原価計算の弊害にお気付きですか?

先日、ダイヤモンド社から「TOCスループット会計」重版の知らせが来ました。「へ~ぇ、まだ売れてんだ!」、、。初版発売は2005年5月ですから、、賞味期限はとっくに過ぎたのに、、。

小生が製造現場で奮闘している頃、「コストダウン」という言葉を聞かない日はありませんでした。売値は市場で決まる。だから利益を上げるためには「コストダウン! コストダウン!」。疑問も持たずに、毎日、毎日、コストダウン、コストダウン、、、。

原価検討会とかいう会議が毎月行われておりました。そこで製品ごとの原価と売値(工場では振替価格)の一覧表が発表されます。材料費、工程ごとの加工費、機械設備の償却費、様々な費用の配賦、、、等の個別原価の分析資料も配布されます。赤字の製品の担当者はその理由を説明させられます。分析資料をみながら、費用が多い項目、増えた項目などを探して、もっともらしい説明をするわけです。来月は「このようなコストダウン対策をやります」とかなんとか言って、えらい方々の攻撃の鉾を交わす、、。そんなことが毎月、毎月繰り返されておりました。

実は小生が、生産管理や在庫管理に疑問を持ち始めたのは、「コストダウン」と実際の利益との関係があまりない、、いや、ほとんど関係ないことをうすうす感じてきた頃です。

例えば、社内の賃率(単位時間当たりの加工費)が50円/分、外注のそれは20円/分。外注に出すことで大幅なコストダウンができます。「もっと外注化を進めろ!」というえらい方の号令で、あれも、これも、外注へ出す。製品1個原価は、計算通りとはいかなくても、下がります。そんな数字をみて、外注化にさらに力が入ります。その結果、個別原価もさらに下がり、部門利益も上がり、会社全体の利益も上がりました。

この作戦、右肩上がりのときは、うまくいきました。が、景気の停滞が長引くと、会社の利益が減少し、部門の利益も減少傾向が続くようになります。外注化がますます強化されます。外注化は、国を超え東南アジア、中国へとシフトしていきました。そのころ中国の賃率は日本の10分の1以下。生産地から販売拠点までの物流を考えての海外シフトではなく、賃率の安さで海外展開したわけです。物流費は上がり、それよりも何よりも、生産リードタイムが10倍~20倍。それに比例して全体の在庫がうなぎ上りに増えてしまいました。会社の業績は上向くどころか、坂を転げ落ちるように下がっていきました。

「コストダウン」をなりふり構わず進めると「コストアップ」になる、、という体験は、その後の製造管理に対する考え方を変えるきっかけとなりました。

それが、「TOCスループット会計」の翻訳へとつながったのではないかと思います。小生は会計の専門家ではありません。会計と名の付く本を訳していいのかな、と、少しの逡巡はありましたが、会計というよりは、「コストダウン」の弊害を突いた内容だったこともあり、出版に踏み切りました。

利益を増やすために行う「コストダウン」が、逆に、利益を減らすことになるんだったら、すぐにやめればいいんじゃない、と思うのですが、現実はそうでもないんですね。「コストダウン」が体に浸み込んでいて、思考停止状態になっているのかもしれません。では、どうすればいいか。

原価計算が生産管理や在庫管理に及ぼす影響について考えてみたいと思います。実は、この問題、結構複雑なんです。先ずは、基本を確認しておきましょう。このWebでは繰返し述べていることですが、生産ラインや在庫循環のメカニズムは、基本的には物理現象である、と認識することです。ですから、生産管理や在庫管理を管理するためには物理的な操作をしなければならない、ということになります。

生産現場では常に「コストダウン」を心がけています。コストダウンの基準となるのが原価計算です。原価計算から出てくる指標は「製品1個原価」です。つまり、現在の生産管理や在庫管理では、「製品1個原価」で物理現象をコントロールしていることになります。

「製品1個原価」で生産ラインをコントロールしようとすると、先に挙げたようなことが起こってしまいます。「製品1個原価」ではなくスループットにしたらどうか。スループットについて簡単に説明しておきます。

Tu:製品1個のスループット
P:製品1個の売値
TVC:純変動費

Tu=P-TVC

スループットとは売値から純変動費を引いたもの、です。企業全体では、
T:スループットの合計
OE:業務費用
I:投資の合計
NP;純利益
ROI:投資利益率
として、
NP=T-OE
ROI=(T-OE)/I

製品1個原価とスループットの違いは次の2点。
原価計算                  スループット計算
*固定費を配賦            *固定費の配賦はしない
*ボトルネックを認識しない   *ボトルネックを認識する

別の見方をすれば、スループット計算は生産ラインの物理特性を考慮するが、原価計算は物理現象を無視する、ということになります。スループット計算が原価計算の弊害を防ぐことができる主要な理由は、この辺りにあるんじゃないかと思います。詳細は「TOCスループット会計」をご覧ください。

しかし、スループット計算でも「金額」で物理現象をコントロールすることには変わりはありません。どの程度コントロールできるのか、できないのか、気になるところです。

企業の目的を「儲けること」と単純化することは乱暴すぎますが、赤字を出し続けることはできません。そして企業業績は金額で評価されます。ですから、金額という評価基準は絶対的であり、逃れることはできません。

で、一方、ものづくりの現場は基本的には物理法則が支配しております。物理法則と金額との関係は、実は、製造企業にとっては、根本的な課題であると考えられます。

企業の業績は、法に縛られた公的な財務会計によって行われます。一方、管理会計は法的な縛りはまったくありません。財務会計で評価される業績をよくするために、企業それぞれが工夫する。原価計算を使ってもいいし、スループット計算でもいいし、もっといい方法があれば、それに切り替えればいい。

管理会計の自由度は大きいわけですが、実際はそうでもありません。やはり、財務会計との関係は正しく関連づけられていなければなりません。つまり、財務会計の影響がある。これが結構強いんじゃないかと思います。原価計算は財務会計の考え方には親和的だと思います。じゃ、スループット計算と財務会計との関係は、どうなんでしょうね、、。

生産管理・在庫管理と財務会計を結ぶ管理会計はどうあるべきか。企業の経営管理では重要なテーマなんじゃないかと思います。折をみて取り上げてゆきたいと思います。

DPM研究舎へ戻る

TOC支持者が気付いていないDBR/SDBRの致命的弱点

前回、次代の工場管理の方向性は、IoT等の情報技術を活用し、生産ラインの特性をベースにした需要基準の生産管理ではないか、という展望をガイドラインにして、平成の30年間に工場管理にどのような進化、変化があったかをザッと、振り返ってみました。

MRP―MRPII―ERPの進化とフォード生産方式―トヨタ生産方式(TPS)は、現在の工場管理を構成する2大潮流となっておりますが、それぞれに弱点もあります。それに対する幾多の改善、挑戦の中で、最も期待されたのは、TOCが提唱するDBR/SDBRだったのではないか。期待された主な理由は、MRPもTPSも悪しきものとして排除したバラツキをDBR/SDBRは積極的に許容したこと。漠とした暗雲に包み込まれた生産管理に光明がさしかけた瞬間でもありました。

しかし、かすかな痕跡は残ったにしても、DBR/SDBRが2大潮流に与えた影響はほとんどありません。だからと言って、DBR/SDBRは使いものにならない、、と切り捨てていいのか、、。TOCのブームが過ぎ去った今、なぜ、DBR/SDBRが機能しないのか、レビューする中から次のステップへ進むヒントみたいなものがみつかればと、、思いつつ、、。

DBR/SDBRの適用に関して、SDBRの開発者、エリ・シュラーゲンハイムの「DBR/SDBRの境界」と題したブログが参考になります。その中で、DBR/ SDBRの導入で高い納期遵守率と高い信頼性を達成するための、不可欠かつ基本的な前提条件に付いて次のように述べております。(出典;日本語英語) 気になるところを抜き出してみます。

*どの製造オーダーも、正味のタッチタイムがリードタイム(投入から完了までの時間)に比べて非常に短い。
 ゴールドラット博士は、タッチタイムはタイムバッファの10%未満だと仮定した。
 それ以外の時間は、必要なリソースが空くのを製造オーダーが待っている時間であり、リソースの多くは稼働率があまり低くない。
*ほとんどの製造オーダーは、イエローゾーン内に完了するか、レッドゾーンに食い込む当たりで完了する。 

――― 中略 ―――

なら、ある工程のタッチタイムがバッファの30%くらいになると、一体どうなるんだろう?
SDBRでは、バッファの保護対象は、原材料を投入してから完了するまでの製造プロセス全体です。一つの工程でその30%も使うとなれば、次の2つの重大な問に答えないといけません:
①そのバッファ時間で、製造プロセス全体の変動から納期を守るのに十分か? つまり、30%のタッチタイムは保護時間から引かないといけないので、残り70%の時間で納期を守るに十分か? ということ。

②DBR/ SDBRのバッファ管理では、製造オーダーが今どの工程にあるかはバッファの状態に反映されない。なぜなら、タッチタイムが無視できるときは、大して問題にならないからである。しかし、ある特定の工程でバッファの30%も使うとなれば、製造オーダーがその長い工程を通過したか否かは大きな問題である。仮にまだその長い時間かかる工程の上流にあるとしたら、残っている実質的なバッファは、納期までの残時間に比べて相当短い時間になるからだ。

DBR/SDBRを適用できるのは、タッチタイムがリードタイムの10%未満であること。それを超えるとき、例えばある工程のタッチタイムが30%くらいになる場合は、残りの70%の時間で納期を守るのに十分かどうかを確認しなければならないし、また、製造オーダーがその工程(タッチタイムが30%の工程)の前にあるのか後ろにあるのか確認しなければならない、と言っているわけです。

この説明を読んでいる限り、特におかしなところはないようですが、実はこれ、「DBR/SDBRの境界」というよりは「DBR/SDBRの限界」を吐露しているように感じられます。

具体的な数値を入れて考えてみましょう。例えば、リードタイムが10日だとすると、正味タッチタイムは1日未満。で、ほとんどの製造オーダーは、イエローゾーン内に完了するか、レッドゾーンに食い込む当たりで完了するということなので、図1に示す日数分布(平均6日)で完了する、とします。ということは、正味タッチタイム平均が1日として、平均待ち時間は5日ということになります。

注目しているのは時間です。正味タッチタイム、リードタイム、3つのタイムゾーン、待ち時間。どれも時間。そしてオーダーの飛び込む時間間隔はランダムにバラツキ、タッチタイムもバラツク。

