生産ライン;異質な特性の共存

「生産計画通りに生産を行う」
これが生産管理の基本中の基本。ではありますが、生産管理問題が一向に改善されない遠因でもあります。なんでだろう? 理由はいたってシンプル。計画の実行可能性が低いからです。言い方を換えると、生産計画(日程計画)が生産現場で、作業指示の機能を果たせなくなっているからです。では、いっそのこと、日程計画によらない作業指示のやり方はないものか、そんな目で生産管理問題を考えながら、さまよっている道中で行き当たったのが「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」です。

日程計画以外の作業指示の方法を探っているうちに、生産ラインは何に基づいて動かせばいいのか、という根本的な問いにぶつかりました。それに対して、思いついたのが生産工程流動原理です。

[生産工程流動原理]
*処理可能なワークがあれば指定された作業を行い、終了後速やかに次工程に送る
*ワークがなければ何もしないで待つ

大上段に“生産工程流動原理”なんて、仰々しい限りですが、各工程の作業はこの原理で動くのではないか、と考えました。実に、当り前のこと。水が高所から低所へ流れ下るように、ワークは上流工程から下流工程へと流れる。この原理を使うと生産管理の問題を日程計画から切り離すことができるかもしれない、と。

しかし、ワークが生産ラインを流れる様は、水が流れ落ちる物理現象と類似してはいますが、それに比し、はるかに複雑です。

複雑になる要因は、つくる製品の多様化、製品サイクルの短縮、生産技術の高度化、などなど、いろいろあると思いますが、人間の介在で巻き起こる非論理的なノイズもその一つではないか。非論理的な人間の思考・挙動を排除して、生産ラインの純粋な、基本的物理特性を理解することが、複雑な生産ラインのメカニズムを理解する近道ではないか、という思いに至るわけです。

生産ラインの特性を理解するためには、生産ラインの基本要素と基本特性を把握する必要があります。「ものづくり徒然草 No.6 生産ラインの基本要素と基本特性」及びその前後に関連事項の説明がありますので、ご参照ください。

生産ラインの特性を理解するうえで、重要な特性項目を挙げてみましょう。
 *生産性;単位時間での完成数
 *フロータイム;投入から完成までの時間
 *WIP(Work In Process;工程仕掛)
 *稼働率;各工程の稼働時間/総時間
 *投入負荷率;ライン投入負荷/生産能力

その他にも、例えば、ラインバランス、段取り時間、タクトタイム、生産ロットサイズ、歩留まり、直行率、、、などなど、まだまだありますが、もし必要なら後から追加したいと思いますので、とりあえずこの5項目をまな板の上にのせて話を進めます。

生産性はできるだけ高く、フロータイムはできるだけ短く、WIPはできるだけ少なく、稼働率はできるだけ高く、、これが生産管理の狙い。なんですが、そう簡単ではありません。相反する特性もあります。例えば、生産性を挙げようとするとフロータイムが長くなるとか、稼働率を上げるとWIPが増えるとか、、一筋縄ではいきません。

おっとっと、、。重要なことを忘れていました。変動です。バラツキです。上記の5項目は変動、バラツキの影響を強く受けます。なんの、どんな変動か、と言いますと、これもいっぱいありますが、思いつくまま挙げてみますと、
 ワークの投入時間間隔
 生産品種
 工程の処理時間
 作業者ごとの作業時間
 仕様変更
 計画・予定変更
 部品不足
 機械故障
 品質不良の発生
 工程切り替え
 段取り時間
 、、、

挙げたらきりがありません。生産ラインの基本特性はこれらの変動の影響を受けます。どのように、どの程度影響を受けるかは、それぞれ異なり、また変動要素間の相互作用もあり、その因果関係を解析するのは至難の業です。

逆にみれば、これらの変動、バラツキがないと、生産性、フロータイム、WIP、稼働率の関係がすごくわかりやすくなります。それが生産ラインの基本特性ではないか、と。複雑な生産ラインの特性を理解する前に、バラツキのない静的な生産ラインの基本特性を調べてみましょう。

生産ラインの静的な特性といっても、環境条件によって全くといっていいくらい異なった特性を示します。投入負荷と処理能力との関係で、
① 投入負荷<処理能力(投入負荷率100%未満)
のときと、
② 投入負荷>処理能力(投入負荷率100%以上)
のときで、先に挙げた特性項目間の関係が大きく異なります。

話を簡単にするため、ラインバランスは100%とします。投入負荷<処理能力では、
 *生産率は負荷率に等しい(フロータイム分の遅れはある)
 *フロータイムは各工程の処理時間の合計で一定
 *待ち時間はゼロ
 *待ち状態のWIPはゼロ(すべてのWIPは処理中)

投入負荷>処理能力では、
 *生産率は100%で一定
 *フロータイムは時間経過とともに長くなり続ける
 *待ち時間は時間経過とともに長くなり続ける
 *待ち状態のWIPは時間経過とともに増え続ける

“投入負荷<処理能力”のときと、“投入負荷>処理能力”のときでは、生産ラインの性質がまったく異なることにご注目ください。

処理能力以上の負荷をかけ続けると、待ち状態のWIPが増え続け、待ち時間そしてフロータイムが長くなり続けますので、WIPであふれ返り、納期遵守率が低下するという状態になりそうです。一方、処理能力以下の負荷では、最短のフロータイムで流れますが、待ち状態のWIPはありませんので、ラインは手空きが目立ち、生産性は低くなります。

このような生産ラインの基本特性を生産管理の視点からみますと、“投入負荷<処理能力”でもダメ、“投入負荷>処理能力”でもダメ。“投入負荷=処理能力”がベスト、ということになります。生産能力に合わせた生産計画をつくり、生産計画に合わせた生産能力を準備する。生販在会議等で生産能力と生産計画のすり合わせ行う光景はお馴染みです。

生産計画が目指す “投入負荷=処理能力”では、
 *生産率は100%
 *フロータイムは各工程の処理時間の合計で一定
 *待ち時間はゼロ
 *待ち状態のWIPはゼロ(すべてのWIPは処理中)

これが、理想的な狙いです。

現実はどうか、といいますと、生産能力と生産計画がドンピシャリと一致することはありません。必ずといっていいぐらい、ズレます。最初からズレているときもありますし、途中でズレてくることもあるでしょう。ということは、“投入負荷<処理能力”と“投入負荷>処理能力”の状態を行ったり来たりするということになります。生産ラインの特性がガラリと変わる境界線をまたいで、行ったり来たり、、。これが生産管理の宿命なんです。

さらに深刻なのは、生産ラインの特性が変わることはなんとなく認識されていても、両領域でどのように変わるのか、などについては、まったく認識されていないことです。“投入負荷<処理能力”のときと、“投入負荷>処理能力”ときでは、真逆の手を打たなければならないかもしれないのに、、。

生産現場では、納期を守れ、生産性を上げろ、仕掛・在庫を減らせ、、と日夜奮闘しているわけですが、投入負荷と処理能力との関係に気を配る方はあまりいないようです。有効な手を打てないまま停滞する現場では、「生産管理とはそんなもんだ」、と高をくくる声さえ聞こえます。

投入負荷と処理能力の関係を常に把握する。これが生産管理で最も基本的なことではないか、という視点でみると、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」解決の手がかりがつかめるかもしれません。続く、、、