警鐘乱打が聞こえますか?

現在の生産管理・工場管理の問題として「ERPや生産スケジューラが動かない」とIVI理事長の西岡靖之氏は指摘します。この問題をそのままにしてDXは乗り切れるんでしょうか、という疑問が湧いてきます。西岡氏は「日本の強みである“現場力”をスマートシンキングで“つなぐ”」ことで乗り切れる、と期待しているようです。

IVIが設立されたのが2015年6月。もう6年半が経過します(2022年1月現在)。「スマートシンキングで進める工場変革」の巻末にある資料をみますと、2015年~2020年の業務シナリオ実証テーマは合計120件。その成果についての説明はありませんが、西岡氏の説明(2022年1月10日のメール)では、

ERPや生産スケジューラが動かないという問題は、複合的でありそれぞれの状況に応じていろいろな課題があるとおもいますので、そう簡単に解決できるとはおもっていませんが、スマートシンキングの手法がそのひとつの助けになればとおもいます。いずれにしてもこれからの取り組みですので、まだこれといった成果があるというわけではありません

6年以上経過しても「これといった成果はなし」。

テーマをみれば、各企業が抱える個別テーマが多く、「日本の強みである“現場力”をスマートシンキングで“つなぐ”」ことに関連したテーマはちらほら。「ERPやスケジューラが動かない」という問題にチャレンジするテーマは見当りません。成果が出るわけはありません。

成果らしきことといえば、先月(2021年12月)西岡氏が出版した書(「スマートシンキングで進める工場変革」)ぐらいかな。中身のポイントは3つぐらいあって、
・「ERPやスケジューラが動かない」という問題、
・スマートシンキングで“つなぐ”という手法、
・120件の具体的テーマ。

これらの間に“つながり”がほとんどみあたらない。チグハグというか、バラバラというか、まとまりのない感じがします。

IVIって、Websiteをみると、広報活動は活発なようです。書の出版も広報活動の一環?。でも、裏目に出ているんじゃないでしょうか。

5年後、10年後、、IVIから何らかの成果が出る可能性は限りなく“ゼロ”、でしょうね。何年たっても、、、。

なんでこんな組織が平然と存在しているのか、の方が不思議なんですが、その背後に「日本の製造業が危機的状態に陥った」病根が隠されているように思います。

このBlogでも関連する事象をいくつか取り上げました。「生産スケジューラが動かない」って言ってんのに、AsprovaやFlexscheなどのスケジューラベンダーは、見込生産、受注生産なんでもゴザレ、秒単位で最適スケジュールを組めます、リスケジュールで変動に即座に対応できます、、、と万能ぶりを。これって、虚偽広告じゃないでしょうか。

薬だったら、、大問題になりますよ。薬事法違反とか、、で。

Asprovaの会長、高橋邦芳氏は「Asprova解体新書」なんていう本を出して、拡販に一生懸命です。この書の13ページに、こんな説明があります。
米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。その理由として、マスターデータの作成と維持が困難であることを上げている。ゴールドラットが挫折したのも、マスターデータが理由だったのだろうか。マスターデータとはそんなに怖いものなのか。米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない。しかし、現在のテクノロジーなら可能なのかもしれない。

「スケジューラが動かない」のはマスターデータが原因だ。我が社ならその問題を解決できるのだ、といいたいのでしょうか。

米国の生産スケジューラベンダーは2000年代後半(リーマンショック頃)には、そのほとんどが姿を消しましたが、それを逆手に取った、きわどい自社宣伝。マスターデータの作成・維持困難を理由に挙げて、我が社なら解決できるとほのめかす。背後にある根源的な原因には気が付いていないようです。米国が生産スケジューラ失敗の後遺症から立ち直っていない、のではなく、Asprovaが生産ラインの基本特性を正しく理解していないだけ。もしも、生産スケジューラが動かない原因をわかっていてAsprovaの万能ぶりを宣伝しているとしたら、虚偽広告となりますからね。知らないということで悪者にならずに済んでいる、、。

Flexscheの創業者 浦野幹夫氏も、メールで意見交換しましたが、理解している様子はありませんでした。

生産システム・業務改善コンサルタント、本間峰一氏の「製造時間でなく待ち時間を短縮しよう」というコラム。生産リードタイムは製造時間が20%、滞留時間(待ち時間)が80%、だから生産リードタイムを短縮するには滞留時間を短くするのが効果的、という話。私も同感でしたので、どのようにして滞留時間を短くするのか、聞いてみました。

詳細は、下記の私のBlogを参照ください。
業務改善コンサルタントの手法 
現場改善コンサルの規範;指示通りにやれ! 
生産ラインの基本特性も理解しないで、、 

本間氏の改善手法は先ず、リードタイム分析を行い、異常な滞留時間の原因を突き止めるんだそうで。原因の多くは、
・実績データの入力漏れやミスが放置されていた
・別のオーダ番号の伝票を先に処理していた
・納期に余裕のある製造指示書が放置され忘れられていた
・・・・・・詳細は、こちら

と、人為的ミスが大部分。管理レベルが低いからだ、と。異常値がなくなったら待ち時間の平均を下げる対策に進む、という手順とのこと。

一般的な改善手順としてはいいんですが、こと、待ち時間に対しては、このアプローチ、まったく効果なし。彼も待ち時間のメカニズムが理解できていないために、効果の出ない方法で顧客企業の指導を行っているんですね。

そういえば、ずいぶん前(2014年7月)のことですが、本間峰一氏が代表幹事を務める東京都中小企業診断士協会、中央支部、生産革新フォーラム で話をさせていただいたことがあります。私が伝えたかったことは生産ラインの待ち時間に関する特性でした。

参加者の反応は本間峰一氏も含めて“イマイチ”でした。が、おひとり、理解していただけたかな、という方がおりました。佐藤知一氏です。彼は「革新的生産スケジューリング入門」など多数の著書があります。

理解していただけたかなと感じたのは、数日後にアップされた 稼働率100%をねらってはいけない と題する彼のBlogでした。「待ち行列理論」を持ち出して、バラツキが避けられない生産環境では、稼働率を高くすると仕掛が増える、と解説。彼の情報発信力に期待して生産ラインの待ち時間のメカニズムに対する認識が広まれば、と願いつつ、、。

その後、彼の発信する情報を時々チェックしておりましたが、期待した待ち時間に関しての発信はありませんでした。どんな様子かと思い、2020年2月ごろ、メールで意見交換してみました。かみ合わないところがありました。象徴的な一節は、

・生産スケジューラは需要変動による待ち行列の発生を予測できないから、使えない
・生産スケジューラは固定時間しか扱えないから、作業時間が変動する現場には使えない
というご主張なら、いずれも反証がありますので同意しかねます。


と、やっぱり、おわかりになっていなかった。どんな反証をするのか、興味はあったのですが、彼の思考の間違い箇所がわかったので意見交換はおしまいにしました。

佐藤知一氏の思い違いとはどこにあるか。メールの中で、彼はバラツキがあっても、実用上は使えると再三主張しました。多分、彼の仕事はプロジェクト管理が多いんでしょう。その経験で裏打ちされたことなので、「反証」に自信をもっていたのだろうと察します。

これが落とし穴なんですね。プロジェクトと生産ラインでは待ち時間発生のメカニズムがまったく異なるんです。

詳しくは下記のBlogをご覧ください。
生産スケジューラとプロジェクト管理スケジューラは何が違うのか 
待ち行列現象の待ち時間の特徴

簡単に言いますと、
プロジェクト管理では、待ち時間も含めて、バラツキ(分散)を統計理論で予測できるが、生産ラインでは、待ち時間の平均はある程度計算できても、分散を予測する数理モデルがみつかっていない、
ということです。