図1 3つのタイムゾーンと平均完了時間のイメージ

この問題を「待ち行列理論」を利用して考えてみましょう。

簡略化して、生産ラインは1工程とします。オーダーの受注時間間隔は指数分布、タッチタイムは平均1日の指数分布に従うとします。平均完了時間を6日としますと、待ち時間は平均5日となります。単位時間当たりの処理数をμ、工程の稼働率をρとして、平均待ち時間は次の式で与えられます。

平均待ち時間=ρ/{μ・(1-ρ)}

単位時間を1日としますと、1日での平均処理数はμ=1、平均待ち時間は5日なので、

ρ/(1-ρ)=5
ρ=0.833

工程の稼働率は83.3%ということになります。その他にも次のようなことが計算できます。

平均到着率λ;単位時間当たりに到着するオーダーの平均数
λ=μ.ρ=0.833

オーダーの平均到着間隔は、1/0.833=1.2 となり、平均1.2日で1件のオーダーが来るということになります。

工程内にあるオーダー数の平均Lは、

L=ρ/(1-ρ)=0.833/(1-0.833)=5

工程前に処理を待っているオーダー数の平均Lgは、
Lg=ρ・ρ/(1-ρ)=0.694/(1-0.833)≅4.2

ということになります。イメージを図2に示します。

図2 タッチタイム1日の工程流れのイメージ

次に、タッチタイムが30%の場合について考えてみましょう。前と同じ条件でタッチタイムだけを平均3日として計算してみます。タッチタイムが平均3日かかりますので、待ち時間は平均3日(完了平均時間6日-タッチタイム平均3日)。タッチタイムが平均3日なので1日での平均処理数はμ=1/3。

3×ρ/(1-ρ)=3
ρ=0.5

工程の稼働率は50%になります。その他の値も同じように計算してみます。
L=0.5/(1-0.5)=1
Lg=0.5×0.5/(1-0.5)=0.5

イメージを図3に示します。

図3 タッチタイム3日の工程流れのイメージ

タッチタイムが10%から30%への変化に注目するため、その他の条件は大幅に簡略化しました。待ち行列理論を利用して計算したところ、タッチタイムが平均1日のときは工程の稼働率は83.3%、平均3日のときは50%という結果になりました。そして、仕掛と処理数を合わせた工程仕掛は、タッチタイムが平均1日では平均5オーダー、平均3日では平均1オーダーとなりました。

エリ―・シュラ―ゲンハイムの説明と比べてみましょう。

DBR/SDBRを適用できるのは、タッチタイムがリードタイムの10%未満であること

これをザックリと翻訳しますと、
「DBR/SDBRを適用できるのは、稼働率が83%未満であること」
となります。稼働率が83%以上を狙う場合はDBR/SDBRは使えませんよ、ということになりますね。

では、タッチタイムが30%のときは、、、そうですね。
「DBR/SDBRを適用できるのは、稼働率が50%未満であること」
となり、これが、タッチタイムが30%であるときのDBR/SDBRが使える条件だということになります。

残りの70%の時間で納期を守るのに十分かどうか、また、製造オーダーがその工程の前にあるのか後ろにあるのか確認しなければならない
なんていう必要はないことになります。(但し、オーダー個々の優先順を制御するときは、工程の位置が重要な意味を持つことになりますが、それについては別途、触れます)

いかがでしょうか。エリ―・シュラ―ゲンハイムの説明よりは、具体的なイメージがつかみやすくなったのではないでしょうか。ポイントは、工程の稼働率が重要な要素になっていることです。DBR/SDBRがバラツキを許容しておきながら、うまくバラツキを処理できない最大の理由は、稼働率(利用率)を考慮しなかったことではないかと思います。稼働率によって待ち時間が大きく変わります。どのように変化するかといいますと、実際は様々な係数がかかりますが、コアの部分は、
平均待ち時間=ρ/(1-ρ)
となります。一例を示しますと、図4のようになります。これだけ待ち時間が急激に変化する要因である稼働率を無視したら、リードタイムのコントロールなどできるわけはありません。一目瞭然でしょ。DBR/SDBRが機能しない理由は、生産ラインの物理的基本特性である稼働率と待ち時間の関係を正しく捉えていないから、なんですね。

図4 稼働率に対する平均待ち時間のカーブ

もちろん、待ち行列理論だけではすべてを説明できるわけではありません。待ち行列理論で計算できるのは、主に、平均値です。分布の形状を求めることはできません。生産管理では、納期遵守率も知りたいところですが、そのためには分布形状を計算する必要があります。どうしたらいいか、、。おいおい、お話ししてまいりたいと思います。

今回は、MRPやTPSが排除したバラツキを、むしろ積極的に取り入れながらも、結局はバラツキの渦の中で悶え、消えかけているDBR/SDBRの根本的欠陥は何なのか、についてお話しました。

DPM研究舎に戻る

平成の30年間にあった工場管理の進歩;次代を見すえて

株価最高の好景気で迎えた平成も、バブルの崩壊、リーマンショックなどなど、の激動を経てあと少し。この30年間、生産管理、在庫管理を中心とする工場管理はどのような進化、変化があったのか、、。ザットですが、振り返ってみようかと思います。

コマゴマしたことよりは大きなうねりというか、根底に流れるパラダイムというか、時代を背景にみえてくる特徴って、こんなことかな、的な感じで綴ってみたいと思います。

平成の30年を切り取ってみてもよくみえない。それよりさらに100年ぐらい遡って、その続きで平成の30年を眺めてみようと思います。120~130年前って、大量生産が始まった頃。大量に、効率よくつくる。で、すぐ頭に浮かぶのはフォード生産方式です。

1910年代、フォードは、ベルトコンベアを利用した流れ作業で自動車の組み立てを始めました。当初は黒色のT型フォード1車種。その後、生産車種は増えていきます。この流れ作業、自動車産業に限らず、様々な生産にも取り入れられていきました。そして一つの完成形がトヨタ生産方式ではないかと思います。現在トヨタでは、細かくみれば数万車種を生産しているといわれております。この流れを以下、TPS(トヨタ生産方式)と略称します。

生産量の拡大とともに多様化が進み、それに伴い必要とする部品、資材をいかに効率よく手配するかが課題となってきました。1960年代頃、コンピュータを利用した資材調達システムが出てきました。MRP(Material Requirements Planning)です。その後、製造能力を加味し時間の管理もできるようにしたMRP-II(Manufacturing Resource Planning)へと発展します。さらに、生産だけではなく、会計、人事など組織全体の資源管理も含めたERP(Enterprise Resource Planning)へ統合されていきます。

このMRPとTPS。対象とする主な領域はどちらも製造業。MRPもTPSもそれぞれうまく使いこなしている企業もあれば、まったくうまくいかない企業もあるようです。その程度は千差万別。

領域は同じでも、両者のアプローチは異なります。MRPは、BOM(部品表)情報で生産に必要な資材量を算出することから始まり、それにつながる生産計画の立案へと発展しましたが、TPSは生産ラインそのものの動かし方から始まり、多品種生産へと発展してきました。MRPはバッチ処理、TPSは1個処理という処理単位の違いは、このアプローチの違いと関連していると思われます。

MRPとTPSの対比それ自体、現在の生産管理の特徴を洗い出すうえで、結構面白いテーマだと思うんです。が、今回のテーマは、平成の30年間に工場管理がどのように進歩、変化したか、ですので、そのテーマに集中します。比較のテーマは折をみて、、。

MRPに対しクレームをつけたのが、TOC(Theory of Constraints;制約理論)の提唱者であるGoldrattです。MRPでは、工程ごとに限られた生産能力(生産リソース)を効率よく計画しようとしても、生産計画を収束させることはできない、と言うのです。それに対し彼は、DBR(Drum Buffer Rope)という生産方式を提唱します。生産ラインの能力は、能力の一番低いボトルネック工程で決まるので、ボトルネック工程だけ生産計画を立てればよい。他の工程は流れてきたものをその順に処理するだけ。ボトルネック工程を遊ばせないように、その前にバッファーを置くことで、生産ラインの能力を100%引き出すことができる、と主張したのです。

TOCをテーマにした小説、ザ・ゴールが米国で発売されたのが1984年、日本語版が発売されたのが2001年。300万部を超えるベストセラーになりました。

さて、このTOC。MRPの救世主になったのでしょうか? 結論から言えば“No”です。簡単な生産ラインであれば、ボトルネックは一カ所で固定されますが、生産ラインが長くなり、生産品種が多くなると、ボトルネックはあちこちに現れ、動き回ります。また生産ラインの合流点でもタイミングを取るためにスケジューリングが必要となり、簡単だったはずの生産計画が複雑化。結局、実行可能な生産スケジュールを立てることができなくなってしまいました。

その後、出荷工程だけをボトルネックとして、計画負荷という新たな考えかたを取り入れた、簡易型のS-DBR(Simplified DBR)が後継者のシュラ―ゲンハイムによって提案されます。しかし、簡易型でしかなく、適用範囲もごく限られているようで、MRPの欠点を実務的にどの程度修正できたか、確かな情報は得られておりません。

TOCはTPSにも異論を唱えます。「ザ・ゴール」から抜粋してみます。

(134~135ページ)
ジョナ;「『バランスがとれた工場』とは、・・・すべてのリソースの生産能力が市場の需要と完璧にバランスがとれている工場なんだ。・・・」
アレックス;「やはり完全にバランスのとれた工場なんて存在しないと思います」
ジョナ;「面白いな。・・・それじゃ、どうしてこれまで誰もバランスのとれた工場を実現したことがないと思うのかね。・・・」
アレックス;「・・・いつも条件が変化しているからだと思います」
ジョナ;「本当の理由は、バランスのとれた工場に近づけば近づくほど、倒産に近づくからなんだ」

バランスのとれた工場を目指すTPSでは、倒産しちゃいますよ、っていうわけです。DBR/S-DBRでは、バランスなど取れなくたっていいよ、バラツキがあってもいいよ、ということですから、TPSの導入で苦労している人たちにとっては、この上ない朗報となるわけです。

MRPの欠点を修正し、TPSの弱点を補う。一時、DBR/S-DBRは次世代の生産方式だ、なんて騒がれたこともありました。

MRPのスケジューリング機能を改善するもう一つの動きがAPS(Advanced Planning and Scheduling)。IT技術の進歩でスケジューリングの即時性と柔軟性が飛躍的に高まり、どのような生産環境でも最適な生産スケジューリングができるのではないか、と期待されました。日本でよく知られえるようになったのは、2001年に出版された「APS 先進スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!」西岡靖之著、あたりからだと思われますが、最近はあまり話題にもならなくなりました。

