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No.36 在庫管理;受注件数と数量/件を識別する理由(その1)

図1をご覧ください。Aで在庫管理を行っているとします。注文を受けて出荷します。在庫補充のためBへ発注し、納入・入庫されます。これはサプライ・チェーンの基本ユニットです。Aでは受注数量を把握します。例えば1日に平均50、標準偏差が10という具合に。欠品をしないように時々発注して補充します。“いつ”、“いくつ”発注するかについては、定期不定量発注や定量不定期発注が一般的です。発注方法にかかわらず、“いつ”は発注間隔で捉え、“いくつ”は発注ごとの数量(数量/件)で捉えることになります。但し、発注間隔は受注側(B)では、ある時間(集計時間)での発注件数として捉えます。

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図1 在庫の流動

つまり、Aの立場でみれば、受注時には受注数量が、発注時には発注間隔と数量/件が管理項目となります。Aの発注間隔と数量/件は、Bの立場では受注件数と数量/件となります。しかし、受注件数と数量/件を認識することはほとんどなく、Bでは受注数量で捉えることが多いのではないでしょうか。

物理的な視点からみてみますと、Aから出てゆく数量と入ってくる数量は、バランスしていなければなりません。バランスが崩れれば在庫は増え続けたり、減り続けたりします。実際は出と入りは時間差がありますので、短時間でバランスさせることは困難ですが、少々長い時間間隔で(どのぐらいの時間か、については後で触れます)、出と入りがバランスしている必要があります。

受注時には受注数量で、発注時には発注間隔と数量/件で捉えることは、サプライ・チェーン・マネジメントの視点からみれば、リンクの前後で物流の捉え方に一貫性がないようにみえます。出と入りをバランスさせることが重要な在庫管理では、同一の次元で捉えるのが自然の流れであり、その方がわかりやすいのではないかと思います。

「件数、数量/件、受注数量の間にある関係がわかっていればいいではないか」という指摘はごもっともです。件数と数量/件がわかれば受注数量を算出することができます。また、受注件数と件数か数量/件のどちらかが分かっていれば、他の項目を算出することはできます。問題なのは、受注数量だけがわかっていても件数と数量/件に分解することができないことです。

「そもそも、受注数量を件数と数量/件に分解して捉える必要はあるのか」という疑問もあります。簡単な例を挙げれば、「受注件数の平均が10、数量/件の平均が20のときと、受注件数の平均が20、数量/件の平均が10のときでは受注数量は同じゃないの?」という主張です。

このような背景から、受注件数、数量/件、受注数量の間の関係をもっと理解する必要があるのではないか。で、 No.34で、それについて言及したわけです。要点を再掲します。 集計時間Tgでの受注数量の平均を Dg、受注件数の平均を Ng、数量/件の平均を Qとすると、 Dgは次のようになります。

Dg

また、受注数量の分散をVdg、受注件数の分散をVng、数量/件の分散をVqとすると、Vdgは次のようになります。

Vdg

この式で、受注件数と数量/件が受注数量にどのような影響を及ぼすかについて、もう少し詳しくみてみましょう。

具体的に数値を入れてみてみます。例えば、受注件数の平均 Ngが10、その分散Vngが10、数量/件の平均 Qが20、その分散Vqが25のとき、受注件数の平均 Dgとその分散Vdgは次のようになります

Dg

Vdg

わかりやすいように標準偏差をSdgとすると、  Sdgとなります。

次に、 Ngが5、Vngが5、 Qが40、Vqが50のときの Dg、Vdg、Sdgは次のようになります。

Dg

Vdg

Sdg

(注釈);受注間隔の分布を指数分布とします。受注件数の分布はポアッソン分布に従いますので、
受注件数の平均と分散は同じ数値になります。数量/件の分散は平均値に比例すると仮定しています。

ご覧のように、受注数量の平均は同じでも、受注件数と数量/件が異なれば受注数量のバラツキ(分散、標準偏差)が違ってくることがわかります。表1に受注数量を200一定として、受注件数を1から20まで振ったときの受注数量の標準偏差と最大(平均に標準偏差の3倍を加算)を示します。

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図2 受注数量一定のとき、件数、数量/件と受注数量のバラツキの関係

受注件数が少なくなり、数量/件が多くなると受注数量の平均が同じでも、バラツキは大きくなります。逆に数量/件が少なく、受注件数が多くなるとバラツキは小さくなります。受注数量のバラツキによって、その最大値が変動します。受注数量の最大値は在庫保持量を決める重要なパラメータのひとつです。(どのぐらいの在庫を保持しなければならないかについては、日を改めて触れることにします)

つまり、平均値は同じでもバラツキが大きければ保持する在庫量も多くなり、小さければ在庫量も少なくなります。バラツキを小さくするためには回数を多く、少しずつ受注する方が良いことになります。多頻度配送の方が在庫は少なくて済むといわれる所以です。しかし過度に多頻度になると、受注処理や出荷作業が増えることになりますので、環境に合わせて最適値を選ぶ必要があるということになります。

発注件数(受ける側では受注件数)と数量/件との関係は、発注方法とも関係します。定期不定量発注方式と定量不定期発注方式が代表的な方法ですが、発注間隔を一定にして、つまり発注件数を一定にして、数量/件を増減させるのが定期不定量発注方式、数量/件を一定にして発注間隔を変動(従って発注件数が変動する)させるのが定量不定期発注方式です。どの発注方式をとるか、発注間隔や数量/件をどのように設定するかは、自社の在庫数量に影響を及ぼします。と同時に、納入先の在庫数量にも影響することに留意しておく必要があります。

在庫管理においてどの程度の在庫量を保持するか、いつ、いくつ補充発注するかが重要な管理項目ですが、それらに最も大きな影響を及ぼすパラメータは受注数量です。その受注数量は件数と数量/件の二つの変数によってほぼ決まります。受注数量をこの二つの変数に分解して捉えることによって、在庫管理の基本がみえてくるのではないか、と思います。