彼の著した「革新的生産スケジューリング入門」にもプロジェクトと生産ラインの待ち時間の違いについての言及はありません。

マイクロソフトがプロジェクト管理ソフトは出していますが、生産スケジューラは出していない理由は、、おわかりですよね。

まとめますと、
*生産スケジューラベンダーは、スケジューラは万能だと主張する
*現場改善コンサルタントは、異常に長い待ち時間の原因を人為的ミスだとする
*生産ラインもプロジェクトと同じように管理できると考える
*現場力をつなげてDXを乗り切ろうとする

これらはどれも大間違いです。多方面に深刻な悪影響を及ぼしている重大な過失です。生産スケジューラベンダー、生産システム・改善コンサルタント、オピニオンリーダそして大学教授に産業界・学会、、が歩調を合わせて間違った道を歩んでいます。さらに悲劇的なことは、これが問題であることを指摘する声が聞こえないことです。

お気付きの方がおりましたら、ぜひ、声を上げ、警鐘を乱打してください。日本の製造業救済のために。

原因は、ひとつ。生産ラインでの“待ち時間の特性”を理解していないこと。欧米では、専門家の間で、20年も前に知られていたことです。それに気が付けば「危機的状態にある日本の製造業」を救うきっかけをつかめるかもしれません。

DPM研究舎

スマートシンキングでDXを乗り切るつもりですか?

インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)って、どんな組織なんでしょうね。

「ものづくりAPS推進機構」の解散と関係があるんでしょうか。解散した理由は書いてありません。Websiteをみると「APSサミットシンポジウム」も2018年を最後に開催されていないようです。ただ講演は2021年3月、解散する月まで行われていた、、。

目指した目標が達成されたので“解散”する、という場合もありますが、「ものづくりAPS推進機構」の解散は、最近の活動状況からみると、そのような理由ではないことは確かでしょう。まぁ、俗に言えば、目標達成の見込みが立たなくなり頓挫した、ということ?

「PSLXコンソーシアム」はIVIに引き継がれていますが、「ものづくりAPS推進機構」は解散。引き継ぐ価値もなし? じゃ、IVIって、どんな組織?

母体は、日本機械学会生産システム部門の中にある研究分科会
“インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会”
という、長ったらしい名前の分科会。2014年9月設立、2016年2月終了。主査は西岡靖之氏(法政大学)。

そしてIVIの設立が2015年6月。理事長は西岡靖之氏。あらゆるモノをインターネットでつなぐ「IoT」を製造業に活用し、大幅に生産効率を上げようとするドイツや米国の動き、が設立の背景。そしてIVIのねらいは、
“製造プロセスイノベーションを行い、日本的な「つながる工場」を実現する”
だそうで、、。

そういえば、「PSLXコンソーシアム」も「ものづくりAPS推進機構」も“つながる”をテーマにしていました。なるほど、“つながる”をキーワードに“つながってん”だ。ガッテン、しました、、。ぬぬっ! つなぐ人影が、、西岡靖之氏、、。PSLXもAPS推進機構も、そしてIVIも先導役は西岡靖之氏。西岡靖之氏=“つながる”かぁ~、、。

2021年12月、「スマートシンキングで進める工場変革」という本が出版されました。著者は“つながる”人、西岡靖之氏。

この本を読めばIVIの狙いや活動状況がわかるんじゃないかと思い、早速注文。

私の関心事は、生産スケジューラに見切りをつけた欧米に対して、日本はどのような方向に向かうのか、です。PSLXやAPS推進機構が掲げたバラ色の世界は、その片鱗さえもいまだ見えません。日本独自のスケジューリング技術で生き残りを図るのか、対抗する新しい方向性を示すのか、あるいは欧米に追従するのか、、。

書を読み進めて14ページ。現状の問題が列記されています。
・ERPを導入したらかえって手間が増え、在庫も増えた
・スケジューラを導入したが1年後には使われなくなった
・最新鋭の設備を導入したが、スループットが上がらない
・進捗管理システムはあるのに現場がデータを入力しない


続いて、現状を説明しています。文章をそのまま引用するのではなく、その内容を図1に因果関係でまとめてみました。文言は多少加筆していますが大部分は原文のまま。矢印の矢尻が原因、矢先が結果。楕円がAND、楕円なしがOR。


図1 現状の説明

図2にスマートシンキングの目的みたいのを対立図で示してあります。図中Aは共通目標、B,Cは重要な必要性、DとD‘は行動や方法で互いに対立する。「属人的にITを利用する」と「社内・社外とITでつながる」ことを阻害する。「社内・社外とITでつながる」と「属人的にITを利用する」ことを妨げる。対立の背後には「企業ノウハウ・機密情報を保護する」必要があるから。・・・で、解決の方向性は「“ゆるやかな標準”云々・・・」。


図2 スマートシンキングの目標

「ERPを導入したらかえって手間が増え、在庫も増えた」、「スケジューラを導入したが1年後には使われなくなった」という現状問題を「“ゆるやかな標準”云々・・・」というスマートシンキングで達成する、ということだろうか?

早速、西岡氏にメールで聞いてみました。こんな返事が返ってきました。
ERPや生産スケジューラが動かないという問題は、複合的でありそれぞれの状況に応じていろいろな課題があるとおもいますので、そう簡単に解決できるとはおもっていませんが、スマートシンキングの手法がそのひとつの助けになればとおもいます。

「ERPや生産スケジューラが動かないという問題は、・・・そう簡単に解決できるとはおもっていません」と吐露し、「ひとつの助けになれば」と控えめ。このスマートシンキングで、いまだ実現には程遠いPSLXやAPS推進機構の目標達成を意識している様子はありません。

つまり、「ERPを導入したらかえって手間が増え、在庫も増えた」、「スケジューラを導入したが1年後には使われなくなった」という問題は放置したまま、スマートシンキングで「つなぐ」ことでDXの波を乗り切ろうということなんでしょうか。

書はスマートシンキングについて詳しく書いてあります。しかしこの手のシンキングメソッドは昔からたくさんあります。古くはKJ法、、最近ではクリティカルシンキング、ロジカルシンキング、システムシンキング・・・と。サラッと読んだ限りでは、特に目を引くものもなく、問題解決というよりは、使えても“現状まとめ”程度かな、という感じです。とても、とても「ERPやスケジューラが動かない」問題を解けるとは思えません。

筆者はスマートシンキングがDXを乗り切る“切り札”だ、と本気で思っているわけではないようです。かと言って「スケジューラが動かない」という重大な問題を20年間も放り投げておきながら、それを解決しようとする意思もなし。せめて、問題の原因追及の素振りぐらいは見せておかないと“無責任”のレッテルを貼られますよ。

役立ちそうにないスマートシンキングとかで、しかも、合わせた照準はドハズレ。これでDXを乗り切ろうとする西岡氏率いるIVI。「危機的状態にある日本の製造業」を象徴しているようにみえます。

DPM研究舎

日米の生産スケジューラの動きを振り返る

ここ2回ほど、ちょっと堅苦しい内容になってしまいました。「日本のものづくりが危機状態にある原因は何か」、というテーマに戻りたいと思います。

みなさんは、「PSLXコンソーシアム」をご存知でしょうか? https://pslx.org/index.html 
この組織って、どんなのか、Websiteを覗いてみました。

[設立の動機]
・日本の生産の仕組みにあった日本発のスタンダードを確立する
・APSという新しい技術を実際に普及させ、旧来の仕組みを置き換える

[組織の発足のきっかけとなったAPS(Advanced Planning and Scheduling)]は、
・現在の製造業の管理のしくみを、根本的に変革する技術である

