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No.72 [書評]リードタイムと在庫量とは無関係

取り上げた在庫の本(A書)をパラパラとめくっていると、こんな説明が出てきました。

「リードタイムと在庫量とは無関係だということです。入手まで3カ月かかるのだから3か月分の在庫を持つ必要があるというのは錯覚にすぎません。リードタイムが1日でも3カ月でも在庫量は同じにできます。」

この件(くだり)を読んでいると、「へぇ~、そうなんだ」という思いと、「えぇ~、そうなの?」という思いが入り混じります。「リードタイムが1日でも3カ月でも在庫量は同じにできます」と言い切っていまから、きっと、根拠があるんでしょうね。多分、こんなところでしょうか?

「在庫量は、発注のサイクルによって決まるからです」

で、巷ではどんな感じなんだろうとググってみました。

“リードタイムを短縮して在庫を削減する”

という主旨の説明が、圧倒的に多いんです。ある在庫管理のコンサルタントに直接聞いてみました。

“リードタイムを短縮して在庫を削減したことは何度もあります”

との返事。世の常識からすれば、「リードタイムと在庫量とは無関係」の方がユニークなようです。

今日はこれをまな板に載せて、嘘か誠か、“鑑識っ!”と行きましょうか。ポイントは、リードタイムと発注サイクルと在庫量の関係がどうなっているのか、ですかね。その前に、語句の意味から確認しておきます。ここで言う“在庫量”とは、倉庫に存在する“実在庫”である、と解します。A書の紙面からもそういう意味であることが見て取れます。“リードタイム”とは、発注してから入庫までの時間、発注サイクルは発注時間間隔とします。

数値を使って考えた方がわかりやすいと思います。初めは、受注量にまったく変動がない条件で考えてみます。

リードタイム;12週(3カ月)
受注量;2個/週

という需要があるとします。発注サイクルを6週間、12週間、18週間とした場合の在庫の動きをシミュレーションしてみました。その1例を図1に示します。図1には発注残も示してあります。のこぎりの歯のように在庫は増減します。

LT12CY18

LT12CY12

LT12CY6

図1 リードタイム12週、発注サイクル6、12、18週での実在庫、発注残の推移

表1に発注サイクルに対する実在庫と発注残の最大値を示します。

zaiko_6_12_18

表1 実在庫と発注残の最大値

ご覧のように、発注サイクルが長くなると実在庫も 実在庫+発注残 も多くなります。

「在庫量は、発注のサイクルによって決まるからです」

という説明と合っています。関係式は次のようになります。

jituzaiko―――(式1)

jituzaiko+cyuzan―――(式2)

(式2)には発注サイクルとリードタイムが入っていますが、(式1)には発注サイクルだけでリードタイムが入っていません。ということは、実在庫の大きさはリードタイムには関係ないことになります。シミュレーションで確かめてみましょう。

発注サイクル;6週一定
リードタイム;4週、10週、16週

シミュレーション結果の一例を図2に示します。リードタイムが長くなると 実在庫+発注残 は多くなりますが、実在庫はどの場合も10で同じです(棒グラフの黒が実在庫)。

「リードタイムと在庫量とは無関係だということです。」

というのは、このことを言っているのでしょうか。

LT4CY6

LT6CY10

LT16CY6

図2 発注サイクル6週、リードタイム4、10、16週での実在庫、発注残の推移

A書の言う通りのようですが、これは、“正解”とは言いがたいんです。何故かというと、発注残は増えているからです。発注残はまだ入庫されていないので、在庫の実感は薄いかもしれませんが、在庫管理の視点からすれば、実在庫も発注残も同等の注意を払って管理しなければなりません。発注残をきちんと管理していないと、実在庫の管理もうまくいかなくなります。

ここまでは、受注量が一定の場合を考えてきましたが、現実は、必ずと言っていいぐらいバラツキます。受注量がバラツクとどうなるのか、実在庫はリードタイムに関係なく一定であるのかどうかに注目して、調べてみます。

受注間隔をランダムにして、受注量を変動させて、同様にシミュレーションをしてみます。図3~図5にシミュレーション結果の一例を示します。

LT4CY6R

LT4CY6R_bunpu

図3 発注サイクル6週、リードタイム4週、受注間隔変動有での在庫の推移と分布

LT10CY6R

LT10CY6R_bunpu

図4 発注サイクル6週、リードタイム10週、受注間隔変動有での在庫の推移と分布

LT16CY6R

LT16CY6R_bunpu

図5 発注サイクル6週、リードタイム16週、受注間隔変動有での在庫の推移と分布

図6にリードおタイムが4、10、16週の実在庫の分布を示します。受注量が変動すると、実在庫はリードタイムが長くなるに従い、大きくなることがわかります。

LT4_10_16_bunpu

図6 リードタイム4、10、16週のときの実在庫分布の比較

まとめますと、

「リードタイムと在庫量とは無関係だということです。入手まで3カ月かかるのだから3か月分の在庫を持つ必要があるというのは錯覚にすぎません。リードタイムが1日でも3カ月でも在庫量は同じにできます。」
「リードタイムと在庫量とは無関係だということです。」

という説明は、受注量、リードタイムにまったく変動がないときに限り、実在庫量だけについて言えることだ、ということになります。

現実に変動のない需要なんてありませんし、もし変動がなかったら在庫管理そのものがほとんど不要になります。在庫管理をしなければならないのは、ザックリと言えば需要が変動するからです。変動する需要に対応しトレードオフの関係にある欠品率と在庫量を最適な領域に保持するのが在庫管理です。その時、実在庫だけではなく発注残も常に管理の重要な項目です。従って、上記赤字の説明は、間違いです。

リードタイムと在庫量が関係ない、という話、Websiteでも見つかりました。

“リードタイムを短縮しても在庫削減には直接結びつかない”

興味のある方は、覗いてみてください。みなさまの常識度チェックにいいかも、、。