原価計算の弊害にお気付きですか?

先日、ダイヤモンド社から「TOCスループット会計」重版の知らせが来ました。「へ~ぇ、まだ売れてんだ!」、、。初版発売は2005年5月ですから、、賞味期限はとっくに過ぎたのに、、。

小生が製造現場で奮闘している頃、「コストダウン」という言葉を聞かない日はありませんでした。売値は市場で決まる。だから利益を上げるためには「コストダウン! コストダウン!」。疑問も持たずに、毎日、毎日、コストダウン、コストダウン、、、。

原価検討会とかいう会議が毎月行われておりました。そこで製品ごとの原価と売値(工場では振替価格)の一覧表が発表されます。材料費、工程ごとの加工費、機械設備の償却費、様々な費用の配賦、、、等の個別原価の分析資料も配布されます。赤字の製品の担当者はその理由を説明させられます。分析資料をみながら、費用が多い項目、増えた項目などを探して、もっともらしい説明をするわけです。来月は「このようなコストダウン対策をやります」とかなんとか言って、えらい方々の攻撃の鉾を交わす、、。そんなことが毎月、毎月繰り返されておりました。

実は小生が、生産管理や在庫管理に疑問を持ち始めたのは、「コストダウン」と実際の利益との関係があまりない、、いや、ほとんど関係ないことをうすうす感じてきた頃です。

例えば、社内の賃率(単位時間当たりの加工費)が50円/分、外注のそれは20円/分。外注に出すことで大幅なコストダウンができます。「もっと外注化を進めろ!」というえらい方の号令で、あれも、これも、外注へ出す。製品1個原価は、計算通りとはいかなくても、下がります。そんな数字をみて、外注化にさらに力が入ります。その結果、個別原価もさらに下がり、部門利益も上がり、会社全体の利益も上がりました。

この作戦、右肩上がりのときは、うまくいきました。が、景気の停滞が長引くと、会社の利益が減少し、部門の利益も減少傾向が続くようになります。外注化がますます強化されます。外注化は、国を超え東南アジア、中国へとシフトしていきました。そのころ中国の賃率は日本の10分の1以下。生産地から販売拠点までの物流を考えての海外シフトではなく、賃率の安さで海外展開したわけです。物流費は上がり、それよりも何よりも、生産リードタイムが10倍~20倍。それに比例して全体の在庫がうなぎ上りに増えてしまいました。会社の業績は上向くどころか、坂を転げ落ちるように下がっていきました。

「コストダウン」をなりふり構わず進めると「コストアップ」になる、、という体験は、その後の製造管理に対する考え方を変えるきっかけとなりました。

それが、「TOCスループット会計」の翻訳へとつながったのではないかと思います。小生は会計の専門家ではありません。会計と名の付く本を訳していいのかな、と、少しの逡巡はありましたが、会計というよりは、「コストダウン」の弊害を突いた内容だったこともあり、出版に踏み切りました。

利益を増やすために行う「コストダウン」が、逆に、利益を減らすことになるんだったら、すぐにやめればいいんじゃない、と思うのですが、現実はそうでもないんですね。「コストダウン」が体に浸み込んでいて、思考停止状態になっているのかもしれません。では、どうすればいいか。

原価計算が生産管理や在庫管理に及ぼす影響について考えてみたいと思います。実は、この問題、結構複雑なんです。先ずは、基本を確認しておきましょう。このWebでは繰返し述べていることですが、生産ラインや在庫循環のメカニズムは、基本的には物理現象である、と認識することです。ですから、生産管理や在庫管理を管理するためには物理的な操作をしなければならない、ということになります。

生産現場では常に「コストダウン」を心がけています。コストダウンの基準となるのが原価計算です。原価計算から出てくる指標は「製品1個原価」です。つまり、現在の生産管理や在庫管理では、「製品1個原価」で物理現象をコントロールしていることになります。

「製品1個原価」で生産ラインをコントロールしようとすると、先に挙げたようなことが起こってしまいます。「製品1個原価」ではなくスループットにしたらどうか。スループットについて簡単に説明しておきます。

Tu:製品1個のスループット
P:製品1個の売値
TVC:純変動費

Tu=P-TVC

スループットとは売値から純変動費を引いたもの、です。企業全体では、
T:スループットの合計
OE:業務費用
I:投資の合計
NP;純利益
ROI:投資利益率
として、
NP=T-OE
ROI=(T-OE)/I

製品1個原価とスループットの違いは次の2点。
原価計算                  スループット計算
*固定費を配賦            *固定費の配賦はしない
*ボトルネックを認識しない   *ボトルネックを認識する

別の見方をすれば、スループット計算は生産ラインの物理特性を考慮するが、原価計算は物理現象を無視する、ということになります。スループット計算が原価計算の弊害を防ぐことができる主要な理由は、この辺りにあるんじゃないかと思います。詳細は「TOCスループット会計」をご覧ください。

しかし、スループット計算でも「金額」で物理現象をコントロールすることには変わりはありません。どの程度コントロールできるのか、できないのか、気になるところです。

企業の目的を「儲けること」と単純化することは乱暴すぎますが、赤字を出し続けることはできません。そして企業業績は金額で評価されます。ですから、金額という評価基準は絶対的であり、逃れることはできません。

で、一方、ものづくりの現場は基本的には物理法則が支配しております。物理法則と金額との関係は、実は、製造企業にとっては、根本的な課題であると考えられます。

企業の業績は、法に縛られた公的な財務会計によって行われます。一方、管理会計は法的な縛りはまったくありません。財務会計で評価される業績をよくするために、企業それぞれが工夫する。原価計算を使ってもいいし、スループット計算でもいいし、もっといい方法があれば、それに切り替えればいい。

管理会計の自由度は大きいわけですが、実際はそうでもありません。やはり、財務会計との関係は正しく関連づけられていなければなりません。つまり、財務会計の影響がある。これが結構強いんじゃないかと思います。原価計算は財務会計の考え方には親和的だと思います。じゃ、スループット計算と財務会計との関係は、どうなんでしょうね、、。

生産管理・在庫管理と財務会計を結ぶ管理会計はどうあるべきか。企業の経営管理では重要なテーマなんじゃないかと思います。折をみて取り上げてゆきたいと思います。

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