適正在庫論にだまされるな!

在庫管理と言えば、「適正在庫」。欠品と過剰在庫に悩む在庫管理者にとってはお馴染みの言葉ではないかと思います。表現はいろいろあるようですが、「欠品を防止(欠品率をある値以下にするという意味を含んでいます。以降同じ。)ししつつ保持する最少在庫」、といった意味のようで、その平均をいうようです。で、式であらわすと、

適正在庫=サイクル在庫+安全在庫

だと、説明されています。

在庫管理とは、言ってみれば、適正在庫を実現するための管理方法。だとすれば、適正在庫論は在庫管理のコアの部分です。逆に言えば、適正在庫論をみれば在庫管理がわかる、ということ、ですかね。

で、この適正在庫とやらを、鑑識! その前に、ひとつ、確認しておくことがあります。適正在庫とは、在庫管理場所(倉庫、仕掛置き場、小売店、、)に存在する実在庫を指しているようなんです。そこに在庫がなければ出荷できずに欠品となる、ということは、実在庫を指していますよね。

時間軸上でも確認しておきます。過去の実在庫はそのものですが、未来の実在庫は、在庫があるわけではないので、予測実在庫ですね。

実在庫は入庫、出庫のたびに増減しますので、その都度在庫数量を記録して、ある期間で平均値を出すわけですが、実務的には日ごととか週ごと、月ごとに在庫数量を記録することになります。入出庫ごと、日ごと、週ごと、月ごとと記録条件が違えば、算出される平均値も異なりますが、まぁ、こんなのは、些細なこと。

もっと重要な点を、少し、詳しくみてみます。おなじみの発注点発注方式を例に。発注点の式は次のように説明されています。

発注点=納入リードタイム間の平均需要+安全在庫

安全在庫は、
安全在庫=(単位時間での需要量の標準偏差)x安全係数x√納入リードタイム

適正在庫と同じような言葉ですが、理想在庫っていうのがあります。適正在庫とおんなじ式で表されていますが、より具体的に、次の式で説明されています。

適正在庫(理想在庫)=(発注量/2)+安全在庫

発注量は、EOQ(経済的発注量)っていうのがありますが、最近はあまりはやらないようです。じゃ、どうやって発注量を決めるか。取引条件だとか、在庫スペースとか、発注作業だとか、が関係してくると思うんですが、はっきりしてないんです。これまでの惰性で、なんとなく、ということもあるかもしれません。根拠が曖昧。ということは、適正在庫もはっきりしない? 適正在庫、適正在庫って、言っておきながら、、適正かどうかの根拠が不明。

発注点の式と適正在庫の式を眺めて、変だな、と思うところがもうひとつ。発注点と発注量の関係についての記述がない。これって、すごく大事なことじゃないかと思うんですけどね。すぐわかることですが、発注量を発注点以下にすると、在庫補充されても発注点を超えませんので、その後の発注は行われないことになってしまいます。在庫補充が機能しない。こんなことについても、説明はどこにもない。

発注点方式では納入リードタイムが長くなると、発注点が上がってきます。発注点が上がれば、前記した理由で、発注量も多くなる。そうすると適正在庫ものこぎりの歯のように上下して、多くなる。何とか、発注量を減らそうと工夫するわけですが、例えば、補充発注して入庫されるまでの間に、その前に補充発注した分が入庫されるようにする。発注残が納入リードタイムをまたぐようになり、発注点よりも少ない発注量で回るようになります。

こうなると、欠品しない条件が実在庫だけではだめで、発注残も含んでおく必要がでてくるわけです。こういうことも、どこにも書いてありません。

適正在庫とは、理想的な在庫であって、在庫管理は適正在庫を目指す、わけです。が、適正在庫論とは、実に、いい加減というか、お粗末ですね。ところどころ部分的に正しいところもあり、まったくデタラメでもないところが、悩ましいところで、だまされる人も多いんじゃないでしょうか。

じゃ、正解は? 正しい在庫理論の基本は、「かんばん方式」にあります。欠品を防止するためには、適切なかんばん枚数を設定する。このかんばん枚数が適正在庫に相当します。部品を使う場所でかんばんとともにある現物が実在庫、その他のかんばんは発注残や発注待ちとなります。適正在庫論は実在庫だけに注目しているようで、実在庫の量をみているだけでは欠品は防げないんですね。実在庫、発注残、発注待ちを包括してみなければならないんです。かんばん方式がすぐれている理由は、在庫補充の理屈にちゃんと合っているからなんです。

かんばん方式がいいのはわかっているが、平準化だ、変動は3%以内だ、とか、条件がうるさい、と嘆かれている方も多いと思います。しかし、理論に合っているかんばん方式が、平準化だ、変動が3%以内だ、という理由で使えない、というのは、逆に、理屈に合わないわけです。

平準化や変動が大きいことは、かんばん方式の論理性を崩すことにはなりません。変動が大きくても、かんばん方式は立派に成立します。なぜ、かんばん方式が、バラツキの大きい一般の在庫管理に使えないかというと、バラツキをうまく処理できていないからだと思います。つまり、
*かんばん枚数の変動
*収容数(かんばん1枚の数量)の変動
*補充時間(かんばんがはずれて、部品とともに戻ってくる時間)の変動
を許容すればいいわけです。

「そんなこと、簡単にできんの?」

えぇ、簡単にできるんです。