管理方法の最適化という課題

“ものづくり徒然草”のNo.70で、これから解決しなければならない生産管理の問題は、 “「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」”ではないか、と申し上げました。

「受注順生産問題」。これは、注文が来てから生産を始める受注生産環境で起きます。何を何個、いつまでにつくればいいか、注文が来るまではわかりませんので、予め生産スケジュールをつくることはできません。注文が来てからスケジューリングするのも困難です。となると、舞い込む注文を舞い込む順に生産ラインに投入しながら、生産管理を行う、という状況が想定されます。注文ごとに仕様は異なり、数量も納期も異なる。生産ラインを流すスケジュールもない。そんな状態で、生産性、品質、納期などをどうやって管理すればいいのか、このような問題認識が「受注順生産問題」です。

「処理時間変動問題」は「受注順生産問題」と互いに密接な関係があり、重なり合っています。現在の生産スケジュール法では、最適なスケジュールを立てるためには、処理時間は固定されていなければなりません。固定されていても、“最適組合せ問題”をみてわかるように、簡単な場合以外コンピュータの計算速度をもってしても最適解は得られず、様々な妥協的方法でしのいでいるのが現実です。ましてや、処理時間が変動したのでは、スケジューリングは不可能だ、と言い切っていい。で、どうするか。これが「処理時間変動問題」です。

この二つの問題、これまで様々な方がチャレンジしてきました。というと、「そんな問題、聞いたことないよ」と言われそうですが、先に取り上げた“一気通貫生産方式”もAPS(先進的スケジューリング)も、実は、この二つの課題に取り組んだ事例だとみることができます。

“一気通貫生産方式”の方は、ずぶの素人が竹槍を持ち突っ込み、五里霧中の中でもがいている、といった感じ。APSは大学教授やシステムエンジニアたちが、IT技術でなんとかなるんじゃないか、という軽いノリで始めてみたが、壁にぶつかり頓挫、というところでしょうか。

その他にも、挙げればきりがないくらいあるんじゃないでしょうか。ある大学教授に聞いたところ、「そのような研究課題に取り上げようと調べてみたが、多忙になりあきらめた」「海外では、それに関する論文がたくさん出ている」というようなことを教えていただきました。ボードに張り出した生産予定表上にタスクのカードを貼って、ある時間ごとに進捗状況に合わせてカードを動かす、といった努力賞的アイディアもあります。

この二つの課題、生産管理が抱える中心的問題領域に位置するわけで、未だこれといった有効な解決策には至っていない、という難しい問題なんです。で、どうゆうふうに解けばいいか。そんなに簡単に解ける問題ではないことだけは確かです。浅学菲才な頭を絞っても、何も出てきそうにありませんので、先人の知恵に頼るしかありません。使えそうな理論、法則、考え方など、探してみましょう。

生産管理の問題を論理的に解く試みはOR(オペレーションズ・リサーチ)で行われています。中でも待ち行列理論。この理論を応用して生産管理や在庫管理の問題にチャレンジしています。待ち行列理論というのは、例えば、ATMが5台あって、××時間に平均○○人が来るときの待ち時間や待ち行列は何人になるか、といった問題で知られています。生産ラインでは、人を非加工物、ATMを処理工程と置き換えれば、工程間の待ち時間、工程仕掛数、生産リードタイムなどが計算できます。今の生産管理では、待ち時間を論理的に算出する、なんていうことにはあまり関心がありませんが、生産リードタイムを議論するときには、重要な要素です。

生産リードタイムは各工程の処理時間と工程間で待つ待ち時間で構成されます。生産ラインの総処理時間は各工程の処理時間を合計して求められますが、待ち時間はそう単純ではありません。稼働率が70%~80%ぐらいからスキージャンプ台を見上げるようなカーブで待ち時間、待ち行列が長くなります。スーパーの買い物ラッシュアワーに、レジの行列が急に長くなる、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

各工程の処理時間が分かり、稼働率が分かれば生産リードタイムや工程仕掛数が計算できる、となると、生産管理の理論も一気にレベルが上がるんじゃないか、って、思いませんか。待ち行列理論は使えそうですね。

