日産は本気で、100%受注生産をめざしているのか

トヨタ生産方式(以下TPS)ばっかし、取り上げているので、今回は日産生産方式をまな板の上に。

もう20年も前のことです。こんなニュースを目にしました。
“日産は、1997年5月に100%受注生産を目指す受注生産型『同期生産』;NPW(Nissan Production Way)を発表した。”

当時、日産は経営状態がよくありませんでした。純利益は赤字基調。この発表は経営改善の一環だったんでしょう。で、効果は? ぜんぜん出ませんでした。業績は悪化の一途。結局、ルノーとの資本提携、カルロス・ゴーンの登場となるわけです。1999年3月のことです。同年度の純利益は6,840億円の純損失。しかし、その後、見事に復活を果たすわけです。ご承知の通り。最近は、「日産って、つぶれそうになったことがるの?」と、知らない人も多く、過去のはなしになってしまいましたが。

1997年5月言えば、業績悪化に喘いでる最中のこと。何とかしなくちゃ、との思いが強かったんでしょうね。「100%受注生産、同期生産」。現実離れし過ぎたスローガンに違和感を覚えまた。車の生産って、見込生産じゃないの、と思っていましたので。

そういえば、私事で恐縮ですが、初めてのマイカーは日産のチェリー。FFで4輪独立懸架。当時としては進んだ車でした。その後はカリーナ、クレスタとトヨタ社を乗り継ぎましたが、ブルーバードSSS、スカイライン、ローレルなどトヨタ車との差は紙一重。デザインのトヨタ、技術の日産という感じかな。拮抗してました。

バブル崩壊後、日産は元気がなくなりました。私の印象を決定的にダメにしたのが、「100%受注生産、同期生産」のNPW宣言でした。一瞬、量産はやめて、1台々々、受注生産するのかな、と思いましたが、そうでないことはすぐにわかりました。量産車を100%受注生産するっていうんです。日産がなんでこんな“嘘”をつくのか。これ以降、日産車が買い替え車の候補に上ることはなくなりました。嘘をつく日産の車に乗る気分にはなれなかったんです。

日産の幹部がまじめに「100%受注生産」の実現をとうとうと語っていたのを覚えています。「単なるキャンペーンのお題目だよ」と流せばいいのかもしれませんが、生産管理への関心が強かった私にはそうはいきませんでした。実は他にも似たような言葉が。
「垂直立ち上げ」
「在庫ゼロ生産」
「売れた分だけつくる;1台売れたら1台ライン投入」

このような言葉は、日産とは関係ありません。巷で聞かれた言葉ですが、この並びに「多品種少量一気通貫生産方式」「日産100%受注生産・同期生産」があるわけです。このような表現がまかり通る時代だといえばそれまでなんですが、どれも誤解を招く過大表示、、いやいや、ほとんど実現不可能で、フィクションじゃないの? と。

振り返ってみれば、1970、1980年代の右肩上がりの時代は、そんな表現が多かったように思います。そんな表現も問題にはならなかった。いやむしろ、成長ですべての問題が隠され、士気向上、場の盛り上がりなどプラスの効果に目がいったのかもしれません。

1990年代に入り、バブルがはじけても、スローガンの過大表示化は続きました。続いたというより、さらに、過激になったんじゃないかな。その象徴が「日産 100%受注生産・同期生産」だと、私には映るんです。

「NPWにおける生産システム再構築」という資料を見つけました。
http://www.sjac.or.jp/common/pdf/info/news103.pdf

この資料をみて、使う言葉は多少違うが、TPSの焼き直しとすぐにわかりました。工場管理 2011/12号にこんなくだりが。

[特集 日産「モノづくりの底力」に迫る]

生産システムを意識しだしたのはこのころで、実はJIT の導入からであった。JIT の導入により生産システムという概念に気付いたのであった。これがNPW を始めるの大きなきっかけになった。JIT の導入によって生産システムの構成要素である「モノと情報の流れ」を見える化する道具が開発され、これを活用して製品や部品の初工程から完成までの工程分析が行われるようになった。そこでわかったことは、「なんと工程がたくさんあることか」「そのうち、停滞や運搬が大多数でないか」…などである。そしてこの現状の生産プロセスをどのように変えていけば良いのかという検討が現場と技術スタッフの間で行なわれ、生産システムのめざす姿が描かれるようになった。

