見込生産・受注生産の識別と生産ラインの特性

「生産管理の基本は実行可能な生産計画に基づいて生産が行われること」が現行生産管理論の前提条件になっています。生産計画というと大・中日程計画、工程計画などいろいろあり、その目的も多岐にわたりますが、その中でも最も基本的な役割は、工程ごとに、いつ、何をつくるか、の作業指示ではないでしょうか。限られた生産能力で、いつ、何を何個作るか、これはまさに生産管理の最も重要な機能です。

このような現在の生産管理論の大前提をベースにして、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」をどのようにして解けばいいのか、、。これまでも、問題解決への努力は、いっぱいありました。一気通貫生産方式やAPS(先進的スケジューリング)も、その努力の一環。どれもパットしませんが、、。

でも、成功例もあるんです。トヨタ生産方式です。成功の要因は“変動の極小化”。具体的には、生産計画の固定、平準化、サイクルタイムでの同期生産、、などなど、、。「受注順生産問題」では“生産順を固定”し、「処理時間変動問題」では“処理時間を固定”して解決した、と考えていいと思います。

ところが、“生産順の固定”や“処理時間の固定”は、見込生産環境でないとできません。注文を受けてから生産活動を始める受注生産環境では、トヨタ生産方式は使えないんです。世の中では、どのような生産環境でも使えるといった風潮があるようですね。一時は、病院でも、郵便事業でも、官公業務でもあらゆるところで使える、仕事の流れ管理の基本理論だ、なんて喧伝された時期もありました。そんなこともあってか、トヨタ生産方式は見込生産、受注生産の区別なく、使えると思っている方が圧倒的多いのではないでしょうか。

受注生産と見込生産。定義を確認してみましょう。
受注生産;注文が確定してから生産活動を始める。
見込生産;注文確定前に生産活動を始める。

世の生産工場では、この二つの生産方式の定義は意外に曖昧なんです。「我が社は受注生産をしてます」っていう工場に行ってみると、部品や中間組立品が工場狭し、と置かれています。こんな質問をしてみました。

問;「受注から納品まで、顧客の要求納期はどのぐらいですか」
答;「製品にもよりますが、1週間から2週間ぐらいです」
問;「部品をつくるのにどのぐらいかかりますか」
答;「1カ月から2カ月程度。月次生産で回しています」

つまりこの工場は、部品は見込生産、最終製品の組み立ては受注生産と、二つの生産方式をとっているんです。不思議なことに、受注生産ですから、最終製品在庫は基本的にはないはずですが、工場倉庫にはそれが山積みになっているんです。質問をすると、
「営業からの受注見込情報で、生産しています。注文が来てから生産するものもありますが、大部分は製品倉庫から出荷しています」

受注生産を標ぼうする企業はあまたありますが、見込生産と受注生産が混在している企業がほとんどではないでしょうか。受注生産と見込生産の区別は曖昧模糊としている現状をお察しいただければ幸いです。

このような生産環境でトヨタ生産方式を導入しようとするとどうなるか。見込生産ににしか使えないトヨタ生産方式を受注生産で使うとどうなるか。トヨタを再現できない企業が大部分である、という話が思い浮かぶわけです。

受注生産環境でトヨタ生産方式が役に立たない、ということではありません。バラツキ・変動の縮小、ムダの排除、5S、多能工、標準化、、等々、、トヨタ生産方式語録は受注生産環境でも有効なものが多数あります。しかしこれらは、トヨタ生産方式を特徴づけているわけではありません。これらの語録は見込生産でも受注生産でも、工場でのものづくりに共通するものです。

トヨタ生産方式の特徴は、ザックリと言えば、
*固定された生産計画による統制
*平準化
*サイクルタイムによる同期生産

これらの条件は、見込生産環境でないと、満たすことはできません。受注生産環境で上記の3つを実現することは不可能です。「固定された生産計画による統制」はトヨタ生産方式に限らず、現在の生産管理論の基本的前提となっております。となると、トヨタ生産方式も、さらには、一般的な現行の生産管理方式も、受注環境では使いものにならないということになります。

だとすれば、現行の生産管理の前提条件を根本的に見直さなければならなくなります。かなり、思い切った発想の転換が必要なのではないか。で、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」は、受注生産環境でも適用可能な生産管理論構築の手がかり的問題提起なんです。

ある工程では何時から何時まで、どのような作業をするか、日程計画に基づいて行います。これが、現行生産管理の基本。受注生産環境では、このような日程計画がありません(つくることができません)。で、どうするか?

