎

待ち行列現象の待ち時間の特徴

生産型の流れでは、工程ひとつひとつが待ち行列現象を起こす形をしています。生産にたずさわる誰もが、工程の稼働率をできるだけ高く維持しようとします。そうすると、待ち行列現象が強くなり、長い待ち時間が発生することになります。

プロジェクト型でも待ち行列現象は起きますが、部分的であり、その影響は生産型に比べれば軽微です。

待ち行列現象の待ち時間とはどんな特徴があるんでしょうか。事例で試算してみましょう。図1をご覧ください。できるだけ同じ条件で比べた方がわかりやすいと思います。生産型もプロジェクト型も直列5工程(5タスク)、処理時間平均は工程4(タスク4)が9時間、他の工程(タスク)は7時間です。生産型の工程バラツキは変動係数0.25、プロジェクト型は0.75と大きくしてあります。生産型のオーダはランダムに投入されますが、平均時間間隔は10時間です。プロジェクト型はプロジェクトX、ひとつです。

図1 事例研究;生産型とプロジェクト型の比較

生産型では、ひとつのオーダが完成するまでの時間、プロジェクト型ではプロジェクト開始後完成までの時間を試算してみます。その一例を図2に示します。プロジェクト型のタスクのバラツキは生産型のそれの3倍であることにご留意ください。にもかかわらず生産型の所要時間の方が平均も最大値も長くなっています。分布をみても、プロジェクト型は、正規分布に近い分布形状ですが、生産型のそれは右に大きくすそ野が伸びています。

図2 生産型とプロジェクト型の完成までの所要時間の比較

どの工程での待ち時間が長いのか、調べてみました。工程1,2,3、と5はほぼ同じなので、工程1を代表に、工程4の待ち時間と比べてみました。結果を図3に示します。工程4の待ち時間が全体の所要時間に大きく影響を与えていることがわかります。 

図3 工程4の待ち時間が長い

工程1,2,3,5の稼働率は0.7、工程4のそれは0.9。稼働率が高くなると、待ち時間が急激に長くなる待ち行列現象の影響であることは明白です。

この待ち行列現象による待ち時間。困ったことに、実に、捉えにくいというか、扱いにくいというか、始末に負えないんです。図2と図3のデータを採るとき、計算ごとに結果が結構バラツクんです。乱数を使っていますので、バラツクのは当たり前なんですが、計算するごとに出る結果の違いに驚いてしまいます。お示しした結果は、だいたい平均的なものです。

プロジェクト型の所要時間の分布はだいたい正規分布に近いのですが、生産型のそれは右に長々とすそ野を引くのが特徴のひとつです。プロジェクト型の分布は統計理論を応用できそうですが、生産型の分布は統計理論では扱えそうにありません。生産型の分布を扱える数理モデルってあるんでしょうか。いろいろ探してみたんですが、見つかりません。

待ち行列理論も調べてみました。待ち行列理論の数理モデルは待ち時間、待ち行列の長さ、待っているWIPの数を計算できますが、すべて平均なんです。生産管理では、平均値も有用な情報ですが、分布の端っこの部分が重要ですので、そこを知りたいんです。確率分布の形状を扱える数理モデルって、ないのかなぁ~、、。今のところ、見つかっておりません。ご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ご一報ください。

プロジェクト型のスケジューラでは、バラツキを考慮したものがあります。プリミティブなものでは、3点見積で標準偏差を求め、本格的なものは過去の蓄積されたデータから標準偏差を求め、加法性を利用して、各タスクの平均、分散を合算してプロジェクト全体の所要時間を算出する。正規分布で近似して、納期の達成確率などを見積もるようなことが行われているようです。

では、生産スケジューラではどうなんでしょうか。待ち行列現象を考慮した生産スケジューラって、市販されているのでしょうか。

生産スケジューラ・ベンダーの宣伝文句をみると、受注生産、多品種少量・変量、即座の計画変更、、なんでもゴザレ、、という感じですが。額面通り受け取れば、当然のことながら、待ち行列現象に対しても、対応策をとっているのではないか、と思われるんですが。実態はどうなんでしょうか。