この記事を書いたのは、「NPWにおける生産システム再構築」と同じ、日産のNPW改善コンサルティング室 室長です。

JITはTPSとほとんど同意語。道理で、NPWには新しいものがないのかわかります。よく見るTPS導入秘話的な、三文レポートにしか見えません。もはや、NPWのスローガン「100%受注生産・同期生産」なんていう虚偽スローガンとは決別したのかな、と思いきや、、、。9ページ「受注-納車のパイプライン」という図があります。受注してから生産し、納車する、という受注生産の図が。そして「同期」という言葉がやたら、多い。こだわりすぎですよ。「品質の同期」「コストの同期」。この資料の日付が2012年8月となっていますから、NPW発表から15年経っても、嘘をつき続けている、、、。ちょっと、言い過ぎ?

実は、受注生産と見込生産とは、生産管理において、非常に、いや、極めて重要なんです。世の中では、正しく識別されてないようで、これが生産管理を“ぐちゃぐちゃ”にしている主要因のひとつです。決してややこしい話ではないんですが、ねぇー。

受注生産とは、誰(買い手)が、いつ(買う日)、何(仕様)を、いくつ(数量)買うかが決まってから、生産を開始する生産方法。客の仕様の製品が多い、多品種少量生産が多い、在庫が少ないとかは、そんな傾向があったとしても、本質的な条件ではありません。

見込生産とは、買い手が決まらないときに、作り手側が何を、いつまでに、いくつつくるかを決めて生産を開始する生産方法。少量多品種生産、汎用製品が多い、自社設計の製品が多いとかは、関係なし。

もうひとつ紛らわしさに拍車をかけているのは、受注生産品も見込生産品も「発注―受注」という商取引で売り買いしていることです。受注生産品も、もちろん、見込生産品も受注して出荷。これが、受注と見込の区別を曖昧にしているんじゃないかと。

受注生産と見込生産は、生産管理においては、明確に区別しておかなければならないんです。その区別は非常に重要なんです。受注生産は時間管理が主、見込生産は在庫(仕掛含む)が主。つまり、“時間”の管理と“もの”の管理の違いです。物理的に、“時間”と“もの”とは全く異なるでしょ。だから、管理方法もまったくと言っていいほど違うんです。でも共通するところは、もちろん、あるんですよ。

だから、NPWの「100%受注生産・同期生産」という表現は許せないんです。上記の資料をみても、それを実現する科学的根拠はどこにもなし。虚偽表現と言われて、反論できますか。

不確定要素を扱える生産理論はあるか

DBR(ドラム・バッファー・ロープ)を支える理論はありませんでした。というと、TPS(トヨタ生産方式)には理論はあるのか、と聞かれそうです。実は、TPSにはきちんとした理論があるんです。

1をみてください。P1~P1010工程直列ラインを例に、TPSの生産理論についておはなしします。TPSはバランスラインを目指します。理想的にはラインバランス100%。なので、P1P10の各工程の処理時間は全部同じ。生産ラインは各工程の処理時間(PT)と工程数(Np)で定義できるんです。

1  10工程直列生産ライン

PTNpで定義された生産ラインで重要な特性は何か? と聞くと、、。生産能力に工数、治工具、部品に工程仕掛、生産リードタイム、それから、、歩留まりに機械の故障、生産計画の変更、特急オーダーの飛び込み、、いやいやまだまだある、、。つぎからつぎと出てきます。が、本当に必要な特性項目は次の3つ。

①フロータイム(FT);投入から完成までの時間

②生産率(TH):単位時間当りの完成数

③工程仕掛(WIP

FTは次の式で求められます。 FT=PT x Np

THは次の式で求められます。 TH=1/PT

FTTHWIPの関係は次のようになります。 WIP=TH x FT

これだけ。簡単でしょ。ほんとかな、って疑ってますか? 数値を入れて確かめてみましょうか。

1工程の処理時間PT=10分、工程数Np=10 としてみます。投入はPTに合わせて10分ごとに1個投入することにします。FTTHWIPを計算してみます。

FT=10() x 10 = 100()