その他にも、一気通貫生産方式という“まゆつばもの”など、いくつかありますが、MRPとTPSの流れに大きな影響を及ぼす提案はないように思います。もちろん、TPSでは、かんばんが電子かんばんとなるなど、トヨタ自身による改良は進んでいると思います。

これだけ、AIだ、5Gだ、IoTだ、そして第4次革命だ、と情報技術が進歩しているのに、MRPとTPSの流れに大きな変化は起きていない。なぜなんでしょうね。

TOCとAPSのチャレンジの中にヒントが隠されているように思います。DBRはボトルネックという生産ラインの特性に注目しました。APSはスケジューリングの即時性と柔軟性の実現をIT技術に託しました。ここまでは良かったんじゃないかと思います。

MRPとTPSのアプローチの違いについては前述したとおりですが、共通項もあります。それは、MRPもTPSも生産計画基準であることです。基準となる生産計画は固定されていなければなりません。MRPでは、生産計画が固定されていないと資材の所要量を計算できません。TPSも生産計画を固定しないと、平準化ができなくなるばかりではなく、同期生産もダメ、かんばん方式もダメ、、と、まったく機能しなくなります。

実は、生産計画基準、生産計画固定という条件は、MRPやTPSに限ったことではありません。現在の生産管理の大前提になっているのではないかと思います。「計画変更に柔軟に対応できます」といった美辞麗句満載の広告をよく目にしますが、計画基準であることの裏返しではないでしょうか。

この大前提が現在の工場管理の障害になっているとなれば、この障害を取り除く。つまり、生産計画を固定しないで、場合によっては、生産計画・スケジューリングなしで生産管理を行うことはできないのか。

これにチャレンジしたのがDBR/S-DBRだとみることもできます。スケジューリングをボトルネック工程だけに限定することで、需要変動に対する柔軟性と即時性を飛躍的に改善しようとしました。そしてS-DBRでは、出荷スケジュールだけに限定し、各工程のスケジューリングそのものをなくしてしまいました。

DBR/S-DBRのねらいは良かったのですが、“生産ラインの能力はボトルネックで決まる”という前提に固執し過ぎました。その結果、DBR/S-DBRは、適用の自由度を失い、どこか、隅っこで、細々と生き延びていくしかなくなった、、、のではないでしょうか。

平成の30年を振り返り、今後の生産管理の進む方向性は、、と、愚見をまとめれば、、。

*生産計画基準からの需要基準へのパラダイムシフト
*生産ラインの特性基準
*IoT、AI、5G等の情報技術の活用
そして、
*MRPとTPSの融合・統合

といったところでしょうか。

DPM研究舎へ戻る

年号とともに、頭の切り替えも、、

平成最後の年の流行語大賞は “そだね~” だそうで。これに触発されてか、私の耳に残った言葉は、“フェイクニュース”。 “フェイクニュース”を“そだね~”と拡散する、今のネット情報社会の危うさを思い起こしたからです。“フェイクニュース”の発信者は、それがフェイクであることを認識していますが、受け手側は、フェイクなのか正しいのか、わからない。情報量が増えれば、その質は落ちる、ぐらいならまだしも、悪貨が良貨を駆逐するみたいなことにならないように、、と、、。

ものごとの“真贋”、“正誤”を見極めることって、そう簡単ではありません。生産管理・在庫管理の世界でも、そうです。巷にあふれる関連書籍、Websiteに並ぶ数々の諸説・解説、コンサルタントの指導・手法、成功事例の物語、生産管理・在庫管理用ソフトの宣伝文句、、などなど、すべて正しいのか、、うーん、怪しいのもありそう、、。発信側は正しい情報を発信しているつもりなのでしょうけど、、。

この種の情報は、概ね、いいことしか書いてありませんので、ついつい、“そだね~”となってしまいます。きちんと理解できているわけではありません。なんとなく“そだね~”と。でも、同じような“説”、“話”が何回か、複数個所で目にすると、いつの間にか“定説”になったりします。

世界中に知れ渡ったトヨタ生産方式。多くの人がその方法と効用を認めます。しかし成功事例となると、限られた件数しかありません。トヨタ生産方式は本当に使えるのか? これだけ知名度のある生産方式でもグレーな部分があります。

生産管理のコンサルタントは、生産計画が基本だ、と強調します。生産計画がころころ変わるのであれば、毎日でも生産計画をつくり直しなさい、と。ぐずぐずしていると、“あなたの会社の管理能力は低い”、といわれて、ピリオド。

生産管理について物申すグループがもう一つあります。コンピュータ屋さんです。昨今、生産管理システムはコンピュータ無しでは成り立ちません。見込生産であろうと、受注生産であろうと、。生産管理をスムーズに行うためにコンピュータを入れようと思っていたら、「コンピュータに合わせて、管理の仕方を変えてください」、といわれて「えっ!??」。コンピュータ屋さんからみると、コンピュータに合わせて現場を管理することが基本、のようです。

少々強引ですが、生産管理にかかわる人、主義・主張を3つのグループに分けてみました。その他に、一気通貫生産方式とかAPS(Advanced Planning and Scheduling)なんていうのもありますが、論理性がなく、現実的な実行可能性はほとんどありませんので、省略します。

3つのグループを次のように仮称します。

① トヨタ生産方式基準―JIT系
② 生産計画基準―MRP系
③ コンピュータシステム基準―SE系

①のJIT系はトヨタ生産方式をベースにした生産管理方法。②の生産計画基準の生産管理は、最もオーソドックスなスタイルで、大量生産の進化の過程で形成されてきました。大量生産では、材料や部品をいかに準備するかが重要。そのためにMRP(Material Requirements Planning)が開発されました。MRPは部材の数量確保ですが、能力や時間も考慮しないと、生産計画に繋がりません。そのため、MRPII(Manufacturing Resource Planning)が開発されます。その後、いろいろ改良が加えられて、現在の生産計画をベースにした生産管理手法となったと考えられます。これをMRP系と呼んでおきます。そして、③、コンピュータ屋さんが主張するコンピュータシステム基準の生産管理をSE(System Engineer)系と呼んでおきます。

この3つ、ベースが異なるので、それなりの違いはあります。しかし共通点もあります。どれも生産管理を対象にしていること。これに異論はないと思います。その他に、共通事項は?

その他の共通項とは? 生産管理の本質にかかわることです。実は生産管理でもっとも重要な要素が抜けているんです。最も重要な要素って? そう、そう。バラツキです。

JIT系はバラツキの排除を条件として掲げています。そういう意味では、トヨタ生産方式の適用範囲は明確に示されているわけです。バラツキがあったのでは(実際は3%程度のバラツキは許容しているようですが)、平準化もかんばん方式も成り立ちません。ですから、トヨタ生産方式がうまくいかない主な理由は、バラツキ排除という条件を満たしていないからだ、と。では、バラツキを排除するためにはどうするか。そこで出てくるのが、ムダの排除、標準化、タクト生産、ラインバランス、、、等々の現場改善。ところが、この現場改善がうまくいかない場合があります。そんな時、JITのコンサルタントは、「現場改善力がない」とか「やる気がない」とか言いうわけです。

実は、バラツキの根源の多くは、社内ではなくて、社外にあるんです。主なものは需要の変動です。この種の変動は現場改善だけでは防ぐことはできません。別の手段でこの変動を遮断できるかどうか、これが、トヨタ生産方式がうまくいくか行かないかの大きな要素になります。具体的には、生産計画の固定です。生産計画が固定されていないと平準化はできません。平準化ができなければかんばん方式もうまくいきません。生産計画を固定できるのは見込生産だけです。つまり、トヨタ生産方式は見込生産と生産計画固定が絶対条件。ほとんどのJIT系コンサルタントは、この最も重要で基本的な条件を知らないようです。この条件が満たされない生産環境でJIT系コンサルタントを入れたりすると、かなりの確率で、うまくいきません。

MRP系もSE系も、実は、ある期間(月次生産なら1カ月間)生産計画を固定しないとダメなんです。ところが、生産計画はコロコロ変わっても大丈夫ですよ、って言ってるんです。それを可能にする技術があるのか、というと、何もない。生産管理のスピードを上げて、とかなんとか、パットしない方策を掲げてはいますが、、、。

3つに共通していること。それは、生産管理では避けることのできない変動、バラツキへの対応がない、ことです。但し、JIT系は、バラツキ排除を条件に掲げておりますので、そこをきちんと守れば問題はないでしょう。MRP系とSE系は、あたかも、バラツキを許容するかのような説明をしながら、具体的な方策は何もなし。これが混乱の元になってるんですね。

バラツキ、変動に対処する機能がないこと。これが現在の生産管理が抱える中核問題。解決の方向はどちらにあるのでしょうか。JIT系で行くのか、MRP系で行くのか、それともSE系か、、。

私見を述べましょう。JIT系は適用条件(バラツキを許容しない)をきちんと守ることに留意して、このまま改善を積み重ねていけばいいかなぁ、と思います。

MRPも見込生産にしか使えません。受注生産で使っている話も聞きますが、うまくいくわけありませんね。もともとバッチ処理が条件ですから、そのバッチをいくら小さくしても受注生産には使えません。もともとMRP系が時間管理に向いていないことは、生まれ育ちをみれば明白。先行き、利用範囲は狭くなっていくでしょうね。

残るはSE系。実は、SE系もMRP系の流れを汲んで、生産計画基準の生産管理システムになっています。計画変更に対応する努力は続いておりますが、コンピュータ側で対応できる部分は限られていて、生産計画を頻繁に変更しなければならない環境では使えません。SE系もダメか、、。

で、どうするか。

問題の本質は、何だったんでしょうか? トヨタ生産方式はバラツキを排除しました。それにより、生産ラインのメカニズムがすごく簡単になったんです。例えば、1工程10分、10工程の直列ラインでは、生産リードタイムは100分。投入から100分経過以降は10分に1個のペースで完成する、、、という具合に。

で、10分の処理時間が標準偏差2分のバラツキがあったらどうなりますか? 標準偏差が3分だったら、、? 1工程の処理時間が異なる製品が入り混じって投入されたら、、? 生産リードタイムも単位時間当たりの完成数も、判らなくなります。こうなると生産管理は成り立ちませんね。

バラツキが少し加わると生産管理は崩壊してしまいます。これが、現在の生産管理システムが抱える根本的な弱点なんです。AI(人工知能)技術が脚光を浴びているこの時代に、ですよ。

ちょっと、視点を変えてみます。今年は早くから、よく台風が来ました。台風の進路予想、最近は精度が良くなりましたね。気象衛星などの情報収集能力、過去のデータの蓄積、処理能力の高いコンピュータ、、などなど、関連技術の進歩があったためでしょう。