さらに、追求してみたいと思います。

DPM研究舎

生産スケジューラとプロジェクト管理スケジューラは何が違うのか

ゴールドラットが提唱したDBR生産スケジューラは、盟友のエリ―・シュラ―ゲンハイムが提唱するS-DBRにGrade Up(Grade Down?)されたことで、実行可能なスケジューリングができないことを認め、MRPのスケジューリング問題を解決しようとした元々のゴールにたどり着くことはできませんでした。ただ、スケジュールがなくても、ボトルネックを中心とした管理方法は有効で、うまく使えばそれなりの効果はでるようです。

ゴールドラットが次に発表したのが「クリティカル・チェーン」。プロジェクト管理のあたらしい方法です。各タスクのバラツキ分を集めて、スケジュールの一番後ろにプロジェクトバッファーとして置きます。プロジェクトバッファーの一番後ろが納期ですので、プロジェクトバッファー以内で終了すれば、納期は守られることになります。

DBRのタイムバッファーとクリティカル・チェーンのタイムバッファーは異なります。この違いに何か特別な意味はあるんでしょうか? ゴールドラットにしてみれば、TOCという壮大なマネジメント論のとっかかりであるDBRの考え方を踏襲したかったのではないかと思うんですが、、ね。プロジェクト管理では、負荷100%を超える特定のリソースがボトルネックと考えることはできないんでしょうか。ボトルネックのリソース(人)には雑用を頼まない、それでも足りなければ、助っ人をあてがう、、。DBRと同じように考えることができそうですがね、、。

ゴールドラットはTOCの原点ともいえるDBRの考え方をプロジェクト管理に適用しなかったのはなぜなんでしょうか。いまさら故人に聞くわけにもいきません。いろいろと思いめぐらしてみましょう。

ゴールドラットがプロジェクト管理について考えていたのは1990年の中頃ではないかと思われます。1990年に「The Haystack Syndrome」でDBRのスケジューリングを発表し、それを真似ていくつかのDBRスケジューラが開発されました。現場で使ってみると、どれもまともに実行可能なスケジュールを組むことはできません。

そして、盟友であるエリ―・シュラ―ゲンハイムがボトルネックのスケジューリングを排したS-DBRを開発します。エリ―・シュラ―ゲンハイム他著「Supply Chain Management at Warp Speed」にS-DBRの詳細な説明が載っています。

23ページに、ボトルネック(CCR; Capacity Constrained Resource)負荷が処理時間とWIPにどのような影響を及ぼすかの図があります。説明を加えておきますと、処理時間とは待ち時間と正味処理時間を足したものです。正味処理時間は、基本的に、負荷によって変わりませんので、指数関数的に上昇する処理時間の中身は待ち時間の増大です。

図1 CCR Load v.s. Production Time
(Reference; Supply Chain Management at Warp Speed)

エリ―・シュラ―ゲンハイムがS-DBRを提唱した大きな理由は、ボトルネック工程での待ち行列現象を回避するためだったのではないかと思われます。“ボトルネック工程の稼働率を100%でスケジューリングすることは物理的に不可能である”ことに気が付き、DBRの最も重要な概念である“ボトルネックの能力を100%引き出す”ことを断念せざるを得なかったのではないか、、。

「ボトルネック工程の100%稼働スケジューリングはうまくいかない」

プロジェクト管理で、“DBR方式”を採らなかった理由がは、、この辺りでしょうか。

ゴールドラットを救ったのは、生産工程フローとプロジェクト・タスク・フローの違いです。以降、生産型、プロジェクト型とします。何が違うかと言いますと、生産型にはあって、プロジェクト型にはないもの、です。