[コンソーシアムの目的]
本会は、生産計画・スケジューリングに関する情報記述の標準化と、それを利用した製造業のより戦略的なIT化の推進を行い、その結果、わが国の製造業がもつ世界最高水準の生産管理技術を、IT産業と製造業と学術研究機関とが協力しながら、ものづくりの技術と情報技術とが融合した“製造IT”として、今後さらに国際競争力のあるものへ進歩・発展させていくことを目的とする。

PSLXの標準規約の策定が進み、それを普及させるために、2007年、特定非営利活動法人「ものづくりAPS推進機構」が設立されました。http://apsom.org/

設立趣旨書をみてみますと、
2001年に任意団体「PSLX コンソーシアム」を設立し、・・・日本発の APSを提案してきました。・・・そしてさらに、2006年に入り、・・・より現実的で効果的な仕様を完成させました。

これまでの活動を通して、・・・APSを核とする製造業の現場と経営部門が一体となった意思決定のしくみを・・・企業の枠を超えたネットワークによって全体に普及させていく・・・必要があるという結論に至りました。

以上のような経緯から、いままでの活動を、これから特定非営利活動法人として行うことで、より社会に対して責任ある組織活動として発展させ、・・・技術や知識を広く一般市民で共有化することで、豊かで充実した社会づくりに寄与するために、特定非営利活動法人「ものづくり APS 推進機構」を設立します。

そして2021年3月に、「ものづくり APS 推進機構」は解散し、PSLXコンソーシアムは一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)へ移管されました。IVIってどんな団体なの?、と気になりますが、それは後回しにして、「ものづくり APS 推進機構」が解散した背景、理由などを探ってみたいと思います。

日本では、
2000年代初め、生産スケジューリングに関する書が相次いで発刊されました。
2000年4月、「革新的生産スケジューリング入門」佐藤知一著
2001年5月、「ザ・ゴール」邦訳 ゴールドラット著
2001年12月、「APS 先進的スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!」西岡靖之著
(「ザ・ゴール」が生産スケジューリングとどんな関係にあるのか、については後述する)

そして「PSLXコンソーシアム」の発足が2001年7月、発起人は西岡靖之氏(法政大学教授)。こうみてみると2001年あたりが日本の“APS/生産スケジューラ元年”、という感じがします。PSLX標準規約の策定が進み、次に普及活動のため「ものづくり APS 推進機構」が設立されたのが2007年。設立代表者が西岡靖之氏。

そして、2021年3月、「ものづくり APS 推進機構」は解散。「PSLXコンソーシアム」は一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)https://iv-i.org へ移管。IVIの理事長が西岡靖之氏。PSLX、APS推進機構、IVIと常に主役は西岡靖之氏です。

米国ではどのような動きがあったのか、歴史的背景をザット、振り返ってみたいと思います。

大量生産時代に入り、生産管理にコンピュータが利用されるようになりました。必要な部品数や資材を算出するMRP (Material Requirements Planning;資材所要計画)が出現し、それに時間計画要素を加えたMRPⅡへと発展していきます。

多品種化するに伴いMRPの時間粒度(タイムバケット)の粗さが目立ち、うまく使えないケースが目立つようになってきました。そんな時(1984年)、「The Goal」が出版されます。それがきっかけにボトルネック工程だけをスケジューリングすれば良いというDBR(Drum Buffer Rope)が注目を浴びるようになります。


生産スケジューラをさらに進化させたAPS(Advanced Planning and Scheduling)という考えが出てきたのが1990年頃。

そして、視点の異なる動きも始まります。1990年からNorthwestern UniversityでMaster of Manufacturing programが始まり、生産ラインを物理現象的視点で捉えなおすFactory Physicsが取り入れられました。

一時脚光を浴びたDBRですが、1990年の後半、スケジューリングを廃止したS-DBR(Simplified DBR)に後退。DBR対応スケジューラと喧伝していた生産スケジューラベンダーも2000年に入り減り始め、2000年代後半にはほとんど姿を消しました。

生産スケジューラベンダーが姿を消した背景にはDBRスケジューリングの失敗やFactory Physicsの影響があるように思います。

一方、日本では2000年~2001年にかけて、「ザ・ゴール」の邦訳版や生産スケジューラ、APSに関連する書が相次いで出版されました。新規参入スケジューラベンダーが増え、一般のソフトパッケージベンダーの中にも生産スケジューラを取り扱う企業が一気に増えました。その勢いは今でも続いているように思います。それを支えてきたのが「PSLXコンソーシアム」であり、「ものづくりAPS推進機構」でした。

米国での生産スケジューラの衰退は日本にも影響を及ぼすのは必然です。米国から遅れること十数年、「ものづくりAPS推進機構」の解散はその表れかも知れません。これがそのまま、日本の生産スケジューラ市場の衰退につながるのか。それとも、日本独自のスケジューリング技術で生き残るのか。

「PSLXコンソーシアム」を引き継いだIVIの動きをみればわかるかもしれません。

DPM研究舎

1工程の基本特性;その2

前回、工程がひとつだけの生産ラインの基本特性について調べてみました。Ti(投入間隔)とPT(処理時間)の関係でPTf(手空き時間)が発生したりWTq(待ち時間)が発生したりすることがわかりました。

複数の工程がつながる生産ラインでは、ある工程で処理が終了した時刻と、次のオーダが終了するまでの時間間隔が次の工程の投入間隔となるという関係で工程が連結されることになります。

今回は生産ラインの性能を示すTH(スループット;完成数/単位時間)とFT(フロータイム;投入~完成までにかかる物理的時間)について調べてみたいと思います。


単位時間を1時間(60分)とすると、Ti=10(分)、PT=10(分)のときの稼働率;ρはPT/Ti=10(分)/10(分)=100(%)となり、その時のTHは1時間に6個完成しますので、

TH=6(個/時間)

となります。Ti=20(分)のときのρはPT/Ti=10(分)/20(分)=50(%)で、その時のTHは1時間に3個完成しますので、

TH=3(個/時間)

となります。図1の水色で示すように、ρに対しTHは比例します。ρが100%以上ではTH=6(個/時間)で一定となり最大となります。

1個が投入から完成までにかかる時間;FTは、

FT=10(分)

となります。ρが0~100%では、ρに関係なく一定となります。但し、100%を超えるとFTは、時間経過とともに長くなります。ρの影響は受けますが、単純な比例関係にはありません。図1ではイメージ的に矢印で表現しておきます。

WTqは、ρが0~100%ではゼロです。但し、ρが100%を超えるとWTqが発生し、ρが高くなればWTqも長くなりますが、単純な比例関係ではありませんのでイメージ的に矢印で表現しておきます。


図1 ρ;負荷率に対するTH、FT、WTqの関係

ザっと、まとめてみましょう。

投入間隔;Ti、処理時間;PTが一定の条件では、負荷率;ρ=100(%)を境に、まったく異なる特性を示します。

① ρが100%以下では
  *THはρに比例する
  *FTは一定となる
  *WIPqは発生しない
  *WTqも発生しない

② ρが100%を超えると
  *THは最大値で一定となる
  *FTは時間経過とともにオーダ数が増し、それに従い長くなる
  *WIPqは時間経過とともにオーダ数が増し、それに従い増える
  *WTqはWIPqの増加に伴い長くなる