これから投入されるオーダーの進路予想をしてみましょう。仕様が決まっていて、通過する工程もわかっています。投入工程の前にはどのようなオーダーが投入を待っているのか、工程仕掛がどの工程にあるのか、、、などなど、必要なデータをとることは容易にできます。新たに投入するオーダーがいつ完成するかを予測するわけですが、台風の進路予想と似ていると思いませんか。生産ラインの中で起きる現象ですから、気象現象に比べれば、必要なデータ量は微々たるものです。パソコンでも処理できるんじゃないかな。

納期予測は、台風の予想のように確率分布になります。例えば、平均20日、標準偏差2日なんていう具合に。26日なら99.9%、24日なら97.7%、22日なら84.1%の確率で、、と。今の納期って、間に合うか、間に合わないか。つまり、0%か100%か、でしょ。それさえもはずれますからね、、。

品質管理の世界では、100年も前から、統計理論を使ってきました。同じ生産現場で、生産管理ではなぜ統計理論を使わないんでしょうか? これだけ、IT技術が進歩しているわけですから、技術的な問題はないと思いますよ。問題があるとすれば、、、。

コンピュータの使い方を根本的に変える必要があるのではないでしょうか。生産計画基準ではなく、需要基準へと。そのためには、生産ラインの物理特性をベースにしなければなりません。バラツキがあると、稼働率が60%~70%ぐらいから生産リードタイムは急激に長くなります。この特性をベースに、投入されるオーダーをリアルタイムに処理する、そんな生産管理システムにする必要があるのではないかなぁ。

稼働率に対する生産リードタイムの計算はそれほど難しくはありませんし、シミュレーションで求めることもできます。実績値を蓄積し、フィードバックすることもできます。生産リードタイムをある時間以下に制限するのも簡単です。ラインにある工程仕掛数を制限すればいいのです。稼働率が上がってくると投入口に待ち行列ができます。その長さで、投入待ちの時間が分かります。生産リードタイムも分かりますので、受注から完成までの時間の確率分布を計算することができます。

コンピュータって、このような計算、得意ですよね。SE系のみなさま、生産管理システムを入れてもうまく動かないのは、管理が悪いからだ、なんて人のせいにしないで、コンピュータの使い方を替えることを考えてみてください。おもしろいと思いますよ。年号も替わることだし、、。

“そだね~”って、言ってもらえるかなぁ~。

では、良いお年を。

DPM研究舎へ戻る

リーンシックスシグマ雑感

数年前から、リーンシックスシグマという言葉をよく聞きます。リーンとシックスシグマの組み合わせであることはすぐに分かります。TQC、TQM、シックスシグマと発展してきた品質管理の手法とトヨタ生産方式から一般化した生産手法、リーンとの融合となれば、ちょっと、興味がそそられますね。

何気なく“リーンシックスシグマ”で検索してみました。あるWebsiteで「適正在庫と、適正発注量の計算の方法」という項目がありました。興味があったのは、在庫管理がシックスシグマと融合するとどうなるか、でした。「おっ!」と思ったことがひとつ。それは、消費した分だけ補充発注すること、です。一般の在庫管理とちょっとだけ、違う。

一般の在庫管理でよく行われる定期発注方式での発注量は、

(発注サイクル+リードタイム)間の予測需要量+安全在庫―在庫―発注残

となっています。毎回、需要予測をするんですね。これに対して、リーンシックスシグマでの発注量は発注サイクル間に消費(出荷)した分だけ。で、これって、かんばん方式と同じ方法ですよね。

なるほど、リーンシックスシグマでの在庫管理はかんばん方式か。伊達に“リーン”ではないんだ。もちろん、これで“ガッテン”とこぶしを打つわけではありません。本題はこれから、、。

一般の在庫管理で発注毎に需要予測を行うのはなぜか。需要が変動するからですよね。一方、かんばん方式は、需要予測はしません。生産計画が固定されますので消費量(需要)は一定で変わらないからです。ですから、かんばん方式を一般の在庫管理に使うとき、需要変動にどのように対処するかが課題となります。それを探るために、「安全在庫はどのようにして決めますか?」と、Websiteの発行者に聞いてみました。次のような返事が返ってきました

  • 経験的には「リードタイム+発注頻度よりちょっと少なめ」みたいな感じです。もし会社の業績が去年よりも良かったら安全在庫がゼロになります。また、この量はおそらく「リードタイム+発注頻度よりちょっと少なめ」の量よりずっと少ないと思います。
  • 安全在庫は統計的に求める事も出来ますが、最初は多めにとって、だんだん減らして決めると良いでしょう。

リーンシックスシグマですから、「論理的で定量的な説明」を期待したんですが、いやはや、、なんだかよくわかりません。ちょっと、ガッカリでした。

実は、私は、シックスシグマに対して、あまりいい印象を持っていないんです。ソニー在籍中の話です。ソニーは1997年にシックスシグマを導入したことになっているんですが、本格的に動き出したのが2000年2月から。全社で事業所長、部門長、統括部長の研修が始まりました。私も受けさせられました。よくあるセミナー、という印象でした。

シックスシグマがソニーの業績にどのような影響を及ぼしたかについては、専門家の分析に譲りますが、ザックリとしたイメージをつかむために、同時期のソニーの株価の動きをみてみたいと思います。

シックスシグマを導入した1997年ごろのソニーの株価は、12,000円前後でした。本格的に動き出した2000年2月には33,250円の最高値を付けているんですね。ところが、それから3年後、2003年4月の株価は3,000円を割り込んでしまいます。その後長期にわたりソニーの業績は低迷するわけですが、シックスシグマ導入の努力と株価は逆比例しているようにみえるわけです。

東芝も日本ではいち早くシックスシグマを導入しました。東芝といえば、社長3代にわたる粉飾決算事件が記憶に新しいですよね。企業存亡の危機に瀕し、手足を切断し、かろうじて一命をとりとめました。シックスシグマの効能書きをみる限りありえない事件が、シックスシグマをいち早く導入した東芝で起きたことに衝撃を受けました。実はわたくし、東芝にも在籍していたことがあるんです。当時の東芝の社長は“メザシの土光さん”で知られる土光敏夫氏。そのころを知る者にとって、今回の不祥事、地に落ちた東芝のみじめな姿を見るに、慙愧に堪えません。

在庫管理の質問に対するリーンシックスシグマの応え、ソニーのシックスシグマと株価急降下後の長期低迷、東芝のシックスシグマと粉飾決算、、シックスシグマに対するイメージが悪い理由をおわかりいただけると思います。念のためお断りしておきますが、シックスシグマやリーンシックスシグマがダメだ、というつもりはありません。私が受けたイメージがそうだ、という話です。

シックスシグマが進化し、リーンと組み合わされると、リーンシックスシグマは品質管理と生産・在庫管理をカバーすることになります。企業にとっては、強力な手法になりそうで、なかなか良さそうな組み合わせかもしれません。しかし、です、ちょっと、ズーム・アウトしてみましょう。

品質管理は業種、業態、生産方式に関係なくほぼ大部分の企業で利用することができます。その理由は、誤解を恐れずに言えば、統計理論をベースにしているからだ、と思います。一方、トヨタ生産方式は、見込生産で生産計画固定可能な生産環境でしか再現できません。なぜか。バラツキを認めていないからです。バラツキはありませんので、統計理論は不要です。

ところが、生産計画を固定できる企業はごくわずか。大部分の企業はそうはいきません。「トヨタ生産方式が再現できた企業は皆無だ」という話は、多少誇張されているとしても、あながち嘘ではないと思います。

トヨタ生産方式を再現できない理由は、バラツキをなくせないから。で、そういう企業が大部分。とすると、リーンシックスシグマがうまくいく企業は、トヨタ生産方式が再現できるごく少数の企業に限られる、、ということなんでしょうかね。

だとしたら、リーンとシックスシグマの融合の意味はあまりないんじゃないでしょうか。

バラツキをなくせない多くの企業にとって、有効な手法じゃないといけないんじゃないでしょうかね、、。

シックスシグマって、統計理論をベースにしたバラツキ管理手法だ、とみたらどうでしょう。バラツキをなくせない多くの企業が困っているのは、生産管理・在庫管理の領域でのバラツキです。シックスシグマのバラツキ管理手法は品質問題だけではなく、生産管理・在庫管理の領域でも利用できる汎用性があると思いますよ。

例えば、生産計画を固定できない企業では、需要の変動を何らかの方法で捉える必要がありますが、XバーR管理図を利用することができるのではないでしょうか。抜取データを5とすれば、直近の5日分の需要量(受注量、出荷量、消費量、、)が抜取データ。軽くシミュレーションしてみましたが、行けそうですよ。

ですから、リーンシックスシグマの適用対象企業を“リーンがうまくいかない(トヨタ生産方式が再現できない)企業”にすると、いいんじゃないでしょうか。名称も変えた方がいいかも、ね。

“生産・在庫管理 powered by Six Sigma”

なんてね。どなたか、本気になって考えてみませんか?