図2をご覧ください。基本的なところだけをシンプルに表しております。生産ラインにオーダーがランダムに来ます。「工程1」で「オーダA」の処理が終わる前に「オーダB」が来た場合、「オーダB」は「工程1」の前で「オーダA」の処理が終わるまで待つことになります。「オーダA」の処理が終わる前に「オーダC」が投入されれば「工程1」の前では「オーダB」と「オーダC」の2つのオーダが「工程1」の前で待つことになります。この現象、お気づきのことと思います。待ち行列現象です。「工程1」の処理能力に対してオーダの投入が少ないときは待ち時間は短く、オーダが多くなると待ち時間はグンと長くなります。負荷と待ち時間の関係は図1のようになります。

待ち行列現象を起こすのは、「工程1」だけではありません。「工程2」も「工程3」も・・・ほとんどの工程で待ち現象を起こす可能性があります。。稼働率が低い間は待ち時間は短いので余り影響はありませんが、生産管理では常に稼働率を高くすることを目指していますので、いたるところで待ち行列現象を起こしてしまいます。ボトルネック工程は一カ所か二ヶ所、なんて悠長に構えているわけにはいきません。どの工程も100%の稼働率を目指すのが宿命。

図2 生産ラインの代表的モデル

プロジェクト・タスク・フローはどうでしょうか。実は、プロジェクト・タスク・フローでも待ち行列現象は起きます。わかりやすいのは、管理者の机で山積みになるハンコを待つ書類の山。“めくら判”でも、1週間もかかる。

構造上の基本的な特徴、生産ラインとの違いに注意してプロジェクト計画の流れをみてみましょう。図3に基本的なプロジェクト計画の流れを示します。

プロジェクトXをひとつのまとまったプロジェクトとします。「タスク1」で最初の仕事をします。終わったら「タスク2」、次に「タスク3」、、、そして「最終タスク」を終えて「完成」となります。

図3 プロジェクト計画の一般的流れ

生産型とプロジェクト型の違いをまとめてみましょう。共通する部分、類似する部分、あいまいな部分、、もありますが、あえて単純化して、両者の違いをみてみます。

生産型はひとつの工程(処理ユニット)にオーダ(非処理対象)が次から次と来ます。一方、プロジェクト型はひとつのプロジェクト(非処理対象)に対して様々なタスク(処理ユニット)があります。単純化しますと、次のようになります。

生産型    ;非処理対象数(多数)>>処理ユニット(基本単位1)
プロジェクト型;非処理対象数(基本単位1)<<処理ユニット(多数)

生産型はひとつの工程に対して、オーダが多数流れてくる。プロジェクト型は、ひとつのプロジェクトが多数のタスクで処理されて完成する。いかがでしょうか。

で、待ち行列現象が起きるかどうか、の視点でみてみましょう。生産型はほとんどの工程が待ち行列現象の発生条件を満たしております。プロジェクト型はどうでしょうか。プロジェクトがひとつしかありませんので、行列ができませんね。待つのは、プロジェクトではなくて、タスク(リソース、人、、)。もちろん細かくみれば、プロジェクトも複数のジョッブに分けられますので、時間単位を短くしてみると、ジョッブの待ちがあることが観察されますが、全体としてみれば、待ち行列現象の程度は小さいのではないかと思われます。

もうひとつの違い。
生産型;一つの工程の処理時間が短い
プロジェクト型;一つのタスクの時間が長い

これは、管理サイクル内でどの程度の進捗管理(修正、調整等含む)ができるか、という視点でみるとき、生産型では一個、一個の処理時間をリアルタイムで管理することは困難。一方、プロジェクト型の場合は、短くは朝夕、1日単位、週単位での進捗管理が可能、という違いはあるのではないか、と思われます。

これも大きな違いです。
生産型;処理時間の見積が正確
プロジェクト型;処理時間の見積精度が低い

生産型の作業時間は標準化が行われ、大量生産では、時には秒単位で標準作業時間が設定されています。プロジェクト型は、作業そのもの繰返しが少なく、作業時間の見積精度は低いのが一般的です。表1に生産型とプロジェクト型の比較をまとめてみました。

表1 生産型とプロジェクト型の比較

生産型とプロジェクト型のスケジューリング、さらに追及していきます。

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生産スケジューラは使いものになるのか;TOCの教訓[2]

