“一気通貫生産方式”の論理性と実現性

一気通貫生産方式を“肯定的且つ公平に、そして、物理的論理性を重視して”みていこうと思います。先ず、生産に関する問題認識はどうなってんだろう、という視点からみてみましょう。

顧客要求の多様化、商品ライフサイクルの短縮などなどの市場環境の変化に対応するため、「多品種少量生産」に移行している。その中で、最も重要なポイントは、生産リードタイム短縮である。これが「一気通貫生産方式」の主要な狙いである。と、説明されています。

「一気通貫生産方式」の説明を読むと、良いことだらけ、誇大広告じゃないかと思うようないいことが多項目書いてありますが、いちいち取り上げても時間のムダ、ここでは、「生産リードタイム短縮」に絞って、検証してみたいと思います。

「一気通貫生産方式」はどのようにして生産リードタイムを短くするのか。説明によると、「停滞排除」と「情報制御」だ、と。

では、「停滞排除」からみていきましょうか。停滞をなくすためにどうするか。説明によれば、基準日程計画(基本計画、マスター計画)をきちんとつくることが重要だ、とのこと。各工程の通過時間を時間単位、分単位レベルで規定し、工程内、工程間の停滞時間が最小になるように規定するんだ、そうです。これが、生産計画立案の基本であり、「一気通貫生産方式」では最も重要な基準のひとつで、このレベル(時間、分単位)の管理ができないと生産リードタイムの短縮はできない、とも書いてあります。

この考え方は「スケジューリング基準」ですね。工程ごとに、何を、いつからいつまで、どんな処理をするかのスケジュールに従って作業を行わなければならない、というやつです。停滞を極力排除して詳細なスケジュールをつくる、というわけですが、似たような話、どこかで聞いたことありませんか? そうそう、少し前にお話ししたAPS(Advanced Planning and Scheduling;先進的スケジューリング)ですよ。

目まぐるしく変化する市場環境に対応するために、APSは、
・詳細なスケジューリング
・情報交換の標準化
を中心課題に挙げていました。「一気通貫生産方式」は生産リードタイムを最短にするために停滞時間最短の“詳細なスケジューリング”を立て、「情報制御」を行うのだ、と、、。似てるでしょ。

生産管理の世界は、「スケジュール基準」が正当でこれ以外は邪道である、というのが常識のようですね。「生産スケジュールなくして正しい生産管理を行うことはできるのか?」って問い詰められると、うまく反論できない。それほど「スケジュール基準」は揺るぎのない生産管理の基本中の基本、そんな認識が支配しているように思います。

しかし、です。考えてみてください。生産スケジューリングができてないから生産管理はうまくいかない、とは言うけれど、肝心の生産スケジューリングがうまくつくれないんです。だから、生産管理がうまくいかない。話がややこしくなるのは、生産管理がうまくいっていないから生産スケジューリングができないのだ、とのたまう御仁もいるんですよ。いや、結構いますよ。標準化ができていない、平準化ができていない、5Sができていない、、、だから生産スケジュールをつくってもその通り生産は進まない、、。生産スケジュール通りものができなければ生産スケジュールそのものの存在価値がなくなります。こんな状態になると、生産管理・現場管理がダメだから生産スケジューリングはできないのだ、となるわけです。

課題は「実行可能なスケジューリング」はできるのかどうか。

結論は簡単です。実行可能な詳細スケジューリングは、限られた条件下でのみ可能です。その条件とは、前にも触れましたが、再掲しますと
*見込生産
*ある期間の生産計画固定
*スケジューリング時の生産条件と実行時のそれとの乖離がない(極小である)こと
というようなことではないでしょうか。で、一般の生産環境ではこのような条件にはないところが圧倒的に多い、、。みなさんのところはどうでしょうか。

「詳細スケジューリング」→「停滞排除」→「生産リードタイムの短縮」のシナリオ。多品種少量生産環境では、初めの「詳細スケジューリング」ができないとなれば、それ以降は実現しませんね。このシナリオって、うまくいかないことは、APSで実証済み、じゃないでしょうか。

「情報制御」については、情報のタイミング設計とかパターン化、層流化など、言葉の工夫は感じられますが、中身は特に新しいものは見当りません。

「詳細スケジューリング」→「停滞排除」→「生産リードタイムの短縮」のシナリオが実現するのかどうか、実現するとしたらどのような仕組みで、その原理は、、、と「一気通貫生産方式」の関連情報を探し回りましたが、何も見つかりません。そこが最も重要なところなんですが、、。

最も重要な部分とは、、、生産ラインの基本特性を理解しているかどうか。生産ラインの特性は物理現象ですので、普遍性があります。生産方式は、どのような方式であっても、生産ラインの特性に逆らうことはできません。ですから、生産方式の良し悪し、実行可能性等を評価するとき、最も正確で公平に判断できるのは、生産ラインの特性をベースに評価すればいいわけです。そういう基準で「一気通貫生産方式」をみれば、その論理性、実現性、実行可能性等が浮き彫りになってくるわけですが、、。。

生産ラインの基本特性については、こちらをご参照頂ければと思いますが、
http://www.tocken.com/seisanrain.html
ポイントは、稼働率と停滞時間(待ち時間)の関係です。待ち時間には2種類ありまして、ひとつは、工程(設備、作業員)がビジーで処理物が待っている時間、もうひとつは、処理物の到着を工程が手空きの状態で待っている時間。この時間は、次のように、
(稼働可能時間-手空き時間)/稼働可能時間=稼働率
稼働率で表されることが多いと思います。

つまり、稼働率と停滞時間の関係とは、工程の待ち時間と処理物の待ち時間との関係ということもできます。この関係は到着時間や処理時間に変動がない場合は単純なのですが、変動があると、途端にややこしくなります。稼働率が高くなるにつれて(70%~80%ぐらいから)停滞時間がスキージャンプ台のように長くなります。変動は、工場内で管理できる項目もありますが、注文の受注間隔のバラツキ、仕様の多様化など外部からくるものもあります。
これらのすべての変動が生産ラインの変動要因となります。外部からの変動は防ぎようがありませんし、そちらの要因の方が多いのが一般的です。

「一気通貫生産方式」の説明には、生産ラインの最も重要な稼働率と停滞時間の特性について、まったく触れられていないんです。「多品種少量生産」を目指しておきながら、この特性に言及せずして、「停滞排除」とか「情報制御」とか言っているわけですので、ちりばめられた美辞麗句は「絵空事」。論理性も実現性も実行可能性も、どこを探してもなくて当然。まぁ、一時的な夢をみさせる効用はあるかなぁ、、。

「一気通貫生産方式」で「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」が解決した、という、どこからともなく聞こえてきた噂に反応して、もしや、と思って、そしてかすかな期待をもって「一気通貫生産方式」を見直してみました。

「やっぱり何もなかった」

という結論でした。

DPM研究舎へ戻る

コメントを残す