DPM研究舎へ戻る

サービス率が変わっても安全在庫は変わらず

生産管理についての根本的な問題について愚見を述べてきましたが、在庫管理に関しても負けず劣らず、レベルの低さを感じざるを得ません。“ものづくり徒然集”の[書評]No.71~No.76まで、物流業界では名うてのコンサルタントが著した“A書”の中のいくつかの誤謬を指摘しました。考えてみれば、物流業界は物流量が多い方が、ちょっと言い方を換えれば、在庫が多い方が儲かるんじゃないのかな。在庫管理はサービス率を維持しつつ、在庫を減らすことが狙いですので、物流業界では在庫管理を行うインセンティブは働かないのでは、と。だから、物流業界の在庫管理のレベルは低いのかなぁ。

物流業界だけではありません。他にも、仮説、奇説、怪説、愚説、珍説、、いろいろありますよ。今回は、間欠需要での安全在庫、適正在庫の求め方に関する珍説を眺めてみましょう。

間欠需要というのは、注文のない日(週、月、、)もある需要パターンです。一般の需要では毎日注文があることを前提にしていて、その場合、需要分布はおおむね正規分布に近似します。が、間欠需要では、受注ゼロの確率が高くなり、左右対称な分布ではなくなります。そうすると、左右対称の正規分布を前提にした安全在庫や適正在庫の算出方法では誤差が多いくなる。で、何か工夫がいるわけです、、。

Websiteを閲覧していたら、対数正規分布を仮定して間欠需要での安全在庫を計算するソフト(GMDH Streamline)がみつかりました。そこに安全在庫の計算式があります。

 

 

ここで:
Φ^(-1) (∙)- は、標準正規分布の分位。
SL – 与えられたサービス率
(Dev) ̂- O.O.Mで表現された対数正規分布の偏差の推定値。これは間欠需要モデルの偏差パラメータ。
(Med) ̂- 対数正規分布の中央値の推定値。これは間欠需要モデルの中央値 パラメータ。

よくわからないので、聞いてみました。「データを送ってもらえば計算結果を知らせる」とのことなので、早速、送りました。平均値、バラツキを変えて5種類。おもしろい計算結果が返ってきました。表1をご覧ください。

表1 安全在庫の計算結果

 

 

 

サービス率が変わっても、安全在庫はほとんど同じ。こんなことってあるんでしょうか? 何かの間違いかと思って再度、質問してみました。少し間がありましたが、計算式の詳しい説明が追加されただけで、結果は変わらず。

この数値をみただけで、実際の在庫管理には使いものにならないのは一目瞭然。在庫管理の初心者でもわかると思うんですが、2度も同じ答えが返ってくるとは、びっくり仰天。

びっくりした、だけではあまりインフォ-マティブではありませんので、対数正規分布で近似する場合の安全在庫や適正在庫はどうなるのか、についてもコメントしておきたいと思います。

先ず、対数正規分布は、あまりなじみがありませんので、分布形状の例を図1と図2に示します。対数正規分布ではμが平均、σが標準偏差ということではないことに留意ください。対数正規分布の期待値をE、分散をVとしますと、次のようになります。

 

 

結構ややこしいですね。

図1   μ=2でσが0.25、0.5、1、2

 

 

 

 

図2   σ=1でμが0.5、1、2、3

 

 

 

 

対数正規分布と普通の正規分布を比較しみます。図3~図5に例示します。バラツキが大きくなると違いがはっきりしてきます。

図3 正規分布と対数正規分布の比較①

 

 

 

 

図4 正規分布と対数正規分布の比較②

 

 

 

 

図5 正規分布と対数正規分布の比較③

 

 

 

 

下準備はこのぐらいにして、試算用サンプルデータと対数正規分布を重ねてみます。品目Aを使います。受注数量平均は10、分散は9.2。図6にデータは棒グラフ、対数正規分布は線グラフで示してあります。

図6 品目Aのデータ分布と対数正規分布

図6では両者のサービス率がそれぞれ95%、98%、99%の受注数量の位置を示しています。安全在庫は、平均10を引いて、表2のようになります。対数正規分布はサービス率が高くなると安全在庫は多くなるようです。サービス率が変わっても安全在庫は同じなんていうことはありませんね。

表2 データ分布と対数正規分布で求めたサービス率と安全在庫

 

 

ついでに、他の分布形状で近似した場合も調べてみたいと思います。取り上げる分布は、先ずは正規分布。但し、受注数量がマイナスはありませんので、マイナス側はゼロの確率に集めてあります。切断正規分布と呼んでおきます。もうひとつは、間欠需要特有のズレを補正した切断正規分布です。補正の方法については「STIC発注方式」を参照ください。ガンマ分布も加えてみました。一例を図7に示します。

図7 データ分布と各分布の比較

図8、図9は、データ分布を基準としてサービス率がどの程度ズレるかを示しています。受注数量が少なくなるに従い、データ分布との差が大きくなることは、分布形状からも理解できると思います。サービス率が90%~95%以上では差は2%~3%以内に収まるようです。このデータだけで結論を導くことはできませんが、対数正規分布より、ガンマ分布の方が近似性がいいように感じます。

 

 

 

 

 

 

図8 データ分布との差

 

 

 

 

 

 

図9 データ分布との差(拡大)

今回は、間欠需要での安全在庫を計算するソフトに触発されて、対数正規分布の近似性、ついでに切断正規分布(補正あり、なし)、ガンマ分布を加えて、調べてみました。いずれの分布もデータ分布とは大きく異なりますが、サービス率が90%以上の裾野領域では使えるのではないでしょうか。どの分布がいいのか、それぞれ一長一短がありますので、今後の検討課題としたいと思います。

生産管理、在庫管理関連のソフトウエアの説明には、美辞麗句満載、時には“うそ”が紛れ込んでいます。今回の事例は氷山の一角。くれぐれも、お気を付けください。

DPM研究舎へ戻る

“異業種にトヨタを導入”;NPSの挑戦と禍根

前回、前々回と最近のメディアの記事を取り上げ、私見を述べさせていただきました。 “工場管理の8月号特集記事”は、生産ラインの最も基本的な特性を完全に無視して生産管理システム論を展開していることが根本的な問題ではないか、と。生産ラインの最も特徴的な特性は“待ち時間の跳ね上り”ですが、この特性が世の中で知られていないのかといえば、そうではありません。待ち行列理論ではお馴染みです。理論だけではなく、昼休みにできるATMの列、スーパーのレジの行列、デズィニーのアトラクションで並ぶ列、、など、日常生活でも、稼働率(負荷率)が高くなると行列が急激に長くなることはよく経験することです。行列が長くなれば待ち時間も長くなります。

もうひとつの記事、“トヨタ生産方式をマネしても成功しない”と題する記事です。トヨタ生産方式の導入に成功するかしないかは、“「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかだ”、と。これまでも似たような俗説は繰り返されていますので、「またか」という感じなんですが、大学の教授の主張だったので、学生を通して定着することに危惧するわけです。実は、この主張も生産ラインの基本的な特性、繰返しになりますが、“待ち時間の跳ね上り”を理解してないために起きる間違いなんです。トヨタ生産方式成立の条件は、この“待ち時間の跳ね上り”が起きない、起きても生産ラインに混乱を起こさない程度に抑える、“物理的”方策が組み込まれていることであって、“「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかだ”、なんていうのは、的外れ。

注文がいっぱい来たら待ち行列が長くなり、納期が長くなる。誰でもわかる話なんですが、生産管理システムの解説で、この現象に言及されることはありません。トヨタ生産方式成立の条件に精神論的な理由が頻繁に取り上げられますが、生産ラインは物理現象ですよ。それがベースにあることに言及するコンサルタントは、ほぼ皆無。不思議ですね。どうしてなんでしょう。

、、と思っていたら、最近のスポーツ界で散発するパワハラ問題、、。これと共通するところがあるように感じます。大相撲、アメフト、レスリング、ボクシングに体操、、次はどこなんでしょうね。団体固有の問題もありますが、共通する部分も多いんじゃないかと思います。

共通部分は、自己周辺の利益防衛のための権力乱用・執着、というんでしょうか。こんな表現をすると、スポーツ界だけではなく、程度の差はあれ、どこにでもありそうな話になってきます。あまり間口を広げすぎると、焦点がボケてきますので、ほどほどにしながら、生産管理、在庫管理の周辺にアングルを向けて綴ってて行きたいと思います。

経験談をお話ししましょう。1990年代中頃だったでしょうか、バブルが崩壊し停滞の時代に突入した頃です。電機業界も不況の波に洗われ、生産を中国や東南アジアに移したり、それでも間に合わないと、いくつかの工場を閉鎖したり。ソニーも例外ではありません。“自由な発想”と“理”を重んじる社風に逆らって、PEC産業教育センター(現株式会社ペック協会)指導の生産革新が全社的に導入されました。生産革新は、トヨタ生産方式をベースにした改善活動ですから、“自由な発想”と“理”を重んじる社風に逆らって、という表現は分かりにくいかもしれません。トヨタとソニー。戦後日本の製造業の発展を牽引した企業の代表。違いよりも共通点の方が多い、という印象が強いんじゃないでしょうか。でも、トヨタ生産方式の導入となると、話がちょっと、違ってくるんです。

生産革新の改善日。山田先生(山田日登志氏)のお迎えです。工場の玄関前で工場幹部他課長、係長、班長、、らが長い列をつくり、大声で「よろしくお願しまーす」。ソニーの社長が工場訪問するときでも、そんなことはしたことありません。

改善活動が始まる前には、儀式があります。次の3つのことばを、あらん限りの声を出して叫ぶんです。

「今日こそ俺はやるぞー」

「やるぞー、やるぞー、やるぞー」

「やってみてから考えろ」

声が小さいと、「もういっか~い」。それでもだめだと、「声が小さ~い。もういっか~い」と、続く、、、。今では、ブラック企業と見間違えられそうですが、当時は世の中がみんな暗かったので、企業が少々暗くても目立たなかったのかな。ソニーも“ブラック”ぽかったんですね、当時は。かつての輝きは完全に失っていました。

トヨタで、こんなふうにやっているなんて聞いたことがありません。山田流トヨタ生産方式は、トヨタのトヨタ生産方式とは違うのか、、、ずーっと、疑問でした。山田日登志氏の座学講座も何回か聴講しました。トヨタ生産方式でおなじみの“単語”に交じって、 “レイゾウコ”とか“カイモノ”とか、“人をつくる”とか“やる気”とか、山田流が混じりますが、この辺りまでは、まぁ、いいでしょう。が、生産管理の話になると、“生産計画に縛られるな”とか“コンピュータは取っ払え”とか、ちょっと過激になってきます。で、生産ラインの基本特性に関しては、“皆無”。

右肩上がりの時代の惰性で生産していましたので、どの工場も仕掛・在庫の山。声を大きく張り上げただけで、仕掛・在庫は瞬く間に減るんです。が、すぐに頭打ち。しばらくすると増加に転じます。計画と実際の生産との乖離問題は一向に改善されませんでした。今考えてみますと、山田流PECのトヨタ生産方式とトヨタのトヨタ生産方式とは、まるで別もの、だったんだなぁ~、、。

山田流PECの指導方法のルーツは、NPS(ニュー・プロダクション・システム)あたりにあるんじゃないかと思います。

「電気製品や蒲鉾も自動車と同じ生産方式(トヨタ生産方式)で行えば、合理化が出来る」

という考えのもとに、ウシオ電機、オイレス工業、紀文食品、、、などが中心となって、1980代初めに発足したようです。 “異業種にトヨタを導入する”。支援したのが、元トヨタの鈴村喜久男らトヨタ出身者。NPSの企業集団は、日立、松下、トヨタなどの企業集団を追い越すのではないか、という期待があったようです。

