先進的スケジューリング(APS)は何をめざしているのか

工場改善小説「The Goal」の発行は1984年。その邦訳版が出たのが2001年5月。TOCブームが起きました。私がTOC(制約理論)を耳にするようになったのは1990年代半ばで、当時、工場でJITベースの改善活動に取り組んでいた頃です。JITって、最初は在庫削減、生産リードタイム短縮など、結果は出るんですが、1~2年で効果が出なくなって、その後は、がんばるぞ、がんばるぞって、ダラダラと、、。

そんな時だったんで、TOCの生産方式DBR(ドラム・バッファー・ロープ)に飛びつきました。創始者のゴールドラットが物理学者だ、っていうことも、期待を膨らました要因のひとつです。背後に、しっかりした理論があるのではないか、とね。

少し歴史を遡ってみましょう。生産計画で重要な要素は資材と生産能力です。1960年代、資材の所要量を計算するMRP(Material Requirements Planning)が現れました。資材の所要量だけでは生産計画は立てられません。1980年代に入り、MRPの資材所要量計画に、要員、設備、資金など製造に関連するすべての要素を統合して計画・管理するMRP-II(Manufacturing Resource Planning)が加わります。

これで、生産計画を自由自在につくることができるようになったか、というとそうではありません。負荷が100%を超えないように日程を調整し、最適なスケジュールをつくらなければなりませんが、このようなスケジューリングは規模に対して指数関数的に計算量が増えてしまいます。生産計画にあるすべての製品、すべての工程の着工順序の組み合わせをチェックし、最適解を見つけるためには天文学的組み合わせを調べなければなりません。いくらコンピュータが高速になったといっても、何年も、何十年もかかったのでは意味がありません。

1990年代に入ると、このような問題を解決するブレークスルー的なソフトウエアが出てきます。それらはAPS(Advanced Planning and Scheduling)と呼ばれるようになりました。
客の注文が変更された時、これまでのMRP-IIでは翌日にならないと分からなかったのが、数分で回答が出るようになりました。

APSに大きな影響を及ぼしたのがDBRです。生産ラインの能力はボトルネック工程で決まる。だったら、ボトルネック工程だけをスケジューリングすればいいではないか。ボトルネック工程が遊ばないように、前もって投入し、その他の工程はロードランナー方式で流す。ボトルネック工程のスケジューリングには、タイムバケットではなく、それぞれの作業時間に合わせた時間を設定する。

そして2001年5月、「The Goal」が日本で発売され、2001年7月にAPSを推進するためPSLXコンソーシアムが日本で設立されました。

その後、DBRはどのような経過をたどって今日に至っているのか。実は、DBRは、実行可能なスケジューリングの作成という課題を達成することはできませんでした。理由は、当初、ボトルネック工程だけをスケジューリングすればよいはずだったのですが、適用範囲を広げていくと、CCRバッファー(ボトルネックバッファー)の他に、組立バッファー、出荷バッファーも必要だ、となりました。つまり、ボトルネック工程だけではなく、部品が集まる組立工程や出荷納期を守る最終工程のスケジューリングも必要だ、となってきました。ボトルネック工程も実は、1カ所ではなくて、数カ所、そして、動き回る。組立バッファーも数カ所。簡単な生産ラインならいいんですが、一般の生産ラインでは実行可能な生産スケジューリングは立てられなくなってしまいました。

で、苦肉の策。CCRバッファーも組立バッファーもやめちゃって、出荷バッファーだけにしちゃうんです。納期から生産リードタイム分遡って投入計画をつくるだけ。これなら、簡単。実行可能な計画(スケジュール)ができます。これがS-DBR(Simplified DBR)で、今は、ほとんどがS-DBRになっているのではないでしょうか。

一方、APSはどんな具合なんでしょうか。APSに対する当時(2001年頃)の期待みたいなものを次の著書にみることができます。

題名;APS 副題;先進的スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!
著者;西岡靖之
発行所;日本プラントメインテナンス協会
発行日;2001年12月7日