表1にPTが10分一定で、Ti>10(分)、Ti=10(分)、Ti<10(分)のときのTHやFTの数値例を示します。尚、Odnはオーダの受注順番号です。


表1

図2に3つの領域の特性を例示します。Ti>PTはPTよりも来客間隔が長い場合です。このときのρは100%未満となります。この領域では、THとFTの基本特性はρに対する変化で捉えることができます。Ti<PTはPTよりも来客間隔が短い場合です。このときのρは100%を超えることになります。この領域では時間とともにWIPqやWTqが変化しますので、THとFTは時間軸(経過時間)に対する変化で捉えなければなりません。生産工程の能力を示すTHやFTは、ρ=100%を境に大きく変化することは、生産ラインの性質を理解する上で、極めて重要であることに留意したいと思います。


図2 Ti>PT、Ti<PTでのTHとFT

2回に分けて工程がひとつだけの生産ラインの特性について調べてみました。実際の生産ラインでは、前工程の終了時間間隔が次工程の投入間隔となるという関係でつながります。実際は投入間隔と処理時間が変動しますので、THもFTも複雑な動きとなり、単純な数理モデルでは表せなくなります。

ここ2回ほど「1工程の基本特性」という、味気のないテーマになってしまいました。次回は、「日本のものづくりが危機状態にある」原因は何か、というテーマに戻し、少々刺激的になるかもしれませんが、日ごろ思っている愚見を述べたいと思います。

生産ラインの基本特性については場所を ものづくり徒然集 に移し、引き続き議論をしてまいりたいと思います。

DPM研究舎

1工程の基本特性をみてみる

日本の生産管理のコンサルタント(製造現場の改善コンサル、生産システム関連など)の大部分は生産ラインの基本特性を理解していないことが明らかになってきました。と言っても、「生産ラインの特性っていろいろありそうだけど、基本特性ってどんな特性?」と思われる方が多いのではないでしょうか。今回から何回かに分けて、この生産ラインの基本特性について解説してみようと思います。

生産ラインは複数の工程の連鎖で構成されています。そこに被加工物(ワークとかオーダと表記します)が投入され最終工程で完成します。最も単純な生産ラインは工程が1つしかない生産ラインです。ラインというイメージはわきませんが1工程の生産ラインのメカニズムが複数工程からなる生産ラインのメカニズムを理解する上で重要です。

先ずは、1工程からなる生産ラインのメカニズムをみていきましょう。

詳細な検討に入る前に、生産ラインの能力をどのように表せばいいか、検討しておきます。ここでは1工程だけですが、複数の工程が連なる生産ラインも視野に入れて、考えておきます。生産ラインの能力を決める主な要素を図1に示します。1工程の機能を表す単位をiPoユニット(in-Process-outユニット)と呼んでおきます。見慣れないアルファベットがたくさんありますが、基本的な要素をできるだけ正確に定義しておくためです。ご容赦ください。
図1 生産ラインの特性を決める要素

各要素を簡単に説明しておきます。

Ti;投入間隔、受注間隔、到着間隔
「iPoユニット」へのワークの投入時間間隔。受注時刻=ライン投入時刻とみなせるときは受注間隔にも用いる。

PT;Process Time 処理時間、作業時間、製造時間
工程での正味処理時間。作業開始から終了までの時間

PTf;Process Free Time 手空き時間
稼働できるが、処理するワークがない状態の時間

WTq;Waiting Time in a Queue
ワークが工程に到着して処理が開始されるまでの処理待ち時間

WIP;Work In Process 生産ラインにある仕掛
WIP=WIPs+WIPp+WIPq
WIPs;WIP in a Stock;処理が終了したワーク、初期に設置した処理終了品 処理終了仕掛
WIPp;WIP in a Process ;Processで処理中のワーク 処理中仕掛
WIPq;WIP in a Queue ;Process前で処理を待つワーク 処理待ち仕掛

ρ;負荷率、稼働率
Process可能時間に対する実際の処理時間の割合。

TH;Through Put 完成数/単位時間
設定された時間単位内に完成する数量。

FT;Flow Time 投入~完成までにかかる物理的時間
類似した言葉に“生産リードタイム”があるが、さまざまな場面で使われ、定義も微妙に異なるので、ここでは、投入~完成までにかかる物理的時間をFTとする。

ここで挙げた要素がすべてではありません。様々な生産環境、生産方式などがありますので、必要に応じて追加されることになります。

では、ひとつの 「iPoユニット」 で構成される最も簡単な生産ラインの基本的な特性をみていきたいと思います。先ずは、バラツキがまったくない条件でどうなるかをみてみます。これを条件0とします。

「iPoユニット」の基本特性;
条件0⇒バラツキなし

初期状態は、生産ライン内にWIPqもWIPpもないとします。オーダが入ると直ちに作業を開始します。わかりやすいように具体的な数値で考えてみます。工程の作業時間;PTは10分、一定とします。この場合、客は注文してから10分後に完成品を受け取ることができます。

では、オーダが、それぞれ別々の客から、受注間隔;Tiが10分、一定で来る場合はどうなるでしょうか。PTは10分ですので、10分ごとに完成して、それぞれの客は10分後に製品を受け取ることができます。

工程の稼働状態をガントチャート形式で示せば図2上部のようになります。横軸は時間軸で単位は分。赤のダイヤ印が受注のタイミングを示します。オーダ⑩は90分に受注して100分に完成することを示しています。

次に、Tiが20分間隔一定の場合はどうなるでしょうか。PTは10分ですので、それぞれの客は10分後に受け取ることができます。但し、次の注文が来るまで10分間の手空き時間;PTfが発生します。ガントチャートは図2の上から2番目のようになります。

Tiが8分間隔、一定ではどうなるでしょうか。図2の上から3番目にそのガントチャートを示します。PTは10分ですので、オーダ①の作業が終わらないうちにオーダ②が来ます。オーダ②はオーダ①が終わるまで2分間、待たなければなりません。待ち時間;WTqが発生します。オーダ②の作業をしているうちにオーダ③が来ます。オーダ③のWTqは4分となります。時間の経過とともに、オーダのWTqは長くなります。48分から50分の間、オーダ⑥とオーダ⑦の2つのオーダが待ち状態となります。56分から60分の間はオーダ⑦とオーダ⑧が待ち状態になります。

オーダが6分間隔で受注する場合のガントチャートを図2の最下部に示します。待ちオーダの数;WIPqと待ち時間;WTqが長くなります。

図2 Tiを振ったときのPTf、WTqの様子

PTとTiの関係でWTqやWIPq、PTfの発生状態が変化します。まとめますと、次のようになります。

 Ti>PTでは、PTf>0、WTq=0、WIPq=0 で工程に手空き時間が発生する。ρ<100%、TH<6、FT=10 となる。
 Ti=PTでは、PTf=0、WTq=0、WIPq=0 手空き時間も待ち時間も発生しない。
ρ=100%、TH=6、FT=10 となる。
 Ti<PTでは、PTf=0、WTq>0、WIPq>0 オーダに待ち時間が発生する。ρ=100%、TH=6、FT>10 となる。

まとめますと、表1のようになります。
表1 TiとTPの関係と工程の特性

これがひとつの工程の基本特性です。どんな条件のとき処理待ち時間や手空き時間が発生するか、おわかりになると思います。

さらに条件を振って、基本特性の全体像をみてみたいと思います。つづく、、、

DPM研究舎

生産ラインの基本特性も理解しないで、、

ピンク色の部分が本間峯一氏のメールから引用した部分です)

コンサルの最初の手順として最大値(異常滞留)の発生原因を分析してつぶしておく必要がある。業務改善コンサルなら当たり前のアプローチだ。

当たり前のアプローチ」の背後には、製造現場は上からの生産指示に従わなければならない、という前提があることがわかりました。そのような基準だとすると、生産指示に従わないことが「異常滞留」の発生原因にされてしまいそうですが、、、