NPSの指導の一端を「NPSの奇跡」(篠原薫著、東洋経済新報社、1985年10月発行)から引用してみたいと思います。

[210ページ]
社長すら面罵されるぐらいだから、NPS指導員の現場での指導は厳しい。たとえば、日本軽金属の蒲原工場を何度目かに訪れた鈴村実践委員長は、その巨体を揺るがして、真っ赤になって工場長はじめ現場の幹部を大声で怒鳴りつけた。「何だこれは。この仕掛の山は。この前来た時に、整理するようにいったのにどういうことだ!」というと同時に、仕掛の山を足で蹴飛ばした。蹴飛ばされた仕掛の山は音を立てて崩れ、床に散乱。しかも、鈴村はやにわにかぶっていたヘルメットを脱ぎ、これも力いっぱい床に叩きつけたのであった。工場長はじめ、幹部が真っ青になったのはいうまでもない。鈴村も、しばらく仁王立ちになったまま動かない。

鈴村喜久男はトヨタ在任中、このような指導をトヨタでもしてたのでしょうか。いやいや、トヨタの従業員は生産の何たるかを理解しているんで、大声を上げなくてもいい、のかな。トヨタでできていることが、なぜ他社ではできないのだ、と、鈴村の怒りはわからないでもありませんが、、。

NPSは“異業種にトヨタを導入する”過程で、トヨタ生産方式の方法をほとんどそのまま導入しようとしたのではないでしょうか。特急注文が頻繁に舞い込み、生産計画は変更に変更が繰り返される。そんな環境で、かんばんだ、JITだ、、、というトヨタの方法が機能するはずがありません。そのギャップを乗り越えようとしてとったトヨタ出身者の指導方法は、

「指導者の言うことは絶対」、「一方的な命令」、「軍隊式」、、、。

その流れを、山田流PECも受け継いでいるんだと思います。玄関のお出迎え。天皇陛下じゃあるまいし。「今日こそ俺はやるぞー」「やるぞー、やるぞー、やるぞー」「やってみてから考えろ」。竹槍もって、第4次生産革命を迎えろというのでしょうか。

で、この“異業種にトヨタを導入する”試みはうまくいったんでしょうか。「トヨタ式最強の経営」(金田秀治、柴田昌治共著、日本経済新聞社、2001年6月発行)にこんなことが書いてあります

[31ページ]
トヨタ生産方式を教えるコンサルティング会社もあまたある。その改善方法の多くはパッケージ化されている。しかし、いくら出来合いのトヨタ生産方式を導入しても、本当に成功する企業はほとんど出てこない。現状のひどい生産システムを改善することにより、一時的に大きな効果を出すことはそれほど難しくないが、それ以上はよくならず、システムは古びていくばかりなのに、社員による自主的な改善活動は根づかずに終わってしまうことのほうがはるかに多い。

トヨタ生産方式が世界中でどのように導入されたかについて、ハーバード・ビジネス・スクールが四年間にわたって行った調査研究の結果が、1999年秋、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表された。

題名は「トヨタ生産方式の遺伝子を探る」(H.ケント・ボウエン/スティーブン・スピア執筆、坂本義実訳『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』2000年3月号)である。この論文の中で、「トヨタは驚くほどオープンにそのノーハウを披露してきた。しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無である。数千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場(もちろんアメリカも)を訪問したが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできなかった」と述べている。

つまり、“異業種にトヨタを導入する”狙いをもって、1980年初めに立ち上げられたNPS、当初は大企業集団に発展するのでは、との期待はあったが、20年後の結果は上記の通り。

で、この書のメッセージで見落としてはいけない部分は、“異業種にトヨタを導入”できないの理由。筆者曰く、「トヨタ生産方式の真髄とは、システムを刻々と変化させ続けることにある」と。書の中には次のような言葉が繰り返されます。

「自主的な常識はずれの改善活動」
「日本的イノベーション方式」
「変化し続けるトヨタのDNA」
「キーワードは経営マインド」
「進化する組織と変革型人材」
「本気でやる気のある前向きな集団をつくる」
、、、、

筆者の一人、金田秀治はトヨタ出身。トヨタ出身者がトヨタ生産方式をこのように語れば、トヨタの外の人間が異議を唱える余地はありません。トヨタ生産方式とは、経営論であり、人材育成論であり、精神論であり、、、という流れが定着していったのだと思います。

前回取り上げた「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」(筆者;菅野 寛)という記事、トヨタ生産方式が機能する前提条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していること、だと。学生に教える大学教授もこの流れを定着させる役割を演じているわけです。

NPSの最大の功績は“異業種にトヨタを導入”できないことを証明したことではないかと思います。20年かかりました。大事なのは、その理由を正しく理解して、次のステップに繋げていくことです。ところが、そこで、致命的な間違いが起こりました。その間違いを起こしたのが、トヨタ出身の指導者(コンサルタント)。トヨタ生産方式を導入できないのは“経営”の問題だ、とぶち上げました。トヨタ生産方式に関して、トヨタ出身者の声に異論を発する御仁はおりません。そしてその後20年、トヨタ生産方式はトヨタの経営と不可分である、という風潮が定着したまま、今日に至っております。

前出の「トヨタ式最強の経営」にこんなことが書いてあります。

『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』2000年3月号から引用
さらに、「トヨタ生産方式の分析は、なぜこうも難しいのだろうか。それは訪問者たちが工場でみたトヨタ生産方式の本質を、そこで用いられているツールや手法と取り違えてしまうからだ」「トヨタ生産方式・・・・は過去50年にわたる努力によって自然と生まれてきた賜物と言える。それゆえ一度として文書化されたことはなく、トヨタの従業員ですら理路整然と説明できる人はいない。トヨタの従業員以外の人に、トヨタ生産方式がきわめて理解しにくいのはこのためである」と指摘している。

なるほど。トヨタ出身者がトヨタ生産方式を語るとき、“経営”というあいまいな、しかし、関心をひくキーワードに関連付けて、“ノンフィクション・ストーリー”を仕立て上げる、そんな姿が浮かび上がってきます。“トヨタの経営は特別なんだよ”というメッセージは、ブランドイメージを高める。トヨタの意図した戦略だとは思いませんが、こんな成り行きに異を唱える必要はありません。黙認し、ほくそ笑んでいるのではないでしょうか。

NPSが始めた“異業種にトヨタを導入する”挑戦は、生産ラインの物理特性を無視したことが失敗の要因であった、ことにも気づかず、その後、PECをはじめとして、“地獄のxx訓練”など、精神論面が強調されて、今尚、続いております。いや、しっかりと定着しているのかもしれません。もう、“生産ラインの基本特性”なんて話をはさむ隙間も見当たりません。

オリンピックを目前に控え、スポーツ業界は、旧体制の刷新の動きが活発になってきました。生産管理、在庫管理、サプライチェーンの領域ではどうでしょうか。第4次産業革命がすでに始まっています。にもかかわらず、問題の本質に目を向けようとする気配は感じられません。日本、危うし!

DPM研究舎へ戻る

「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」;ありえない理由

トヨタ生産方式をまねしても成功しない」(執筆;菅野 寛)という記事を目にしました。
(Websiteは https://president.jp/articles/-/25566 コピーはこちら
トヨタ生産方式といえば、世界中に知れ渡った、最も有名な生産方式です。ですから、まねをする企業も多く、関連する書物、セミナーもたくさんあり、コンサルタントも多数おります。

トヨタ生産方式がブームになったのは1980年頃からでしょうか。猫も杓子もJITだ、カンバンだ、と。1990年代に入ると病院や郵便事業、官公庁までもがトヨタ生産方式だ、と騒ぎたてていました。

ところが、ブームが落ち着きかけると、導入しても失敗に終わる企業の方が圧倒的に多い、ということが分かってきました。で、出てきたのが、
「トヨタ生産方式導入失敗の原因」
「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由」
「トヨタ生産方式の成否の違いと成功のポイント」
「トヨタ方式に挑む 導入に成功する組織・失敗する組織」
「トヨタ生産方式導入の失敗事例から学ぶ」
、、、、
というような失敗をテーマにした記事。2000年以降多くなってきて、その後下火になり、最近ではあまり見かけなくなったなぁー、と思っていたら「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」という記事に遭遇。

初めに、本文をお読みいただくと話の流れはつかみやすくなると思いますが、そんな暇のない方にも、ポイントだけはわかるようにしようと思います。

先ず初めに、「トヨタ生産方式はなぜ、他社では機能しないか」について、それは事情(コンテクスト)が異なるからだ、と執筆者は言います。例として、(トヨタ生産方式の)アンドンが出てきて、それが機能する前提条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していること、だと。ところが、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない、と断じ、だから、他社では、トヨタ生産方式は機能しない、のだと断じています。

「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかでトヨタ生産方式が機能するか、しないかが決まる。これが執筆者の主張です。

この説を検証してみましょう。自動車産業のコンテクストを外観しながら、、。

トヨタは世界中に工場を持っています。海外のトヨタの工場の生産方式は、当然トヨタ生産方式。ただ、日本の工場と比べるとレベルは落ちる、ということは聞いたことがあります。とは言っても、トヨタ生産方式の基本をはずしているとも思えません。どの工場でも、レベルの差はあれ、トヨタ生産方式で生産されていると考えられます。だとすれば、世界に散らばるトヨタの工場の従業員だけは、どの国にあっても、「いい仕事をしたい」という価値観を持っている、ということになります。

一方、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいないのであれば、海外のトヨタの工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいないのではないでしょうか。海外でも、トヨタの工場だけは別で、このような価値観を持った従業員がいるとしたら、、なんで? その理由の方に興味が惹かれますね。

日本国内のコンテクストに目を向けてみます。「世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない」、から連想されることは、国内の工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員がいる、ということでしょうか。だとしたら、日本国内のどのような工場でも、トヨタ生産方式が機能する、ことになります。これは「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」企業の方が圧倒的に多いという現実と矛盾します。

国内の自動車産業に目を向けてみましょう。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、、ほとんどすべての自動車メーカが国内に工場を持っています。その工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいるのかどうか。トヨタの国内工場すべてにそのような従業員がいなければなりませんね。では、日産やホンダの工場はどうでしょうか。そのような従業員がいるのかどうか。

自動車メーカの従業員がどのような価値観を持っているのか、手元にデータがあるわけではありません。しかし、同窓、同郷、そして親戚同士が、そして世界でも類をみない同質性を共有する日本人がたまたま選んだ勤務先が、トヨタ、日産、ホンダ、、。それぞれの従業員の価値観に顕著な差がでるとは想像しがたいことです。つまり、トヨタだけに「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員が偏って多いことは考えにくいことです。

トヨタ生産方式導入失敗の原因については、多くの人が、いろいろの立場から語ってきました。経営理念、経営戦略、企業文化、従業員の価値観・意欲、改善魂、5S、、、などなど。