TH=1/10()

WIP=100() x 1/10()10()

生産率は10分間に1個、生産リードタイム100分、その時抱える工程仕掛は10個、ということになりますね。10分間に1個投入するということは、生産能力に対しては100%の負荷をかけている、ということになります。 

投入負荷率をρとすると、FTTHWIPは次のようになります。

FT=PT x Npt

TH=(1/PT) x ρ

WIP=TH x FT

ρ=50%とすると、次のようになります。

FT=10() x 10 = 100()

TH=1/10() x 50(%)=1/20()

WIP=100() x 1/20()5()

ρが100%以上ではどうでしょうか。この場合、投入口で待ち行列ができるだけで、これをWIPの増加ともみれますが、工程には入っていきませんので、投入が制限されるとみることもできます。ここでは後者の視点で捉え、上記の適用範囲をρ100% としておきます。

これって、理論というほどのものじゃありませんね。ちょっと考えればわかる、常識の範囲。これに、かんばん方式のかんばん枚数を計算する式を加えれば、TPSの理論武装は、まぁ充分でしょう。

平準化、バランスライン、ムダの排除、一個流し、標準作業、サイクルタイム、、、TPSで出てくる格言めいた言葉の数々は、どれも、この簡単な生産ラインの原理が働くようにしているのだ、とみると、TPSの理解も進むのではないかと思います。

現実には、変動がまったくない、なんていうことはありえません。TPSでは実用的な許容変動幅は3%以内、なんて言ってますが。それが5%になったからって、急にTPSが成り立たなくなるわけではありませんが、変動をありのまま受け入れるとなったら、それはダメ。変動が大きくなると、前記の簡単な生産ラインの基本式が成り立たなくなるんです。

一般の生産環境は、TPSが成り立つ場合よりも、成り立たないほど変動が大きい場合が圧倒的に多いんです。そのような環境にTPSを導入すると、全然ダメかというとそうでもなく、めちゃくちゃな生産ラインが多少はましになったり、の効果はあるわけです。が、トヨタを再現するほどうまくはいかないんですね。

変動を受け入れた生産理論を探し求めた背景は、TPSの限界に気付いたことでした。で、TOCDBR(ドラム・バッファー・ロープ)に興味を惹かれたわけです。約10年、TOCを研究してきましたが、生産理論らしきものは何も見つからなかったというわけです。

DBRだけじゃなくて、他の生産方式も調べてみました。一気通貫生産方式っていうの、ありますね。説明は次のようになっています。

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一気通貫生産方式とは、多品種少量生産の進展や商品ライフサイクルの短期化に伴い、短納期化のニーズが高まっている時代背景の中から生まれた生産方式である。初工程から最終工程まで停滞を排除し一気に生産を進めることから一気通貫生産方式と命名された。

==

「多品種少量生産の進展や商品ライフサイクルの短期化」はさまざまな変動を伴います。一方、「初工程から最終工程まで停滞を排除し一気に生産を進める」ためには変動を排除しなければなりません。この矛盾をどのように解消しているのか。背後に、変動を許容する生産理論があるのかな、という淡い期待をもって調べてみました。

やっぱ、何もありませんでした。当該会社にも問い合わせてみましたが、的外れな回答だけ。一気通貫生産とは、フィクションによってカモフラージュされた幻想である、と言ったらいいすぎかな。

生産スケジューラー。使っている方も多いんじゃないかと思います。効能書きをみますと、多品種少量生産に対応し、日程計画等の変更に柔軟に対応、、、といった説明が、どのソフトにもあります。不確定要素をどのように取り入れているのか、興味がありますよね。こちらの方は、論理ロジックを使ったコンピュータソフトですから、一気通貫生産のようなフィクションとは違って、ちゃんとした理論や方法があるんじゃないかな、と。

