平成の30年間にあった工場管理の進歩;次代を見すえて

株価最高の好景気で迎えた平成も、バブルの崩壊、リーマンショックなどなど、の激動を経てあと少し。この30年間、生産管理、在庫管理を中心とする工場管理はどのような進化、変化があったのか、、。ザットですが、振り返ってみようかと思います。

コマゴマしたことよりは大きなうねりというか、根底に流れるパラダイムというか、時代を背景にみえてくる特徴って、こんなことかな、的な感じで綴ってみたいと思います。

平成の30年を切り取ってみてもよくみえない。それよりさらに100年ぐらい遡って、その続きで平成の30年を眺めてみようと思います。120~130年前って、大量生産が始まった頃。大量に、効率よくつくる。で、すぐ頭に浮かぶのはフォード生産方式です。

1910年代、フォードは、ベルトコンベアを利用した流れ作業で自動車の組み立てを始めました。当初は黒色のT型フォード1車種。その後、生産車種は増えていきます。この流れ作業、自動車産業に限らず、様々な生産にも取り入れられていきました。そして一つの完成形がトヨタ生産方式ではないかと思います。現在トヨタでは、細かくみれば数万車種を生産しているといわれております。この流れを以下、TPS(トヨタ生産方式)と略称します。

生産量の拡大とともに多様化が進み、それに伴い必要とする部品、資材をいかに効率よく手配するかが課題となってきました。1960年代頃、コンピュータを利用した資材調達システムが出てきました。MRP(Material Requirements Planning)です。その後、製造能力を加味し時間の管理もできるようにしたMRP-II(Manufacturing Resource Planning)へと発展します。さらに、生産だけではなく、会計、人事など組織全体の資源管理も含めたERP(Enterprise Resource Planning)へ統合されていきます。

このMRPとTPS。対象とする主な領域はどちらも製造業。MRPもTPSもそれぞれうまく使いこなしている企業もあれば、まったくうまくいかない企業もあるようです。その程度は千差万別。

領域は同じでも、両者のアプローチは異なります。MRPは、BOM(部品表)情報で生産に必要な資材量を算出することから始まり、それにつながる生産計画の立案へと発展しましたが、TPSは生産ラインそのものの動かし方から始まり、多品種生産へと発展してきました。MRPはバッチ処理、TPSは1個処理という処理単位の違いは、このアプローチの違いと関連していると思われます。

MRPとTPSの対比それ自体、現在の生産管理の特徴を洗い出すうえで、結構面白いテーマだと思うんです。が、今回のテーマは、平成の30年間に工場管理がどのように進歩、変化したか、ですので、そのテーマに集中します。比較のテーマは折をみて、、。

MRPに対しクレームをつけたのが、TOC(Theory of Constraints;制約理論)の提唱者であるGoldrattです。MRPでは、工程ごとに限られた生産能力(生産リソース)を効率よく計画しようとしても、生産計画を収束させることはできない、と言うのです。それに対し彼は、DBR(Drum Buffer Rope)という生産方式を提唱します。生産ラインの能力は、能力の一番低いボトルネック工程で決まるので、ボトルネック工程だけ生産計画を立てればよい。他の工程は流れてきたものをその順に処理するだけ。ボトルネック工程を遊ばせないように、その前にバッファーを置くことで、生産ラインの能力を100%引き出すことができる、と主張したのです。

TOCをテーマにした小説、ザ・ゴールが米国で発売されたのが1984年、日本語版が発売されたのが2001年。300万部を超えるベストセラーになりました。

さて、このTOC。MRPの救世主になったのでしょうか? 結論から言えば“No”です。簡単な生産ラインであれば、ボトルネックは一カ所で固定されますが、生産ラインが長くなり、生産品種が多くなると、ボトルネックはあちこちに現れ、動き回ります。また生産ラインの合流点でもタイミングを取るためにスケジューリングが必要となり、簡単だったはずの生産計画が複雑化。結局、実行可能な生産スケジュールを立てることができなくなってしまいました。

その後、出荷工程だけをボトルネックとして、計画負荷という新たな考えかたを取り入れた、簡易型のS-DBR(Simplified DBR)が後継者のシュラ―ゲンハイムによって提案されます。しかし、簡易型でしかなく、適用範囲もごく限られているようで、MRPの欠点を実務的にどの程度修正できたか、確かな情報は得られておりません。

