次代の生産管理の課題は「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」だ!

MRP-IIが計画変更に長い時間を要していたのを解決したのがAPS(先進的スケジューリング)でした。それにより、APSは次代のスケジューラーだ、との期待が膨らみました。日本でも、2001年7月にAPSを推進するためPSLXコンソーシアムが設立され、導入、普及が推進されております。あれから十数年、APSはどうなったのか、聞いてみたんですが、何の進歩もなし。これが前回のなはし。

APSがMRP-IIの問題を解決したポイントは何だったのか。たぶん、固定されたタイムバケットをそれぞれのジョッブに実際かかるであろう時間を割り当ててスケジューリングしたことが大きいんじゃないかと思うんですが、、。それで時間割り当ての自由度が増し、計画が収束しやすくなった、、。

MRP-IIの問題を解決したAPSの次のステップとして目指した目標は、詳細なスケジューリング技術を核とする情報交換の標準化だったようです。それは2001年に設立されたPSLXコンソーシアムの設立趣意書からみて取れます。

与えられた仕事を生産システムの諸資源に割り付けることがスケジューリングです。それは最適で詳細であることが望まれるわけです。が、そのスケジュール通り実行できるか、つまり、実行可能性はどうか。実行可能性が低いスケジュールではスケジュールの意味はありませんよね。

詳細スケジュールが実行可能であるための条件に付いて、ちょっと、考えてみましょう。細かなことを言えばきりはありませんので、主要な2つを挙げます。ひとつ目は生産能力が確保されていること。当たり前と言えば、当たり前ですが、議論が発散しないようにお断わりの意味で挙げておきます。ふたつ目は、こちらが主ですが、生産条件が決まっていて固定されていること。生産条件の中身は工程(諸資源)ごとの製造条件とか工程の順序とか、最終成果物をつくるためのすべての条件です。何をいくつつくるか、各工程の所要時間も決まっていて固定です。

生産条件が決まって、固定されれば、最適な流し方を探すことになります。これは、実は、簡単なことではありません。最適なスケジュールをつくるためには、生産計画にあるすべての製品、すべての工程の着工順序の組み合わせをチェックし、最適解を見つける必要があります。そうなると、天文学的組み合わせを調べなければなりません。コンピュータの計算スピードが速くなっても全然追い付かない。それに、最適とは? 一般的には処理時間が最短ということかもしれませんが、完成数量、納期遵守率、原価、、など、いろいろあって、職務担当によって最適項目が異なったりすると、どの項目の最適を選べばいいか、まとまりが付きません。最適というよりは、“よりましな”スケジューリングとでも解しておきましょう。であれば、よりましな「詳細スケジュール」はできそうです。

次に実行可能かどうか。スケジューリングした時の条件に変動があってはスケジューリング通り実行することはできません。変動はゼロでなくてもかまいませんが、許容範囲は限られています。ここでは簡単に、変動はなし、としておきます。

つまり、ふたつ目の条件、計画時の生産条件固定と実行時の条件変動なし、が重要ではないか、と。これが「詳細スケジュール」がスケジュールとして意味を持つ条件です。具体的な例で言えば、トヨタ生産方式ではないでしょうか。生産の平準化、ムダの排除、作業の標準化などで計画時と実行時の乖離を防いでいる。トヨタ生産方式では、組み合わせの最適化と変動の抑制を同時に行っている、とみることもできます。

では一般的な生産環境ではどうでしょうか。当初立てた計画が進行中に新しい注文が入って計画を変更せざるを得なくなることもあれば、工程の処理時間、部品の到着の遅れ、機械設備の不調など、など、生産現場では様々な変動要因があります。スケジューリングした時の標準時間通りの時間で実行するためには様々な変動要因を、狭いバラツキ範囲内に収まるように管理しなければなりません。これは、並大抵のことではありません。現実的な妥協としては、余裕を入れることになりますが、それは生産性を低下させることになりますので、限度があります。そんな工場が圧倒的に多いのではないでしょうか。

さらに、受注生産の場合を考えてみますと、、。受注生産は受注確定後に生産活動を開始します。ということは、受注前には見込計画はあっても生産を指図するスケジュールをつくることはできません。来るか来ないかわからない注文のスケジュールなんて、スケジュールの意味がありません。つまり、受注生産環境では、「詳細スケジューリング」は意味をなさないことになります。

