TPSとDBRの背後にある理論とは?

 

「生産管理が難しいのはなぜですか?」と聞くと、さまざまな応えが返ってきます。

・飛び込みで特急生産が入る

・生産計画がころころ変わる

・部品が予定通り納入されない

・急に作業員が休む

・機械の故障が多い

・注文のキャンセルがある

・途中で仕様が変更になる

・もともと無理な納期だ

・営業と生産管理の指示が異なる

・、、、、

他にもいっぱいあると思いますが、きりがないのでこのぐらいにして、、。どれもこれも、簡単には解決できないので、生真面目な性格の人はノイローゼになる人もいるとか。

問題の解決には、原因を突き止めることが重要である。これに異論を唱える人はいないと思いますが、原因って、簡単にみつかるもんですか? そうそう、それが難しいんですよね。でも、チャレンジしますよーっ! 無手勝流で。

最近、年のせいか、細かなことはどうでもよくて、物事を大雑把にみる癖が定着してきたようです。生産管理を難しくしている上記の原因らしきことがらを大雑把にみると、、、。大雑把にみてみえてくるのは、共通項ですね。

いろいろな共通項がありそうですが、私の直観で、「変動」ととらえてみました。で、

「生産管理を難しくしている原因は変動である」

という仮説を打ち立ててみようと思います。

この仮説を因果関係の成立条件側からみると、

「変動がなければ生産管理は簡単になる」

となります。

変動がないと、なぜ、生産管理は簡単になるのか? この問いに対する説明ができないとこの仮説は成立しないことになります。成立するかどうか、頭をひねってみます。と言っても、小生の地頭では何も出てきそうにはありませんので、先人の知恵に学ぶことにします。

トヨタ生産方式(以下TPSと略称)です。学ぶべき先人の知恵とは。標準化、サイクルタイム、平準化、バランスライン、ムダの排除、、これらは変動を小さくしているわけですね。それを可能にしているのは「生産計画の固定」。生産計画の固定は変動を小さくするうえで、最も重要なことではないかと思います。つまり、生産環境の変動をできるだけ小さくして、生産管理を容易にし、生産性を高める、これがTPS

生産ラインの特性というのは、変動がなければ、もともとすごく単純である、ということですね。生産管理の目的は必要なものを必要なときに必要な量だけつくることですが、そのコアの部分は生産ラインのコントロールです。主要な管理項目は、

①生産性;単位時間当たりの生産数量

②フロータイム;投入から完成までの時間(生産リードタイムと考えてもかまいません)

③設備や作業員の稼働率

④工程仕掛数量

です。この4項目、ご覧になってお判りのように、“あちらを立てればこちらが立たず”、の関係にあったりします。例えば、工程仕掛を減らそうとすると手空きが増えて生産性が低下してしまう、など。

でも、変動がないと、すごく簡単になるんですね。ここに10工程のバランスした直列の生産ラインがあるとします。各工程の処理時間は10分一定。10分間隔一定で投入すると、生産性は10分に1個、100分では10個、フロータイムは100分、稼働率は100%、工程仕掛は10個と簡単にわかります。生産ラインの生産能力を100%引き出し、且つ生産管理はすごく楽になります。これがTPSの狙いでもあるわけです。

変動があったらどうなるかについて、TPSは、“変動・バラツキはあってはならない”の一点張りで、“変動を小さくできないのは能力がないからだ”とさえ、平気でのたまうわけです。

中には生産現場の努力で小さくできる変動もありますが、主要な変動要因は外部にあり、社内ではどうしようもないものが大部分です。変動を小さくするすべがなく、TPSの許容範囲を超えている生産環境では、TPSは成り立たない。変動がある場合、生産ラインがどのようにふるまうのか、TPSは答えを持ち合わせていない。だから、変動のある生産環境を否定するわけですね。

変動があってもいいよ、という生産方式が登場しました。TOC(制約理論)が提唱するDBR(ドラム・バッファー・ロープ)です。ラインバランスはでこぼこだし、処理時間だってバラバラ。そのような生産ラインの能力はボトルネック工程の能力で決まる。だから、ボトルネック工程を100%稼働させることが、生産ラインの能力を引き出す最善の方法である、と。バンスラインなんか、成立しない、とまで言います。生産ラインの生産計画はボトルネック工程だけでいいよ。他の工程はロードランナー方式(ワークが来たら、処理し、直ちに次工程に渡す)。このように、生産ラインの管理は至極簡単、且つ生産ラインの能力を100%発揮する。しかも、ありのままの変動・バラツキを許容して。

TPSの限界を打ち破る画期的な生産方法だ、と一時騒がれました。日本でブームに拍車をかけたのは、工場改善小説「ザ・ゴール」の邦訳版発売。TOCの創始者、ゴールドラットは、DBRはトヨタ生産方式を超える、と豪語してました。

