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No.85 在庫管理;不定期不定量発注が基本

サプライチェーンの中の在庫は、出と入りで増減を繰り返します。その在庫量をできるだけ少なく保ちながら、サービス率を最大(欠品率を最小)にする。これが在庫管理のねらいですね。出てゆく方は、市場の需要変動によりバラツキますので、その変動は受け入れるしかありません。在庫管理の目的を達成するためには、需要変動に追従しながら、いつ、いくら在庫を補充すればいいのかが関心事となります。

一般的な在庫補充発注方式として、定期定量、定期不定量、不定期定量、不定期不定量の4つの方法が知られています。需要は変動することを前提にすれば、定期定量発注は×(バツ)。不定期不定量発注は△かな、最適だという人もいれば、行き当たりばったりだという人もいて評価が分かれているようです。実用的には、定期不定量発注と不定期定量発注の二つが良く利用されています。

今回は、このような巷の常識にチャレンジ。在庫補充に内在する基本的且つ普遍的なメカニズムを明らかにします。在庫管理のもやもやが“スッキリ”しますよ。

在庫補充のメカニズムって、すごく、簡単というか、単純というか、決して複雑ではありませんよね。在庫から出て行ったら、その分を補充する。これだけじゃないの、っていう感じです。

とは言っても、わかりにくいところがあるんですよ。その一つが、需要の変動。在庫から出ていく時刻と数量がランダムに変動しますよね。補充に要する時間も一定じゃありません。その他にも不良品があるとか、キャンセルがあるとか、引き当てられているとか、返品されるとか、、いろいろあります。ここでは、需要の変動に絞って、在庫補充の基本的なメカニズムを調べてみます。具体的な例で考えてみましょう。

小売店があります。ある商品に注目します。客が来てその商品を買います。次の客が来たのは2時間後、3番目の客が来たのはそれから30分後、、という具合に来客の時間間隔はバラバラです。また、1個買う客もいれば、3個、4個買う客もいます。商品棚には何個かの在庫があります。客が買うごとに在庫は減っていきますので、欠品のリスクが高くなってきます。在庫を補充しなければなりません。このような状況で、在庫を最少に保つためには、いつ、何個補充発注すればいいか。

補充発注してから在庫に補充されるのに要する時間は一定としましょう。

さて、いつ、何個補充発注すれば在庫を最少に保つことができるでしょうか?

一般的な発注方式をみてみましょう。

定期不定量発注では、例えば発注サイクル(発注間隔)が1週間として、毎週金曜日に発注するとします。土曜日に売れた分、日曜日に売れた分、月曜日に売れた分、、、をまとめて金曜日に補充発注する。そうしますと、土曜日に売れた分の補充は7日遅れて、日曜日に売れた分は6日遅れて、、、補充発注されます。遅れた日数分は在庫で賄わなければなりませんので、その分在庫は多くなってしまいます。

保持する在庫を少なくするためには、発注サイクルを短くすればいいわけです。発注サイクルを1週(7日)間から、5日、3日と短くすれば在庫は少なくなります。ではどれだけ短くできるのか、限界はどこでしょうか。

発注サイクルを1日としてみましょうか。例えば、午後の5時に発注するとしますと、前日の午後5時から当日の午後5時までに売れた分を発注する、ということになります。売れた時刻からの遅れ時間は1日以内となりますが、時間単位でみてみると、、。売れたタイミングが当日の午前9時に2個、午後1時に1個、午後3時に3個だとしたら、2個分は8時間、1個分は4時間、3個分は2時間の遅れが出ます。

このように、発注サイクルを短くしても、遅れ時間はゼロにはなりませんね。遅れ時間をゼロにするためには、、そうですね。

*売れたときに、売れた分だけ補充発注する

ということになります。

補充発注のタイミングは売れたときですから、発注間隔はバラバラで定まりません。不定期になりますね。発注量も売れた分ですから、これもバラバラ。不定量になりますね。つまり、不定期不定量発注ということになります。

在庫補充は定期不定量発注でもなく、不定期定量発注でもなく、不定期不定量発注が最善である、ということになります。

この話をすると、みなさん、驚きます。

「もっとも変化対応力に優れているのは不定期不定量発注だ、ということは聞いたことがあるよ。でも、実現するためには、全在庫拠点の出荷状況をリアルタイムで把握しないとダメじゃないの」

確かに、在庫管理の書には、
「不定期不定量発注を行うためには、膨大な出荷データ、在庫データをリアルタイムで集計し、発注タイミングと発注量を瞬時に計算する必要があるが、最近のIT技術、コンピュータの性能向上で可能となった」
といった説明があります。

ところが、ところが、、そんな大ごとではなくて、「売れたときに、売れた分だけ補充発注する」ことで、不定期不定量発注となるんです、って言ったって、誰も信用しないかぁ、、。発注タイミングと発注量を膨大なリアルタイム・データで瞬時に計算する方が正確である、と思う人が圧倒的に多いと思いますが、実際は違うんです。証明はそれほど難しくありませんので、いずれ、あらためて説明したいと思います。

話を進めます。

*売れたときに、売れた分だけ補充発注する

このメカニズム、在庫管理の基本原理的な普遍性があるのでしょうか。検討していきます。、先ず、在庫補充のメカニズムを構成する基本要素をみてみましょう。ひとつは、来客の時刻です。来客の増減は、時刻の羅列よりは、来客の時間間隔で捉えた方が分かりやすいんじゃないでしょうか。来客の時間間隔が短くなると客数は多くなり、長くなると少なくなる。

でも、ちょっと分かりづらい。それよりも、1日何人とか、1週間で何人とかの方がもっとわかりやすいですよね。それから、客が1度に何個買うかも重要な項目です。そして在庫補充に要する時間も重要ですね。まとめますと、在庫補充の基本要素は、

*在庫補充に要する(発注から入庫までの)時間;補充時間
*補充時間当たりの販売客数(購入客数)
*客1人当たりの売上点数(買上点数)

の3つになります。

在庫補充のための発注方法は、

*売れたとき、売れた数量を発注する

となります。これは、不定期不定量発注となることは前述の通り。

このような発注方式で上記の3項目が分かれば、サービス率に対する必要在庫量(適正在庫量)を知ることができ、そのときの必要在庫量が最少となる、ということになります。必要在庫量は次のようになります。

必用在庫量=補充時間での最大売上点数

簡単でしょ!

現在の在庫理論では、このような説明はどこにもありません。ですから、にわかには納得できないかもしれません。販売数量は客数と1人当たりの買上点数で構成されますが、現在の在庫理論では、販売数量だけで捉えています。これが、現代在庫論の最大の弱点ではないかと思います。

小売店の簡単な事例でもおわかりのように、客数は時間と密接な関係があり(時間に比例し)ますが、1人当たりの買上点数は時間との関係はまったくないとは言えないまでも、比例関係にはありません。つまり、客数と1人当たりの買上点数は、時間に対してまったく異なった特性があるということです。ですから、両者を識別しておかないとメカニズムを正しく捉えることができなくなります。

ちょっと、難しくなってきましたか、、。でも、在庫管理のメカニズムをスッキリと理解できるようになりますので、しばし、お付き合いのほどを、、。