異常滞留の事例とその発生原因は、
親会社の内示で生産開始したら、途中で親会社が納期変更したのでそのオーダーは現場の班長の独自判断でストップさせて別の製品の加工を先に動かした。その結果そのオーダー加工品は工程途中で半年以上止まっていたが、誰も気づかなかった。
やっぱし、生産指示に従わず「現場の班長の独自判断でストップさせたこと」が異常滞留の発生原因だ、とされているようです。

異常滞留(最大待ち時間)の発生原因調査では、
最大待ち時間の発生要因を調べると工程待ちよりも人間の手続きミスや判断ミスが原因となっていることが多い。
人間の手続きミスや判断ミス」って、生産指示に従っていても防げなかったのか、指示に従わなかったから起きたのか。前者であれば、生産指示そのものが適切ではなかったとかその仕組みに欠陥があったとか。後者であれば人間のミスつまり「属人的なもの」が原因だ、と。いずれにしても、異常滞留発生の原因は企業(製造現場)にあることになりそうです。

製造現場の状況は、
私のコンサル先をみていると私が指摘するまで行われていないところがほとんどです。そうでなければ200日なんて工程滞留が見過ごされているはずがありません。理由の一つに過度な製造時間短縮に目が行き過ぎていることがあるように思います。その背景には原価管理とTPSがあるのではないかとみています。
私が指摘するまで行われていない」・・・「私の指摘が絶対に正しいのだ!」という上から目線的雰囲気が感じられます。「その背景には原価管理とTPSがある」・・・製造時間ではなく待ち時間だよ、という本間氏の主張の背景のひとつ、でしょうか。しかし、違和感がありますね。

待ち時間がダントツに短いのはTPS(トヨタ生産方式)ですよ。今、待ち時間を短くしようとしているときにTPSこそ良きお手本になるんじゃないでしょうか。「TPSに目が行き過ぎているから滞留が見過ごされている」、、TPSも悪者扱いですか。

で、本間氏の改善コンサルの具体的な方法は、
原因の多くが属人的なものが多いので地道に皆でデータを見ながら話し合うのが筋だと思っています。コンサルがそのトリガーになれれば十分だと思います。
つまり、異常値の原因は製造現場で働く皆さんの問題だから、みんなで話し合って解決策をみつけなさい、ということのようです。これで、コンサルを依頼した企業側は満足するんでしょうか。

いくら何でも、これが改善コンサルのすべてか、と思うと、寒気さえ感じてしまいます。何かもっとまともな考えもあるはずだ、と思い、定量的な側面の質問に変えてみました。

「属人的なもので発生する異常値をなくすことで、80%を占める待ち時間を短くできる根拠は何ですか?」 定量的な説明を抜粋してみます。

異常値の性質というか、特性について言及しています。
異常値というのは工程間でそのワークだけが1か月以上滞留している話で、沖電線の資料でいえば最大値になります。通常の滞留は中心値ですので、異常値とは処理時間の何倍ではなく通常の滞留実績時間(中心値)の何十倍という数字です。原因は、200日になると現場が故意にストップさせたか、伝票処理のミスが中心です。滞留させたからといって納期遅れにはつながらないのでずっと放置されるというのが多いです。

異常値とは、滞留時間の中心値(中央値のことと解釈します)の何十倍も離れていることを異常値と捉えることから、定量的な分析をしようとする意思は感じられます。でも「納期遅れにはつながらない」んだったらいいんじゃないの?と言ったら元も子もなくなりますか。

最初に企業の管理レベルが十分でないというお話ししましたが、定量的な問題を議論するような状況ではない工場がほとんどです。

定量的な分析ができないのは「企業の管理レベルが低いから」。「そんな工場がほとんど」だから、定量的な分析をできない理由は企業側にある、と言いたいのでしょうか。

異常値が大きすぎて平均値が使えないので、中心値で比較するようになりました。それでも中心値が異常値に影響して長くなりがちです。属人的な異常値の原因を洗い出してつぶすだけでもかなりの時間がかかります。・・・的外れにならないように必ず改善による結果数字を確認するようにします。組織が細分化されている大企業ほどこの結果確認作業をしていないことが多く、信じられないような異常値が放置されています。ただ、このフェーズのコンサルができるデータが得られない工場の方が多いのが実状です。

異常値が大きすぎ、、平均値が使えない、、中心値が異常値に影響、、、データの分布状態が予想したものとは違っているようですね。その理由は、異常値の原因が物理的なものではなく「属人的なもの」だから、と言いたいのでしょうか? さらに「結果数字を確認しようとしても確認作業をせず、放置している」と、企業側に非があることを繰り返します。

最大待ち時間の発生原因を分析しているところが少ないことを問題にしています。

「待ち時間を短くするためには、最大待ち時間の発生原因に手を打たなければならない。なのに、その分析をしているところが少ない」。原因分析をしない企業に問題がある、と。

最大待ち時間が平均待ち時間もしくは中央待ち時間の3から5倍以上の数字・・・を異常値(異常滞留)と呼んでいます。・・・佐々木さんは異常値を処理時間の何倍と定義していましたが、そんな定義はしていませんので訂正してください。

先に言及しましたが、本間氏は「異常値大きすぎ、、平均値が使えない、、中心値が異常値に影響・・・」と言いながら、「使えない平均値を基準に使う」って、矛盾していませんか? 待ち時間の平均値は、平均処理時間に工程への到着間隔と処理時間の変動が影響しますので、そのバラツキは平均処理時間のそれより大きくなり、不安定になります。平均待ち時間を基準にすると、平均処理時間を基準にするより、定量的判断の精度が低くなってしまいます。(待ち時間発生の詳細については後述します)

最大値が排除出来て、待ち時間が平均値付近に集中してきたら次は工程負荷が待ち時間の発生要因になっていないかの検討をします。

最大値が排除出来て」って言いますけど、待ち時間の発生メカニズムも曖昧なままで、原因は企業の管理レベルが低く、属人的なものだということなら「最大値が排除出来る」のに何年かかるんでしょうね。「生産性が低いのは管理レベルが低いからだ」って、30年前にも聞いたことがありますよ。まぁ、いいかっ。仮に、仮にですよ「最大値が排除できた」として、、、も、

待ち時間が平均値付近に集中」するような分布はしないんですよ。そして、

工程負荷が待ち時間の発生要因になっていないかの検討をします」ですかぁ。検討なんかする必要はありません。工程負荷と待ち時間のおおよその関係はすでに解明されていますから。(これも詳細は後述します)

そこではじめて製造能力の問題がでてきますが、・・・あくまでもここまでいくまでが大変だという話をしています。

「時間の最大値(異常値)」は「製造能力」と深くかかわっています。異常値の原因を分析するときも製造能力を無視できません。本間氏の説明の中では最大値の原因分析に製造能力の話はまったく出てきません。だから「最大値を排除」できるわけはないのですが、「最大値が排除できたら、そこではじめて製造能力の問題が出てくる、、、」となると、、、論理が崩壊していますね。 待ち時間の発生メカニズムについての理解がまったくないようですね。

今回のBlogの後半は、待ち時間発生のメカニズムに関する話になり、わかりづらくなってしまいました。しかし、ここが最重要ポイントになります。待ち時間発生のメカニズムは生産ラインの基本中の基本的な特性です。すべての生産ラインに、例えひとつの工程しかない生産ラインにでも、共通する特性です。