まとめてみましょう。「詳細スケジューリング」が可能な条件とは、
*見込生産
*ある期間の生産計画固定
*スケジューリング時の生産条件と実行時のそれとの乖離がない(極小である)こと
これらの条件から外れるに従い、「詳細スケジューリング」の実行可能性は低下します。受注生産環境では、スケジューリング時の生産条件と実行時の条件はさらに乖離しますので、「詳細スケジューリング」ほとんど機能しない、と言えるのではないでしょうか。

西岡靖之著、「APS 副題;先進的スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!」をもう一度みてみましょう。

<抜粋>
(p68)変化する市場環境、変化する生産現場、変化するさまざまな技術、これらの変化に追随していくためにはどうすればいいか、この答えは、変化に対応可能な生産の仕組みをつくり、変化が起こるつど、計画を常につくり直して対応する俊敏な生産形態をつくりあげることになる。

(p70~71)このような要求を満たしつつ、ローリング計画をより実践的なものにするためには、やはりAPSによる詳細なスケジューリングが必要となってくる。

(p89)スケジューラーを用いることで、生産設備ごと、作業者ごと、作業やオーダーごとの詳細な開始、終了時刻が計算できるようになったからである。スケジューラーを利用して、直接それらの詳細な作業指示を発行することもできれば、将来の生産現場の状況を詳細にシミュレーションし、必要な対策を事前にとることも可能になったのである。

「詳細スケジューリング」が機能しない条件が満載。APSは初めから、基本的かつ致命的な“錯覚”、“誤認”があった、のでは?。PSLXコンソーシアムでは、未だに「詳細スケジューリング」を中核に置いたまま。質問しても、あきれるほどお粗末な返答が返ってくるだけです。十数年経過しても、めぼしき成果はなにもなし。根本的な見直しが必要な時期だと思うんですが、、。

「批判だけなら誰でもできる」と言われそうなので、「詳細スケジューリング」が機能しない条件での、例えば受注生産環境での解決の方向性らしきものを、少々、考えてみましょう。

見込生産の場合は、生産者側で生産計画を作成します。もちろん市場の需要を見込んで、ですが、基本的には、生産者の責任で生産計画をつくり、それを基に生産スケジュールをつくります。受注生産の場合は、受注決定前にはスケジューリングができません。まったくできない、ということではないかもしれません。部分的にはできるところもあるでしょう。しかし、ここでは、基本的なメカニズムを検討しますので、受注決定前にはスケジューリングはできない、として話を進めます。

受注生産環境でのスケジューリングは、受注決定後に既存のスケジュールに追加することになります。受注があるごとにスケジュールが追加されますのでスケジュールが流動的で、固定されません。としますと、平準化もできなければ最適組合せもできません。さらには、生産条件もバラツキますし、作業のバラツキも大きくなりがちです。固定時間で割り付けるようなスケジューリングはできません。ではどうすればいいか。ここでは、解決の方向性として、どのような問題領域か、を考えてみます。

先ず一つ目は「受注順生産問題」とでもしておきましょうか。これまでのような固定された生産計画・スケジュールはありません。舞い込む受注ごとに先行する生産スケジュールに追加されますので、スケジュールは常に流動することになります。このような生産でも、顧客要求納期に合わせて完成させるためには、どのような生産方法、生産管理方法が良いのか、これが課題です。

もうひとつは「処理時間変動問題」。生産条件のバラツキによる処理時間の変動を受け入れ、変動がある条件下で生産性を維持しながら、顧客要求納期に間に合わせるための生産方法はどうあるべきか、を追求する課題領域です。

この2つの課題領域は、これまでは、従来の生産計画・生産スケジュールを基本とした生産管理論の枠で捉え、解決策が模索されてきました。しかし、生産計画・生産スケジュールを基本とした生産管理の完成形が「詳細スケジューリング」だとする方向性は、様々な変動や受注生産という現実の生産環境に対応するには基本的且つ致命的な欠陥があることが明らかになった今、新たな方向性を模索する必要があるのではないか、と。

で、次代の生産管理では、「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」は避けて通れない課題なのだと思います。従来の生産計画・生産スケジュールを基本とした生産管理論がダメだと言っているのではありません。変動を許さない理論で変動する事象を捉えることができるか、という問題提起なんです。“変動を許容する生産管理論”も必要なのではないでしょうか。

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