TOCはTPSにも異論を唱えます。「ザ・ゴール」から抜粋してみます。

(134~135ページ)
ジョナ;「『バランスがとれた工場』とは、・・・すべてのリソースの生産能力が市場の需要と完璧にバランスがとれている工場なんだ。・・・」
アレックス;「やはり完全にバランスのとれた工場なんて存在しないと思います」
ジョナ;「面白いな。・・・それじゃ、どうしてこれまで誰もバランスのとれた工場を実現したことがないと思うのかね。・・・」
アレックス;「・・・いつも条件が変化しているからだと思います」
ジョナ;「本当の理由は、バランスのとれた工場に近づけば近づくほど、倒産に近づくからなんだ」

バランスのとれた工場を目指すTPSでは、倒産しちゃいますよ、っていうわけです。DBR/S-DBRでは、バランスなど取れなくたっていいよ、バラツキがあってもいいよ、ということですから、TPSの導入で苦労している人たちにとっては、この上ない朗報となるわけです。

MRPの欠点を修正し、TPSの弱点を補う。一時、DBR/S-DBRは次世代の生産方式だ、なんて騒がれたこともありました。

MRPのスケジューリング機能を改善するもう一つの動きがAPS(Advanced Planning and Scheduling)。IT技術の進歩でスケジューリングの即時性と柔軟性が飛躍的に高まり、どのような生産環境でも最適な生産スケジューリングができるのではないか、と期待されました。日本でよく知られえるようになったのは、2001年に出版された「APS 先進スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!」西岡靖之著、あたりからだと思われますが、最近はあまり話題にもならなくなりました。

その他にも、一気通貫生産方式という“まゆつばもの”など、いくつかありますが、MRPとTPSの流れに大きな影響を及ぼす提案はないように思います。もちろん、TPSでは、かんばんが電子かんばんとなるなど、トヨタ自身による改良は進んでいると思います。

これだけ、AIだ、5Gだ、IoTだ、そして第4次革命だ、と情報技術が進歩しているのに、MRPとTPSの流れに大きな変化は起きていない。なぜなんでしょうね。

TOCとAPSのチャレンジの中にヒントが隠されているように思います。DBRはボトルネックという生産ラインの特性に注目しました。APSはスケジューリングの即時性と柔軟性の実現をIT技術に託しました。ここまでは良かったんじゃないかと思います。

MRPとTPSのアプローチの違いについては前述したとおりですが、共通項もあります。それは、MRPもTPSも生産計画基準であることです。基準となる生産計画は固定されていなければなりません。MRPでは、生産計画が固定されていないと資材の所要量を計算できません。TPSも生産計画を固定しないと、平準化ができなくなるばかりではなく、同期生産もダメ、かんばん方式もダメ、、と、まったく機能しなくなります。

実は、生産計画基準、生産計画固定という条件は、MRPやTPSに限ったことではありません。現在の生産管理の大前提になっているのではないかと思います。「計画変更に柔軟に対応できます」といった美辞麗句満載の広告をよく目にしますが、計画基準であることの裏返しではないでしょうか。

この大前提が現在の工場管理の障害になっているとなれば、この障害を取り除く。つまり、生産計画を固定しないで、場合によっては、生産計画・スケジューリングなしで生産管理を行うことはできないのか。

これにチャレンジしたのがDBR/S-DBRだとみることもできます。スケジューリングをボトルネック工程だけに限定することで、需要変動に対する柔軟性と即時性を飛躍的に改善しようとしました。そしてS-DBRでは、出荷スケジュールだけに限定し、各工程のスケジューリングそのものをなくしてしまいました。

DBR/S-DBRのねらいは良かったのですが、“生産ラインの能力はボトルネックで決まる”という前提に固執し過ぎました。その結果、DBR/S-DBRは、適用の自由度を失い、どこか、隅っこで、細々と生き延びていくしかなくなった、、、のではないでしょうか。

平成の30年を振り返り、今後の生産管理の進む方向性は、、と、愚見をまとめれば、、。

*生産計画基準からの需要基準へのパラダイムシフト
*生産ラインの特性基準
*IoT、AI、5G等の情報技術の活用
そして、
*MRPとTPSの融合・統合

といったところでしょうか。

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