簡単に言えば、工程間(前)の待ち時間は、工程に到着する時間間隔と工程の処理時間(製造時間)で決まります。到着間隔と処理時間はバラツキます(変動します)ので、待ち時間もバラツキます。そのバラツキ具合が、われわれの常識と異なるんです。大きく異なるんです。だから、「先ず最大値を排除して、次に平均値の短縮、、という“当り前のアプローチ”」が機能しないんです。

本間峰一氏とのメールを題材にしておりますが、本間氏ひとりの問題ではありません。生産改善コンサルタント、生産スケジューラの開発者・ベンダー、関係する学界など、ほとんどの方々がこの生産ラインの基本的特性を理解していないようなのです。

1990年代に米国では、Factory Physicsが大学のプログラムに加わり、生産ラインの物理的特性の理解が進みました。2000年代後半には、ごく限られた条件でしか使えない生産スケジューラのほとんどは姿を消しました。日本では、生産スケジューラ・ベンダーが美辞麗句の誇大広告合戦を繰り広げております。日本の生産管理は30年遅れてしまいました。

本間峰一氏のメールにあったメッセージです。

最近日本のものづくりが危機状態にあるという話がよく出てくるようになりました。

生産ラインの特性を正しく理解することなく、大量生産時代には有効だったかもしれない「当り前のアプローチ」を、馬鹿の一つ覚えよろしく振り回す改善コンサルにも責任の一端があるのではないでしょうか。

次回から、生産工程間で発生する待ち時間について、物理的、工学的側面に重きを置いて検討してまいりたいと思います。

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現場改善コンサルの規範;指示通りにやれ!

製造時間でなく待ち時間(滞留時間)を短縮しよう」と主張する本間峰一氏。工程を流れる製品の生産リードタイムの中で待ち時間は80%を占めるという。だから生産リードタイムを短縮するためには待ち時間を短くする方が効果的だ、と。で、具体的なアプローチは?

コンサルの最初の手順として最大値(異常滞留)の発生原因を分析してつぶしておく必要がある。業務改善コンサルなら当たり前のアプローチだ。

というフレーズを手掛かりに、前回、本間峰一氏の改善ロジックを概観してみました(前回のBlogをご参照ください) 「当り前のアプローチ」というなら、多くの人が納得する論理があるはずですが、それがよく見えない。裏に何か隠れているロジックがあるのでしょうか? メールから関連する説明を抜粋し、彼の改善コンサルの手法や背景をもう少し詳しくみてみましょう。


待ち時間対策がより重要だという話は沖電線の対策検討をする中ででてきました。当初の悩みはスケジューラの活用がうまくいかないことだったように思います(アスプローバはすでに導入して使っていました) そもそもなんで現場で製造順番が変わるのかという会議での疑問が発端だったように思います。

その後沖電線以外の工場でも工程リードタイム分析をするようになってどこも同じような状況だということがわかってきました。それで現在の私のコンサルでは入口で滞留時間を分析するようにしています。


コンサルの初めに滞留時間分析をすることになった経緯はわかりました。スケジューラ通りではなく現場で勝手に製造順番を入れ替えることが待ち時間が長期化する原因のひとつではないか、との思いがあるようです。そして、

私は現場は指示通りには動いていない可能性が高いという前提から現状確認に入ります。現場が勝手に製造順を入れ替えることは普通だという前提で工場を見るようにしています。

だから先に先入先出を徹底させる現場コンサルが必要だと申しあげているのです。

現場が勝手に製造順を入れ替えるのはけしからん。生産計画で指示した通り、先入先出でつくるようにさせるのがコンサルの役目だ、と彼の強い矜持が感じられます。

このような考え方は、生産管理の基本として製造業に広くいきわたっています。これを“生産計画基準”と呼んでおきます。この生産計画基準の工程管理ですが、うまく機能する企業は極限られ、多品種少量生産とか変動のある生産環境など大部分の企業ではうまくいきません。企業ごとに工夫し、独自の生産管理方法をとることになります。

ところが、ほとんどの生産改善コンサルタントはこの生産計画基準の考え方を採っています。「生産計画通り生産をしないのは製造の管理が悪いのだ」。本間峰一氏も、「現場コンサルの仕事は、現場が指示通りに動くようにすることだ」、と。

では、生産リードタイムが長くなる、ここでは工程間の待ち時間が長くなるのは、現場が指示通りに動かないことが原因なのか。例えば、「製造現場で勝手に製造順番を変える」と生産リードタイムは長くなるのか?

私の製造現場での経験から言えば、Noです。納期に余裕のあるオーダーを後回しにして、納期に遅れそうになったオーダーを優先して流す。これって、納期管理の基本。後回しにしたオーダーの生産リードタイムは確かに長くなりますが、優先して流したオーダーの生産リードタイムは短くなる。どこの生産現場でもやっていることじゃないでしょうか。

具体的例としては、
親会社の内示で生産開始したら、途中で親会社が納期変更したのでそのオーダーは現場の班長の独自判断でストップさせて別の製品の加工を先に動かした。その結果そのオーダー加工品は工程途中で半年以上止まっていたが、誰も気づかなかった。

現場班長の独自判断って、間違っていたんでしょうか? 半年以上先に納期が延びたのに当初の計画通り完成させても半年以上、在庫となるだけ。製造能力をもっと優先度の高いオーダーに振り向ける方が工場の生産性は高くなります。だからストップした。これって、正当な優先順管理じゃないでしょうか。

製造現場で勝手に製造順番を変える」という表現がよくありませんね。
製造現場では生産状況を監視し、納期に間に合うよう製造順番をコントロールする」ってことじゃないでしょうか。

滞留させたからといって納期遅れにはつながらないのでずっと放置されるというのが多いです。

現場が納期管理を行っている証左ではないでしょうか。

現場が行う正当な納期管理も、生産計画基準では、「勝手に製造順番を変える」“悪者”となるんですね。

生産改善コンサルタントって、大部分が生産計画基準です。このような改善コンサルタントが現場に入るとどうなるか。生産リードタイムが短くなるはずもなく、現場はめちゃめちゃになりませんか? 沖電線に聞いてみたいものです。

当り前のアプローチ」の背後にどのような論理があるのか探ってみました。見えてきたのは、生産計画基準という生産管理の規範です。現場改善コンサルタントの大部分は生産計画基準。「製造は、上で決めた生産計画に忠実に従って生産を行わなければならない」、とうそぶく。現場を上から目線で捉え、心底は現場は指示を無視して勝手な順番でつくる」という猜疑心に満ち溢れている様子がうかがえます。

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業務改善コンサルタントの手法

本間峰一氏は月刊工場管理に記事を連載し、また多数の関連書を執筆しております。日本を代表する改善コンサルタントの一人であり、 “危機的状態にある日本のものづくり”を救ってくれるのではないかとの期待とともに、その言動に注目が集まっています。

メール交換を通して彼の“生産現場の業務改善手法”の一端を覗いてみたいと思います。

メールの一部を抜粋します。

コンサルの最初の手順として最大値(異常滞留)の発生原因を分析してつぶしておく必要がある。業務改善コンサルなら当たり前のアプローチだと思います。

異常値について、本間氏の説明のポイントをまとめますと、
●異常値(最大値)の特徴
   1カ月~半年以上滞留
   異常値が大きすぎて平均値が使えないので、中心値(中央値のこと?)で比較する
   通常の滞留は中心値ですので、異常値とは処理時間の何倍ではなく通常の滞留実績時間(中心値)の何十倍という数字です

●異常値原因
   故意にストップさせた、伝票処理ミス、、などの“属人的なもの”である
   状況;大企業ほどこの結果確認作業をしていないことが多く、信じられないような異常値が放置されている
    但し、滞留させたからといって納期遅れにはつながらない