日程計画以外の作業指示の方法はあるのでしょうか。もちろん、有りますよね。現場を見ればわかります。日程計画通りものが流れないことは日常茶飯。ですから、日程計画の指示通りできないことが頻発するわけです。でも、生産活動は続行しています。このとき、作業指示はどうなっているのか。様々です。生産ラインのリーダーが指示を出す場合もあるでしょう。とりあえず、目の前にある(工程の前にある)仕掛品の処理を行っているかもしれません。あるいは、営業から現場に直接催促の電話があり、それに従うこともあります。ベテランの作業員であれば、何の指示がなくても、どの作業をすればいいか自分で判断できるでしょう。

生産現場の実態をみれば、生産管理の大前提が崩れていることに気が付きます。スケジューリング(日程計画)の問題は生産管理ソフトで解決できる、とベンダーは誇大な喧伝文句をまき散らします。コンサルタントは企業の管理レベルの低さを嘆き、現行生産管理論をベースにした自説の正当性を強調します。しかし、生産管理の大前提が崩れていることの問題提起もなければ、解決への提言もありません。

このような問題の解決策は、別の言い方をしますと、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」の解決策はあるのでしょうか。難題であることは確かですが、どちらに向かえばいいのか、いきなり問題の根幹を突こうとするよりも、生産現場の現状を眺めればヒントが見つかるかもしれません。

日程計画通り生産活動が行われない現状を、反面からみれば、曲がりなりにも生産は行われているではないか、と捉えられないでしょうか。納期遵守率は低い、稼働率は低い、工程仕掛は多い、生産リードタイムは長すぎる、、などなど、不満だらけかもしれませんが、、。ときどき赤字に転落しながらも、数十年、企業は存続しているわけですし、、。事実を肯定的な視点でみるのも、発想の転換に資するのではないか、、と思うわけです。

「日程計画などなくても、ものは流れる」
無用な、いや、それ以上に混乱の根源だと疑われる日程計画があっても、ものは流れるのであれば、そんな日程計画はない方がスムーズに流れるのではないか。破れかぶれで、皮肉れた見方でしょうか。いや、案外、そんな見方が解決策に向かう方向を示しているのかもしれません。

生産ラインを流れる基本原理とは。これを確かめておく必要があります。

目的はものをつくること。これに異論はないでしょう。主要な要素は非処理物(以下、ワーク)と工程(機械設備、作業員など)。各工程は与えられた処理を行います。ワークがあれば処理を行う。なければワークが来るまで待つ。日程計画での作業開始指示とワークの有り無しでの作業開始、との違い。この違いはありますが、どちらも連鎖する工程の中をワークは流れます。これを生産工程流動原理として認識しておきます。

生産工程流動原理
*ワークあれば指定された作業を行い、終了後速やかに次工程に送る
*ワークがなければ何もしないで待つ

これは、当り前と言えば、当り前です。しかし、各工程の開始時刻を指示していなくてもワークが工程順に流れる基本原理として認識することが重要だと思います。

日程計画では投入時刻、各工程の開始・終了時刻、ラインアウトする完成時刻が指定されていますので、この通りに実行されれば、生産管理の精度はこの上ないものになります。一方、生産工程流動原理だけでものを流せば、時間の管理精度はいいかげんなものになるでしょうね。これでは、納期管理なんてできません。どうするか。

いや、ちょっと待ってください。生産ラインが空っぽの状態、つまり工程仕掛がゼロの状態で投入したワークならどうでしょう。どの工程もワークの待ち時間はゼロ、生産リードタイムは最短で完成します。日程計画では多少のバラツキや待ち時間を加味しますので、それよりは短い生産リードタイムで完成することになります。工程仕掛がいっぱいあったら、そうはなりません。生産リードタイムはグーンと長くなるでしょうね。

となると、生産工程流動原理でものを流した時の生産ラインの振る舞いがどうなるのか、これを理解することが必要になります。

複数の工程からなる生産ラインを生産工程流動原理で動かすときの生産ラインの特性、これが「生産ラインの基本特性」ということになります。

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