確かに、「生産管理を難しくしている原因は変動である」という仮説を打ち破りました。「変動があったって、生産管理は簡単で、生産性を最高のレベルに保つことができる」のだ、と。これは、私にとっては衝撃でしたね。TPSでは無能呼ばわりされていた変動のある生産環境での生産管理に答えを出したわけですから、、。

もう少し詳しくDBRをみてみましょう。DBRの最も中心的な課題は、ワークの到着間隔が変動し、ワークそれぞれの処理時間がバラツク時、ボトルネック工程を100%稼働させるためには、どうするか? です。DBRの説明では、投入口とボトルネック工程間に、もろもろのバラツキがあっても、ワークが流れ着く十分な時間(タイムバッファー)を設け、ボトルネック工程の稼働率が100%になるように計画する、となります。これで、先に挙げた生産ラインの管理項目はどうなるか、チェックしてみますと、

①生産性;生産ラインの能力を決めるボトルネック工程の能力を100%発揮

②フロータイム;投入~ボトルネックまでは必要最短のタイムバッファーを設定し、他の工程はロードランナー方式で流すので最短となる。

③稼働率;ボトルネック工程の稼働率は100%。他の工程の稼働率は無視。

④工程仕掛数量;ボトルネック工程の計画に対してタイムバッファーで早期投入を禁止し、不必要な工程仕掛の増加を防ぐ。

稼働率を100%に保ち、生産性を最大限発揮させ、フロータイム最短、工程仕掛最少、しかも変動をそのまま受け入れて。完璧ですね。ゴールドラットの高笑いが耳の奥に今でも残っています。

私が知りたかったのは、TOCの、あるいはDBRの背後にある基本理論。ゴールドラット主催の国際会議やセミナーに可能な限り参加しました。彼に直接質問をぶっつけました。側近のエリ―シュラ―ゲンハイムにも、そして、ゴールドラット・スクールの校長、オーデット・コーエンにもひざ詰めで、じっくりとTOCの背後にある理論を聞きただしました。

ゴールドラットが物理学者であるからには、生産性とフロータイム、稼働率、工程仕掛の相互関係を定量的に記述できる数式モデルを持っているはずだ、と期待していました。しかし誰に聞いてもわからない、という答しか返ってきません。ゴールドラットに聞けば、タイムバッファーは現状の半分、というだけ。少しずつあやしくなってきました。やがて、熱狂的なゴールドラットの講演の雰囲気と中身のない理論が重なり、オカルト的な雰囲気も感じるようになっていました。

BDRを支える理論とは、

・生産ラインの能力はボトルネック工程の能力で決まる

・ボトルネック工程を100%稼働させる(計画する)

・投入口とボトルネック工程間にタイムバッファーを設ける

・ボトルネック工程以外はロードランナー方式で流す

ということで、これは、理論というより方法論だ、ということですね。それを支える理論はなし。期待した生産理論は、結局、見つかりませんでした。

「いったいどんな理論を探しているんだ?」といぶかることと思います。実は、その当時は、私にもはっきりとはわかっていなかったんです。その後、2冊の本に出合いました。

FACTORY PHYSICS Wallen J. Hopp, Mark L.Spearman共著 

STOCHASTIC MODELS OF MANUFACTURING SYSTEMS

    John A.Buzacott, J.George Shanthikumar共著

前者は生産ラインの特性を物理現象としてとらえたもの、後者は待ち行列理論を使って生産ラインの特性を記述したものです。これらの書の知識を借りて、DBRの論理性の欠如の一端を紹介してみます。

変動がある場合、生産ラインの特性はどうなるか。待ち行列理論によれば、ボトルネック工程の稼働率が70%80%90%と高くなるにつれて、ボトルネック工程前で待つ時間は、スキージャンプ台を上るような指数関数的なカーブで長くなることが示されます。タイムバッファーは投入口からボトルネック工程に到達するまでの時間とボトルネック工程前で待つ時間の合計です。ボトルネック工程の稼働率を100%にするためには、場合によっては(バラツキが大きいと)、とてつもなく長いタイムバッファーを設定しなければならなくなります。

TOCは流れを重視します。流れの良し悪しは生産リードタイムの長さで評価できます。ボトルネック工程の稼働率を100%にすることは生産リードタイムを無管理状態のまま、成り行きに任せることになるわけです。これでは管理になりません。需要環境に合わせて最適な生産リードタイムと稼働率を狙いに、生産ラインの動作範囲をコントロールする必要があるわけで、そのためにはボトルネック工程の稼働率とその前で待つ時間の長さとの関係を記述する理論式が必要となります。これが私が探していたもので、TOCにはなかったのです。

 

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