で、対策は、
●異常値対策
   属人的な異常値の原因を洗い出してつぶすだけでもかなりの時間がかかる
   的外れにならないように必ず改善による結果数字を確認する
   原因の多くが属人的なものが多いので地道に皆でデータを見ながら話し合うのが筋

「原因の多くが属人的なものが多いので地道に皆でデータを見ながら話し合うのが筋」って、すごく日本的ですよね。「皆で話し合って答えをみつける」・・・昔の小集団活動を思い出します。異常値の原因の大部分が属人的なものだとすれば、「皆で話し合って答えをみつける」というアプローチは理にかなっているように感じられます。グループ、関係者の協力が重要なのも同意できます。

戦後、日本の製造業が右肩上がりの時代に形成された現場改善の規範といってもいいでしょう。

また、生産現場の“管理”という視点からみると、きちんと管理されていれば出るはずのない異常値。それが出るということは管理に欠陥があるのではないか。そして一番目に付きやすいのが異常値。異常値を手掛かりにすることで管理状態を手っ取り早く、効果的に維持できる・・・。

コンサルの最初の手順として最大値(異常滞留)の発生原因を分析してつぶしておく必要がある。業務改善コンサルなら当たり前のアプローチだと思います。

本間峰一氏が「当たり前のアプローチ」だと主張する根拠は、モノづくり日本の歴史を背景からみて、また生産現場の管理状態の維持向上という面からみても、納得できることでしょう。

本間氏だけではなく、多くの業務改善コンサルタントも、日夜現場で奮闘する方々も「当り前のアプローチ」として受け止めているのではないかと思います。

で、このアプローチで対策の効果は、つまり、待ち時間が劇的に短くなったのか、が気になるところです。

本間氏が実際に指導した沖電線の事例では、受注生産品の全体リードタイムが90日から40日弱に短縮したとのこと。営業の受注活動~生産計画~生産~納品までの全体リードタイムなので、課題としている工程間の待ち時間がどのぐらい短くなったのかはわかりません。参考データとして認識しておきます。

その他に工程間の待ち時間がどの程度短くなったか、再三聞きましたが、具体的な説明はありません。

では、本間氏の主張する「当たり前のアプローチ」で待ち時間が短くなる論理的根拠は何か。定量的な説明を求めました。私が知りたかったポイントはここにありました。

本間氏の応えは、

*最初に企業の管理レベルが十分でないというお話ししましたが、定量的な問題を議論するような状況ではない工場がほとんどです。
*異常値が大きすぎて平均値が使えないので、中心値で比較するようになりました。それでも中心値が異常値に影響して長くなりがちです。属人的な異常値の原因を洗い出してつぶすだけでもかなりの時間がかかります。
*的外れにならないように必ず改善による結果数字を確認するようにします。組織が細分化されている大企業ほどこの結果確認作業をしていないことが多く、信じられないような異常値が放置されています。ただ、このフェーズのコンサルができるデータが得られない工場の方が多いのが実状です。

まとめますと、
・管理レベルが十分ではないため、定量的な議論をできる状態ではない。
・異常値が大きすぎ、、平均値が使えない・・・データ処理がうまくいかない。
・的外れにならないように必ず結果数字を確認するようにしているが、それをしていない。
・異常値が放置されている

定量的な裏付けとなるデータを採っている企業は少なく、結果数値の確認もしなければ、異常値を放置したままだ、と。つまり、論理的根拠を示せないのは、企業側の問題である、ということなんでしょうか。

そして、待ち時間の異常値の原因は、属人的ミスが多く、管理レベルが低い、、、ことである、と。

この展開、みなさまは納得できますか? 論理的ですか?

どこに問題があるのでしょうか、、。

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「日本のものづくりが危機状態にある」原因とは?

製造時間でなく待ち時間(滞留時間)を短縮しよう

という記事(ブログ)をみつけました。執筆は本間峰一氏。生産管理・工場管理関係の改善コンサルタントをしている方です。出版書籍多数。月刊「工場管理」に連載記事があります。プロフィールはこちら。

彼はかねてから、生産リードタイム短縮に関する情報を発信しています。主張の骨子は、
*生産リードタイムの内訳は20%が製造時間(処理時間)、80%が待ち時間
*従って、生産リードタイムを短縮するためには待ち時間を短くすることが効果的
ということで、「製造時間ではなく待ち時間を短縮しよう」と、、。

生産リードタイムに占める待ち時間の割合については、前回のBlogでも触れました。

「トヨタ生産方式をトコトン理解する辞典」山田日登志著、1988年1月初版の69ページにこんな説明があります。

改善必要点の発見
加工時間の改善より停滞時間の改善
生産リードタイム=加工時間+停滞時間
トヨタ       =1:300
一般の会社   =1:5000


数字はいろいろありますが、生産リードタイムの中で待ち時間(滞留時間、停滞時間)が占める割合が非常に大きい、ということは30年以上も前から言われていることです。ですから、「製造時間ではなく待ち時間を短縮しよう」という彼の主張は新しくもなんともないんですが、生産リードタイムの短縮という枠で捉えれば、これは、生産管理・工場管理・現場改善の永遠のテーマ。時代とともに生産環境も変わり、生産技術、IT技術も進化する中で「待ち時間の短縮が重要」というメッセージは、もしかすると何か新しい技術かアイディアなどが含まれているのではないか、という期待が沸きます。

ブログの一部を抜粋します。
読者の皆さんは工場の製造リードタイム(工場に製造開始を指示してから出来上がるまでの期間)はどうすれば短くなると思われますか。大抵の人は製造現場の製造作業を効率化して製造時間を短縮すればいいと考えます。
しかし、この考え方は適切なアプローチとは言えません。一般的な工場では、人や機械が実際に製造している時間は製造リードタイム全体の20%程度しかありません。残りの時間は製造工程(製造設備)が空くのを待っていたり、製造工程に製品が届くのを待っていたりする待ち時間です。いくら現場が努力して製造時間を短くしても製造リードタイムはそれほど短くなりません。製造時間よりも工程間の待ち時間を減らした方が劇的なリードタイム短縮が実現できます。
ところがこのことを理解して改善活動をしている工場は思いのほか少ないです。やたらと製造時間短縮にこだわっている工場はよくありますが、工程間待ち時間を分析して改善活動に活用している工場は限られます。


私自身の関心事は、待ち時間の分析をして待ち時間の短縮を実現する技術、メカニズムです。論理的な裏付けがしっかりしていれば、画期的な手法になりえます。このブログをきっかけに、本間峰一氏にメールで聞いてみました。初めは私の質問の主旨がうまく伝わらず、議論がかみ合わないところが多々ありましたが、全体としては真摯に対応していただいたと思います。

何度か同じ質問を繰返し、また視点を変えるなどして、なんとか彼の考えを引き出せたと思います。

残念ながら期待した新しい技術、アイディア、知見などはありませんでしたが、重要な発見がありました。それって、、。

ブログ中にこんなコメントがあります。

最近日本のものづくりが危機状態にあるという話がよく出てくるようになりました。

重要な発見とは、「最近日本のものづくりが危機状態にある」原因の一端を垣間見ることができるかもしれない、ということです。それぐらい重要なことですので、彼のメールでの説明を引用しながら、技術的・論理的に、また日本のものづくりの歴史的背景なども交えて、多面的にじっくりと分析してまいりたいと思います。