MRPの大雑把なスケジューリングの欠点改善を目指したOPTでしたが、思うようには売れませんでした。しかし、苦肉の策で出版した「ザ・ゴール」は、思いのほか売れ行きがよく、その後十数年、ベストセラーの座を占め、全米で250万部を超える販売数を記録しました。

OPT発売のときも、「ザ・ゴール」出版のときも、スケジューリングの詳細についての説明はありませんでした。MRPについてはすべてが公開されていたのに、、。DBRのスケジューリングについても公開を望む声が大きくなりました。

1990年、ゴールドラットは「The Haystack Syndrome」を出版。その中で、DBRのスケジューリングについて詳細な説明を行っています。それをきっかけに、DBR対応の生産スケジューラが次々と発表されました。中には、“ゴールドラット博士公認”なんていうサブタイトルを付けるベンダーもいました。1990年代後半、ベンダーは10社を超えていたんじゃないかと思います。

しかし、ゴールドラット自身がスケジューラを開発することはありませんでした。OPTの失敗を繰り返したくなかったのでしょうか。

BDRスケジューラが実際の現場で使われるようになりました。しかし、ゴールドラットが「The Haystack Syndrome」で説明したようにスケジュールすることはできませんでした。ただ、生産リードタイムが短縮したなどの効果が出たという事例はわずかながら報告されています。OPTを使わなくても改善できた、という現象に似ているのかもしれません。

使えない生産スケジューラがいつまでも売れるわけはありません。DBR対応スケジューラはポツリ、ポツリと姿を消し、2000年代の中頃にはその大部分が姿を消しました。

このような動きの中で、DBRに異変が起きます。あれほどロジカルに、詳細に説明されるボトルネックを中心としたスケジューリングをあきらめたのです。ボトルネックを中心にスケジュールすることにより、MRPのスケジューリング機能の矛盾を解消しようとしたわけですが、目的を達成することなく、幕が引かれることになりました。

DBRは失敗でした、ということは、さすがに言えなかったようで、S-DBR(Simplified-DBR)にモデルチェンジし、旧DBRと併存させることになりました。

「The Haystack Syndrome」にあるDBRのスケジューリング方法について、少し詳しくみていきましょう。

TOCのお馴染みのステップを繰り返しながらスケジュールを組み立てていきます。
①システムの制約条件(ボトルネック)を見つける
②制約条件を徹底的に活用する
③制約条件以外のすべてを制約条件に従属させる
④制約条件の能力を高める
⑤制約条件が解消されたら、最初のステップにもどる

オーダーの納期を守りながら、且つできるだけ遅く投入して、ボトルネックの能力を割り当て、稼働率は100%になるようにする、といったことはよく知られていることです。それまであまり出てこなかったことについても説明されています。

*タイムバッファーはResource Buffer(ボトルネック)、Assembly Buffer(組立)、Shipping Buffer(出荷)の3つのバッファーがある。つまり、3か所でスケジューリングが必要。
*ボトルネックが複数あり、互いに干渉するとき
Time Rodという時間のつっかいぼ棒を入れて、干渉を防ぐ
*非ボトルネックの負荷が一時的に100%を超えるとき
それを検出して、タイムバッファーを増やす。つまり、状況に応じてタイムバッファーの長さを調節する(Dynamic Buffering)

Dynamic Bufferingに関して、おもしろいことが書いてあります。それは、オーダーが工程の前でできる行列を待つ時間について言及していることです。

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これまで苦労した問題のひとつは待ち時間をどう見積もるかだ。待ち時間を決めることでいつも製造担当と資材担当の間でもめることは、MRPを導入しようとした人は誰でも知っている。問題対策や優先順の入れ替えが常態化しているのをみると、待ち時間は短めに設定されているようだ。全体のリードタイム短縮への圧力が、みんなで長めに設定している、と思わせているのだろうか。常に議論していても、工程の待ち時間の見積もりはかなり大雑把だということは関係者のだれもがよく知っていることだ。設計では、状況はもっと悪い。待ち時間は実行時間に丸められてしまい、時間見積の信頼性を落とすことに繋がる。