何社か、スケジューラーのメーカに聞いてみました。こんな質問で。

「納期を確率でだせますか?」

例えば、105日の納期なら70%の確率、107日なら95%の確率、というような。できる、と答えたところはどこもありませんでした。OKかダメかの答えしか出せないとのこと。

変動分を見込んで、加算する程度のことならどのスケジューラーもやっているようですが、不確定要素を入れたスケジューラーというのは、まだ世の中にはないようです。人工知能がもっと発達したら、出てくるのかなー。いやいや、その前に生産理論みたいなものがないと、プログラムの組みようがない、、のかも、、。

変動(不確定要素)を排除したTPSの生産理論は、常識で考えてもわかるほど、簡単ですが、不確定要素が入ってくると途端にむずかしくなる。コンピュータをもってしても、うまくいかない。まだ、発展途上にあるんですかね。

DBRを支える理論はあるのか

TPS(トヨタ生産方式)の失敗例が増えるに従い、TPSの限界が知られるようになってきました。バラツキ、変動を許容しないTPSは、変動が避けられない生産環境ではうまくいかないんですね。そんな時、出てきたのが、TOC(制約理論)のBDR(ドラム・バッファー・ロープ)。バラツキ、変動があってもいいよ。ボトルネックに集中して管理すればいいんだよってすごく簡単。

知りたかったのは、DBRを支える理論でした。バラツキ、変動を許容しながら、生産ラインをうまくコントロールする論理的根拠は何か? しかし、理論らしきものは何も見つかりませんでした。

DBRって、本当に機能するのか? 巷でも疑問の声が聞かれました。「多くの生産ラインは、ボトルネックは複数あり、しかも動き回る。どうするんだ?」

タイムバッファーも、入り口工程とボトルネック工程間だけではなく、流れが集中する工程には組立バッファー、出荷スケジュールを守るための出荷バッファーと3種類あって、ちょっと規模の大きな生産ラインでは、バッファーの数がたくさん出てきてしまう。タイムバッファーごとにスケジューリングをしなくちゃいけません。タイムバッファーの時間をどのように設定したらいいのか、バッファー間の整合性をどうとるのか、、、。ボトルネック工程だけスケジューリングすればいいよ、なんていう話ではなくなって、複雑怪奇なことになってきたんですね。

で、タイムバッファーを出荷バッファーだけにするS-DBR(Simplified DBR)が登場するわけです。DBRの簡易版なんですが、私の関心事は、根本問題が解決されたかどうか。

S-DBRでは「計画負荷」という考え方が出てきます。すでに投入済みのオーダーがどのくらいあって、ラインアウトまでどのくらいの時間がかかるのかを知り、出荷予定が守れるかどうかをみるわけです。計画負荷の算出基準は、ボトルネック工程の能力です。その能力で計画済みのオーダーは何日分あるか、これが計画負荷ですね。

ここで、前回指摘した、ボトルネック工程の稼働率(負荷率)と待ち時間の関係が考慮されているのかどうかがポイントになります。S-DBRの提唱者のエリ―・シュラ―ゲンハイムの著書を丹念に調べてみたんですが、稼働率と待ち時間については何も書いてありません。フロータイムの跳ね上り(稼働率が70%、80%と高くなると指数関数的にフロータイムが長くなる現象)についての言及がありますが、S-DBRには反映されていないようです。

ということで、S-DBRもやっぱし、ダメ。TOCでよく見かける5ステップ。
ステップ1;システムの制約条件を見つける
ステップ2;制約条件を徹底活用する
ステップ3;制約条件以外のすべてを制約条件に従属させる
ステップ4;制約条件の能力を高める
ステップ5;制約条件が解消されたら、最初のステップに戻る

これも、ほとんど、使いものにならないということですね。簡単に言えば、DBRは生産ラインの能力はボトルネック工程の能力で決まるという表面的な1現象から想起された方法論で、それを支える論理的根拠がないとなれば、DBR、S-SBRは、極めて限られた条件下では機能するかもしれないが、一般的な生産ラインの管理方法とはなりえないんじゃないでしょうか。

科学的、物理的根拠のないもっともらしい話は、世の中には、ごまんとあります。生産管理、在庫管理には、この手の話が多いように思います。