DPM研究舎

リードタイム短縮に関する記事を題材に

前回は“ワーク(被処理物)が工程の空きを待つ時間(以下、ワーク待ち時間)”は生産リードタイムに加算されるが、“工程がワークの到着を待つ時間(以下、工程待ち時間)”は加算されない。では、“工程待ち時間”は生産リードタイムとは無関係かというとそうではなく、“工程待ち時間”が長くなれば“ワーク待ち時間”は短くなり、従って生産リードタイムも短くなる。“工程待ち時間”が短くなれば“ワーク待ち時間”は長くなり、生産リードタイムも長くなる、という話をしました。

“工程待ち時間”が長くなると(閑散期には)生産リードタイムは短くなる。

“工程待ち時間”が長いというときは、客が少ないとき、注文が少ないとき、、ですから、納期(サービスの要求から完了まで)は短くなります。ディズニーでも、レストランでもATMでも、工場の生産ラインでも、、閑散時は用足し時間は短く、繁忙期には長くなります。世のいたるところで起きていることです。

“工程待ち時間”が短くなると(繁忙期には)生産リードタイムは長くなる。

こんなの、当り前。この当り前を理解している生産・工場管理の専門家やコンサルタントはほとんどおりません。信じがたいことですが、Webをちょっとググると、それを示す証拠がすぐ出てきます。

例えば、
「リードタイムを短縮する4つの方策はこれだ!」
という記事。執筆者は佐藤知一氏。「生産スケジューリング入門」、「BOM/部品表入門」、「時間管理術」、「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」など著書多数。関連する団体などで広く活躍中。

本のタイトルから佐藤知一氏の専門分野がわかります。彼が、“当り前の現象”をどのように認識しているのか、みてみたいと思います。

その中のこのページ https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/0812/25/news120_2.html
に次のような件が、

待ち時間を含む全体時間は、工場全体の負荷量そのほかさまざまな要因で変わり得る。そしてMRPの工程別標準リードタイムは、これらの幅のうち、ほぼ実現可能な安全側の値を設定せざるを得ない(もし平均値を採用したら、工程進ちょくが計画より遅れる確率が50%になってしまう)。

注目したいのが、( )内の説明。
もし平均値を採用したら、工程進ちょくが計画より遅れる確率が50%になってしまう

工程別標準リードタイムの平均値を採用したら、投入からいくつかの工程を経て計画予定時間内に完成する確率は50%だ、ということですが、「工程別標準リードタイムの平均値」、「完成する確率は50%」ということから、工程別リードタイムの確率分布を工程ごとに加算して、投入から完成までのリードタイムの分布を求めていると思われます。

例えば、工程別リードタイムのバラツキを正規分布として、工程数を5つ。簡単にするため、どの工程のリードタイムも平均10時間、標準偏差1.5時間としてみます(±3σだと5.5~14.5時間)。投入から完成までのリードタイムの平均と標準偏差は、

平均;10時間×5工程=50時間
標準偏差は分散の加法性を利用して;(1.5の二乗×5工程)の平方根≒3.35時間

50時間で完成する確率は50%。説明の通りです。じゃ、完成する確率が95%になるリードタイムは何時間か? エクセルで簡単に計算できます。

NORM.INV(0.9、50、3.35)≒54.3 時間

95%なら55.5時間、99%なら57.8時間、、、

50時間というと、1日を8時間として6日とちょっと。それで完成する確率が50%。それが1日追加すると完成する確率はほぼ100%、、。うーん、ちょっと例示した数値が悪かったですかね。1日長くしただけで完成確率が50%から100%になる、、。経験則には、ちょっと合いませんね。3日とか4日足さないと100%にはならないんじゃないの~ぉ。

この違和感、どこから来るんでしょうか。

実は、実は、黒幕(前回までは影武者って呼んでいましたが、)がいるんですよ。この違和感、“黒幕の仕業”なんです。

“黒幕の仕業”を見逃してはいけません。

実際の生産ラインで言えば、50時間で完成する確率は50%ではありません。50%以下になります。これが“黒幕の仕業”です。

逆に、、50時間で完成する確率が50%に絶対にならないか、というと、そうではありません。50%の確率になることもあります。その条件とはどんな条件でしょうか?

投入時間間隔です。例えば、1番目のオーダを投入後2番目のオーダの投入が100時間後だったとします。これなら、2番目のオーダが50時間で完成する確率は50%でしょう。3番目のオーダが2番目のオーダの50時間後に投入されたとします。この場合も50時間で完成する確率は50%でしょう。

では、4番目のオーダが投入されたのが3番目のオーダが投入された10時間後だったらどうなるでしょうか。第1工程で3番目のオーダの処理が終わっている確率が50%。まだ処理が終わっていない確率が50%。処理が終わっていなければ4番目のオーダは第1工程の前で待たなければなりません。この待ち時間は生産リードタイムを長くします。このような待ち時間は、工程リードタイムにバラツキがあると、第1工程だけではなく、どの工程でも発生する可能性があります。

投入間隔が10時間未満となれば、待ち時間はどんどん長くなり生産ラインとしては、機能不全に陥り破綻してしまいます。

この現象は、共有リソース(工程の機械、作業員など)で多数の被処理物(オーダ、ワーク、、)を処理する生産ラインに特有の現象です。

工程の処理時間に対して投入間隔が長いときは待ち時間はあまり長くなりませんが、処理時間に近づいてくると急激に待ち時間は長くなります。また、処理時間および投入間隔のバラツキが大きくなると待ち時間は長くなります。

「リードタイムを短縮する4つの方策はこれだ!」の記事の中には、この待ち現象に関する言及はまったくありません。処理時間の数倍、時には数十倍の待ち時間が発生し、その分生産リードタイムも長くなります。リードタイムをうんぬんするとき、絶対に、考慮に入れなければならない要素です。それが、どこにも見当らない。

ムダ時間の内訳として下記項目を挙げています
ムダな運搬(レイアウトが悪い)
 ムダな段取り替え(計画が悪い)
 ムダな入出庫(ジャスト・イン・タイムに供給・消費すれば途中保管は不要)
 ロット待ち、
 工程滞留待ちなど、さまざま


ムダ発生の理由まで付記しムダ時間の内訳を挙げていますが、“黒幕の仕業”で発生するムダ時間については、まったく触れられていません。もし、執筆者に聞いたとしたら、「それは“工程滞留待ち”に含まれています」って、言うのかな、、。 “黒幕の仕業”で発生するムダ時間って、ごまかし切れないくらいおおきい(長い)んですがねぇ。大きいだけじゃなくて、バラツキの幅が半端なく広いんです。項目を別にして説明しないとダメですよね。

記事こんな説明があります。
製造リードタイムの中の付加価値時間比率は、
200~300分の1………トップクラス
2000~3000分の1……まあまあのクラス
2万~3万分の1………普通の会社
であるという。


トップクラスとはトヨタを指しているんだと思います。トップクラスを基準にしてムダ時間の比率をみてみると、
まあまあのクラス・・・・・トップクラスの10倍
普通の会社・・・・・・・・・トップクラスの100倍

まあまあな企業も含めて一般の会社のムダ時間はトヨタの10倍~100倍だよ、という説明に先に挙げたムダ時間の内訳で足りていますか? 

“一般の会社のムダ時間はトヨタの10倍~100倍”を説明できる理由って、“黒幕の仕業”以外に考えられないんですがねぇ。

佐藤知一氏には、1年ほど前、メール交換して説明したんですが、自説に固着しているのかな、分かってもらえませんでした。シミュレーションで簡単にわかる現象なんですが、、ねぇ。氏の他の記事や著書などにも目を通してみましたが、“黒幕の仕業”に言及している個所は見つかりませんでした。日本の製造業に携わる人たちに与える影響を考えると、内心忸怩たる思いでいっぱいです。

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