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No.10 生産計画固定とボトルネック固定

JITとS-DBRを比べてみましょうか。こまごましたことは抜きにして、ずばり、何が違って、何が共通するのか。

JIT(トヨタ生産方式をJITと表現しています)の特徴は、何といっても、一度決めた生産計画を変更しないこと。部品点数は数万、関連する企業も多く、 産業の裾野は広大。だから、一度決めた生産計画を途中で変えたりしたら、大混乱になりますよね。

「平準化」ができないとタクトタイム(サイクルタイム)での同期生産もラインバランス100%も目指せなくなります。 その「平準化」は生産計画を固定しないとできない。巷にはトヨタ本が山ほど出ていますが、「一度決められた月次生産計画を変更しない」ことがJIT成立の条件だ、 なんて書いてある本はみたことありません。当たり前のことだから書いてないんでしょうかね。

JITが脚光を浴びて、製造業以外でも、例えば郵便事業、病院、官公庁などでも盛んに導入が試みられました。 そんなところでもJITを導入したわけですから、製造業は、業種・業態を問わず、競ってJITを導入したわけです。 JIT導入を試みた製造企業のなかで、例えば1ヶ月間、生産計画を変更しない企業はどのくらいあるんでしょうね。

初めは、仕掛や在庫が減るなどの効果はありますが、すぐ頭打ちになっちゃう。「振り返ればJIT導入は失敗だった」、と思う企業は、 生産計画を固定できていない企業である、と言い切ってもよいぐらいです。みなさんの会社ではどうですか?「生産計画固定」がJIT成立の条件だということがわかっていれば、 もう少しうまくJITと付き合うことができたんじゃないか、と思う方も多いんじゃないか、と思います。

今思えば、JITに関しては理解のできない言葉が多かったように感じます。「売れた分だけつくる」というのもそのうちのひとつ。クルマ1台売れたら、 ラインに1台投入する。そんなふうに思うわけですが、どう考えたって、成立するわけがない。いったい、何を言ってんだ、となるわけです。「仕掛・在庫は諸悪の根源」というのも、 わかったようでわからない。川の水面が低くなれば川底の岩が出てくる、の例えで説明される仕掛・在庫。仕掛・在庫のレベルを下げて生産ラインの問題点を見つけ出す、 というくだりは、もっともらしくは聞こえますが、生産現場で応用できる考え方ではないですよ。

あまり、こまかな話にならないように、元に戻します。ここで言いたいことは、JITは生産計画の変更なし、が条件ですよ、ということです。

一方、DBR。DBRのきっかけは、前にも書きましたが、スケジューリング方法の改良でした。スケジューリングは生産計画がないとダメですよね。 生産計画が変更になったらスケジュールもやり直さなければなりません。 DBRは生産計画の変更に対して、どう考えているのか。

スケジューリングがシンプルになったんだから、計画変更に伴う再スケジューリングも簡単だ、ということは期待されるわけです。が、 実際は、そうではなかったんです。DBRのスケジューリングは、タイムバッファーが複数あり、 またボトルネックが2箇所以上あると、とたんに複雑になり、従って再スケジューリングもほとんど不可能。

S-DBRはCCRでのスケジューリングをやめて、タイムバッファーもひとつにして簡略化しました。しかし、ボトルネックが複数あったり、 動き回ったりすることに対しては、対応は取れてないんです。 ですから、ボトルネックは常に一定のところに固定しなさい、ということになっています。

極論的に簡単に言うと、JITは生産計画固定、S-DBRはボトルネック固定が条件、 ということになります。JITにするか、S-DBRにするか、迷っている方は、先ず、この条件をチェックされるといいと思います。

で、この条件に合う企業はどのぐらいあるか。みなさんの企業はどうですか。どちらにも属さない企業が圧倒的に多いと思いますよ。 生産計画は頻繁か、ときどきか、などの程度の差はあるが、変更されることが常態化して、 ボトルネックはどこにあるか定かではなく、あっちこっち動き回っているようだ、というのがおおかたの企業のありさまじゃないでしょうか。

よく、JITとS-DBRの良いとこ取りの方法が提案されたり、実際行われたりしてますが、そういう方法はうまくいかないんです。生産計画を固定できて、 ボトルネックも固定できる企業なら、JITとS-DBRの良いとこ取りの方法はうまくいくかもしれませんが、、。

生産計画を固定できない、といっても、多少の許容範囲はあります。ボトルネックが固定といっても、こちらも、多少の許容範囲はあります。 それを考慮したとしても、多くの企業は、生産計画を固定したり、 ボトルネックを固定したりすることはできない企業に分類されます。そのような企業にはJITもダメ、S-DBRもダメ。どうすりゃいいの?

インターネットで生産管理、生産計画、需要変動などで検索すると次のような文章がたくさん出てきます。
・需要変動に即応、すばやく柔軟な生産計画の立案
・需要変化への対応力を高める・・・・
・需要変動に応じた調達や生産計画をタイムリーに変更
・生産計画の変更などリアルタイムに実行

これらは生産管理用ソフトの宣伝文句です。生産計画を変更せざるを得ない企業がいかに多いか。 ソフト販売会社もそこにニーズがあることを十分に知り尽くしているんだろうと思います。「生産計画はいつでも、即座に、 しかも簡単に変更することができるんですよ。このソフトを使えば、、、」とやさしくささやく。

これで、問題解決。といいたいところですが、そうは問屋が卸さないんですよ。計画変更やスケジュール変更は、そう簡単ではありません。 それはソフトの問題ではなく、IT技術の問題でもなく、スケジューリングそのものの問題なんです。

スケジュールの特徴のひとつは実行可能でなければならないこと。それに従って関係者全員が動くわけですから。列車の時間は正確ですね。 特に日本では。バスや飛行機は交通事情や気象条件等で遅れることがありますが、運行はスケジュールに従っています。スケジュールがなかったら運営する側だけではなく、 利用する側も対応できませんね。だから、スケジューリングっていうのは、すごく重要で、なくてはならないものです。

生産管理だって同じ。スケジュールがなかったら管理はできません。資材調達、人員配置、段取り、外注管理、、、などなど、 生産に関して調整しなければならないことはいっぱいあります。 そのほとんどは生産計画やスケジュールに基づいて動くわけです。現在の生産管理は生産計画が基軸となっています。

ところが、スケジューリングが問題だ、と。大勢への無謀な反抗か? それとも、現在の生産管理が見落としている真理が隠されているのか、、?