PAGE TOP

No.87 安全在庫の計算;「出荷確率」を考慮するのはなぜ?

適正在庫を求めるとき、必ずと言っていいぐらい安全在庫を計算します。安全在庫をわざわざ計算しないで、分布形状から直接適正在庫を求めることもできますよ、というのが前回(No.86)の話し。で、安全在庫を計算するようになったのはなぜなのか、を探しながらググっていたら、https://www.sakata.co.jp/logistics-401/ で、 ちょっと、ひっかかってしまいました。その中に、安全在庫の設定について、次のような説明があります。

anzenzaiko_syukkakakuritu

図6 安全在庫の設定(出典:日通総研資料に筆者加筆)

「安全在庫」は、図6の計算式で求められるが、「出荷確率」という言葉がある。これは、他の在庫管理テキストには余り書かれていない考え方である。毎日(月)出荷が無いけれど、月(年)に何度か出荷があるという「間欠型需要」商品(次回以降で説明する「需要予測」における需要のパターンで、「こぶ型需要(間欠型需要)」)の場合に考慮する。 これを単純に平均値で計算して、定期発注方式の発注量を求めると、在庫量が過大になり勝ちとなる。そこで、毎日(月)出荷ではない商品の場合、出荷確率を考慮して在庫量を低減させるのである。 出荷確率については、のちほど「定量発注方式」や、次回以降の「在庫管理のための需要予測」のところでも出てくる。 この「出荷確率」の考え方は、ロジスティクス・レビュー誌の執筆者でもある山田健氏が、日通総研在職時代に提案され、在庫管理の専門家からも高く評価されている。

安全在庫の計算では出荷のブレ(バラツキ)は正規分布を前提にしていますが、出荷のない日もある間欠的な出荷パターンでは正規分布とはならず、そのような場合「出荷確率」で補正するといいですよ、という話ですね。

この計算方法、前々からそちらこちらで見かけておりまして、「ちょっと、変だなぁ~」と思ってました。どこから出てきたのか、そのうち調べてみようと、ほったらかしにしてました。上記の文中に、出所の手がかりになる情報(山田健氏、日通総研、、)がありましたので、調べてみることに。もしかすると、画期的な計算方法だったりするかもしれない、、という期待もあって、、。

メールを送ったら、早速、「適正在庫の考え方」と題する資料を送っていただきました。発注点在庫の求め方に注目して、要点を抜き出しますと、

発注点在庫=安全在庫+調達LT中の出荷量 (LT;リードタイム)

LT1 

LT2 

syuka 

「調達LT中の出荷量」も出荷確率を考慮しているようなので、どのように考慮されているのか、調べてみましょう。次のように解釈してみます。

LT4 

例えば、出荷があった日が10日、出荷可能日数は20日だとすれば、1項は出荷があった10日間の平均出荷量となりますが、3項と合わせると出荷のない日も含めた20日間の平均出荷量となり、次のようになります。

  調達LT中の出荷量の平均=平均出荷量×調達LT

言い方を変えれば調達LT中(出荷のない日も含めた総日数)の平均出荷量となります。出荷確率という項目は消えて、関係なくなります。ここに、間欠需要に対する考え方の“くせ”みたいなものがあるように感じられます。それは、「調達LT間の平均出荷量は出荷した日数で割る、つまり出荷日数が基準」で、それに出荷確率を掛けて調達LT中の平均出荷量にする、と考えていることです。

安全在庫はどうでしょうか。調達LTに(出荷日数/出荷可能日数)をかけるということは、、調達LTと出荷可能日数が同じだと考えれば、出荷日数となります。やはり「出荷日数」が基準だ、ということがわかります。調達LT中の出荷量は文字通り調達LTに変換されていますが、安全在庫は出荷日数での安全在庫となっているように思われます。

出荷量の平均は調達LT、安全在庫は出荷日数と異なった時間間隔で計算されていますが、これはなぜなんでしょうね。

その説明は、どこを探しても見つかりませんでした。直接の説明ではありませんが、「出荷確率」で補正する理由が、季刊輸送展望2002年春号79ページに次のように記されています。

・・・今度は輸送リードタイム(調達リードタイム;筆者加筆)中に、出荷が何回かかるかを求める必要がある。通常の教科書では、リードタイムの日数をかけることになっているが、この方法を実際に適用するには問題がある。毎日出荷のあるようなものならよいが、実際の製品はそうとは限らない。と問えば、生産財などでは、月に数回しかかからないものもある。このような製品に、例えばリードタイム日数である3をかけてしまったのでは、安全在庫が過剰になってしまう。  そこで(実出荷日数÷出荷可能日数)の値を乗じて、出荷がかかる平均回数を算出しておくわけである。

つまり、「安全在庫が過剰になってしまうので、出荷確率を乗じる」ということのようです。でも、、なんとなくわかったようで、きちんとはわからない、、。

*「リードタイムの日数をかけると安全在庫が過剰になる」理由は?
*「安全在庫が過剰」という判断基準は何か?
*平均出荷量は調達LT、安全在庫は出荷日数と別々の時間間隔を使うのはなぜか?
*「出荷日数」を基準とする理由は?
*実用での効果は?
*・・・

提案者の説明を聞けばすぐにわかるかと思ったのですが、疑問は深まるばかり。根っこは思ったより深いようです。もしかすると、疑問の裏に驚くような理論が隠されているかもしれない、、。という期待を込めて次回、さらに調べてみたいと思います。