トヨタ生産方式成立の条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していることだとする主張は、これまでの諸説と比べてみれば、食傷気味の“俗説”に類し、屁ごときたわごと。屁なら、ちょっと我慢すれば、間もなく霧散し消えますが、この稚拙な主張の発信者が某大学院経営管理研究科の教授であることは、忌々しき事ですね。学生を通してこのような俗説が次世代に引き継がれ、失われた30年がそのまま40年、50年、、となりはしないか。日本経済停滞の一因は大学の知的・教育レベルの低下なのかもしれません。

表題の下に「教科書理論をすぐ使うという地雷」という副題があります。教科書に書いてあることをコンテクストも吟味せず、うのみにするな、というメッセージだと思うんですが、この教授、自ら地雷を踏んで見せるとは、度胸がいいというか、救いようがないといううか、いずれにしても教育レベルが低下していることだけは確かでしょう。

では、「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」本当の理由は何なんでしょう。生産方式そのものを注意深くみてみましょう。日産自動車の生産方式は、日産生産方式(NPW)と呼ばれているようですが、中身はトヨタ生産方式とほぼ同じ。違いを見つけるのに苦労するぐらいです。サラっと調べてみた限りでは、ホンダやマツダ、そしてGM(一時トヨタと合弁工場を運営)やフォードも、小異はあっても、ほぼ同じではないかと思います。つまり、トヨタ生産方式は、企業、国を超えて世界中で機能していると考えられます。

「全部、自動車会社じゃないですか、、」
「そうですよ。だから、、」
「市場も同じ、つくっている車も似たり寄ったり、、、トヨタ生産方式も導入しやすいんじゃないですか」
「そのとおり」
「自動車会社以外にありますか?」
「もちろん、あります」
「例えば、どんな会社ですか、、、」

トヨタ生産方式成立の条件は、こんな会話の中に隠れているのかもしれません。

DPM研究舎へ戻る

生産管理システムの弱点がズバリ…工場管理8月号[特集1]

先だって、近くの本屋さんで、“工場管理2018年8月号の[特集1]“をパラパラと立ち読みしました。「おー、これは、、」と思い、家でじっくり読むことに、、。

“[特集1]なぜ納期遅れが起きるのか 生産管理システム活用の盲点“ 解説1~6

この記事、変に、おもしろい。日本の生産管理システムの弱点がズバリ、わかります。ただ読んだだけではわかりません。生産ラインの基本特性についての予備知識が必要です。具体的な事例で、先ずは、予習兼準備体操から、、。

[事例]
ある受注生産をしている企業がある。受注が確定したら生産開始。生産リードタイムは10日。どんな注文でも10日、ピッタシ。この工場は同時に1台しか製造できない。1台完成したら次の注文に取り掛かかる。注文はランダムに舞い込む。注文が多くなると投入口で待つことになる。製造は受注順に行う。

投入待ちの注文がない時は、納期は10日。納期遵守率100%です。注文が増え、投入待ちの注文がある時はどうなるか。とりあえず知りたいのは受注してから完成するまでの時間です。注文が増えれば納期も延びるんじゃないか、ということは経験的に分かりますが、ではどのくらい?

実は、この問題を解くのにちょうどよい計算式があります。待ち行列理論にM/D/1モデルというのがあります。Mは注文の到着時間間隔の分布が指数分布、Dは処理時間が一定、1は処理工程がひとつ、という意味です。受注してから完成までの平均時間は次のようになります。

受注~完成までの平均時間=製造時間+待ち時間

製造時間は10日で一定ですので、待ち時間に注目します。待ち時間の計算式は次のようになっています。
平均待ち時間=ρ/2μ(1-ρ)
λ;平均到着率(受注件数/単位時間)
μ;平均サービス率(処理数/単位時間)
ρ=λ/μ(稼働率)

事例の数値;μ=1台/10日 で、注文の到着率を振って稼働率を変えたとき、平均待ち時間がどうなるか、計算した結果の一例を図1に示します。

図1 待ち時間の一例

製造時間は稼働率に関係なく10日で、一定ですので、受注~完成までの平均時間はほとんど、待ち時間によって特徴づけられます。図1をみてわかるように、稼働率が80%を超えるあたりから急激に待ち時間が長くなります。この現象を“待ち時間の跳ね上り”と呼んでおきます。

こうなる原因は何か。製造工程ではきちんと10日で生産しています。にもかかわらず、稼働率が高くなると、受注~完成の平均時間は、100日を超えてしまいます。この原因は、需要の変動です。需要の変動は生産工程の外、工場内ではどうすることもできません。

待ち行列理論の数式では平均値しか計算できません。どんな分布で、最大値はどのぐらいなんでしょうね。計算式では求められませんので、シミュレーションで確かめてみます。

シミュレーション結果の一例を図2に示します。稼働率95%では最大の待ち時間は300日を超えてしまいます。

 

図2 待ち時間のシミュレーション結果の一例(生産台数5,000台)

稼働率95%のときの待ち時間の分布の一例を図3にし召します。ダラダラとすそ野を引いていることが分かります。赤棒は待ち時間ゼロの確率(約6%)です。

 

図3 稼働率95%のときの待ち時間の分布の一例

図4は待ち時間の時系列変動(生産台数1000台まで)を示したものです。待ち時間は0日~200日の範囲で不規則に変動しています。

 

図4 待ち時間の時系列変動

事例の工場はひとつの工程とみることができます。複数の工程が直列、並列に連なって生産ラインとなり、生産ラインが連なって工場となり、サプライチェーンを形成します。事例は、生産ラインの最少構成単位がどのような特性を持っているかを示しています。

1工程で起きる待ち時間の跳ね上りは、程度の差はあっても、どの工程でも起きます。1工程の完成時間間隔は次工程の投入時間間隔となり、処理能力との関係で待ち時間はバラツキます。生産ラインの投入から完成までの各工程の待ち時間がバラツけば、工程を通過する時間もバラツクことはお分かりいただけると思います。

生産ラインのこのような特性は、不特定多数の変動要因によって引き起こされます。外部の変動要因もあれば企業内の変動要因もあります。この事例では、企業内の変動はなし、変動要因は注文到着時間間隔のバラツキだけですが、このような企業外(市場)の変動は企業側ではどうすることもできず、受け入れるしかありません。

実際の生産ラインは複数の工程の連鎖からなります。さらに様々な企業内の変動要因が加わりますので特性はもっと複雑に、待ち時間の跳ね上がりもさらに激しくなると考えられます。

生産ラインの基本特性をまとめてみますと、
*待ち時間は、稼働率(負荷率)が80%ぐらいから急激に長くなる(待ち時間の跳ね上り)
*企業内の変動がゼロでも、需要の変動(受注の時間間隔の変動)だけで待ち時間の跳ね上りが起きる
*待ち時間の分布は滑り台状に時間の長い方向にすそ野を引く
*時系列でみると、待ち時間は不規則にバラツク
*待ち時間の跳ね上りは、複数の工程が連鎖する離散型生産ライン、さらにはサプライチェーンを構成するあらゆる基本ユニットで起きる。
*生産ラインへの投入から完成までの経過時間を定めることは、極めて困難である。
*指定された時刻で生産することは、ほぼ不可能である。

この知見を頭に入れておいて、件(くだん)の特集記事の解説に目を通してみます。気にとまった文章を抜き出してみます。(記事からの引用部分は色を変えてあります

① “人手不足により納期遅れ対策が重要になってきた
解説では、実需増や能力不足によって納期遅れが起きる、と説明しています。経験的、直観的に、ひっかかりなくスーッと受け入れる方が大部分だと思いますが、少々鋭く穿ってみましょう。予習した生産ラインの基本特性、図1をご覧ください。負荷率が80%以上の領域では、負荷率がちょっと上がっただけで、待ち時間はグーンと長くなります。待ち時間は、バラツキが大きく且つ不規則に変動します。生産完成の時期を予測することは極めて困難となります。だから、納期遅れが激しくなる、というわけですね。実需増に対して先行手配をするとか、内示数を積み上げるから納期が読めなくなる、とか、残業規制の強化、パート賃金上限問題による人手不足が要因だ、などの説明がありますが、なくてもいいとは言いませんが、本質ではないと思います。

② “製造指示にはどう対応しているのか、製造指示通りのリードタイムで製造できているのか
解説によると、製造開始時刻と製造所要時間が指示され、その通りに製造を行うことが生産管理の基本だ、と。しかし、実態は、緻密な生産計画をつくっても計画通り生産できない、とか、進捗情報があっても納期通りできるかどうかわからない、といった状況だ、と。その根本原因には触れられないまま、解決策は、生産スケジューラーの導入と流動数曲線の利用だ、と説明しているんですが、、。

先ず、緻密な計画をつくることができるのかどうか、を検証してみましょう。待ち時間の跳ね上り現象をもう一度、ご覧ください。事例では1工程、処理時間一定の条件ですが、実際は、処理時間も変動しますし、生産ラインは直列、並列に複数の工程がつながります。1工程で起きる待ち時間の跳ね上りは、程度の差はあっても、どの工程でも起きます。1工程の完成時間間隔は次工程の投入時間間隔となり、処理能力との関係で待ち時間はバラツキます。つまり、生産ラインの投入から完成までの各工程の通過時間は大きくバラツクことがお分かりいただけると思います。このよう特性を持つ生産ラインで、工程ごとの通過時間を緻密に、正確に決めることはできるでしょうか。「えいっ、やっ」、と決めたとしても、その通り生産をすることはできるでしょうか。管理レベルを上げたらできるでしょうか? 生産スケジューラーを導入したらできるでしょうか? 流動数曲線を利用したらできるでしょうか?