不思議なことではない。待ち時間は個々の作業ではなくリソースに割り当てられる負荷によって決まる。オーダーは均一な流れで到着するわけではない。そしてオーダーの組み合わせは常に変化し続ける。その結果、猛烈に忙しい日が2日続いたと思えば、次の日は何もすることがない、といったように、それぞれのリソースに課される負荷は大きく変動する。待ち時間を数値で与えようとすることは、動的な実態を仮想的な平均値で代表させようとすることだ。満足する結果にはならないだろう。
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待ち行列現象で起きる待ち時間についての記述です。ところが、ところが、てっきり、ボトルネックでの待ち時間かと思いきや、違うんですよ。驚いたというか、拍子抜けしたかというか、、。非ボトルネックでの話なんです。

投入からボトルネックまでの間にある非ボトルネック工程の負荷が高くなったとき、タイムバッファーを長くするというDynamic Bufferingの説明なんです。

ボトルネックの稼働率は100%に近いわけですから、オーダーの待ち時間は大きく変動するわけです。非ボトルネックでの影響どころではありません。事細かな配慮をして、5ステップを踏みながらスケジュールを収束させようとしているとき、指数関数的に増加、変動する待ち時間が加われば、一瞬にして立てたスケジュールは崩壊してしまうんじゃないでしょうか。それには、まったく触れていないんです。

待ち行列の待ち時間に気付きながら、そして、常にボトルネックを中心に考えるTOCで、なぜ、非ボトルネックでの待ち時間だけを考え、肝心のボトルネックでの待ち時間に気が付かなかったのか、不思議でなりません。これが、DBRスケジューリングが実行可能なスケジュールとはならない大きな理由です。

DBRとS-DBRの大きな違いは、DBRがResource、Assembly、Shippingの3バッファーであるのに対し、S-DBRはShipping Bufferだけしかないことです。ResourceとAssemblyのバッファーをShipping Bufferに含めた、と説明されています。

実は、Resource BufferはAssembly BufferやShipping Bufferと基本的に異なるところがあります。それは、Assembly BufferやShipping Bufferには待ち行列による待ち時間は基本的に発生しないのに対し、Resource Bufferは必ず待ち行列現象が生じ、待ち時間が発生することです。

ですから、Shipping BufferにResource Bufferを含めたといっても、待ち行列時間は生じますので、その軽減策を講じることが必要になります。S-DBRは常に市場に制約があるという条件で使うことにしているのは、工程内部にボトルネックが生じて多大な待ち時間を発生させないことを意図したものと考えられます。

スケジュールに関して、付け加えておきたいことがもうひとつあります。ゴールドラットは、1997年、「クリティカル・チェーン」を出版します。クリティカル・チェーンとはプロジェクト管理の方法論です。中心的課題はプロジェクトのスケジューリング。

プロジェクト管理にはPERTやCPR(クリティカルパス法)がありますが、プロジェクトは一般的には、生産と比べれば、不確定要素が多く、納期やコスト管理がむずかしくなります。クリティカル・チェーンのバラツキを管理する方法は、これまでのPERTやCPRとは異なります。

注目しておきたいところは、生産スケジューリングのDBRとの関係です。DBRと同じようなタイムバッファーを組み込んで時間変動を管理するのか、と思いきや、DBRとは異なった時間変動管理法を採用していることです。各タスクの時間変動分を集めて、一番後ろにプロジェクト・バッファーとして、タイムバッファーを置きます。進捗管理は、このプロジェクト・バッファーへの食い込み具合で行います。

ゴールドラットは、なぜ、生産ラインと異なるバラツキ管理を採用したんでしょうか。設計~生産という受注生産もありますので、そのような時、設計はプロジェクト管理、生産はDBRというと繋がりが悪くなります。同じ方法の方が繋がりはスムースです。いや、それ以上の理由があるんでしょうね。どんな理由なんでしょうか、、。

次回、考えてみます。

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