サービス率が変わっても安全在庫は変わらず

生産管理についての根本的な問題について愚見を述べてきましたが、在庫管理に関しても負けず劣らず、レベルの低さを感じざるを得ません。“ものづくり徒然集”の[書評]No.71~No.76まで、物流業界では名うてのコンサルタントが著した“A書”の中のいくつかの誤謬を指摘しました。考えてみれば、物流業界は物流量が多い方が、ちょっと言い方を換えれば、在庫が多い方が儲かるんじゃないのかな。在庫管理はサービス率を維持しつつ、在庫を減らすことが狙いですので、物流業界では在庫管理を行うインセンティブは働かないのでは、と。だから、物流業界の在庫管理のレベルは低いのかなぁ。

物流業界だけではありません。他にも、仮説、奇説、怪説、愚説、珍説、、いろいろありますよ。今回は、間欠需要での安全在庫、適正在庫の求め方に関する珍説を眺めてみましょう。

間欠需要というのは、注文のない日(週、月、、)もある需要パターンです。一般の需要では毎日注文があることを前提にしていて、その場合、需要分布はおおむね正規分布に近似します。が、間欠需要では、受注ゼロの確率が高くなり、左右対称な分布ではなくなります。そうすると、左右対称の正規分布を前提にした安全在庫や適正在庫の算出方法では誤差が多いくなる。で、何か工夫がいるわけです、、。

Websiteを閲覧していたら、対数正規分布を仮定して間欠需要での安全在庫を計算するソフトがみつかりました。そこに安全在庫の計算式があります。

 

 

ここで:
Φ^(-1) (∙)- は、標準正規分布の分位。
SL – 与えられたサービス率
(Dev) ̂- O.O.Mで表現された対数正規分布の偏差の推定値。これは間欠需要モデルの偏差パラメータ。
(Med) ̂- 対数正規分布の中央値の推定値。これは間欠需要モデルの中央値 パラメータ。

よくわからないので、聞いてみました。「データを送ってもらえば計算結果を知らせる」とのことなので、早速、送りました。平均値、バラツキを変えて5種類。おもしろい計算結果が返ってきました。表1をご覧ください。

表1 安全在庫の計算結果

 

 

 

サービス率が変わっても、安全在庫はほとんど同じ。こんなことってあるんでしょうか? 何かの間違いかと思って再度、質問してみました。少し間がありましたが、計算式の詳しい説明が追加されただけで、結果は変わらず。

この数値をみただけで、実際の在庫管理には使いものにならないのは一目瞭然。在庫管理の初心者でもわかると思うんですが、2度も同じ答えが返ってくるとは、びっくり仰天。

びっくりした、だけではあまりインフォ-マティブではありませんので、対数正規分布で近似する場合の安全在庫や適正在庫はどうなるのか、についてもコメントしておきたいと思います。

先ず、対数正規分布は、あまりなじみがありませんので、分布形状の例を図1と図2に示します。対数正規分布ではμが平均、σが標準偏差ということではないことに留意ください。対数正規分布の期待値をE、分散をVとしますと、次のようになります。

 

 

結構ややこしいですね。

図1   μ=2でσが0.25、0.5、1、2

 

 

 

 

図2   σ=1でμが0.5、1、2、3

 

 

 

 

対数正規分布と普通の正規分布を比較しみます。図3~図5に例示します。バラツキが大きくなると違いがはっきりしてきます。

図3 正規分布と対数正規分布の比較①

 

 

 

 

図4 正規分布と対数正規分布の比較②

 

 

 

 

図5 正規分布と対数正規分布の比較③

 

 

 

 

下準備はこのぐらいにして、試算用サンプルデータと対数正規分布を重ねてみます。品目Aを使います。受注数量平均は10、分散は9.2。図6にデータは棒グラフ、対数正規分布は線グラフで示してあります。

図6 品目Aのデータ分布と対数正規分布

図6では両者のサービス率がそれぞれ95%、98%、99%の受注数量の位置を示しています。安全在庫は、平均10を引いて、表2のようになります。対数正規分布はサービス率が高くなると安全在庫は多くなるようです。サービス率が変わっても安全在庫は同じなんていうことはありませんね。

表2 データ分布と対数正規分布で求めたサービス率と安全在庫

 

 

ついでに、他の分布形状で近似した場合も調べてみたいと思います。取り上げる分布は、先ずは正規分布。但し、受注数量がマイナスはありませんので、マイナス側はゼロの確率に集めてあります。切断正規分布と呼んでおきます。もうひとつは、間欠需要特有のズレを補正した切断正規分布です。補正の方法については「STIC発注方式」を参照ください。ガンマ分布も加えてみました。一例を図7に示します。

図7 データ分布と各分布の比較

図8、図9は、データ分布を基準としてサービス率がどの程度ズレるかを示しています。受注数量が少なくなるに従い、データ分布との差が大きくなることは、分布形状からも理解できると思います。サービス率が90%~95%以上では差は2%~3%以内に収まるようです。このデータだけで結論を導くことはできませんが、対数正規分布より、ガンマ分布の方が近似性がいいように感じます。

 

 

 

 

 

 

図8 データ分布との差

 

 

 

 

 

 

図9 データ分布との差(拡大)

今回は、間欠需要での安全在庫を計算するソフトに触発されて、対数正規分布の近似性、ついでに切断正規分布(補正あり、なし)、ガンマ分布を加えて、調べてみました。いずれの分布もデータ分布とは大きく異なりますが、サービス率が90%以上の裾野領域では使えるのではないでしょうか。どの分布がいいのか、それぞれ一長一短がありますので、今後の検討課題としたいと思います。

生産管理、在庫管理関連のソフトウエアの説明には、美辞麗句満載、時には“うそ”が紛れ込んでいます。今回の事例は氷山の一角。くれぐれも、お気を付けください。

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