「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」;ありえない理由

トヨタ生産方式をまねしても成功しない」(執筆;菅野 寛)という記事を目にしました。
(Websiteは https://president.jp/articles/-/25566 コピーはこちら
トヨタ生産方式といえば、世界中に知れ渡った、最も有名な生産方式です。ですから、まねをする企業も多く、関連する書物、セミナーもたくさんあり、コンサルタントも多数おります。

トヨタ生産方式がブームになったのは1980年頃からでしょうか。猫も杓子もJITだ、カンバンだ、と。1990年代に入ると病院や郵便事業、官公庁までもがトヨタ生産方式だ、と騒ぎたてていました。

ところが、ブームが落ち着きかけると、導入しても失敗に終わる企業の方が圧倒的に多い、ということが分かってきました。で、出てきたのが、
「トヨタ生産方式導入失敗の原因」
「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由」
「トヨタ生産方式の成否の違いと成功のポイント」
「トヨタ方式に挑む 導入に成功する組織・失敗する組織」
「トヨタ生産方式導入の失敗事例から学ぶ」
、、、、
というような失敗をテーマにした記事。2000年以降多くなってきて、その後下火になり、最近ではあまり見かけなくなったなぁー、と思っていたら「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」という記事に遭遇。

初めに、本文をお読みいただくと話の流れはつかみやすくなると思いますが、そんな暇のない方にも、ポイントだけはわかるようにしようと思います。

先ず初めに、「トヨタ生産方式はなぜ、他社では機能しないか」について、それは事情(コンテクスト)が異なるからだ、と執筆者は言います。例として、(トヨタ生産方式の)アンドンが出てきて、それが機能する前提条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していること、だと。ところが、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない、と断じ、だから、他社では、トヨタ生産方式は機能しない、のだと断じています。

「いい仕事をしたい」という価値観の従業員がいるか、いないかでトヨタ生産方式が機能するか、しないかが決まる。これが執筆者の主張です。

この説を検証してみましょう。自動車産業のコンテクストを外観しながら、、。

トヨタは世界中に工場を持っています。海外のトヨタの工場の生産方式は、当然トヨタ生産方式。ただ、日本の工場と比べるとレベルは落ちる、ということは聞いたことがあります。とは言っても、トヨタ生産方式の基本をはずしているとも思えません。どの工場でも、レベルの差はあれ、トヨタ生産方式で生産されていると考えられます。だとすれば、世界に散らばるトヨタの工場の従業員だけは、どの国にあっても、「いい仕事をしたい」という価値観を持っている、ということになります。

一方、世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいないのであれば、海外のトヨタの工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいないのではないでしょうか。海外でも、トヨタの工場だけは別で、このような価値観を持った従業員がいるとしたら、、なんで? その理由の方に興味が惹かれますね。

日本国内のコンテクストに目を向けてみます。「世界の多くの工場では、このような価値観を持った従業員はいない」、から連想されることは、国内の工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員がいる、ということでしょうか。だとしたら、日本国内のどのような工場でも、トヨタ生産方式が機能する、ことになります。これは「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」企業の方が圧倒的に多いという現実と矛盾します。

国内の自動車産業に目を向けてみましょう。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、、ほとんどすべての自動車メーカが国内に工場を持っています。その工場には「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員はいるのかどうか。トヨタの国内工場すべてにそのような従業員がいなければなりませんね。では、日産やホンダの工場はどうでしょうか。そのような従業員がいるのかどうか。

自動車メーカの従業員がどのような価値観を持っているのか、手元にデータがあるわけではありません。しかし、同窓、同郷、そして親戚同士が、そして世界でも類をみない同質性を共有する日本人がたまたま選んだ勤務先が、トヨタ、日産、ホンダ、、。それぞれの従業員の価値観に顕著な差がでるとは想像しがたいことです。つまり、トヨタだけに「いい仕事をしたい」という価値観を持っている従業員が偏って多いことは考えにくいことです。

トヨタ生産方式導入失敗の原因については、多くの人が、いろいろの立場から語ってきました。経営理念、経営戦略、企業文化、従業員の価値観・意欲、改善魂、5S、、、などなど。

トヨタ生産方式成立の条件は、従業員に「いい仕事をしたい」という価値観が浸透していることだとする主張は、これまでの諸説と比べてみれば、食傷気味の“俗説”に類し、屁ごときたわごと。屁なら、ちょっと我慢すれば、間もなく霧散し消えますが、この稚拙な主張の発信者が某大学院経営管理研究科の教授であることは、忌々しき事ですね。学生を通してこのような俗説が次世代に引き継がれ、失われた30年がそのまま40年、50年、、となりはしないか。日本経済停滞の一因は大学の知的・教育レベルの低下なのかもしれません。

表題の下に「教科書理論をすぐ使うという地雷」という副題があります。教科書に書いてあることをコンテクストも吟味せず、うのみにするな、というメッセージだと思うんですが、この教授、自ら地雷を踏んで見せるとは、度胸がいいというか、救いようがないといううか、いずれにしても教育レベルが低下していることだけは確かでしょう。

では、「トヨタ生産方式をまねしても成功しない」本当の理由は何なんでしょう。生産方式そのものを注意深くみてみましょう。日産自動車の生産方式は、日産生産方式(NPW)と呼ばれているようですが、中身はトヨタ生産方式とほぼ同じ。違いを見つけるのに苦労するぐらいです。サラっと調べてみた限りでは、ホンダやマツダ、そしてGM(一時トヨタと合弁工場を運営)やフォードも、小異はあっても、ほぼ同じではないかと思います。つまり、トヨタ生産方式は、企業、国を超えて世界中で機能していると考えられます。

「全部、自動車会社じゃないですか、、」
「そうですよ。だから、、」
「市場も同じ、つくっている車も似たり寄ったり、、、トヨタ生産方式も導入しやすいんじゃないですか」
「そのとおり」
「自動車会社以外にありますか?」
「もちろん、あります」
「例えば、どんな会社ですか、、、」

トヨタ生産方式成立の条件は、こんな会話の中に隠れているのかもしれません。

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