統計理論も必要でしょうね。受注の間隔はランダム、生産品種は多様化しその処理時間のバラツキは大きく、納期はますます短くなる。どうしても変動要素を考慮しないと現実的、実用的な解決策には結びつかないのではないか。なので、統計理論は必須。

ちょっと戻って、ORについて、再確認しておきたいことがあります。

“ORとは、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法である。また、複雑なシステムの分析などにおける意思決定のための数学的技術でもある。ORの研究では、線形計画法(linear programing)、動的計画法、順列組み合わせ、確率、最適化および待ち行列理論、微分方程式、線形代数学などの数学的研究を踏まえて、現実の問題を数理モデルに置き換えることで、合理化された意思決定が可能となり、定量的な問題についても最適化を行うことができる。”

複雑な生産システムを分析し数理モデルに置き換え、最も効率的な計画を立案し、定量的に最適で、合理的な意思決定をベースにした生産管理ができる。統計理論を含めて、ORに対する期待が膨らみます。

FACTORY PHYSICSというものもあります。ご存じでしょうか。ミシガン大学のWallace J. Hoppが著し、提唱しているものです。生産システムに関する基本を理論的にまとめたものです。生産管理、サプライチェーンマネジメント、生産技術などを学ぶ学生の教科書として使われています。

教科書っていうのは、これまでに知られた知識をできるだけ公平なポジションで記述しているのが一般的です。FACTORY PHYSICSもそのたぐいの書で、内容はいたって“コンサーバティブ”ですが、信頼性も高いように思われます。

もちろん、「処理時間変動問題」とか「受注順生産問題」などに関連することがらは含まれているようですが、答えが記載されているわけではありません。参考になる記述は結構あるようです。ただ、物理学の本を読んでいるようで、難解なんです。

少し斜め上から俯瞰してみましょう。実は、OR、待ち行列理論、統計理論、FACTORY PHYSICSのなかで取り上げられる生産管理の問題と「受注順生産問題」「処理時間変動問題」との間に、視点のズレがあるように感じられるのです。前者は生産性とか、生産リードタイムとか、より良い解や最適解を求めることを主眼にしています。が、後者は生産システムの管理をどのように行うのがいいのか、に重きを置いています。

前者は、例えば、生産リードタイムを最短にするとか、単位時間当たりの生産数量を最大にするとか、設備の稼働率を最大にするとか、、、それぞれの問に対しての答えを出します。しかし、その答えが、企業として最適かどうかとは必ずしも一致しません。顧客の納期に間に合わせなければならないという状況であれば最短の生産リードタイムが優先されますし、生産数量を確保しなければならないのであれば単位時間当たりの生産数量を最大にすることが優先されることになります。環境によって、最適項目が変わるんですね。

つまり、前者は個別の問題に対しての最適解を求めるのに対して、後者は経営の視点から生産管理の最適な管理方法は何か、という課題にチャレンジしている、という違いがあることに留意しておきたいと思います。

個別課題の最適化ではなく、時々刻々と変化する環境条件に合わせた管理の最適化法を模索する、つまりその時々で、何を優先するのかを判断し、策を講じるということですので、かなり高度になるかもしれません。数式だけでは手に負えません。多面的、複眼的、実用的視点からより立体的にみる必要がありそうです。こんなときに役に立ちそうなのが、待ち行列理論をベースとしたシミュレーション・ソフトではないか、と考え、これも道具箱に加えました。

IoTに代表される第4次生産革命はすでに始まっています。様々な情報がリアルタイムで取り込めるようになり、コンピュータの処理能力もさらに向上するでしょう。しかし、今のままの生産管理の在り方では、そのような変化を有効に取り込むことはできません。生産管理の在り方を根本的に変えなければなりません。「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」は、第4次生産革命で顕在化する問題だ、とも言えます。生産管理の在り方を根本的に変革するきっかけになれば、と考えているところです。

今回は、“雑談・放談”にしては、ちょっと、堅い話になってしまいました。ただ、このような話題を追いかけていくと、魑魅魍魎の世界に入って行きそうで、根拠のない怪しげなはなしにならないように、アンカーを下しておいた方がいいかな、と思った次第です。

DPM研究舎へ戻る

コメントを残す