リードタイム短縮に関する記事を題材に

前回は“ワーク(被処理物)が工程の空きを待つ時間(以下、ワーク待ち時間)”は生産リードタイムに加算されるが、“工程がワークの到着を待つ時間(以下、工程待ち時間)”は加算されない。では、“工程待ち時間”は生産リードタイムとは無関係かというとそうではなく、“工程待ち時間”が長くなれば“ワーク待ち時間”は短くなり、従って生産リードタイムも短くなる。“工程待ち時間”が短くなれば“ワーク待ち時間”は長くなり、生産リードタイムも長くなる、という話をしました。

“工程待ち時間”が長くなると(閑散期には)生産リードタイムは短くなる。

“工程待ち時間”が長いというときは、客が少ないとき、注文が少ないとき、、ですから、納期(サービスの要求から完了まで)は短くなります。ディズニーでも、レストランでもATMでも、工場の生産ラインでも、、閑散時は用足し時間は短く、繁忙期には長くなります。世のいたるところで起きていることです。

“工程待ち時間”が短くなると(繁忙期には)生産リードタイムは長くなる。

こんなの、当り前。この当り前を理解している生産・工場管理の専門家やコンサルタントはほとんどおりません。信じがたいことですが、Webをちょっとググると、それを示す証拠がすぐ出てきます。

例えば、
「リードタイムを短縮する4つの方策はこれだ!」
という記事。執筆者は佐藤知一氏。「生産スケジューリング入門」、「BOM/部品表入門」、「時間管理術」、「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」など著書多数。関連する団体などで広く活躍中。

本のタイトルから佐藤知一氏の専門分野がわかります。彼が、“当り前の現象”をどのように認識しているのか、みてみたいと思います。

その中のこのページ https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/0812/25/news120_2.html
に次のような件が、

待ち時間を含む全体時間は、工場全体の負荷量そのほかさまざまな要因で変わり得る。そしてMRPの工程別標準リードタイムは、これらの幅のうち、ほぼ実現可能な安全側の値を設定せざるを得ない(もし平均値を採用したら、工程進ちょくが計画より遅れる確率が50%になってしまう)。

注目したいのが、( )内の説明。
もし平均値を採用したら、工程進ちょくが計画より遅れる確率が50%になってしまう

工程別標準リードタイムの平均値を採用したら、投入からいくつかの工程を経て計画予定時間内に完成する確率は50%だ、ということですが、「工程別標準リードタイムの平均値」、「完成する確率は50%」ということから、工程別リードタイムの確率分布を工程ごとに加算して、投入から完成までのリードタイムの分布を求めていると思われます。

例えば、工程別リードタイムのバラツキを正規分布として、工程数を5つ。簡単にするため、どの工程のリードタイムも平均10時間、標準偏差1.5時間としてみます(±3σだと5.5~14.5時間)。投入から完成までのリードタイムの平均と標準偏差は、

平均;10時間×5工程=50時間
標準偏差は分散の加法性を利用して;(1.5の二乗×5工程)の平方根≒3.35時間

50時間で完成する確率は50%。説明の通りです。じゃ、完成する確率が95%になるリードタイムは何時間か? エクセルで簡単に計算できます。

NORM.INV(0.9、50、3.35)≒54.3 時間

95%なら55.5時間、99%なら57.8時間、、、

50時間というと、1日を8時間として6日とちょっと。それで完成する確率が50%。それが1日追加すると完成する確率はほぼ100%、、。うーん、ちょっと例示した数値が悪かったですかね。1日長くしただけで完成確率が50%から100%になる、、。経験則には、ちょっと合いませんね。3日とか4日足さないと100%にはならないんじゃないの~ぉ。

この違和感、どこから来るんでしょうか。

実は、実は、黒幕(前回までは影武者って呼んでいましたが、)がいるんですよ。この違和感、“黒幕の仕業”なんです。

“黒幕の仕業”を見逃してはいけません。

実際の生産ラインで言えば、50時間で完成する確率は50%ではありません。50%以下になります。これが“黒幕の仕業”です。

逆に、、50時間で完成する確率が50%に絶対にならないか、というと、そうではありません。50%の確率になることもあります。その条件とはどんな条件でしょうか?