生産管理システムのスタンスは、生産ラインの基本特性からみれば、物理的に不可能なことを前提にしていることになりませんか。

③ “納期遅れ問題を解消するための基本は、現在の生産が正しい納期設定通りに生産されているかどうかの進捗監視である
②で述べましたように、各工程の通過時間を予め決めることは不可能に近いことです。ですから「正しい納期設定」もできません。というと、異論が聞こえてきそうなので、コメントしておきます。「正しい納期設定」が可能な条件があります。生産計画固定、変動が極小(3%以下)、同期生産、、、このような生産環境では、生産ラインの特性は、すごく単純になります。詳細は前回のBlog“生産ラインの基本特性;投入負荷と処理能力”をご覧ください。生産計画固定ということは、事例でみた需要の変動を遮断することを意味します。あとは工程内のバラツキを小さくすれば、生産ラインの特性はすごくシンプルになります。この状態であれば、実用的な範囲で、正しい納期設定もできますし、進捗監視もできます。卑近な例はトヨタ生産方式ですね。

ところが、需要変動を受け入れざるを得ない生産環境では、事例で示した生産ラインの基本特性を無視することはできません。生産管理システムには、納期設定と進捗監視が必要だ、というのはその通りです。しかし、生産ラインの基本特性を無視した納期設定、進捗監視は物理的に成り立たない、ということを申し上げたいわけです。

④ “生産理論を知らない生産管理担当者;生産管理の活用目的や生産管理理論を勉強せずに、コンピュータや製造現場に振り回されている生産管理担当者が増えている
現在の生産理論は、生産計画を固定し、需要変動を遮断することを条件に成り立っている、と考えられます。そのような条件の生産管理であれば、現行の生産管理理論を勉強する意味はあると思います。しかし、そうでない業種、企業の方が圧倒的に多いわけです。生産管理の問題の多くは、生産計画を固定できない企業や業種で起きているのではないでしょうか。

生産ラインの基本特性を無視した現行の生産管理論は破綻している、といっても過言ではありません。機能しない生産管理論を学んでも、コンピュータや製造現場に振り回されている状況が改善されることもなく、悶々とした日々が続くだけではないか、と危惧するわけです。

⑤ “生産管理システムは、使う人がマスタに魂を入れないと役に立たない
あれもダメ、これもダメ。八方ふさがりで、今度は「魂」ですか。精神論に逃げ込んでも救われないと思いますが、、。

⑥ “滞留時間を短くする
待ち時間の主なものは①正味製造時間、②ワーク待ち時間、③工程待ち時間、④運搬時間、⑤段取り時間、⑥バッファー時間。発生原因は、購入品の調達が間に合わない、部品合流が同期化していない、製造設備の能力不足、設備の固定化・偏在化、設備故障、オペレータや治具の不足、、、。
これらの大部分は企業内で観察される事象。だから企業で対策できるかというとそうではありません。これらの滞留時間の根本原因は需要のバラツキです。需要の変動がある限りこれらの待ち時間を無くすことはできません。ここでも生産ラインの基本特性が無視されています。

その他にも取り上げたいところはたくさんありますが、まぁ、こんなところにしておきます。

この特集記事、

“[特集1]なぜ納期遅れが起きるのか 生産管理システム活用の盲点“ 解説1~6

興味のある方は、工場管理の原文をお読みください。ザックリとまとめると、“生産ラインの基本特性を無視した生産管理システム活用の解説”。“生産ラインの基本特性;待ち時間の跳ね上り”は執筆者の目には入っていないようで、解説の中にはまったく出てきません。“群盲象を評す”かな。群盲の日常会話を多少わかりやすく羅列しただけ。でも、「盲点」に触れずに「盲点」を描きたかったのだとしたら、、絶妙な表題ですね。

中身はどうでしょう。お粗末そのものです。MRPもダメ、CRPもダメ。生産スケジューラーが解決策の一つだ、といいながらAPSの本格活用はまだ、、の原因も言い訳的なものばかりでうにゃむにゃ。的をはずしたこの特集の解説、解決の方向性を示すことがないばかりでなく、生産管理システム関連に携わる方々へ間違ったメッセージを発信しているのではないでしょうか。そして、この記事が日本の生産管理システムを支える専門家、専門誌のレベルを示していると考えると、底知れぬ寒気を感じてしまいます。

記録的な猛暑が続く今夏に合わせて組んだのだとすれば、時宜を得た特集記事であった、、のかもしれませんが、、。

-暑中および残暑見舞いに代えて-

PDFはこちらです。
DPM研究舎へ戻る

生産ラインの基本特性;投入負荷と処理能力

生産ラインは 投入負荷<処理能力(生産能力) のときと、投入負荷>処理能力 のときでは、まったく異なる特性を示すことを前回、申し上げました。言い方を換えれば、投入負荷=処理能力 を境に生産ラインの特性はガラリと変わります。生産管理上、最も重要な特性ではないかと思うのですが、現在の生産管理では、このようなことに関する記述はあまりありません。この特性が変化する点を屈曲点と呼ぶことにして、投入負荷と処理能力にまつわる生産ラインの基本特性についてさらに詳細に調べていきたいと思います。

前回、重要な特性項目として以下の項目を挙げました。それに屈曲点を加えます。

 生産率(生産性);単位時間での完成数
 フロータイム;投入から完成までの時間
 WIP(Work In Process;工程仕掛)
 稼働率;各工程の稼働時間/総時間
 投入負荷率;ライン投入負荷/生産能力
 屈曲点

これらの特性項目がどのような関係にあるかを理解することが生産ラインの特性を理解することに繋がります。とは言っても、合計6項目間の関係を記述することは、そんなに簡単なことではありません。条件を限定して動きを単純にしてみます。図1に示す10工程直列生産ラインを事例に分析してみます。

production_line

図1 10工程直列生産ライン

P1~P10の各工程の処理時間はすべて10分で、一定としましょう。投入から完成までワークは生産工程流動原理で流れます。今、投入時間間隔を50分とか100分とかにして、投入負荷率と稼働率を一定としてみます。投入時間間隔が100分なら投入負荷率は10%、稼働率も10%。投入時間間隔が10分なら投入負荷率は100%、稼働率も100%となります。補足しておきますが、投入から完成まで生産ラインを通過するのに100分かかりますので、条件変更して100 分以上経過後の状態を観察することにします。

これで生産率、フロータイム、WIPの3項目の関係をみてみます。WIPを基準に生産率とフロータイムをみるのが一番わかりやすいと思います。一例を図2に示します。

FIT_basic

図2 10工程直列生産ラインの基本特性;フロータイム-WIP-生産率チャート

図中、フロータイム、WIP、生産率、それと屈曲点はありますが、稼働率と投入負荷率はありません。どこに行ったんでしょう?

ワークの投入時間間隔を20分としてみましょうか。そうしますと、生産率は、単位時間を100分とすると、5個/100分となります。投入負荷は、処理時間10分に対して20分の時間がありますから50%。稼働率も50%となります。つまり、この場合、投入負荷率も稼働率も生産率と1:1の関係になりますので、投入負荷率も稼働率も生産率をみれば分かる、ということになります。

ワークの投入時間間隔が10分のとき、生産率は10個/100分、投入負荷と稼働率は100%となります。それ以上投入時間間隔が短くなると、生産率は10個/100分、稼働率は100%のままで頭打ちになりますが、投入負荷は100%を超え、フロータイムが長くなりはじめます。

WIPの動きをみてみましょう。ワークの投入時間間隔が20分のとき、工程内には5個のWIPがあります。5個のWIPはすべて工程で処理中です。1個完成しラインアウトすると同時に1個投入されますので、WIPの数は5個、一定となります。

少々分かりづらいのは投入負荷が100%を超える領域でのWIPとフロータイム。例えば、ワークの投入時間間隔を5分としてみます。工程の処理時間は10分ですので、ライン投入口にWIPが滞留するようになります。フロータイムを計測するためには時間がかかりますので、一旦(100分間以上)、投入時間間隔を10分に戻してWIPの増加を止めてフロータイムを計測していることにご留意ください。

図から分かりますように、生産率とフロータイムが屈曲するWIP数は同じです。このWIP数をC-WIP(Critical WIP)と呼ぶことにします。この図ではC-WIPは10個です。

図2には、生産管理で有効と思われるヒントがいくつか隠されています。生産管理で常に重要なのは生産性。生産性の指標は、ここでは生産率。生産率は屈曲点から右側の範囲で最大で一定になります。生産性を安定的に維持しようとすれば、投入負荷率を100%未満にならないように(100%以上になるように)すればいいことになります。わかりやすく言えば、工程が手空きにならないように常に投入を多めにすればいいことになります。

ところがこの領域では、フロータイムが長くなってしまいます。短納期の生産を行っているときは問題になります。納期を重視するときは投入負荷率を100%以下の領域で動かさなければなりませんん。

生産ラインを管理するうえで最も理想的な位置は、といえば、生産率が最大でフロータイムが最短になるところ、つまり屈曲点ということになります。

屈曲点を超えないようにしながらもできるだけ屈曲点に近いポイントで生産ラインを動かすため、生産能力を準備し、生産計画をつくり、生産は生産計画に従って行う。生産計画は生産管理の基本である、とする理由は説得性があります。

トヨタ生産方式もこのような基本特性をベースにしております。トヨタ生産方式が成立する条件は?、と聞くと、平準化、同期生産、かんばん方式、ムダの排除、、、と出てきます。ところが最も重要な条件は、なかなか出てきません。これがないと平準化も同期生産もできないんですがね~。

トヨタ生産方式成立で最も重要な条件は、、生産計画の固定、です。トヨタの場合、ローリングしながら直近の月次生産計画を固定します。3%程度の変動は許しているようですが、、。トヨタ生産方式がうまくいかない、という話をよく聞きますが、私の経験では、うまくいかない原因は、90%以上、生産計画を固定できていないためじゃないかな、、。

JITのコンサルタントなどは、トヨタ生産方式がうまくいかない会社は能力が低い、とか言っていますが、あるコンサルタントにトヨタ生産方式の成立条件はなんですか、と聞くと、しどろもどろの返事しか返ってきませんでした。トヨタ出身のコンサルタントなら大丈夫、かというと、そうでもありません。トヨタの生産管理環境での経験は、生産計画を固定できない環境では、ほとんど、役に立ちません。強権を発動したり、顧客企業の能力不足に転嫁したり、トヨタ出身だからといって“できる”コンサルタントだとは言えないようです。

「理想的な在庫量はゼロである」
「在庫ゼロを目指す」
なんていう言葉が氾濫してます。在庫管理の話ではありますが、在庫管理と生産管理は、サプライチェーンを構成するリンクとして直結し、両者の管理領域はオーバーラップします。生産ラインで在庫といえば、工程仕掛ですね。工程仕掛に2つの状態があります。ひとつは工程で処理中の状態。もうひとつは工程の前で処理を持っている状態。今回検討している条件では、屈曲点以下では待ち状態の仕掛はゼロ、すべてが処理中の仕掛となります。屈曲点を超えると投入口に待ち状態の仕掛が発生します。

図2をみれば分かるように、工程内仕掛(在庫)の理想量は10個。「理想的な在庫量はゼロである」というのは正しくありませんし、「在庫ゼロを目指し」てもいけないわけです。

生産ラインの基本的な特性を基準に現在の生産管理を眺めてみるといろいろなことがみえてきます。もっと、もっと、おもしろいことがでてきますよ。生産管理のパラダイムにも屈曲点(面)があるかもしれません。

DPM研究舎へ戻る