<抜粋>
変化する市場環境、変化する生産現場、変化するさまざまな技術、これらの変化に追随していくためにはどうすればいいか、この答えは、変化に対応可能な生産の仕組みをつくり、変化が起こるつど、計画を常につくり直して対応する俊敏な生産形態をつくりあげることになる。(p68)

このような要求を満たしつつ、ローリング計画をより実践的なものにするためには。やはりAPSによる詳細なスケジューリングが必要となってくる。(p70~71)

スケジューラーを用いることで、生産設備ごと、作業者ごと、作業やオーダーごとの詳細な開始、終了時刻が計算できるようになったからである。スケジューラーを利用して、直接それらの詳細な作業指示を発行することもできれば、将来の生産現場の状況を詳細にシミュレーションし、必要な対策を事前にとることも可能になったのである。(p89)

そして、2001年7月にPSLXコンソーシアムが設立された、とのこと。設立趣意書にあるコンソーシアムの目的をみると、
①製造IT産業の創出
②生産計画・スケジューリング技術を核とした企業内、企業間のアプリケーション連携のためのインフラ整備
③生産スケジューラなどのAPS関連ソフトがインターネット上で情報交換可能なXMLベースの共通仕様策定
となっています。

APSのポイントは、その名が示す通り、目まぐるしく変化する市場環境に対応するため、
・詳細なスケジューリング
・情報交換の標準化
にあるようです。

で、このAPS、今はどうなってんでしょうね。APSという言葉を検索してみますと、生産スケジューラーのベンダーの間で使われているようです。詳細なスケジューリングって、生産スケジューラーには最も欲しい機能じゃないでしょうか。APSは「詳細なスケジューリングができる」っていう印象はありますね。だから生産スケジューラーベンダーも好んで使うのかもしれません。

ここで、DBRとAPSを比べてみると、おもしろいことがみえてきます。キーワードは、
DBR;出荷バッファー以外のスケジューリングの廃止
APS;詳細なスケジューリング
です。つまり、DBRでは、一旦は、ボトルネック工程だけスケジューリングすればよい、ということだったのが、結局、うまくいかず、スケジューリングポイントを投入と完成だけにして、なんとか、実行可能なスケジューリングができるようにしました。一方、APSは、いまだに、「全工程の詳細なスケジューリング」を目標にしているんですね。APSが、初めは、DBRの影響を受けていたんですが、そのうち、独り歩きして、現在も「全工程の詳細なスケジューリング」を目標にしている。DBRがS-DBRに進化したことは、まったく無視しているようです。

とはいうものの、あれから十数年、もしかすると、突然変異的ブレークスルーがあって、「全工程の詳細なスケジューリング」の実現の目鼻がついているのではないか、というかすかな期待を込めて、「NPO法人ものづくりAPS推進機構」に問い合わせてみました。

こんな答えが返ってきました。
「多くのAPSでは、そのネックになっている工程の性能を最大にするスケジュールを設定し、それに他の工程を同期させるようなスケジューリングを行っているようです。(ボトルネック指向スケジューリング;ボトルネックの最適スケジュールをまず決め、次に上流工程、下流工程に対し、それぞれバックワードスケジューリング、フォワードスケジューリングを適用)

なお、ボトルネック 工程 を、さまざな 外乱から守るためには、 制約の理論( TOC)によるタイムバッファが有効とされています。これらを含め、問題の捉え方(モデリング)や、解決の考え方は、それぞれのAPSベンダーさんの独自の工夫がなされているようです。」

なんじゃ、こりゃ! DBRの経験も反映されていないんです。「全工程の詳細なスケジューリング」どころか、時代の進歩にも追い付いていない。どこがAdvanced Planning and Schedulingですか、と言いたくなりますね。APSに期待するものは何もなし、という結論に達するわけです。

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