投入時間間隔です。例えば、1番目のオーダを投入後2番目のオーダの投入が100時間後だったとします。これなら、2番目のオーダが50時間で完成する確率は50%でしょう。3番目のオーダが2番目のオーダの50時間後に投入されたとします。この場合も50時間で完成する確率は50%でしょう。

では、4番目のオーダが投入されたのが3番目のオーダが投入された10時間後だったらどうなるでしょうか。第1工程で3番目のオーダの処理が終わっている確率が50%。まだ処理が終わっていない確率が50%。処理が終わっていなければ4番目のオーダは第1工程の前で待たなければなりません。この待ち時間は生産リードタイムを長くします。このような待ち時間は、工程リードタイムにバラツキがあると、第1工程だけではなく、どの工程でも発生する可能性があります。

投入間隔が10時間未満となれば、待ち時間はどんどん長くなり生産ラインとしては、機能不全に陥り破綻してしまいます。

この現象は、共有リソース(工程の機械、作業員など)で多数の被処理物(オーダ、ワーク、、)を処理する生産ラインに特有の現象です。

工程の処理時間に対して投入間隔が長いときは待ち時間はあまり長くなりませんが、処理時間に近づいてくると急激に待ち時間は長くなります。また、処理時間および投入間隔のバラツキが大きくなると待ち時間は長くなります。

「リードタイムを短縮する4つの方策はこれだ!」の記事の中には、この待ち現象に関する言及はまったくありません。処理時間の数倍、時には数十倍の待ち時間が発生し、その分生産リードタイムも長くなります。リードタイムをうんぬんするとき、絶対に、考慮に入れなければならない要素です。それが、どこにも見当らない。

ムダ時間の内訳として下記項目を挙げています
ムダな運搬(レイアウトが悪い)
 ムダな段取り替え(計画が悪い)
 ムダな入出庫(ジャスト・イン・タイムに供給・消費すれば途中保管は不要)
 ロット待ち、
 工程滞留待ちなど、さまざま


ムダ発生の理由まで付記しムダ時間の内訳を挙げていますが、“黒幕の仕業”で発生するムダ時間については、まったく触れられていません。もし、執筆者に聞いたとしたら、「それは“工程滞留待ち”に含まれています」って、言うのかな、、。 “黒幕の仕業”で発生するムダ時間って、ごまかし切れないくらいおおきい(長い)んですがねぇ。大きいだけじゃなくて、バラツキの幅が半端なく広いんです。項目を別にして説明しないとダメですよね。

記事こんな説明があります。
製造リードタイムの中の付加価値時間比率は、
200~300分の1………トップクラス
2000~3000分の1……まあまあのクラス
2万~3万分の1………普通の会社
であるという。


トップクラスとはトヨタを指しているんだと思います。トップクラスを基準にしてムダ時間の比率をみてみると、
まあまあのクラス・・・・・トップクラスの10倍
普通の会社・・・・・・・・・トップクラスの100倍

まあまあな企業も含めて一般の会社のムダ時間はトヨタの10倍~100倍だよ、という説明に先に挙げたムダ時間の内訳で足りていますか? 

“一般の会社のムダ時間はトヨタの10倍~100倍”を説明できる理由って、“黒幕の仕業”以外に考えられないんですがねぇ。

佐藤知一氏には、1年ほど前、メール交換して説明したんですが、自説に固着しているのかな、分かってもらえませんでした。シミュレーションで簡単にわかる現象なんですが、、ねぇ。氏の他の記事や著書などにも目を通してみましたが、“黒幕の仕業”に言及している個所は見つかりませんでした。日本の製造業に携わる人たちに与える影響を考えると、内心忸怩たる思いでいっぱいです。

DPM研究舎

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